銀行員のための教科書

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東日本銀行の行政処分は他銀行にとって他人事か

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コンコルディア・フィナンシャルグループ傘下の東日本銀行に対して行政処分がなされました。

同行は収益増加のためお客様から根拠不明確な融資手数料を徴収していました。また、融資の一部を強制的に定期預金させる不適切な融資もありました。

東日本銀行に何が起きているのでしょうか。

他の地方銀行には問題がないのでしょうか。

スルガ銀行のシェアハウス融資問題と何らかの共通点は無いのでしょうか。

このような問題はなぜ起きるのでしょうか。

今回は、東日本銀行の問題について考察しましょう。

 

報道内容

まずは本件の概要をつかみましょう。

概要の把握についてはやはり日経新聞の記事がまとまっています。

以下引用します。

不当な手数料、実体なき登記 東日本銀に広がった不正
2018/07/13  日経速報ニュース

 金融庁が不適切な融資が横行していた東日本銀行に業務改善命令を出した。同行は自らの収益を増やすために顧客に負担を強いるという「顧客本位」と正反対の運営をしていた。収益環境の悪化と企業統治(ガバナンス)の欠如が不適切な融資の温床になった構図で、他の金融機関にとっても人ごとではない。
 東日本銀によると全83店舗のうち69店で根拠が不明確な融資実行手数料を受け取っていた。顧客への説明がなかったり、目的が分からなかったりしたものが、計997件で4億6000万円に達する。融資の一部を定期預金させる不適切な融資も50店であり、358件の計39億円が不必要な融資にあたる。
 手数料を取っていた先には、低利で借りやすくするために地方自治体などが利子補給している中小零細企業が多数、含まれているという。自治体との協定で手数料の徴収が禁じられている制度融資を使った融資先からも取っていた。
 また特定の副支店長(懲戒解雇済み)が営業成績を上げるために、融資先企業に対して担当地区内に実体のない営業所を登記させて融資を実行。7億円以上の損失が出ているという。同様の事例が複数の支店で起きており、支店長自ら不適切な融資を実行したケースもあった。
 不正をチェックするための監査部も、形式的な点検や手続き面の監査に終始し、こうした不適切な融資を見過ごしていた。金融庁は顧客に負担を強いる不適切な融資が広範囲に及ぶことから「現場の暴走」ではなく、企業統治に重大な不備があるとみている。改善命令では、不正を監視し合って防ぐ機能の確立とともに、経営責任を明確にするよう求めた。
(以下略)

以上が東日本銀行で起きていた事象の概要です。

 

行政処分の内容

行政処分(業務改善命令)の文面を見る機会は少ないと思いますので、今回の東日本銀行に対する行政処分の内容について以下引用します。

株式会社東日本銀行に対する行政処分について

平成30年7月13日 関東財務局

 関東財務局は、本日、株式会社東日本銀行(以下「当行」という。法人番号9010001034913)に対し、
下記のとおり行政処分を行いました。

             記

第1.命令の内容
銀行法第26条第1項に基づく命令
(1)健全かつ適切な業務運営を確保するため、以下の観点から、内部管理態勢及び経営管理態勢を見直し、強化すること。
ⅰ 法令等遵守、顧客保護及び顧客本位の業務運営、経営管理にかかる経営責任の明確化
 ⅱ 法令等遵守態勢、顧客保護及び顧客本位の業務運営態勢の確立と全行的な意識の向上
 ⅲ 営業店及び本部関係部署における相互牽制機能の確立
 ⅳ 内部監査態勢の確立
 (2)上記(1)に関する改善計画を平成30年8月13日までに提出し、直ちに実行すること。
(3)上記(2)の改善計画について、当該計画の実施完了までの間、3ヶ月毎の進捗・実施状況を翌月15日までに報告すること(初回報告基準日を平成30年9月末とする)。
   
