銀行員のための教科書

これからの時代に必要な金融知識と考え方を。

TBSに対して物言う株主が提案をする背景

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東京放送ホールディングス(TBS)と英国投資家アセット・バリュー・インベスターズ(AVI)との間で株主提案をめぐっての対立が続いています。

なぜ、TBSは物言う株主・アクディビストに狙われているのでしょうか。

今回はTBSが株主提案を受けている背景について考察します。

 

株主提案の概要

TBSが受けている株主提案の概要は報道記事を確認する方が概要がつかめて良いでしょう。

以下はロイターから記事を引用します。 

TBS保有の東エレク株式、株主への還元求める株主提案=英アクティビスト 2018年5月31日

[東京 31日 ロイター] - 英国のアクティビスト(もの言う株主)が東京放送(TBS)ホールディングス(9401.T)に対して、保有する東京エレクトロン(8035.T)株式を現物で株主に還元するように求める株主提案を行った。代理人の弁護士は31日に会見を開き、「TBSは東エレク株式を持つ合理的な理由がない」と訴えた。

株主提案したのは、アセット・バリュー・インベスターズで、TBSが4.68%の議決権を持つ東エレク株式のうち、40%を株主に現物で配当するよう求めた。金額にすると600億円超になる。アセット・バリューはTBS株式の1.7%を保有している。

会見した代理人のスティーブン・ギブンズ弁護士は「TBSの異常に膨らんだ政策保有株の削減が目的」と説明。今後、他の外国人株主や日本の金融機関、機関投資家などに賛同を求めていくとした。ギブンズ弁護士は「日本の金融機関もこの10年で変わっており、議決権行使の際には理由を説明できなければならなくなった」と述べた。

TBSはアセット・バリューの株主提案に対して、反対を表明。もともと東エレクはTBSの関係会社だった経緯があるとし、同社株式が安定的な財務基盤を支えていると主張している。「今後も、企業価値向上のための投資を拡大する際に、適時活用していくことが想定される」とし、保有の合理性を訴えている。

(出典 ロイター)

https://jp.reuters.com/article/tbs-tokyoelec-idJPKCN1IW11M

これが、TBSに対してAVIが提案している内容の概要です。 

 

AVIの株主提案の主旨 

では、物言う株主であるAVIの主張がどのようなものかについて、詳細をみていきましょう。

物言う株主、アクティビストがどのような主張をしているかは、新聞等では詳細に語られることはありません。

AVIの場合は、直接ホームページでも開示していますので、参考になると思います。

以下はAVIの主張を抜粋したものです。

TBSの資産総額に対する「政策保有株式」の割合を考えると、TBSは主力事業である放送事業の傍らで、実際には大規模なアセットマネジメント事業を経営しているようなものです。仮に、TBSがプロのアセットマネージャー、銀行、または保険会社と同等の義務を課されるとしたら、投資家、預金者または保険契約者のために金融資産を管理するという責務に照らし、善管注意義務および一般的なリスク管理規則等の違反に問われるでしょう。

プロのアセットマネージャーとして、ポートフォリオの35%を一つの投資案件(本件の東京エレクトロン)に集中させることは絶対に許されません。さらに悪いことに、TBSの「戦略的ポートフォリオ」はプロとして運営されていません。むしろ、同社のポートフォリオは何年も変わっておらず、一度たりとも収益性、自己資本利益率その他の客観的な金融指標の変化に合わせて調整されていません。「戦略的ポートフォリオ」に含めるか否かについて最も重要な判断基準は、「TBSとの古くからの繋がり」のようです。

TBSの一点集中型の「戦略的ポートフォリオ」は、あたかもギャンブラーがルーレット台のわずかなコマに持っているチップをすべて賭けてしまうようなものです。日本の株式市場に2008年のような反落が起これば、TBSはその局所的な「戦略的ポートフォリオ」のせいでいっそう膨らむ巨額の損失のあおりを直接受けることになります。将来株価の反落が起きたら、TBS経営陣は善管注意義務違反として株主に対する法的責任を免れないでしょう。本ポートフォリオを「構築」するにあたって、「戦略的」という言葉が過度に有利に解釈されているのではないでしょうか。

