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そろそろ地銀のビジネスモデルは限界では~金融庁の地銀モニタリング結果~

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2018年7月に金融庁が地域銀行(地銀等)へのモニタリング結果のまとめを発表しました。

地銀が目先の収益確を優先し持続可能性に課題を抱える等のかなり厳しい内容となっています。

今回は、このモニタリング結果について確認していきましょう。

 

報道内容

金融庁では、平成29事務年度金融行政方針において、持続可能なビジネスモデルの構築に向けて地域銀行に対し、継続的なモニタリングを実施するとしています。

また、金融庁の検査・監督基本方針案へのパブリックコメントを募集した結果にはモニタリングを通じ把握された課題等について公表してほしいとの要望も出されています。

これを踏まえ、金融庁は、平成29事務年度に実施した地域銀行のモニタリングを通じ把握された課題等について、結果を取りまとめ公表しました。

まずは、モニタリング結果の概要を把握するため、以下の記事を引用します。
2018年7月13日 / 17:29 / ロイター

 

地銀の4分の1超、金利50BP上昇でコア業純上回る含み損=金融庁

(中略) 

金融庁は同日、2017事務年度の地銀に対するモニタリング結果も公表した。金融庁は、本業が赤字で将来的に警戒を要する21行に立ち入り検査を実施した。

金融庁によると、目先の収益を優先し、実現可能性のある計画を策定していない地銀が目立ち、貸出先増加目標の達成率が長期にわたって1割未満の達成率にとどまったり、業績目標を達成した営業店が長年全くないなどの事例があった。

長引く低金利下で地銀の収益環境は悪化しているが、金融庁は地銀の財務健全性はまだ維持されているとみている。同庁は、自己資本比率に余裕のある間に持続可能なビジネスモデルを構築するよう改めて求めた。

では、金融庁が発表したモニタリング結果内容について詳細に以下で見ていくことにしましょう。

 

モニタリング結果詳細

以下は金融庁の発表資料を抜粋しながら、モニタリングで明らかとなった地銀の課題について確認していきます。

 

<平成29 事務年度 地域銀行モニタリング結果とりまとめ>

Ⅱ.モニタリングで明らかとなった課題

1.経営戦略・計画とリスクテイク
モニタリングを実施した先においては、中長期的な視点を持たず、中長期の採算性を度外視した低金利貸出を拡大している先や、目先の期間収益を確保するため、利回りの高い貸出債権を売却し、将来収益を喪失している先も存在している。
また、自らの経営実態を正確に把握しないまま、金利の緩やかな上昇や営業基盤の拡大など経営環境の好転を期待し、将来起こりうる課題を直視せずに実現可能性に乏しい経営計画や収益計画を策定している先や、計画が大幅未達となっているにもかかわらず、その要因分析や対応策の策定を怠っている先が存在している。その結果、業績の低下が継続し、将来的な収益の維持・回復の見込みに懸念が生じたことで、繰延税金資産の取崩しや減損処理など損失の発生につながっている先も存在している。
このほか、経営理念に即したリスクテイク領域を定めることなく、リスクテイクが経営体力(自己資本・収益力、以下同じ)やリスクコントロール能力(運営態勢・リスク管理態勢、以下同じ)と比較して過大と考えられる先が少なからず存在している。そうした先は、コア業務純益が大幅に低下する中であっても、本質的な議論を行わないまま、中期経営計画や年度業務計画に掲げた当期純利益、配当額、配当性向を維持するためのリスクテイクを行おうとする傾向がある。

(1)中長期的な採算性
【目先の目標達成のため中長期的な採算性を度外視している事例】

「お願い営業」や散発的なキャンペーンを繰り返すことで、中長期の採算性を度外視した目先のボリューム拡大を志向し続け、事業性評価に基づく取引先支援など、中長期的な視野に基づく施策を講じていない。

