銀行員のための教科書

これからの時代に必要な金融知識と考え方を。

仮想通貨の証拠金取引の倍率上限は下がる方向に

f:id:naoto0211:20181019220408j:plain

金融庁が開催している「仮想通貨交換業等に関する研究会」の第7回が2018年10月19日に開催されました。

当日時点では議事に使用された資料のみが公開されていますが、報道では仮想通貨の証拠金取引、信用取引について規制すべきとの議論がなされたようです。

今回は、この研究会の内容について確認しておきましょう。

 

事務局説明資料

以下は事務局が研究会開催に際して参加者に配布した資料からの抜粋です。

現時点では研究会の議事録は公表されていませんが、この資料の流れに沿って議論されたものと思われます。

今後の仮想通貨規制の動向を探る参考となりますので確認しておきましょう。デリバティブ取引(証拠金取引)を中心に抜粋します。

討議資料(2) (仮想通貨を原資産とするデリバティブ取引等に係る論点)

○ 本日は、仮想通貨に関し、新たに登場してきている以下の取引に係る規制のあり方について討議を行う。
・ 仮想通貨を原資産とするデリバティブ取引(以下、仮想通貨デリバティブ取引)
・ 仮想通貨の信用取引(以下、仮想通貨信用取引)

1.仮想通貨デリバティブ取引に係る規制の要否・内容
(1)現状
○ 現在、半数近くの仮想通貨交換業者において、仮想通貨の証拠金取引が提供されている。これは、仮想通貨デリバティブ取引の一形態であり、今後更に新たなデリバティブ取引の類型が登場することも想定される。 
○ 日本仮想通貨交換業協会の資料によれば、平成29年度において、仮想通貨デリバティブ取引が、仮想通貨交換業者を通じた国内の仮想通貨取引全体の約8割を占めている。
○ こうした中、業者におけるシステム上の不備やサービス内容の不明確さ等に起因する利用者からの相談が、金融庁に相当数寄せられている。
○ 一方、現状、国内において、金融商品取引法が定めるデリバティブ取引の原資産の中に仮想通貨が含まれていないこと等から、仮想通貨デリバティブ取引は、金融規制の対象とはされていない。

(2)金融規制の要否

○ 仮想通貨デリバティブ取引が金融の機能を有する場合、以下の点を踏まえた上で、その社会的意義や害悪の有無について、どのように考えるべきか。規制の導入が期待されると考えられるか。
・ 現時点において仮想通貨の有用性についての評価が定まっていないこと     ・ 既に、国内において、相当程度の仮想通貨デリバティブ取引が行われており、利用者からの相談も相当数寄せられていること
・ 足許では専ら投機を助長しているとの指摘があること
○ 仮に規制の導入が期待されると考えられる場合、どのような規制が適切か。仮想通貨デリバティブ取引を禁止するのではなく、現時点における仮想通貨の機能や害悪等を踏まえた一定の規制を設けた上で、利用者保護や適正な取引の確保等を図っていくことも考えられるが、どうか。

(3)規制の内容 
(店頭デリバティブ取引との類似性を踏まえた対応)
仮想通貨デリバティブ取引に対する規制を導入する場合、例えば、金融商品取引法上、通貨関連店頭デリバティブ取引を業として行う者(第 一種金融商品取引業者)には、以下のような規制が課されているところ、仮想通貨デリバティブ取引を業として行う者(以下、仮想通貨デリバティブ取引業者)に対しても、その機能や取引内容の類似性に鑑み、少なくとも同様の対応を求めることが必要と考えられるが、どうか。
・ 最低資本金・純財産規制
・ 業務管理体制の整備義務
・ 広告・勧誘規制 (虚偽告知、不招請勧誘等)
・ 契約締結前書面等の顧客への交付・説明義務
・ 顧客財産と自己財産の分別管理義務
証拠金倍率の上限やロスカットに関する規制
○ なお、証拠金倍率の上限については、仮想通貨の価格変動が大きいとの指摘などを踏まえ、その価格変動に応じた適切な水準が設定されるべきと考えられるが、どうか。

(注) 現状、国内では、仮想通貨デリバティブ取引の証拠金倍率を外国為替証拠金取引(FX取引)と同じ最大25倍に設定している業者もあるところ、 日本仮想通貨交換業協会の自主規制規則案では、FX取引と同水準のリスク量とすることを念頭に、証拠金倍率の上限を4倍と規定(ただし、1年間は会員自身が決定する水準(仮想通貨の価格又は指数の変動状況及び利用者に生じた預託証拠金額を上回る損失の発生状況等を検証し、未収金の発生防止に適う値)でも可とする時限措置あり)。なお、EUの規制では、仮想通貨デリバティブ取引の証拠金倍率の上限を2倍としている。