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TBSの証券ポートフォリオは、同業他社との比較においても他に例を見ないほど大きいものです。激動する放送業界において、ある程度保守的なバランスシートは必要かもしれませんが、このような過剰な資本レベルを有する同業者はありません。これほどの割合で投資有価証券を資産として保有する必要性は見当たりません。

TBSによる東京エレクトロン株式の保有(全資産の19%、政策保有株式の35%に相当)は、より深刻な問題のごく一部にすぎません。全資産の72%を主力の放送事業とは無関係の有価証券、不動産および現金が占めているという問題です。この本業に関わらない金融資産の比率の高さはいかなる基準に照らしても異常です。TBSは、いわば副業として放送事業を行なっている4,500億円を運用する証券投資信託であると言えます。運用資金のうち3,000億円を、古くからの会社同士および個人の関係という以外に客観的な投資基準も持たず、わずか5社という小さな器に投資しています。プロの投資マネージャーがこれほど狭く無計画なポートフォリオを出したならば、必ずや職務怠慢で訴えられることでしょう。 

(出典 AVIサイト)

https://www.improvingtbs.com/ja/home/

これがAVIの主張のポイントです。

AVIの主張は 正しいのでしょうか。

以下で数値を基に検討しておきましょう。

 

TBSの状況

TBSは、本当に副業として放送事業を行なっている4,500億円を運用する証券投資信託であるようなものと言えるのでしょうか。

まず、そこを見ていきましょう。

TBSの連結決算数値(2018年3月末期)におけるポイントは以下の通りです。

 

<TBSホールディングス連結決算数値の概要>

流動資産 1,595億円

うち、現預金 819億円

有形固定資産 1,906億円

無形固定資産 23億円

投資その他の資産 4,497億円

うち、投資有価証券 4,364億円

総資産 8,237億円

 

①放送事業

放送事業売上高 2,195億円

同事業営業利益 33億円

同事業セグメント資産 1,909億円

②映像・文化事業

映像・文化事業売上高 1,318億円

同事業営業利益 76億円

同事業セグメント資産 864億円

③不動産事業

不動産事業売上高 212億円 

同事業営業利益 80億円 

同事業セグメント資産 1,395億円

④全社資産

全社資産4,069億円(※セグメントにおける調整額)

 

以上がTBSの決算におけるポイントです。

読者はどのような特徴があると思われたでしょうか。何か違和感を感じたことはあるでしょうか。

TBSの決算には物言う株主が口を出したくなる要素が含まれています。

ポイントは以下です。

  • 総資産の半分が投資有価証券、すなわち持合株式となっていること
  • 本業収益を生み出すために使う有形固定資産は持合株式の半分でしかないこと
  • TBSの持合株式は上記のAVIの主張の抜粋内の図表に記載されており、東京エレクトロンの割合が多いこと
  • 東京エレクトロン以外の保有株式は本業との相乗効果があるか、TV広告の顧客と想定されること
  • 本業の放送事業は売上、セグメント資産は最大であるものの、利益は不動産事業の約半分まで落ち込んでいること

持合株式の状況については、放送・通信事業の置かれている状況を勘案すると一定程度は許容されるかもしれません。

端的に言えば、大株主として企業から広告を取ってくるということです(このような取引があるかもしれないということが株式を持ち合う場合の問題点と投資家等から指摘されていることは本件では勘案しません)。

しかし、筆者からするとTBSはほとんど不動産業に近くなってきています。利益面で言えば、不動産業が本業で放送業を副業でやっているような利益構造に近くなってきているのです。

すなわち、持合株式を持つ意味が利益だけをみれば無くなってきているのです。

前述のAVIが主張する「TBSによる東京エレクトロン株式の保有(全資産の19%、政策保有株式の35%に相当)は、より深刻な問題のごく一部にすぎません。全資産の72%を主力の放送事業とは無関係の有価証券、不動産および現金が占めているという問題です。この本業に関わらない金融資産の比率の高さはいかなる基準に照らしても異常です。TBSは、いわば副業として放送事業を行なっている4,500億円を運用する証券投資信託であると言えます。 」という指摘は、的外れではなく、正論と言えます。

