銀行員のための教科書

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金融庁の地銀に対する指摘が尋常ではない件

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金融庁から業界団体との意見交換会の内容が公表されました。

この意見交換では、金融庁の問題意識が示されますが、金融庁の地方銀行(地銀)のマーケットでの資産運用に対するコメントが非常に厳しいものになっています。 

今回は地銀に対する金融庁の問題意識について考察します。

 

業界団体との意見交換会において金融庁が提起した主な論点

以下、金融庁が公表した業界団体との意見交換会において金融庁が提起した主な論点について、金融庁資料から一部を抜粋して引用します。

 

[全国地方銀行協会 /第二地方銀行協会 ] 

【個別行に対するモニタリング】

○本事務年度は、各地域銀行の収益性と健全性について、客観的な指標に基づいてプロファイリングを行い、将来の健全性に問題のある金融機関とは、必要に応じ検査も行いながら、深度ある対話を実施してきた。

○先ほどの検討会報告書にも書かれている通り、平成28年度の決算では地銀の過半数の54行で本業利益(貸出・手数料ビジネス業務から得られる利益)が赤字であり、うち10行が2期連続、30行が3期以上連続赤字という状況である。

本業が構造的な赤字となっている地域銀行は、有価証券の益出しを含む運用益によって当期利益を黒字にしているわけであるが、その中には以下のような事例が見られる。

(1)まず、投資信託の解約益や債券・株式の売却益といった益出しへの依存が高まっている。平成28年度においては当期純利益の50%以上を益出しが占める銀行が38行あった。中には有価証券全体では評価損の状態であるにもかかわらず、含み益のある有価証券売却による益出しにより期間収益を嵩上げする一方で、更に拡大した含み損を放置している例もみられた。

(2)次に、世界的に金利正常化に向けた動きが見られる中で超長期国債を新たに購入したり、クレジット関連商品等の仕組債を購入するなど、目先の金利収入をあげるため体力から見て過大なリスクを取っている例がある。地域銀行全体の有価証券金利リスク量は自己資本対比で3メガバンク全体の2.3倍となっている。

(3)第三に、一昨年の米大統領選直後の米金利上昇局面において、当庁が行ったモニタリングでは、外国債券や外債投信で過大なリスクを放置することにより大きな評価損を抱えた地域銀行が認められる。

今年初来の米長期金利上昇局面でも、年間のコア業務純益を上回る水準まで外国債券・外債投信の評価損が拡大した先が9行、そのうち4行が2年連続となっており、これまでの当局の指摘にも関わらず同じことを繰り返している銀行が見受けられる。

○また、自己資本の規模からみて過大なリスクをとっているにもかかわらず、運用担当者がごく少人数で専門性にも乏しい、などの管理態勢面での課題も引き続き見られる。

○このように運用力が拙いにもかかわらず大きな有価証券リスクをとっている地域銀行、中でも自己資本や含み益に十分な余力がない銀行においては、市場環境の変化により、財務の健全性を更に大きく、また急速に損なうおそれがある。

○本業が赤字であれば、その要因を分析し、環境変化に対応出来るように、時には痛みを伴っても、事業のやり方を変えていくのが、本来の経営の在り方である。希望的観測に基づいた、その場しのぎの対応を繰り返すのは、当該金融機関の経営、ガバナンスに問題があると考えざるを得ない。

○金融庁としては、特に健全性の観点から問題のある地域金融機関の経営陣や取締役から、現状認識と改善に向けての具体的方策について聞き、それが現実的なものか等について、継続的に対話していきたいと考えている。

(出典 金融庁HP)

https://www.fsa.go.jp/common/ronten/index_2.html

 

所見

金融庁の指摘は、地方銀行の決算が、債券や投資信託の運用に依存しているというものです。

金融庁が言うところの本業赤字という概念は、非常に難しいものがあります。確かに地銀は集めた預金を全て貸出には回せていません。そのため、預金残高と貸出残高の差額を国債を中心とした債券等で運用してきました。

この運用を行うこと自体は、銀行業としての収益確保等、筆者としては問題ないのではないかと考えます。

しかし、金融庁が指摘するのは、地銀が決算を「作っている」ことです。

私募投信での決算の作り方については、以前の記事をご参照下さい。

 

すなわち、含み損を放置して、利益の出ている私募投信等だけを売却して利益を一時的に計上している地銀があるのだと金融庁は指摘しているのです。

また、年間の本業の利益(業務純益)を、債券等の含み損が上回っている地銀が9行あるという状況についても言及しています。

しかし、最大の指摘は「本業が赤字であれば、その要因を分析し、環境変化に対応出来るように、時には痛みを伴っても、事業のやり方を変えていくのが、本来の経営の在り方である。希望的観測に基づいた、その場しのぎの対応を繰り返すのは、当該金融機関の経営、ガバナンスに問題があると考えざるを得ない。」というコメントでしょう。

銀行は規制業種であり、免許がなければ営業できませんが、いくらなんでも、この指摘は強烈過ぎます。また、本業赤字というのも金融庁の概念であり、債券運用等も立派な本業とも言えます。

筆者としては、金融庁の指摘は的確であると認識しているところもあります。しかし、民間の企業経営に介入し過ぎてはないかと思うところもあります。

今回の意見交換会での金融庁のコメントは、規制当局と銀行とのパワーバランスを如実に表している事例といえるのではないでしょうか。