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確定拠出年金(DC)への掛金拠出可能期間延長は早急に実施を

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確定拠出年金(DC)への掛金拠出可能期間を延長することを厚労省が検討しているとの報道がなされました。

今回は、このDCの掛金を払い込める期間を延長することについて考察していきます。

 

報道内容

まずは報道内容を確認しましょう。

以下、日経新聞の記事を引用します。

確定拠出年金、納付延長
2018/08/31 日経新聞

 厚生労働省は運用成果によって年金額が変わる確定拠出年金について、掛け金を払い込める期間を延ばす方向で検討に入る。上限を60歳から65歳に上げる案が軸だ。期間が延びれば、老後に受け取る年金は増える。60歳を超えても働く人が増えているため私的年金の仕組みを充実させ、先細りする公的年金を補う。
 老後の支えとなる厚生年金は受給開始年齢を段階的に65歳まで引き上げている。このため政府は高年齢者雇用安定法で、65歳まではすべての希望者を雇用することを企業に義務付けた。総務省によると60~64歳の就業率は2017年に66%と、確定拠出年金を導入した01年から約15ポイント上がっている。長く働いて年金を積み立てるニーズは高まっている。
 厚労省は18年度中にも制度見直しの検討に入る。確定拠出年金は働いて得る収入で掛け金を出すことを前提にする。就業率の推移などを踏まえて22年度までに結論を出し、確定拠出年金法の改正案を国会に提出する。
(中略)
 現在は加入できる期間が20~60歳になっている。企業型と個人型があり、厚労省は個人型の加入期間を65歳まで引き上げることを検討する。企業型では、同じ企業グループで働き続ける人を対象に60歳以降も加入できる制度を議論する。
 企業型の加入者は680万人、個人型(イデコ)は94万人で近く100万人を超える。掛け金の上限は自営業者などで月6.8万円、会社員(個人型のみ)は月2.3万円だ。加入期間が5年延びれば、会社員の場合で最大138万円掛け金を多く出せる。拠出したお金の運用期間も延び、複利効果を得やすくなる。
(以下略)

これが報道記事の内容でした。

 

確定拠出年金(DC)とは

まず、DC制度を理解するために日本の年金制度について簡単に記載します。

日本の年金制度は3階建と言われます。

1階部分は20歳以上の全国民が加入する国民年金(基礎年金)があります。これは加入期間の長さによってもらえる年金額が決まる仕組みです。1ヶ月あたりの老齢基礎年金需給額は約6.5万円です。

次に2階部分としてサラリーマン・公務員等が加入する厚生年金保険、自営業者等が加入する国民年金基金があります。

最後に3階部分として従業員を対象として企業が独自に運営する確定給付企業年金(DB)、確定拠出年金(DC)等があります。この3階部分に個人として積立てを行うDCも位置付けられます。
すなわちDCとは、基礎年金(1階部分)、厚生年金保険(2階部分)などの公的年金に上乗せして給付を受ける私的年金(3階部分)のひとつです。

確定給付企業年金(DB)はあらかじめ確定した給付額を賄うのに必要な掛金を企業が拠出します。掛金払込・受給の状況、運用成果に左右されるため企業の拠出額は変動しますが、従業員が将来受け取ることのできる年金額は約束されています。

一方で、確定拠出年金(DC)は企業や加入者個人が一定額を拠出して、加入者自らが運用を行い、運用実績により加入者毎に年金額が変動します。

DBは一見すると従業員等受けとる側にとっては有利に見えますが、企業の運用が上手くいかなければ結果として減額されるリスクもあります。また運用が上手くいったとしても従業員への年金額増加という還元はありません。

DCは加入者の個人責任であるものの、運用が上手くいけば年金額の増額は狙えます。DBとDCは表裏の関係ではあり、いずれにしろ運用環境が悪ければ年金額は減額となる可能性があります。

 

確定拠出年金(DC)の掛金拠出期間延長

DCの掛金拠出期間を65歳まで延長するのは、当然に想定されていたものです。

上述の記事にもある通り、企業には65歳までの継続雇用が義務付けられており、企業によっては65歳まで定年を延長するところもあります。

65歳までの収入が確保されるならば、公的年金の支給開始である65歳にDCの給付開始時期を合わせても良いと判断することに合理性はあるでしょう。

また、加入者個人にとってもメリットはあります。前述の記事にある通り「加入期間が5年延びれば、会社員の場合で最大138万円掛け金を多く」拠出することが出来ます。この138万円という拠出金は全て所得から控除されます。したがって、例えば税率が30%だったとすると41万円(=138×30%)の税負担が削減されることになるのです。

これは見方を変えれば凄まじい利回りの運用商品です。しかも、この控除は元本確保型の運用商品に投資していても当然に享受出来るのです。すなわちDCで定期預金に投資しても、実質的な利回りほ非常に高いのです。

DCが最強の運用商品と言われる理由がここにあります。

65歳までの雇用・収入が確保されている個人は、申し込めるDCがあるならば拠出期間を延長して追加の掛金拠出を行うメリットは十分過ぎるほどにあるのです。

 

留意点と所見

このようにメリットの大きいDCですが、留意点もあります。

まず、企業型のDCの中には、60歳から65歳までの所得低下を補う目的で導入されているものがあります。

これは65歳から公的年金が給付されるまでの「つなぎ」としての役割をDCに負わせているのです。企業は60歳定年が一般的であり、60歳以降は再雇用となり給料が大幅に引き下げられることが通常です。この給料低下部分の一部をDCの給付によって穴埋めする設計といえます。

このようなDC制度が導入されている企業に勤めているのであれば、加入者はDCの掛金拠出期間延長について注意する必要があるかもしれません。老後の生活設計が狂うかもしれないからです。

また、DCはそもそも需給可能な年齢になるまで解約・引き出しは原則として出来ません。

必要な時に使えないので、その点には留意が必要でしょう。

しかし、老後の生活設計のためにはDCの運用は十分にメリットがあります。

「変な」運用商品を買うぐらいならDCを申し込んだ方が間違いなく良いと言えます。低金利下の時代においては、税メリットを取った方が、手軽でリスクが少なく利回りが高い投資になるのです。

公的年金の実質的な支給水準(所得代替率)は14年時点で62.7%でしたが、将来は50%程度まで下がる見通しです。この年金需給水準の低下は日本の財政状況から避けられません。自分たちで老後資金を準備しておくことは意味のあることなのです。

我々個人のためにも、是非ともDCの納付延長を厚労省は実現して欲しいと考えます。