 

所見

今回は、TBS側の反論は取り上げず、物言う株主側(=AVI)の主張のみを取り上げました。

理由は簡単です。

TBS側の反論は、物言う株主側の正論には勝てないからです。

ただし、筆者は物言う株主が全て正しいと言っている訳でもありません。

企業経営はグレーの部分が多いのです。

理論通り、正論通りに経営すれば良いのであれば、大学教授にでも経営してもらえば良いでしょう。

しかし、読者の皆さんもご認識の通り、理論通りには動かないのが経営だと思います(筆者は厳密には経営をしたことがないので偉そうという批判は免れないでしょうが)。

今回のTBSに対するAVIからの株主提案は、「理論的・正論的にある程度おかしいこと」を直しておかないと、物言う株主に狙われるということの見本です。

日本では、コーポレートガバナンスコードで株主との対話のみならず、持合株式の縮減まで政府が推進してきています。

物言う株主には活動しやすい環境になりつつあるのです。

それをしっかりと意識しないと日本における上場企業の経営者は足下をすくわれることになる可能性が高くなってきたということです。

 

(参考)AVIの主張全文

以下、AVIの主張全文を掲載しておきます。

(これは筆者が残しておきたいと考えているからです。TBSとの係争が終了したらサイトから削除される可能性があるためです。)

TBSの企業価値向上を目指して

*新着情報 – 6月20日説明会開催のご案内 *

株式会社東京放送ホールディングス(コード:9401)(以下「TBS」)は、会社の資産価値の半分以上を、その主力事業に関係のない国内有価証券という小さな器に集約しておりかかるリスクについて、十分な説明も正当性の提示もできていません。

TBSの株主の皆さまによって、TBSをより効率のよい会社、すなわち主力事業である放送事業に集中し、ひいては市場リスクを大幅に削減するよう同社を導く機会であります。

そのための最初のささやかな一歩として、本提案は、TBSの保有する東京エレクトロン株式会社(コード:8035)(以下「 東京エレクトロン」)の株式を40%削減し、その売却額を現物配当または現金配当により株主に還元することを要請するものです。現物配当または現金配当を行なった後において、TBSのバランスシートはTBSの2017年3月末時点と比べ改善することとなり、本提案はTBSが社会的使命を全うする能力を妨げるものでも、同社の資本投資を制限するものでもありません。

当サイトでは、株主の皆さまが十分な情報に基づき適切に判断された上で議決権を行使されるよう、本提案の根拠について詳しく説明しています。またAVIは、株主、報道関係者、規制機関当局、社員等、関係者の皆さまと本件について協議する準備がございます。詳しくは、末尾「お問い合わせ」のページをご覧ください。

放送業界をめぐる状況と本提案

TBSは、日本の放送事業者として社会において重要な使命を担っており、ニュースや情報、災害時における報道、そして良質なエンターテインメントを提供する責任があります。このような責任を果たすべくTBSの可能性を妨げることはあってはならず、本提案も決してそのような意図をもつものではありません。むしろ本提案はTBSが今後も安定して運営されるよう、リスクを軽減することを目指すものです。

私共は、今般日本の放送業界が大きな変革期を迎えていることも認識しております。ストリーミングやオンデマンド配信のような新たな技術革新とその普及とともに視聴動向が著しく変化し、従来のテレビ広告収入は減少の一途を辿りコンテンツの収益化モデルも変わりつつあります。しかし、こうした転換期はリスクも多いながら好機でもあります。

このような状況下で、TBSが新規事業を推進し、絶えず変化する消費者のニーズに応えながら将来に向けた取り組みを進めていくために、ある程度の資本を保有しておかなければならないことは認識しております。直近では、国内最大級のドラマアーカイブ数を誇るとされる動画配信サービスParavi(パラビ)を共同設立するなど、TBSは新たな機会を積極的に捉えており、今後も放送業界をいっそう向上するための新たな事業に取り組んでいくことと考えます。放送関連領域と関連のない一企業の株式保有を減らすことがこうした戦略の障害となるはずはなく、TBSの会社としての地位を高めることこそあれ低下させることにはなりません。

