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インドへの投資のポイント~特に不動産投資は困難~

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インドは12億人超の人口を抱え、世界第2位の人口大国でありアジア3位の経済大国です。そして、人口の約半分が25歳以下という非常に「若い国」でもあります。

今後、人口増加のみならず、経済もさらに発展するものと見られており、未来の巨大市場です。

そのようなインドへ進出したいと考える企業は多いでしょう。個人としてもチャンスがあるのではないかと考える方もいらっしゃるかもしれません。

今回はインドへの外資参入、不動産事業について簡単に確認していきます。

 

インドとは

インドは上述の通り、人口で世界第二位、経済では世界第六位(アジア第三位)の大国です。すでにイギリスのGDP(世界第五位)とほぼ変わらなくなっており、ドイツに次ぐ世界第五位の経済国となる日も近いものと思われます。

インドが特に注目を集めている理由は経済成長率でしょう。

インドは独立以来,輸入代替工業化政策を進めてきたが,1991年の外貨危機を契機として経済自由化路線に転換し,規制緩和,外資積極活用等を柱とした経済改革政策を断行。その結果,経済危機を克服したのみならず,高い実質成長を達成。2005年度-2007年度には3年連続で9%台の成長率を達成し,2008年度は世界的な景気後退の中でも6.7%の成長率を維持,2010-2011年度は8.4%まで回復したが,欧州債務危機及び高インフレに対応するための利上げ等の要因により,経済は減速。2014年度に入り,経済重視の姿勢を掲げるモディ新政権が成立。2014年度のGDP成長率は7.2%,2015年度は7.9%,2016年度は7.1%となった。今後の政策及び政権運営が注目されている。(出典:外務省ホームページ)

インド経済は高い成長率を誇ります。すでに第六位の経済大国であるにも関わらず年率7%程度の成長です。年率7%といえば、10年で倍になります。そうなると日本のGDPも抜くことになります(2017年/10億USD:日本4,872 ⇔ インド2,611)。

この成長こそが日本企業を含む世界の企業を惹き付ける要因です。

 

インドの外資規制

インドの外資規制については統合版FDI政策に一元化されています。 

2010年3月より、外国企業による対内直接投資(FDI)を所管する商工省産業政策促進局は、FDI政策を一本に集約した「統合版FDI政策」を発表。2017年版は2017年8月28日発効。
なお、FDI規則にかかる文書の一本化により、1991~2010年までに発表された177件のPress Noteはすべて無効となり、当該統合文書が唯一の政策判断の拠り所となる。当該文書は、毎年1回(3月末)改訂される。
FDI規則の法的根拠は、インド準備銀行(RBI)が所管する外為管理法(FEMA1999)となる。 (出典:JETROホームページ)

インドへの外国投資は禁止分野もしくはインド政府の許可が必要な分野を除き、100%出資まで自動認可されます。

禁止業種は以下の通りです。

外国投資が禁止されている業種〔2017年統合版FDI政策、項目5.1.〕
自動認可制度(ネガティブ・リスト方式): インドへの直接投資案件は、次のネガティブ・リストに該当しなければ、外資出資比率100%まで自動認可される。
  • 宝くじ(民間・政府宝くじ、オンライン抽選などを含む)
  • 賭博、カジノ(賭博場)を含む
  • チット・ファンド(賭博事業)
  • ニディ会社(互助金融会社)
  • 譲渡可能開発権(※筆者註:譲渡可能な不動産開発権利の取引) 
  • 不動産業または農家の建設
  • タバコまたはその代替品から生成された葉巻、チェルート、たばこ、およびシガリロの製造
  • 原子力および鉄道事業(認められている業務以外)

また、出資比率規制がある分野もあります。

以下では銀行業の場合を事例として確認しておきましょう。 

銀行業〔2017年統合版FDI政策、項目 5.2.18、別表9〕
民間銀行に対して、外国直接投資は上限74%。49%以下の出資は自動認可ルートで、49%超の出資は政府認可ルートになる。
非居住のインド人の場合には、個人が取得できる株式の上限は、従来と同様、本国送還可能ベース、不可能べースとも、それぞれ払込み株式の5%で、両ベースの取得株式合計額の上限は10%。
ただし、当該銀行会社の株主総会の特別決議で、本国送還可能および不可能の両べースでの取得株式合計額の上限を24%に引き上げることが可能。
外国銀行の100%子会社の場合を除き、民間銀行の少なくとも26%の払込み株式はいずれの時においても、居住者による保有が必要。
外国銀行については、一定の要件を満たせば、100%出資の子会社の設立が可能。
政府系銀行については、政府認可ルートで外資比率は上限20%だが、〔Banking Companies (Acquisition Transfer of Undertakings) Acts, 1970/80〕の条件を満たす必要がある。〔2017年統合版FDI政策、項目5.2.19〕(出典:JETROホームページ)

出資比率規制がある主な産業は、出版、防衛(産業)、航空、通信、保険、民間銀行、総合小売等があります。いずれも国の言論を左右するもの、必要なインフラといった業種です。

近年改善されたとはいえ、インドへの進出のハードルは低くはありません。

多言語・多民族国家であり国全体を一括りにはできません。競争は激しく、価格目線は厳しいマーケットです。そして、労働問題が発生しやすく、正規雇用した従業員を解雇することは極めて困難でもあります。インフラは整っておらず、電力不足、物流遅延、工業用水確保、上下水道の未整備等の問題があります。

