リクルートキャリアが「2018年8月1日時点 内定状況― 就職プロセス調査(2019年卒)」を発表しました。
この調査は大学生の内定状況がメインのトピックスですが、「AIにより無くなる可能性のある職業」についても大学生の意見を聴取しています。
この大学生の意見が非常に興味深いものでありましたので、今回は「AIにより無くなる可能性のある職業」に関する大学生の考えについて考察します。
リクルートキャリアの調査結果
まずは、リクルートキャリアが発表した調査結果について内容を確認しましょう。
以下抜粋・引用します。
〈調査結果〉
「人工知能(AI)の発達により、なくなる可能性のある職業」を意識して就職先の業界や、職種を検討したことが 「ある」と答えた学生は46.9%であった。
【「ある」と答えた具体的な内容について(自由回答)】
- 銀行などがニュースに取り上げられたため。 (文系、女性)
- 将来安定した職につくためには、AIではできない仕事を選んだ方が良いと感じたため。(文系、女性)
- 自分がやりたいと思っている経理・財務の仕事が、とくにAIの脅威にさらされているというランキング記事を読んだことがあるため。(文系、男性)
- レジが無人化が進んでいるのを目の当たりにしたから。 (文系、女性)
■ 「人工知能(AI)の発達により、なくなる可能性がある」と考えた業種・職種
□ 業種(上位10項目を抜粋)
- 銀行・信用金庫・信用組合・労働金庫 59.4%
- 生命保険・損害保険 31.2%
- 証券 29.0%
- 百貨店・スーパー・コンビニエンスストア・DIY・生活協同組合 26.5%
- 印刷関連 21.6%
- その他金融(投資業・ベンチャーキャピタル・消費者金融等) 20.1%
- 倉庫業 19.1%
- 鉄道・道路旅客運送・海運・航空・その他の運輸業 17.5%
- 人材関連(派遣・斡旋等) 16.1%
- 情報サービス・調査業(ソフトウェア・情報処理・修理等) 15.5%
□ 職種(上位10項目を抜粋)
- 事務・スタッフ関連職(営業推進・経営企画・法務・特許・ 国際事務・総務・人事・経理・宣伝・広報等) 59.2%
- 金融スペシャリスト(トレーダー・ディーラー・融資・ 資産運用・証券アナリスト・アクチュアリー等) 36.5%
- 生産・品質管理・設計関連職(生産・製造技術開発・ 各種設計・生産管理・品質管理・各種メンテナンス等) 28.9%
- 流通・サービス関連職(販売・ショップスタッフ・接客・ 店舗運営・バイヤー等) 27.0%
- コンピュータ・通信・ソフトウェア関連職(システムアナリスト ・エンジニア・プログラマ・運用・保守等) 25.8%
- 営業関連職(営業・MR等) 19.4%
- 商品企画・マーケティング関連職(商品企画・調査研究・ マーケティング等) 14.6%
- 土木・建築・設計関連職(建築土木設計・調査・測量・ 積算・施工管理等) 10.6%
- 専門・スペシャリスト(コンサルティング・教員・保育士・ 薬剤師・社会福祉士等) 10.5%
- クリエイティブ関連職(編集・制作・デザイナー・ライター・ 記者・ゲームクリエイター等) 6.9%
出典 ㈱リクルートキャリア 2018年8月24日公表
【確報版】「2018年8月1日時点 内定状況」― 就職プロセス調査(2019年卒)
https://www.recruitcareer.co.jp/news/20180824.pdf
以上のように無くなる業種としては金融がトップ3を独占しています。
その中でも銀行等がトップとなり、6割の大学生が無くなる可能性があると考えているようです。
また、職種としても金融のスペシャリストが無くなる可能性がある職種の第2位でした。
これが調査結果の概要です。
所見
この調査結果をどのように解釈すれば良いのでしょうか。
この調査に批判を加えることは出来るかもしれません。
- リクルートキャリアの調査対象が偏っている可能性
- 社会に出ていない大学生の未熟な考え
- 近時のメガバンクのリストラ報道の一時的な影響
- 日銀の(時限的なはずの)マイナス金利政策の悪影響
- マスコミのフィンテック企業を取り上げる偏向報道
- AIへの技術的理解不足
リクルートキャリアの調査結果に対するこのような意見はあると思います。
しかし、単純に無視して良い調査結果なのでしょうか。
銀行を含めた金融機関を取り巻く環境が激変している、もしくは激変していくことは間違いないと思います。
AIだけが影響を与える訳ではなく、以下のような要因が金融機関にビジネスモデルの変更を迫る可能性はあります。
- 日本の人口減少
- 日本の少子高齢化
- 日本の長寿化
- 低金利の継続
- 日本国の財政悪化
- Amazon等異業種からの新規参入
- フィンテック企業の台頭
- キャッシュレス化
- 仮想通貨の普及
- 自動運転の普及(自動車保険への影響等)
- テレワーク等働き方の変更(大規模オフィスビルの価値減少等)
- 資金需要主体と資金余剰主体とのマッチングの容易化
- 金融機関と顧客との情報非対称性の減少(解消)
以上は例示でしかありません。
そして、AIの前にRPA(Robotic Process Automation)が金融機関の従業員の業務のかなりの部分を代替することになることも十分に予想出来ます。
いわゆる金融機関の煩雑かつミスの許されない(ある意味で非人間的な)事務はRPAに置き換えるのにちょうど良いのです。
そして、AIは大量のデータを分析する能力には人間よりもはるかに優れています。銀行の本部の仕事は、変わるかもしれません。また、為替ディーラー、アナリスト、ファンドマネージャー等を超えるAIも登場するでしょう。
そして、ビル・ゲイツ氏(マイクロソフト創業者)は、「 銀行機能は必要だが、今ある銀行は必要なくなる」と発言していたと言われています。
これは筆者も素晴らしい言葉だと思います。
銀行を含めた金融機関の業務は機能別に再編されるかもしれません。
このような大きな流れを、新しいサービス、新しい技術、教育等に囲まれ、柔軟性を持つ大学生が感覚的に掴んでいる可能性は十分にあるのではないでしょうか。
加えて、これからの世代を担う大学生が銀行を含む既存の金融機関への就業を避けるようになるならば、この調査のような「銀行が無くなる業種」になるという大学生の考えが、本当に実現してしまうこともあり得るのです。
金融機関が、優秀な人材を求めていることは間違いありません。特に理系人材(この呼び方は日本ぐらいの気がしますが) はこれからの銀行に重要です。フィンテック企業、IT企業、プラットフォーマー企業と競争しなければならないのです。5年後の銀行は全く別のものになっているかもしれません。それでも、他の業界同様に各銀行も生き残りを「自ら」目指していくのです。
新しい人材から避けられるならば、銀行、金融機関の存続は無理でしょう。
そのため、リクルートキャリアの調査結果は無視できないと筆者は考えています。むしろ、銀行にとっては見逃せない重要な問題だと考えます。
銀行は広報、採用チーム等が注力して、場合によっては業界全体で、マスコミ対策、学生への広告宣伝・セミナーに取り組まなければならないのではないでしょうか。