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銀行にカードローンを取り扱う資格はあるのか~実態調査結果~

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銀行カードローンについては、近年の残高増加から、過剰な貸付けが行われているのではないか等の批判・指摘があり、各銀行では、自主的な業務運営の見直しを検討・実施してきています。

こうした中、金融庁は、銀行における融資審査の厳格化・業務運営の適正化を推進すべく、銀行カードローンを取り扱う全銀行(108行)に対して、業務運営の実態調査を行い、公表しました。

今回は、この金融庁の実態調査について内容を確認するとともに、銀行のカードローンについて考察していきましょう。

 

実態調査の背景

まず、なぜ銀行カードローンの実態調査が

行われたのか、その背景について確認しておきましょう。

以下、金融庁の資料から引用・抜粋します。

  • 貸金業法改正による規制の強化等により、2006年以降、貸金業者による消費者向け貸付残高は大幅に減少。一方、銀行カードローンは、近年残高が増加し、過剰な貸付けが行われているのではないかとの批判。
  • 2017年3月、全国銀行協会は「銀行による消費者向け貸付けに係る申し合わせ」を行い、各銀行では、これを踏まえた業務運営の見直しを検討・実施。
  • 金融庁は、銀行カードローンの業務運営の詳細な実態把握を進めるとともに、融資審査の厳格化等、業務運営の適正化をスピード感を持って推進するため、2017年9月以降、残高の多い先を中心とする12行を対象に検査を実施(残高全体の約6割をカバー)。
  • 本年1月26日に検査結果を「中間とりまとめ」として公表。
  • さらに、本年3月、銀行カードローンの取扱いのある銀行のうち、検査実施先以外の全銀行(108行)に対し、調査票を発出し、「申し合わせ」や「中間とりまとめ」を踏まえた本年2月末時点の業務運営の見直し状況を調査。

以上が金融庁の実態調査を行った背景です。

 

実態調査の概要

次に、金融庁の銀行カードローンについての実態調査に関する概要を見ていきましょう。

銀行のカードローンは、貸出時確認、管理、審査体制等、非常にお粗末なものであることが金融庁から報告されています。

以下でポイントを確認します(金融庁実態調査の引用・抜粋です)。

 

【年収債務比率による融資上限枠の設定】

a) 融資上限枠の設定状況
年収債務比率による融資上限枠を設定している銀行は、申し合わせ前は約5割(58 行)にとどまっていたが、申し合わせ後は、約9割(93 行)に増加しており、残る約1割にあたる 13 行のうち7行は今後、設定を予定している。

b) 融資上限枠の適切性
申し合わせに則した形で自行・他行カードローン及び貸金業者貸付を勘案して融資上限枠を設定している銀行は約7割(71 行)となっている。このうち、年収の2分の1を上限に設定している銀行は約8割(59 行)と最も多く、年収の3分の1を上限としている銀行も約1割(9行)あった。これらの中には、顧客の返済能力をより適切に把握する観点から、自行・他行のフリーローン等の無担保貸付残高も含めて勘案している銀行も見られた。
一方、融資上限枠を設定していない銀行が約1割(13 行)あるほか、申し合わせに則した形で借入額を勘案していない銀行も2割弱(17 行)存在している。

≪今後の課題≫
融資上限枠を設定していない銀行のほか、融資上限枠を設定していても、他行カードローンを勘案していない銀行、貸金業者貸付を勘案していない銀行、他行カードローン及び貸金業者貸付のいずれも勘案していない銀行も、未だ存在している。

 

【保証会社の審査への過度な依存】

a) 代弁率の推移等の情報の活用
代弁率の推移等の情報について、申し合わせ前は、保証料改定に活用するにとどまる銀行が多かったが、申し合わせ後は、①年収や借入額との相関関係を分析する銀行(申し合わせ前:27 行→申し合わせ後:62 行)や、②保証審査方針や審査モデルの見直しを協議する銀行(申し合わせ前:30 行→申し合わせ後:52 行)、③代弁事由等を分析し、入口審査・途上管理に活用する銀行(申し合わせ前:13 行→申し合わせ後:20 行)が増加するなど、保証会社による代弁状況を分析し、審査の高度化に活用する動きが見られる。他方で、保証会社から入手した情報について「活用できていない」銀行も、「検討中、検討予定」の銀行を含めて約4割(40 行)存在する。

b) 保証会社の審査への関与
銀行カードローンの融資審査において、多くの銀行では、反社会的勢力の該当性等の顧客属性の確認のほか、年収証明書の取得等による収入状況の確認、給与振込等の銀行取引状況の確認などにより自行審査を行っているが、銀行自ら審査モデル(スコアリングモデル)を構築して与信審査を行っている銀行は、申し合わせ後においても全体の1割強(18 行)に過ぎない。
したがって、大多数の銀行は、保証会社のスコアリング審査に依拠することとなるが、これらの銀行においても、申し合わせ以降、保証会社に対して、審査基準の追加を要請すること(46 行)などにより、保証会社審査への関与を強める動きが見られる。他方で、2割弱の銀行(19 行)では、引き続き、保証会社の審査に「特段の関与無し」と回答している。