以下の三菱UFJリサーチ&コンサルティングのレポート(抜粋)はインドという国への進出を端的に表しているといえるでしょう。

インドは、今、日本企業が最も注目し期待する新興国である。しかし、実際のインド市場は、利益確保が難しい。インド市場では、所得水準が低いので低価格商品が売れ筋となるため、そもそも収益が少ない。しかも、インフラが未整備で、税制が複雑であるなど、ビジネス効率を低下させる要因が多く、これらは、コストを膨張させる。このため、インド市場に進出しても、低収益・高コストという状況に陥りがちで、簡単には儲からない。ただ、インドの実情に合わせ時間をかけてビジネスモデルを調整していけばやがて儲かるようになる。つまり、インドでのビジネスの要諦は「我慢比べ」なのであり、日系企業は長期戦覚悟でインド市場攻略に取り組む必要があろう。(出典:三菱UFJリサーチ&コンサルティング「インド経済の現状と今後の展望~BRICsの中で最も高い経済成長率、ただし財政赤字・経常赤字に懸念も~」)

 

不動産業

経済発展していく地域・国へは不動産投資、不動産業への進出が有効であることは、過去の事例が示しています。

日本国内はこれから人口減少に伴う空き家問題等が発生し、土地の格差は広がっていくものと想定されます。

一方で、人口が増加し、経済が発展していく地域・国の不動産価格はインフレ対比で見ても堅調に推移していくことが見込まれます。

そのため、日本企業や個人には海外の不動産に投資したいというニーズが一定程度存在します。

しかし、上記で見た通り、インドの外国投資が禁止されている業種に「不動産業」が該当しています。

この不動産業とは何を指しているのでしょうか。

以下が参考となるでしょう。

住宅・不動産業〔2017年統合版FDI政策、項目5.2.10〕

タウンシップ、都市・地域のインフラ、住居、商業施設、ホテル、病院、道路と橋、教育機関、リゾート、娯楽施設に関する土地開発・建物建設プロジェクトについては、政府のガイドラインに従うことを条件に、自動認可で100%まで出資が認められる。
撤退は、プロジェクトあるいは道路、水道、街灯、下水・排水道等のインフラ主要開発業務を完了した後に可能。
なお、当該出資金をプロジェクトを完了せずに本国送金する場合、その出資金の拠出時期単位ごとに、それぞれの拠出時から3年後となる。
しかし、SEZ(※筆者註:特別経済区域)の開発、ホテルならびに観光施設、病院、老人ホーム、教育用施設、NRI(※筆者註:非居住インド人)による投資に関しては、前述の3年の投資期間の条件は課せられない。
不動産事業、農家の建設業、移転可能な開発権(TDRs)のトレーディング事業に従事している(または従事しようとしている)企業に、外資は認められていない。
不動産事業とは、土地等の固定資産の取扱いにより利益を得ることで、タウンシップの開発、住居・商業施設、道路や橋、教育施設、娯楽施設、都市・地域等のインフラやタウンシップの建設を含まない。
不動産を譲渡ではなく、賃貸またはリースし、所得を得る場合、不動産事業とはされない。
なお、不動産仲介企業は不動産事業とはされず、自動認可ルートで100%出資が可能。

(出典:JETROホームページ)

すなわち、不動産の賃貸業や仲介業は不動産事業とはみなされません。 FDIポリシーには明確に記載がされていませんが、「不動産の値上がり益を見込み、不動産を購入し、そのまま転売するような事業(いわゆる転売屋)」は禁止されていると認識して良いでしょう。不動産の譲渡取引で利益を得ようとすることは禁止ということです。

 

インドの不動産におけるポイント

インドの不動産投資は非常に困難です。

まず、外国の個人・法人はインド国内の土地取得はできません。

ただし、現地法人や支店等、自らの事業活動のための土地取得は可能です(ただし、駐在員事務所は不可)。

そして、上述の通り外国からの直接投資について不動産業は禁止されています。

そもそも、インドの不動産権利は州等の地方レベルの当局で不動産の取引行為が登録されています。

土地の権利証は存在せず、過去の売買契約書等により所有権が確定します。

そして、登記が不動産所有権移転の有効要件ではあるものの、コスト負担を嫌い登記が省略されているケースもあります。また、相続に関する登記がないまま世代に引き継がれ、真の所有者が不明となっているケースもあるとされています。

そのため、インドの土地取得については、土地の権利者の把握が困難であること(特に権利関係を確認するためには弁護士等を通じて最低でも30年間の登記内容を確認することが適切とされている)、司法に判断を委ねる文化があり裁判へと発展する可能性が高い、という問題があります。

このような問題をクリアしてインドで不動産事業(投資)を行っていくのは非常に難しいというのが現状です。

アジア諸国等は、外国人からの、特に不動産投資へ制限を設けている国が多いのが実情です。実需から外れた不動産投機が起こることを防止するために(国民が居住できなくなるほどの不動産価格高騰を防止するため)外国人からの投資制限を行っているのです(それ以外にも要因はありますが)。

アジア諸国等今後の経済成長が見込まれる国への投資、特に不動産投資は、経済成長を享受できるはずですが、日本企業・日本人個人にとっては簡単にはいかないのです。それは、インドへの投資でも同じことが言えるのです。