融資ファンド(プライベート・デット・ファンド)が拡大しているとの報道がなされています。
低金利環境にあり資金運用難に陥っている地方銀行(地銀)が融資ファンドに殺到しているというのです。しかし、そもそも「融資をするファンド」に投資するぐらいならば、なぜ地銀自らが貸し出しを行わないのか、そんな根本的な疑問を感じる方もいらっしゃるかもしれません。
今回は融資ファンド(プライベート・デット)がなぜ成り立つのか、その戦略について考察しましょう。
報道内容
まずは日経新聞から該当記事を引用します。
リスクマネーの「中継ぎ役」 融資+ファンドが台頭
トパーズ、地銀の受け皿に
2018/09/28 日経新聞「目からウロコが落ちた」。富山第一銀行の沢田貢取締役は驚きを隠さない。今春から独立系ファンドのトパーズ・キャピタル(東京・港)が設定したファンドに参加し、出資した。融資の成績に応じてリターンを得られる仕組みだが、それだけではない。「特に担保の取り方が勉強になる」
いま、全国の地方銀行がトパーズに殺到している。投資家から集めた資金を貸し出す「融資ファンド」と呼ばれる手法で中小企業を再生。融資実行額は累計200億円を超え、参加する地銀は北海道から九州まで20行に広がった。いまやファンド総額の半分を地銀による出資が占めている。
なぜ、融資が本業であるはずの地銀がファンドに関心を寄せるのか。背景には銀行固有の事情がある。トパーズが扱う融資先は債務超過や赤字などに陥った企業だ。一般的に銀行は元本保証の預金を貸し出しに回すため、回収リスクを慎重に見積もる。特に業績が低迷している「要注意先」などの企業はなおさらで、追加融資が難しくなる。
一方、ファンド形式は元本を保証しない投資資金を使うため、リスクの高い中小企業にも資金を供給しやすい。トパーズの融資で資金をつなぎ、事業再生に道筋を付けた上で再び銀行の融資審査を通過。そして、銀行に融資先として引き渡す。そんな「中継ぎ役」を果たそうとしている。
担保評価にも大きな違いがある。一般的に銀行にとって動産担保の評価は手間やコストがかかるため難しいとされる。トパーズでは売掛債権などに着目し、回収の可能性を細かく分析。例えば、衣料品の小売業などでは春や夏といった季節ごとに変わる商流まで把握し、「時価」で企業の資金繰りを押さえる。
貸出金利は平均6~10%程度と一般的な銀行の数倍。累計の貸倒件数は2件にとどまり、いずれも回収のメドを付けた。単なる不動産担保融資とは一線を画し、動産担保融資で差別化している。
本業の融資における利ざや確保は、低金利の長期化や人口減少で収益悪化に悩む地銀にとって大きな課題だ。金融庁も金融機関の経営を細かく点検する際の手引書「検査マニュアル」を廃止し、画一的な検査を改めて金融機関ごとに自主的な改善を促そうとしている。
「トパーズから担保評価の方法を吸収したい」。地銀がファンドに参加する、もうひとつの狙いがここにある。トパーズがいくら資金をつないでも、再生後に銀行の融資につながらないと中長期的な成長の軌道は描けない。新村健社長は「銀行では難しい中小企業を支えていき、日本に融資ファンドを根付かせたい」と力を込める。
過疎や高齢化で地元経済が疲弊するなか、中小企業には大廃業の波が押し寄せる。将来の融資先になりうる企業をどう再生支援していくか。企業の再成長なくして、地銀の成長戦略は描けない。
この記事のポイントは以下の点です。
- トパーズ・キャピタルが組成・運用している融資ファンドは、地銀20行から出資を集めている
- ファンド総額の半分程度が地銀からの出資
- 融資ファンドへ出資するのは、リターンのみならず「担保の取り方」を学びたいと地銀が考えているため
- ファンドの融資先は債務超過や赤字先
では、トパーズ・キャピタルの融資ファンドについてもう少し詳細に見ていくことにしましょう。
トパーズ・キャピタルの融資ファンド(プライベート・デット・ファンド)の特徴
プライベート・デット・ファンド(融資ファンド)は、投資先の経営権を取得して投資元本の数倍のリターンを目指すプライベート・エクイティ・ファンド(PEファンド)とは異なり、債権者の立場から企業の業績をきめ細かくモニタリングし、担保の徴求、コベナンツ条項等による牽制機能に基づく「デット・ガバナンス」による安定した元本回収と金利の回収を投資手法としています。
従って、収益性が低く高い企業成長が見込めないことを理由にPEファンドや再生ファンドからの資金調達に支障を来している中堅・中小企業に対しても、収益確保が見込める場合には、リスクマネーを提供することがあります。
トパーズ・キャピタルのプライベート・デット・ファンドの運用は、日本の資金調達市場の特徴である「資金供給の最終的な担い手は銀行が主役」であることを明確に認識しながら、「銀行と協力して」「銀行が一時的に対応困難な融資機会を捕捉」することを手法としていると言えるでしょう。そして、「銀行以外の貸手不在」という市場の特性をとらえ「超過リターン」も追求することに特徴を有しています。
トパーズ・キャピタルが狙うのは、「再生途上にある中小企業に対する運転資金の融資」と「創業直後で銀行融資が難しいとされる成長企業への融資」が主です。
