銀行員のための教科書

これからの時代に必要な金融知識と考え方を。

これから世界で吹き荒れる可能性のある「外資規制」というモノ

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外資規制という言葉をご存知でしょうか。

様々な国において、自国産業育成や安全保障等の観点から、重要な企業については、外国資本の株式保有を規制しています。

外国からの対内直接投資を歓迎するとともに、外国投資家を公正かつ同等に扱う米国ですら、国内資本の買収案件を審査することがあります(独禁法とは別です)。

今回は、この外資規制について、少しだけ考察していきましょう。

 

参考記事

以下の記事はジェトロによるものです。ブラジルの航空会社における外資規制が一部撤廃されたというものです。

国内運航の航空会社の外資出資規制が撤廃に
(ブラジル)サンパウロ発 

2018年12月18日

12月13日付暫定措置令863号により、ブラジル国内を運航する航空会社に関する外資出資比率規制が撤廃された。これまで、1986年12月19日付法律7565号により定められたブラジル航空法(Código Brasileiro de Aeronáutica)の第181条に、国内航空事業者の許認可要件の1つとして、議決権付き株式の5分の4はブラジル国籍者が保有することが定められ、実質的に外資の直接出資は20%(5分の1)に制限されていた。今回の措置令は、同条文を撤廃するもの。

(出典 独立行政法人日本貿易振興機構(ジェトロ)ホームページ)

このように航空、通信、海運、発電、銀行、保険、不動産、地下資源、エネルギー、国防、水道等において外資規制が存在するのは一般的と言えます。特に新興国では、規制が顕著です。しかし、新興国はある程度の経済成長を果たした後は外資の資金・ノウハウ等を求めて規制を緩和していく方向にあります。

上記のブラジルの航空業界の事例も、負債増加で多くのブラジル航空会社は破産危機に瀕していたことから緩和されたものです。

この外資規制ですが、いわゆる先進国である日本にも存在することをご存知でしょうか。

 

日本における外資規制

外資規制の定義、内容について確認しましょう。

外資規制(がいしきせい / Restriction on Foreign Investment)

外資規制とは、外国人または外国企業による国内企業への投資に対する規制の総称をいう。
日本において、国家の安全保障、公の秩序の維持および公衆の安全などを目的として、①外為法および②個別の業法により、外国人または外国企業による国内企業への投資が制限されている。
例えば、①外為法上は、外国投資家による一定の国内の株式の取得は対内直接投資に該当し、原則として日本銀行を経由して財務大臣および事業所管大臣に当該株式取得を行った日の属する月の翌月15日までに事後報告を行う必要があり、その範囲で外資規制を受けることとなる。
また、②個別の業法でも、一定の産業(通信、放送、航空など)においては、外国人または外国企業による国内企業への出資規制が設けられている。

(出典 山田コンサルティンググループHP)

これが、日本における外資規制の概要です。

 

個別業法に基づく主な外資規制(外国人株式保有制限)

次に日本における主な外資規制について見ておきましょう。

①航空法

対象事業者:本邦航空運送事業者、その持株会社
制限割合:1/3

②放送法 ・電波法

対象事業者:放送持株会社 等
制限割合: 20%

③日本電信電話法

対象事業者:日本電信電話株式会社(NTT) 制限割合:1/3

 

このように比較的法律上の規制が緩い日本においても外資規制は存在します。

JALの経営危機時にも外資規制については議論がなされたことをご記憶の読者もいらっしゃるのではないでしょうか。

近時はこの外資規制はさらに緩和の方向にありましたが、今後は方向性が変わる可能性があります。

なお、外資規制における議決権行使のポイント等は以下のリンクが参考となります。

https://www.dir.co.jp/report/research/law-research/law-others/12100502law-others.html

(大和総研サイト)

 

今後の動向

外資規制については強化の動きが出てきています。以下の記事が参考となるでしょう。

独政府、外資規制の強化検討 出資比率基準15%に引き下げ=独紙
2018年8月7日(火)

[ベルリン 7日 ロイター] - ドイツ政府は、欧州連合(EU)域外からのドイツ企業への投資について、出資比率が15%を超える場合、政府が介入できるよう規制強化を検討している。7日付の独ディ・ヴェルト紙が伝えた。

ドイツ政府は昨年、中国企業が相次いで国内有力企業を買収したことを受け、非居住者の出資比率が25%に達した場合に政府が介入できるよう、外資投資規制を強化した。

近時は中国の台頭により、自国の産業、企業等が支配されるのではないかと懸念する国、企業、個人が増えてきました。

超大国・覇権国である米国一極集中から、多極化への移行が起こりつつあるという時代背景が、トランプ大統領が登場した一つの要因だと筆者は認識してきます。

そして、サミュエル・ハンチントンの「文明の衝突」が起きる時代には、自国第一主義、排外主義、利己主義等が拡がっていくのかもしれません。

これからは、様々な理屈をつけて他国でも、もちろん日本でも外資規制が進む可能性があります。

力をつけてきた中国が外資規制を次々と緩和してきているのとは対照的です。中国は銀行、自動車、重工業、農業などへの外資の出資規制を本年に入ってから緩和しています。同国は、外資の出資が制限もしくは禁止されている業界のリストを公表していますが、最新のリストに掲載されている業界の数は48であり、昨年の63から減少しています。

https://business.bengo4.com/practices/885

(参考 ビジネスロイヤーサイト)

今後は、中国が外資規制を緩和し、日本も含めた「いわゆる先進諸国」等が外資規制を強化する時代となるかもしれません。

日本でもこれから「外資規制」という用語が今以上に報道される日が来るのではないかと筆者は考えています。

この外資規制が日本にとって本当に良いことなのかは分かりません。

しかし、イェール大学ロースクール教授であるエイミー・チュアが「最強国の条件」に述べているように、「一時代を築いた歴史上すべての“最強国”は、人種・宗教・文化を問わず、世界の優れた人材を受け入れ、寛大に遇したが故に最強たりえた。そして寛容すぎたが故に不寛容が生まれた結果、ほぼ例外なく最強国は衰退し、滅んだのである」という言葉を、米国のみならず日本でも、筆者は忘れてはならないように思います。