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仮想通貨のカストディー事業は新規参入余地あり~ゴールドマン・サックスの取組検討~

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ゴールドマン・サックスが仮想通貨ファンド向けのカストディー業務を検討していると報道されています。

これは面白い切り口だと思います。

今回は、仮想通貨のカストディー業務(カストディアン)について考察します。

 

報道内容

まずは、報道内容を確認しましょう。

以下、Bloombergの記事を引用します。

ゴールドマン、仮想通貨ファンド向けカストディー事業を検討ー関係者
Bloomberg 2018/08/06

(ブルームバーグ): ゴールドマン・サックス・グループは仮想通貨ファンド向けのカストディー(証券管理)サービスを検討していると、事情に詳しい複数の関係者が明らかにした。ハッカーの攻撃などから投資を守りたい顧客に代わって証券を管理することで、リスク軽減につなげる考えだという。

非公開の検討事案であるため匿名で話したこれらの関係者によると、検討はまだ継続中で、サービス投入に向けた時間的な枠組みは決まっていない。

これが報道された内容です。

 

カストディアンとは

そもそもカストディアンとはどのような業務でしょうか。

以下、定義等を確認します。

英語表記はCustodian。投資家のために証券を保護預りする保管機関のこと。
例えば、日本で外国証券を購入した場合に、その証券そのものを日本に持ってくるわけではなく、現地の保管機関に預かってもらう。

カストディアンの役割は、証券の保管業務だけではなく、元利金・配当金の代理受領、預り運用資産の受渡し決済、運用成績の管理など広範囲に及ぶ。

欧州の主要な機関として、クリアストリームとユーロクリアがある。

(出典 野村證券用語集)

このように、カストディアンの役割は、証券の保管業務だけではなく、元利金・配当金の代理受領、預り運用資産の受渡し決済、運用成績の管理等となっています。

カストディアンは、特に海外での有価証券投資の際に使われます。

例えば、日本の投資家が海外の有価証券に投資する場合、購入した有価証券(券面、証書)を日本に輸送してくることは、輸送費用、日数がかかるのみならず、法規制対応もあり、通常の企業・個人には対応出来ません。もちろん、銀行のような金融機関ですら人員を割いてまで対応するのは難しいのです。

そのため、海外の有価証券投資では、現地のカストディアンを利用するのが一般的です。

カストディアンは有価証券の保管業務のみならず、取引の決済、配当金・元利金の受領、(株式の場合)議決権の行使等の事務を、投資家に代わり行います。また、証券のレンディング(貸付)を行い、少しでも投資家の収益を増やす業務を行うこともあります。

これが一般的に言われているカストディアンです。

 

仮想通貨のカストディアン

一方、仮想通貨の場合、カストディアンはどのような役割を果たすのでしょうか。

仮想通貨には、債券のように利息が発生しません。

また、株式のように議決権の行使を行う必要もなければ、配当金の受け取りもありません。

利益が発生した際に、納税地をどうするかという観点はあるかもしれませんし、そもそも取引した際には決済は必要となります。

しかし、伝統的な有価証券という資産のように、利息・配当金の受け取り、議決権行使が発生する訳ではありませんので、従来のカストディアンが担っていた役割の相当部分は不要ということになります。

代わって、仮想通貨を「安全に」保管するというのが、投資家にとっての重要なニーズであり、カストディアンに求められる役割となるのでしょう。

伝統的なカストディアンが扱う有価証券は取引所等で、限られた参加者(証券会社等)が取引を行っています。クローズの世界であり、盗難リスクは低いと言えます。

一方で、仮想通貨は様々な事例があるように盗難リスクはあるのです(それが取引所の問題だとしてもです)。

このリスクをカストディアンがカバーしていくというのは価値のあるサービスです。

考え方としてはMUFGが検討している仮想通貨保全信託スキームに近いのかもしれません。

特にセキュリティに関しては、既存のカストディアンのノウハウが役に立たない分野であるため、新規参入を果たせば先行者メリットを享受できる可能性があるのです。

また、万一にも、仮想通貨が決済分野で使われるようになるのであれば、レンディングの分野でもカストディアンがマーケットを作ることになるかもしれません。

ゴールドマン・サックスの事業化検討は非常に面白い切り口・試みなのではないでしょうか。