(出典 金融庁ホームページhttps://www.fsa.go.jp/news/30/singi/20181019-2.pdf )

以上が討議資料の抜粋です。

資料の原文を確認すれば、金融庁がどちらの方向に持っていきたいかが分かるのではないでしょうか。 

 

報道内容

この研究会の議事内容は上述のように現時点では公開されていません。

しかし、ロイターが以下のように報じています。 

仮想通貨の証拠金取引、店頭FXより重い規制を=金融庁研究会

2018年10月19日 ロイター

[東京 19日 ロイター] - 金融庁で仮想通貨規制のあり方を議論している研究会(座長=神田秀樹・学習院大学大学院法務研究科教授)は19日の会合で、仮想通貨の証拠金取引や信用取引について、金融商品取引法の適用対象とし、店頭FX(外国為替証拠金取引)より重い規制にすることでおおむね一致した。証拠金倍率の上限は欧米並みの2倍を支持する意見が複数出た。

(中略)

研究会は、仮想通貨のリスクを踏まえ、仮想通貨の証拠金取引や信用取引への規制は店頭FXよりも重くすべきだとの意見が多く出された。証拠金倍率は、FXと同じ最大25倍に設定している業者もあるが、欧米並みの2倍にすべきだとする意見が複数出た。

登録済みの仮想通貨交換業者で構成する日本仮想通貨交換業協会は、経過措置を設けた上で証拠金倍率の上限を4倍とする自主規制規則案を検討してきた。しかし、同協会の奥山泰全会長は研究会で「4倍というのは、25倍でやっている業者が多い中で暫定的な数値だ。何倍が適切か検討していきたい」と述べた。

研究会のメンバーからは証拠金倍率の上限を全ての仮想通貨に一律適用すべきだとの意見が出た。しかし奥山会長は、仮想通貨ごとのボラティリティーに応じ、決済リスク、未収金の発生リスクなどを踏まえた上で適切な倍率設定が必要だと話した。

これが報道内容です。

内容が正確であるならば証拠金倍率の上限は2倍まで低下することになります。また、仮想通貨に一律に2倍の上限倍率が適用されることになるかもしれません。

 

所見

筆者は証拠金取引(信用取引も同様)の倍率上限の規制(レバレッジ規制)は、思想として否定はしませんが、賛成もしません。

レバレッジ規制は「投資は自己責任」という原則に反します。また、「大きな勝負をしたい」投資家にとっての選択肢を奪います。 

しかも、レバレッジをかけた取引を行う「投機家」は批判を浴びがちです。

例えば、空売り(株価の下落で利益を得る取引)の投資家は「悪役」とされてきました。株価が下がることで利益を得るとは何事だ、というわけです。近時では、テスラのマスク氏が空売り投資家を批判していたのは記憶に新しいところではないでしょうか。

筆者は投資と投機を区別するのは非常に難しいと考えています。

上記の空売りは確かに最初に「株式を売り」ます。しかし、最後には「買い戻し」ます。そうしなければ利益が確定しないのです。すなわち、空売りは、将来の「買い」を約束する取引なのです。

一方で、通常の株取引は、最初に「株式を買い」ます。そして最後には「売り」となります。売って初めて利益が確定するからです。

どちらが良い取引でしょうか。

筆者はどちらも単なる取引であると考えています。空売りも将来の「買い」を約束するわけですから、金融市場に流動性を提供する、貴重な買主でもあるのです。

証拠金取引も買いから入るだけでなく、売りからも入ることができます。上記のような信用取引と効果は変わらないといって良いでしょう。

そしてレバレッジ規制をかけてしまうと、マーケットの流動性が減少します。

金融庁の資料にもあったように証拠金取引等は国内の仮想通貨取引の8割を占めています。レバレッジ規制をかけてしまえば国内の仮想通貨取引量は減少するでしょう。マーケットの流動性は投資にとって非常に重要です。売りたい時に売れる、もしくは買いたい時に買えるという流動性が無くなることは投資家にとってはリスクです。流動性があるマーケットは投資家を惹きつけるのです。

そして、たしかにレバレッジをかけた証拠金取引は、リスクは高いといえます。しかし、リスクの裏返しが収益なのです。様々なリスクの取り方をする多様な投資家が存在してこそマーケットに厚みが出ます。流動性が枯渇することも少なくなります。

仮想通貨における証拠金取引の倍率上限規制は、最も勉強が苦手な子供のレベルにそのクラス全体の授業のレベルを合わせてしまうようなものです。ロジカルであるというよりは、政治的な動き方です。損失を出す投資家を少なくすれば、金融庁が批判を受けることは減るでしょう。しかし、その裏で利益を上げる投資家も減るのです。

このような動きは他の投資家の機会をも奪います。そこをバランスよく考えていくのが本当の金融規制ではないでしょうか。