債務者区分でいけば「正常先以外に区分される企業」に対しても「動産担保等で保全」を図りつつ、事業キャッシュフロー創出力に注目し、リスクを引き受けることで、銀行が融資可能になるまでの「中継ぎピッチャー」的役割を果たしていくことにしているのです。
確かに銀行は様々な制約で融資が行えないことがあります。例えば、債務者区分や格付の問題で融資上限額が決まっており、これ以上融資ができない場合が分かりやすいかもしれません。業績(格付)さえ回復すれば、追加の融資ができるのにできない場合というイメージです。このような場合に、トパーズ・キャピタルのファンドは、中継ぎピッチャーの役割を果たすということになるのです。
トパーズ・キャピタルの案件の獲得は大きく二つのルートに分かれています。一つはメガ銀行や地域金融機関の審査部門からの照会ルートで、もう一つはフィナンシャル・スポンサーやコンサルティング会社、再生弁護士等の銀行以外のルートです。
まさしく、「銀行と組んで」案件を獲得していくのが強みと言えるのでしょう。
トパーズキャピタルの1号ファンドの概要は以下の通りです。
- 560件の案件紹介があり、その中から46件に融資を実行
- ファンドの総額は117億円
- リスク分散の観点から1件あたりの融資額を3億円前後程度に抑制(分散)
- パフォーマンスは2018年3月末時点での見込ネットIRRが4.81%
- 1号ファンドの融資先の中にはデフォルトが2件あったものの回収目途
また、今までの案件事例は以下の通りとなります。
<温泉旅館再生に関わるブリッジローン案件>
- 地域金融機関の地元温泉旅館に対する融資を、ファンドからのブリッジファイナンスにより一部返済
<軽井沢ジャム会社の私的整理に関わるファイナンス案件>
- 地域金融機関が主導でアレンジした私的整理案件の成功に不可欠であったスポンサー向けファイナンスを提供
<再生計画策定中の水着卸会社に対する運転資金供与案件(ABL)>
- 支援協議会の下で再生計画策定中の債務者に対して、銀行に肩代わって季節性運転資金を供与
<ADR後の再生途上地方百貨店に対する運転資金供与案件(ABL)>
- ADRの成立(金融機関の合意)に必要な条件であった、再生中の運転資金の提供をファンドが実行
<再生中の冷凍パン卸会社に対する運転資金供与案件(ABL)>
- 金融機関の約定弁済に必要な資金をファンドが提供
<再生中の高級紙袋メーカーに対する運転資金供与案件(ABL)>
- 再生途上の債務者に対して既存金融機関に肩代わって、債務者が必要とする増加運転資金を供与
以上の事例を見てもトパーズ・キャピタルは銀行(特に地方銀行を中心とした地域金融機関)とのタイアップが特徴と言えると思います。
まとめ
以上、トパーズ・キャピタルの事例を見ながら、融資ファンド=プライベート・デット・ファンドについて確認してきました。
地方銀行等はこのファンドに出資をしながら、「担保の取り方を学ぼう」としていると報道されています。また、当然ながら現在は「利回りが良い」ため貴重な投資先としてもこのファンドを見ているのでしょう。単に利回りが良いだけではありません。貸出債権は上場株式や債券と異なり「時価評価のブレ」があまりありません。すなわち、銀行にとってはありがたい「安定的な運用」が狙えるアセットなのです。
このようなプライベート・デット・ファンドは、日本において今後も拡大していく可能性は十分にあります。
しかし、筆者は、このプライベート・デット・ファンドの分野を特に地方銀行が担っていって欲しいと願っています。
トパーズ・キャピタルは動産担保融資にも特徴があるようですが、動産評価・換価で有名なゴードン・ブラザーズ・ジャパンと資本業務提携しています。地方銀行もゴードン・ブラザーズ・ジャパンと提携して動産担保融資を学べば良いのです(簡単に言っていますが、様々な課題があることは認識しています)。換価性の高い動産であれば、ゴードンが換価保証してくれますし、ハードルは低くなります。プライベート・デット・ファンドに頼らなくとも地銀自身で出来ることはあるのです。
トパーズ・キャピタルは非常にうまい戦略でプライベート・デット・ファンドを運用していると筆者は感じています。まさに日本のマーケットの特徴を利用しているのです。
中心となるビジネスモデルは、銀行とのコネクションを重視し、銀行からの紹介案件も取り組み、債務者へのつなぎ資金貸出をビジネスの中心として、「銀行との協業によって銀行が逃げるのを防止」し、「貸し手不在を機会として超過収益を得」て、「最終的には銀行に貸出を肩代わってもらう」というビジネスモデルです。
これは裏を返せば、銀行が利用されているということでもあります。
地方銀行は、トパーズ・キャピタルのファンド運営を学んだ後は、自身でファンドを立ち上げる等して、自分たちで運用していけば良いのです。他社のファンドに出資している場合ではありません。これは地銀に残されたフロンティアの一つなのです。
なお、地銀がトパーズ・キャピタルの戦略と同じことを始めた場合には、プライベート・デット・ファンドのリターンも低下していく可能性は十分にあります。また、そもそもファンドを組成できるような案件が減少する可能性もあるでしょう。
プライベート・デット・ファンドの今後の動向にも留意してみると面白いのではないでしょうか。