近隣大都市の営業推進に傾斜した結果、貸出先数や貸出残高は増加傾向にあるが、貸出金利や地元シェアの低下により、本業利益(顧客向けサービス業務(貸出・手数料ビジネス)の利益 、以下同じ)は長期に亘って赤字、かつ赤字が拡大傾向にある。

不動産賃貸向け貸出において、大規模修繕や空室率を勘案した全返済期間に亘る収支シミュレーションを実施せず、貸出実行初年度の返済財源が返済額を上回っているに過ぎない先向けの貸出を急増させている。

(2)持続的な収益確保
【目先の収益確保のため将来の収益を犠牲にしている事例】

目先の期間収益を確保するため、当初の計画にはなかったにもかかわらず、地元の地公体向け貸出債権を売却する一方、売却により失われる将来の利息収入を補完する具体的な施策はない。

コア業務純益が計画比で大幅に落ち込むことが見込まれたことから、地域への貢献を経営理念に掲げているにもかかわらず、県内向け貸出債権を売却する一方で、リスクが高いものの表面利回りの高い他行の大都市圏向け投資マンションローンの流動化債権を購入している。

(3)経営計画・収益計画の実現可能性
【経営理念に基づく実現可能性ある経営計画・収益計画を策定していない事例】

営業現場の状況を踏まえないまま、経営陣(社外役員を含む、以下同じ)及び本部が企業貸出先の増加目標を設定しており、長期に亘って計画対比1割未満の達成率となっている。

必要な当期純利益から逆算して営業店目標を割り振った結果、目標を達成した営業店が長期に亘って皆無となっている。

新規貸出金利が継続して低下傾向にある中、計画上では直近の金利をその後の中期経営計画の全期間に亘る新規貸出金利として適用しているため、貸出金利息の計画と実績が大幅に乖離している。

取締役会等において、過去実績を踏まえた将来収益計画の妥当性について議論をしておらず、繰延税金資産の計上に関し、楽観的な見積りが継続している。

(4)計画未達に対する分析・対応策
【計画未達にもかかわらず要因分析や対応策を検討・実行していない事例】

貸出金利息収入や役務収益が計画対比で大幅に乖離していること等について原因分析・検証をしていない。

目標の達成状況について、担当部署ごとに「○△×」で区分するにとどまり、目標未達となった原因について分析・検討をしておらず、業績改善に向けた具体策を講じていない。

地元地域の事業所数が減少する中、具体的な対応策を検討・実行していないため、貸出先数及び貸出残高は減少の一途を辿っている。

 

以上が金融庁のモニタリング結果の抜粋です。

 

所見

上記に掲載されていた事例は、銀行員なら思い当たる事例ではないでしょうか。

今回は地銀21行に立ち入り検査をしています。恐らく立ち入り検査を行った地銀は本業が厳しい状況にあるところでしょう。

よって、一部の地銀の問題だとお感じになる方もいらっしゃるかもしれませんが、「お願い営業」「散発的なキャンペーン」「とりあえず貸出が出来ればよい」「大都市での貸し出しによってボリューム確保」等は思い当たる事例がどの銀行においてもあるのではないでしょうか。

目標は「上から降ってくるモノ」ですから、目標達成できないのは当たり前、それをマーケット部門が国債等の有価証券売却で埋めてきた歴史をご存知の方もいらしゃるでしょう。

筆者は様々な銀行のIR資料に目を通していますが、現況を打開するような明確な経営戦略を描いている、もしくは打開の意思を示している銀行はわずかです。

金融庁が指摘しているように、特に地銀は財務内容が健全な今のうちに、ビジネスモデルを見直さなければなりません。このビジネスモデル、経営戦略を見直すのは経営陣および本部の役割です。

今までのように、経営陣が現場に数字と責任だけ押し付けていても抜本的には変われません。

現場で「うまくやろう」としてきて、違う方向に突き抜けてしまった(一線を超えてしまった)のがスルガ銀行であり、東日本銀行なのではないでしょうか。今回の金融庁のモニタリング結果は他の銀行にとっては他山の石であり他人事ではないのです。

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