コーポレートガバナンス体制の不備

株式の持ち合い関係により、TBS経営陣は独立した監督・監視から隔絶されているという悪影響が生じています。「独立した・外部の」取締役のうち4名中3名が毎日新聞、電通、株式会社MBSホールディングスの役員であり、TBSはそれらすべての会社と株式の持ち合い関係又は取引関係にあります。この3名の取締役は2017年度中数多くの取締役会議に出席せず、これは他に優先すべきことがあることの表れです。TBS経営陣は実質的に取締役会の監督から逃れて、経営陣の独断による運営が独り歩きしている状態といえます。

またTBSは経営陣による自社株保有率が低く、全役員合わせてもわずか0.1%に留まるため、株主との利害が共有できていません。TBSは真に独立した取締役会がなく、役員による自社株保有率が低い状況で、そのポテンシャルを全面に発揮することができません。このことはTBS株主の皆さまの大多数と意見が一致するようでもあり、その証拠に2017年の社長ならびに外部取締役2名の選任に対する賛成率は80%を割り込みました。

TBS経営陣は、会社の資本政策について十分な説明を怠り、資本効率を高めるための計画についても明確にしておらず、コーポレートガバナンス・コード原則1-3および5-2に基づく義務を果たしていません。特に、いわゆる政策保有株式がTBSの資本効率、自己資本利益率その他の業績基準の向上にどのような好影響を及ぼしているのかの説明がなされていません。

2018年3月31日時点でのTBSの自己資本利益率(ROE)は 3%で、伊藤邦雄氏のレポート「持続的成長への競争力とインセンティブ」で推奨される最低目標レベルの8%を大きく割り込んでいるだけでなく、ISSの「議決権行使助言方針」で定める取締役選任の基準とされる5%にも達していません。TBSの「グループ中期経営計画2020」にも、TBSがどのように現在のROEを改善する計画なのか、ましてや推奨される最低8%をどのように達成する予定であるかについて一切言及されていません。

TBSの投資有価証券

TBSの資産総額に対する「政策保有株式」の割合を考えると、TBSは主力事業である放送事業の傍らで、実際には大規模なアセットマネジメント事業を経営しているようなものです。仮に、TBSがプロのアセットマネージャー、銀行、または保険会社と同等の義務を課されるとしたら、投資家、預金者または保険契約者のために金融資産を管理するという責務に照らし、善管注意義務および一般的なリスク管理規則等の違反に問われるでしょう。

プロのアセットマネージャーとして、ポートフォリオの35%を一つの投資案件(本件の東京エレクトロン)に集中させることは絶対に許されません。さらに悪いことに、TBSの「戦略的ポートフォリオ」はプロとして運営されていません。むしろ、同社のポートフォリオは何年も変わっておらず、一度たりとも収益性、自己資本利益率その他の客観的な金融指標の変化に合わせて調整されていません。「戦略的ポートフォリオ」に含めるか否かについて最も重要な判断基準は、「TBSとの古くからの繋がり」のようです。

TBSの一点集中型の「戦略的ポートフォリオ」は、あたかもギャンブラーがルーレット台のわずかなコマに持っているチップをすべて賭けてしまうようなものです。日本の株式市場に2008年のような反落が起これば、TBSはその局所的な「戦略的ポートフォリオ」のせいでいっそう膨らむ巨額の損失のあおりを直接受けることになります。将来株価の反落が起きたら、TBS経営陣は善管注意義務違反として株主に対する法的責任を免れないでしょう。本ポートフォリオを「構築」するにあたって、「戦略的」という言葉が過度に有利に解釈されているのではないでしょうか。

TBSの証券ポートフォリオは、同業他社との比較においても他に例を見ないほど大きいものです。激動する放送業界において、ある程度保守的なバランスシートは必要かもしれませんが、このような過剰な資本レベルを有する同業者はありません。これほどの割合で投資有価証券を資産として保有する必要性は見当たりません。 