第2.処分の理由
 当行に対して実施した検査結果や銀行法第24条第1項に基づき求めた報告を検証したところ、当行の法令等遵守態勢、顧客保護及び顧客本位の業務運営態勢、経営管理態勢について、以下の問題が認められた。 
(1)顧客の利益を害する業務運営
 数多くの支店において広範に、対価となるサービス内容が不明または手数料の算定根拠が不明な融資実行手数料や実質的に両建となる担保定期預金を顧客から徴求しているなど、顧客に不必要な負担を強いるといった顧客保護及び顧客本位の業務運営上の問題が認められる。
 上記の融資実行手数料の中には、地方公共団体が利子補給を行うなどして低利の資金を中小零細企業に提供するために設けている制度融資の実行先から徴求している事例が多数存在している。さらに、地方公共団体との協定書等で手数料の徴求が禁止されている制度融資の実行先からも徴求している事例が多数認められており、制度融資の目的や趣旨を逸脱するなど極めて不適切な取扱いが行われている。
(2)支店における不適切な融資と態勢の不備
 特定の副支店長が、営業成績を上げるために、特定のグループから紹介された融資先について、支店の営業エリア内に実態のない当該融資先の営業所の登記を行わせ、支店長を欺き、支店長専決権限を行使させるといった不適切な融資を多数実行し、多額の損失が発生している。
 支店長は、融資先の営業実態や資金使途を十分に確認しないまま融資実行を決裁しており、同支店の他の職員も不審な状況を看過しており、営業店内の牽制機能が働いていない。
 なお、同副支店長は、過去在籍した別の複数支店においても、同様の不適切な融資を実行し、損失が発生している。
   上記と異なる複数支店において、支店長が、当行OBを通じて紹介された融資先について、支店の営業エリア内に実態のない当該融資先の営業所の登記を行わせ、融資資金で市場価格を大幅に上回る不動産を購入すること等を知りながら、支店長専決権限により融資を実行し、多額の損失が発生している。
 支店では、支店長以外の他の職員が不審な状況を看過しており、営業店内の牽制機能が働いていない。
    なお、上記と類似性のある不適切な融資は、過去にも、別の支店において発生しているが、当時策定された再発防止策の根本原因分析等が十分ではなく、今回、同様の不適切な融資が再発している。
 (3)本部の牽制機能の欠如
 監査部は、関係書類に係る外形的な点検や、手続の遵守状況を検証する事務面の監査しか行っておらず、上記の融資実行手数料や実質的に両建となる担保定期預金の徴求及び不適切な融資が繰り返されていることを発見できていない。
 また、融資部、営業統括部による支店の営業に関するモニタリングにおいても、多額の融資実行手数料の徴求や不適切な融資等の早期発見に至っていないなど、牽制機能が働いていない。 
(4)投資信託販売業務における虚偽報告等
 投資信託販売や投資信託購入者に対する事後対応について、数多くの支店において多数の職員が、実態と異なる虚偽報告等を行っている。
 また、投資信託購入者に対する事後対応について、前回の当局検査において同様の指摘がなされているが、当時の再発防止策は抜本的な改善策とはなっておらず、実態と異なる虚偽報告等が再発している。
 (5)上記(1)から(4)までの問題発生の要因としては、役職員の法令等遵守や顧客保護及び顧客本位の業務運営に関する意識が乏しい企業文化となっている中、経営陣が、新規取引獲得に偏重した営業姿勢の下、収益確保やOHRの低下を優先し、業務の適切性を確保するための内部管理態勢の整備を十分に行ってこなかったことが根本原因であると認められる。

 

歩積両建定期預金の補足

東日本銀行の本件事象では、様々な問題がありますが、一つ補足をしておきます。

それは歩積両建の定期預金についてです。

行政処分の文面では実質的に両建となる担保定期預金をお客様から徴求しているとされています。

この歩積両建(ぶづみりょうだて)という言葉を聞いたことがない方もいらっしゃるでしょう。

これは簡単に言えば、貸出金の一部を銀行に定期預金として預けることを条件としている融資です。

例えば、100万円を融資し、半分の50万円を定期預金として受け入れる取引を行ったとします。

お客様は本来は50万円しか必要としていないのに100万円の借入を行うことになります。銀行に入ってくる利息は本来の額の2倍ということになります。そして不必要な額の融資となっているとしても、実際には50万円が銀行に預けられているので、この50万円分は何かあれば、貸出金と相殺等の対応ができます。実質的に担保を取っている効果となり、さらに銀行はこの定期預金の資金を使って、他の運用まで可能なのです。

このような歩積両建取引を、現在でも行っている銀行は少なくなっているものと筆者は思っておりました。

金融庁が監督指針で過度な歩積両建取引を禁じていたこと、低金利環境下において預金を受け入れるインセンティブが銀行側に低下したこと、貸出競争が激化する中で歩積両建の取引を受け入れる債務者が減少していること等がその理由です。

しかし、どうやら認識は改めなければならないようです。

 

この事象は他人事か

この行政処分をご覧になって、読者の方はどのようにお感じになったでしょうか。

銀行員にとっては他人事ではないと思った方が多いのではないかと思います。近い事象を見たことがある人もいらっしゃるでしょう。

銀行の営業現場は目標(ノルマ)に追われています。

融資案件の発掘は喉から手が出るほど欲しい支店長・担当は大勢いるでしょう。支店の営業エリアに会社を立ち上げてもらうことぐらいは、何ら問題とならないレベルでしょう。そして、問題がありそうな融資をしたところで、貸出が焦げ付くまでは、うまくやっていけるのです。

行内で牽制が効いていないと指摘されていますが、どの銀行でも、バック・ミドル(間接部門・事務部門)をフロント(営業)に移してきました。そして特に収益が苦しい時は「稼ぐ部署・稼ぐ人」に権力が集まるのは当然のことです。 

そもそも銀行の営業現場の目標はどのように決まるのでしょうか。

筆者が把握している限りは、どの銀行もあまり変わりはありません。

目標・数字は「上から降ってくる」のです。

前年の実績に基づき目標は策定されます。

しかし、各支店の取引先数・規模・業界動向等の基礎的な情報を勘案して目標を策定している銀行がどれだけあるでしょうか。

そして、銀行では右肩下がりの目標は基本的に許されません。どのような経済環境だろうと成長を求められるのです。(ただし、これは一般企業も同様でしょう)

どのような事象があろうと、基本的には営業現場の実情を無視した目標・数字が経営トップから下りてきます。その目標を達成できる銀行員が出世していくのです。

この東日本銀行の事象は、外部の人から見れば「あり得ない」と思われるでしょう。

しかし、銀行内部から見たらどうでしょうか。

むしろ「他人事ではない」と感じるのではないでしょうか。

銀行が「顧客本位の業務運営」を行うのは非常に難しいのです。

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