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スルガ銀行創業家の株式売却は同行・金融庁にとって良い動き

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シェアハウス融資問題等に揺れるスルガ銀行の創業家が保有株式を手放すとの報道が伝えられています。

今回は、スルガ銀行創業家の株式売却が同行に与える影響等について考察します。

 

報道内容

まずは、報道内容を確認しましょう。

以下は日経新聞からの引用です。

スルガ銀創業家、株売却へ
2018/09/21 日経新聞
 スルガ銀行の創業家が関連企業などを通じて保有している同行株を売却する意向であることが20日、わかった。売却先が見つかればすべての株式を手放す方向で、経営への関与をなくす。創業家出身の岡野光喜前会長は投資用不動産などへの不適切な融資の責任をとって辞任した。資本面でも創業家の関与をなくし、機能不全だったガバナンス(企業統治)の立て直しを急ぐ。
 関係者によると、創業家はスルガ銀の社外取締役らで構成する「企業文化・ガバナンス改革委員会」に保有株を手放したり、同行からの借り入れを返済したりする用意があると伝えた。具体的な売却方法や時期、借入金を返済する道筋は今後、詰める。市場で売却するのではなく、機関投資家などへの譲渡を想定しているもようだ。

(以下略)

これが今回報道されている内容です。

創業家保有株式の売却先は現時点では決まっていない模様で、想定する売却先は機関投資家とされています。

 

所見

筆者はスルガ銀行が現在の株主構成だった場合、すなわち創業家が議決権の約15%を保有する形でスルガ銀行単独で存続していく場合には、創業家の影響は完全には排除できず、そう簡単に企業風土等と変わらないと考えています。(創業家が「悪」だと言っている訳ではありません。創業家の施策を否定しづらいだろうと推測しています。)

上記記事に記載したように金融庁は同じような問題意識を持ち、スルガ銀行を他の地銀と統合させるように水面下で動いているのではないかと予測しています。

創業家の持株比率を下げ、企業風土を変え、従来の施策を改めるには、他の銀行が主導した方が良いからです。

今回の創業家の保有株式売却がどのような経緯で動いているかは分かりません。

しかし、スルガ銀行が他銀行と統合するのであれば、障害となるのは創業家の保有株式です。統合比率によっては、統合後の銀行の大株主として一定の影響力を保ち続けることになるからです。

もちろん、スルガ銀行の現経営陣にとっても創業家が大株主で無くなるのであれば、過去を修正するような新しい施策も実行が容易になるでしょう。

今回の創業家の保有株式売却は、スルガ銀行にとっては非常に良い動きといえます。他銀行との統合においても、単独での生き残りにおいても選択肢が広がるのです。

次の注目点は、創業家の株式を「誰が」引き受けるかです。

報道では機関投資家とされていますが、資本業務提携として他地方銀行が引き受ける可能性は捨てきれません。

確かに、スルガ銀行の第三者委員会報告を見る限り、スルガ銀行には多額の損失計上リスクがあります。ほとんどの投資用不動産融資が、返済能力に劣る借入人に貸し出され、対象不動産も収益を生まず、担保価値もない、ということもあり得るかもしれません。

しかし、他行よりも相対的に高い金利水準の貸出債権であることは間違いなく、スルガ銀行の収益力に魅力を感じて統合を模索する地方銀行が出てくる可能性はゼロではないでしょう。

その際に、いきなり統合するのであればリスクが大き過ぎるが、資本提携ならばリスクを許容出来ると判断する銀行があるかもしれません。

しばらくの間は、スルガ銀行を取り巻く動きに注目をしたいと思います。