東京エレクトロン株式の分配

TBSによる東京エレクトロンの株式保有の理由についてTBSは「両者の取引関係維持・強化の手段」としていますが、両社の間に取引関係が存在しないことから、この説明をもって、株式保有の合理性の根拠とすることはできません。TBSと東京エレクトロンとのビジネス上の繋がりは54年前に行われた資本注入と、東京エレクトロンによるTBS所有の建物の占有だけであると私共は理解しています。現在の会社の業績にまったく関係のない半世紀以上前に発生した取引は、このような巨額の株式保有を正当化するだけの十分な根拠とはなりません。TBSの建物を東京エレクトロンが占有していることも然りです。

東京エレクトロンの株式はTBSの資産総額の19%を占めており、株主にも関係者にも大きなリスクを負わせています。東京エレクトロンの事業の内容や業績、そして、そのことがTBSの株主に利益をもたらすことについて議論するつもりはありません。しかし、その利益はTBSの株主が自ら東京エレクトロンの株式を保有していたとしても同様の享受をしうるものです。株主が東京エレクトロンと関係を持つもっとも公正かつ効率の良い方法は、株主自ら直接株式を保有することです。株式を直接保有することで、株主は東京エレクトロンの抱えるリスク要因について十分な情報を得た上で、リスクを負うか否かを適切に評価し、東京エレクトロンに出資するメリットについて自ら結論を下すことができるのです。

TBSが保有する投資有価証券による制御できない過度のリスクに晒されていない、との説明には重大な見落としがあります。また、仮に東京エレクトロン株式の株価が50%下落すると、TBSの資産額は10%減少します。投資有価証券ポートフォリオ全体が50%下落すると、TBSの資産額は27%減少します。不規則な株式市場の動きはコントロールできるものではなく、TBS経営陣にもこのリスクを軽減する対策はありません。

下記の構造図(筆者註:図表は削除)をご覧ください。現在、TBSの株主は、TBSを経由して東京エレクトロン株を持っているといえます。私共の推定算出では、TBSを経由して東京エレクトロン株を持つことによって、TBS株価に反映されている実際の東京エレクトロン株の市場価値よりも33%の割引がかかっている計算になります。一方、株主が東京エレクトロン株を直接保有した場合、この割引は生じません。TBSが保有する東京エレクトロン株をTBS株主に直接保有していただくことによって、その分の割引を解消することが実現できます。この割引の解消はTBSの長期的な企業価値向上につながります。

TBS株の割引率を下げる最初のステップとしては、まず東京エレクトロン株式を分配することであり、このようなわずかな分配によりTBSの資産基盤が揺らぐことはありません。この部分的な分配がいかに控えめなものであるかは、分配後のバランスシートを同業他社や現状の数値と比較すると明らかです。

現物配当の提案をした理由

私共は、東京エレクトロンの株を現物配当するという提案は通常の現金配当に比べて多くの株主には馴染まないと理解しています。通常の現金配当の提案を検討した上で、それでもやはり現物配当に決めた理由はあります。会社法上、通常の現金配当の提案の場合、配当のための資金源を指定することができないのです。TBSの大量な政策保有株の問題の中でも最も目立つ「東京エレクトロンの株の現物配当」という提案の形をとることによって、TBSの経営陣及び株主が取り組むべき問題により具体的かつ真剣に目を向けることになると思ったからです。

TBS株主の皆様が、本提案を支持することで、株主は大量な政策保有株の削減について検討することを期待しているというメッセージをTBS経営陣に訴えかけることができる、と私共は考えます。

TBSの株主の皆様には、本提案では、配当を現金で受け取るか、または東京エレクトロンの株で受け取るかの選択ができることをご理解いただきたいと思います。

私共は、現金配当の形を選択する株主がほとんどではないかと予想しています。

株主提案

1.株主総会の目的事項

剰余金の処分の件 

2.議案の要領および提案の理由

(1)議案の要領

第91期定時株主総会(以下、「本総会」という)に貴社が提案し、同総会で承認される剰余金配当に加え、当該剰余金配当と両立するものとして、以下の通り現物配当するものとする(以下、「本現物配当」という)。

(ⅰ)配当財産の種類:東京エレクトロン株式会社(証券コード:8035)の普通株式(以下、「エレクトロン株」という)3,064,414株(以下、「現物配当財産」という)

(ⅱ)現物配当財産の帳簿価額の総額:62,514,000,000円[1]

(ⅲ)現物配当財産の割当てに関する事項

(a)基準株式数:貴社普通株式57株あたり、エレクトロン株1株を割り当てる。

(b)金銭分配請求権:基準株式数を有する株主は現物配当財産に代えて、会社法第455条第2項および会社計算規則第154条の規定に従い算定される額に相当する金銭を交付することを貴社に対して請求することができる。同請求権の行使期間は、(ⅳ)に定める本現物配当の効力の生ずる日以前までとし、その行使期間末日については平成30年6月28日又は別途貴社と合意した日とする。

(c)基準未満株式(上記(a)に満たない株式をいう):基準未満株式を有する株主には、エレクトロン株を割り当てない代わりに、会社法第456条の規定に従い算定される額に相当する金銭が支払われるものとする。

(ⅳ)効力の生ずる日:平成30年6月29日。ただし、平成30年9月28日までに支払われるものとする。

 (2)提案の理由

貴社は、日本の放送事業者として社会において他の会社とは異なる特別な立場にあり、良質なエンターテインメントに加え、信頼性の高いニュース、災害時における報道を提供する責任があります。この責任を果たすべく貴社の可能性を妨げることはあってはならず、本提案も決してそのような意図をもつものではありません。

有料動画ストリーミング等の技術によりコンテンツの配信や収益化の方法が変わる中、放送業界は大きな変革期のさなかにあります。このような状況下で、貴社が安定的に機会を獲得し、大切な社会的使命を果たしていくためにある程度一定の資本を保有しておかなければならないことは認識しております。本提案はそれを妨げるものではありません。

余剰資金自体は不当なものではありませんが、貴社の証券ポートフォリオは、その規模と集中性から、株主にも関係者にも必要以上のリスクを負わせていることを示しています。本件に関して役員各位が十分な考慮をしてきたとはいえず、したがって、株主は自ら声をあげ、貴社にとって最善の利益とは何か説明を求める時期にきていると考えます。

貴社の過剰な資本は、同業者との比較においても、また広く一般的に日本の公開株式市場においても他に例を見ないほどです。貴社の資産の72%が、放送事業の運営に関係も必要性もない投資有価証券、不動産および現金で構成されています。とくに、貴社の「政策保有株式」のポートフォリオの比率が異常に大きく(総資産の54%を占め、大手非金融系企業の中で2番目に高い)、またバランスが悪い(政策保有株式の上位5社が総資産の37%、投資有価証券ポートフォリオの67%に相当)というのが現状です。

「政策保有株式」のポートフォリオの中で、東京エレクトロン株式が資産総額の19%、ポートフォリオ全体の35%を占め、最も懸念すべき点です。ここまでの集中投資では、貴社は金融市場の変動に晒されると思われますが、これに対して貴社より適切な理由説明はありません。

コーポレートガバナンス・コード原則1-4では、政策保有に関する方針を開示し、政策保有についてそのリスクを検証することが求められています。

上場会社がいわゆる政策保有株式として上場株式を保有する場合には、政策保有に関する方針を開示すべきである。また、毎年、取締役会で主要な政策保有についてそのリターンとリスクなどを踏まえた中長期的な経済合理性や将来の見通しを検証し、これを反映した保有のねらい・合理性について具体的な説明を行うべきである。

平成30年3月1日更新の貴社の最新のコーポレートガバナンス報告書では、政策保有株式について詳細で有益な説明はなく、その正当性については以下の通りおおまかな説明しかなされていません。

 当社グループは、企業価値向上の観点から、取引、業務提携などを総合的に勘案し、経営戦略の一環として必要と判断する企業の株式を保有いたします。

貴社は、平成29年度有価証券報告書の中においても、東京エレクトロン株式の保有目的について以下のわずかな記載しか設けておりません。

グループ経営上の取引関係維持・強化のため

貴社は、会社の資産価値の半分を国内有価証券という小さな器に集約していることにかかるリスクについて、十分な説明も正当性の提示もできていません。両社の取引関係維持・強化の手段という理由では、実際にはそのような関係が存在しないのに、東京エレクトロンの株式保有の合理性を説明することはできません。貴社と東京エレクトロンとのビジネス上の繋がりは54年前に行われた資本注入と、東京エレクトロンによる貴社所有の建物の占有だけであると私共は理解しています。現在の会社の業績にまったく関係のない54年前に発生した取引は、このような巨額の株式保有を正当化するだけの十分な根拠とはなりません。貴社の建物を東京エレクトロンが占有していることも然りです。

東京エレクトロンのような近しい会社との株式の持ち合いや取締役の相互就任は、独立した客観性のある監視から経営陣を隔絶するもので、会社のコーポレートガバナンスの原則に反します。貴社の独立した企業価値特別委員会もこの問題を緩和することなく、かくも大きなバランスシート・リスクを看過し続けてきました。また、取締役会の17名中13名が貴社の社員、すなわち社内取締役であり、一方社外取締役のうち4名中3名は、毎日新聞、電通、株式会社MBSメディアホールディングスの役員で、それらすべてが貴社と株式の持ち合い関係や取引関係にあります。それゆえに、社内のしがらみや利害関係に縛られずに外部の視点から株主の利益を考えた上で監督できているのか疑問であり、貴社の経営陣は事実上、より裾野の広い株主への説明責任から逃れているとしか思えません。

本提案では、まず貴社の資本効率、リスク管理およびコーポレートガバナンスを改善する最初のステップとして、東京エレクトロンの株式保有を40%減らすことを要請するものです。こうして資産基盤を若干縮小することにより貴社の設備投資が妨げられたり、他の関係者や社会に対する義務が果たせなくなったりするとは思えません。東京エレクトロンの株式40%を貴社の株主に配当した場合、1株あたりの配当額は344円となります[2]

さらに詳しい情報と本提案の詳細な根拠説明は、www.improvingTBS.comをご覧ください。

[1]平成29年12月31日時点AVI予想。ただし正確な金額はAVIには不明。

[2] 平成30年4月20日時点

TBSの反論

私共の提案に対してTBSは3つの主張を掲げられました。そのそれぞれについて以下の通り反論いたします。

1) サンクコストの誤謬

本提案に対するTBSの論旨は、経済学者が「サンクコストの誤謬(またはコンコルド効果)」と呼ぶ状態によるものです。貴社は、TBSが保有する東京エレクトロン株式は何年も前に極めて低額で取得したものであるから「価格変動によるリスクは事実上ありません」と述べています。

この議論では、「過去の投資費用(埋没費用=サンクコスト)は現在の投資判断とは無関係である」という、経済学部やビジネススクールで真っ先に学ぶような基本概念が無視されています。

経済学やビジネスの入門書では、以下のような例を使ってこの概念を解説しています。あなたはオペラコンサートのチケットを持っているとします。ところが、公演当日夜はひどい暴風雪で運転すら危険な状態です。果たして暴風雪の中を運転していくかどうかを判断する上で、チケットを自ら2万円払って購入したものか友人から無料でもらったものか、判断に影響するでしょうか。正解は「関係がない」です。いま目の前の危険な状態に立ち向かうか否かを決めるのに、もはや取り戻すことのできない過去に支払ったチケット代は関係ないのです。

貴社の理論は、東京エレクトロン株式はもともと低額で取得したのだから、その価値が暴落する可能性については心配すべきでない、と言っているように思われますが、これは基本的な経済理論に逆らうものです。東京エレクトロン株式のような資産を現時点で保有し続けるか処分すべきかは、過去の取得価格の多寡とは無関係に判断するものです。東京エレクトロン株式を取得する時にもっと高い値段を払っていたならば、現在その株式を保有する(または売却する)ことで株主が直面している「リスク」は異なるものになるとTBSは信じておられるのでしょうか。

この基礎的な投資の仕組みすら正確に理解できておられない状態で、TBS経営陣は同程度に基礎的な「資本効率」や「自己資本利益率」など他の概念を果たして十分に理解できているのか、株主が疑問に思ってしかるべきです。

2) TBSの大量の政策保有株式を正当化できていない

TBSによる東京エレクトロン株式の保有(全資産の19%、政策保有株式の35%に相当)は、より深刻な問題のごく一部にすぎません。全資産の72%を主力の放送事業とは無関係の有価証券、不動産および現金が占めているという問題です。この本業に関わらない金融資産の比率の高さはいかなる基準に照らしても異常です。TBSは、いわば副業として放送事業を行なっている4,500億円を運用する証券投資信託であると言えます。運用資金のうち3,000億円を、古くからの会社同士および個人の関係という以外に客観的な投資基準も持たず、わずか5社という小さな器に投資しています。プロの投資マネージャーがこれほど狭く無計画なポートフォリオを出したならば、必ずや職務怠慢で訴えられることでしょう。

東京エレクトロン株式だけに言及しているTBSの回答は、このより重大な問題を完全に避けています。TBSの回答によれば、2020年までに漠然とした具体性のないさまざまなプロジェクトに最大で500億円を投資する計画であるとし、私共が提案した東京エレクトロン株式の配当を行えばこれらの投資計画の障害になりかねないと暗に主張しているような印象を受けます。私共は、主力の放送事業を合理的に支える投資については全面的に支持することを強調しておきます。本提案に従って配当を行なった後も3,500億円以上の有価証券ポートフォリオを保有し続け、500億円の投資を十分に賄えることは述べられていません。さらに、このポートフォリオが受けるキャピタルゲイン課税を全額納付しても、TBSの過去20年分の資本支出を超える余剰資本が手元に残ります。東京エレクトロン株式を配当してもTBSの投資活動を妨げるものではなく、放送事業者としての重要な社会的役割を危うくするものでもありません。

日本でも、企業価値という観点から、もはや政策保有株式の存在を正当化することはできず、原則として削減するべきであることは広く認められています。この見解は現在のコーポレートガバナンスコードにも反映されておりますし、コードの改正案によって今後も強調され、経営陣が政策保有株式を削減しその理由を説明し正当化する責任はますます高まるでしょう。

TBSの経営陣は沈黙を続けることで、大量のバランスの悪い政策保有株式の問題に誠実に向き合う義務を避けていることに、株主は懸念するべきです。

3) 技術的な問題

本提案に対する最後の反論は技術的なものです。まず、東京エレクトロン株式の配当がキャピタルゲイン課税を受けるとのご指摘のとおりです。しかしながら、これは現在であろうが将来であろうが、株式を処分する際には当然発生します。配当がキャピタルゲイン課税の対象であるという事実があっても、それが配当を延期したり拒否したりする有効な根拠とはなりません。TBSの財務会計にキャピタルゲイン課税はすでに織り込み済みであり、したがって税金を支払ってもTBSの潜在的価値は変わりません。

また、現物配当は単純な現金配当よりも手続きが複雑であるという指摘も真っ当なものです。しかしながら、本提案は、希望すればすべての株主が配当を現金で受け取ることのできるオプションを与えています。また、専門家にも確認したところ、貴社が挙げた源泉徴収税と他のテクニカルな諸問題は、実務上、解決は可能である旨の回答を受け取りました。管理上の負担が大きいからと言って、東京エレクトロン株式配当を直接受け取る株主の権利を妨げる有効な理由にはなりません。TBS経営陣ならびに専門顧問をもってすれば、会社法及び適用される税法に基づいて現物配当を実行する能力があると信じております。

引用元 https://www.improvingtbs.com/ja/home/

 

※ なお、筆者はTBSともAVIとも利害関係人ではありません(何の関係もありません)