≪今後の課題≫
申し合わせ以降、多くの銀行が保証会社とのコミュニケーションを増やし、代弁率の推移等の分析や審査基準の追加等により保証会社審査への関与を強めているが、保証会社から入手した情報を十分に活用できていない銀行や、保証会社の審査に主体的に関与していない銀行も一定程度見られる。

【融資実行後の定期的な顧客の状況変化の把握(途上管理) 】
a)年収証明書の再取得の状況
融資実行後、顧客の返済能力の変化を把握するために、年収証明書を定期的に取得している銀行はなく、顧客からの勤務先変更の申出時等に不定期に取得している銀行(4行)や、給与振込口座情報により年収を推計している銀行(4行)が一部に見られる程度となっている。顧客の収入状況の把握のための具体的な方法を検討中としている銀行も2割程度(26 行)にとどまる。

≪今後の課題≫
多重債務の発生抑制の観点からは、融資実行時のみならず、途上管理において、顧客の返済能力の変化を適時適切に把握することが重要であるが、ほぼ全ての銀行において、こうした途上管理態勢の構築は不十分となっている。

 

【業績評価体系】
営業店担当者に対して、数値目標等を設定している銀行は、申し合わせ後、全体の約1割(申し合わせ前:19 行→申し合わせ後:9行)まで減少しており、このうち、当該数値目標の廃止を予定している銀行(2行)や業績評価に係る配点の引下げを予定している銀行(1行)がある等、数値目標による業績評価を見直す動きも見られる。

≪今後の課題≫
営業店担当者に銀行カードローン契約の数値目標を課すことは、ノルマ達成に向けて顧客のニーズに合致しない過度な営業推進に繋がる可能性が高い。このため、こうした数値目標を設定している銀行は業績評価制度を見直す必要があり、必要な改善を促していく。

 

【おまとめローン】 
「おまとめローン」等の商品名で提供している他の貸金業者や他行カードローンの一括借換え融資については、約5割(56 行)の銀行で取扱いがあるが、融資実行の際に他社・他行への返済状況の確認等を実施している銀行は、このうちの約7割(44 行)にとどまる。
≪今後の課題≫
貸金業法における多重債務の発生抑制の趣旨や利用者保護等の観点を踏まえた融資審査態勢の構築は、銀行カードローンだけではなく、フリーローンをはじめとする銀行のその他の消費者向け無担保貸付においても、同様に重要である。
また、おまとめローンについては、融資実行のタイミングで仮に他社・他行からの借入の返済がなされていない場合には、顧客に対する過剰貸付に繋がりかねない。
このため、おまとめローンの提供にあたっては、他社・他行への返済確認を厳格に行う必要がある。

以上が金融庁の実態調査からの抜粋でした。

(元の公表資料は以下の金融庁サイトにあります。 https://www.fsa.go.jp/news/30/ginkou/20180822.html)

 

所見

金融庁の実態調査を確認すると、銀行のカードローン等は以下のことが言えるのではないでしょうか。

  • 全国銀行協会の申し合わせ(自主規制のようなもの)以前、融資上限額を半数の銀行が設定せず
  • 保証会社が保証をするため、自分たちでの審査基準を作らない運営が横行
  • 全国銀行協会の申し合わせ(自主規制のようなもの)以前は、貸付後に定期的に借入人の年収を確認せず
  • 「おまとめローン」を提供している銀行の約3割が他行への返済を確認せず

このような事実はどのように解釈したら良いのでしょうか。

金融庁の実態調査から見えてくるのは、「一部の銀行にはカードローン等個人向け無担保ローンを取り扱う資格はない」ということてす。

そもそも銀行のカードローンが増加してきた背景には消費者金融よりも銀行を優遇する施策がありました(銀行の方が借入人保護が図られると考えられたため)。しかし、優遇されてきた銀行は、結局のところ、ほとんど何もせずに消費者金融から保証を受けているだけだったということなのです。

また、銀行は独自の情報(給与振込口座情報等)をほとんど活用していません。これでは、消費者金融と何が変わるのでしょうか。

見方を変えれば、銀行のカードローンのような分野には他業態(もしくは一部の銀行)からの新規参入のチャンスがあるとも考えられます。

現在の銀行のカードローンは、個人の信用力を正しく評価出来ていない可能性が高いのです(年収の変化を追っていない等)。カードローンは、借入人全体の金利を「高く」設定することによって利益を確保している商品と言えます。信用力のある借入人でも、信用力の劣る借入人が本来払うべき金利(リスク)を代わりに払っているとも言える訳です。

裏を返せば、新規参入者が個人の信用力を的確に把握出来るならば、信用力の高い借入人に対しては、銀行のカードローンの金利水準に十分対抗出来る商品が作れるはずです。

誤解を恐れずに言えば、「誰にでも出来る」銀行のカードローンは、将来的にはフィンテック企業等他社の商品で代替されていく可能性があるのではないでしょうか。

日本で外資系保険会社がリスク細分型自動車保険を発売しシェアを拡大したようなことが、銀行のカードローン分野でも起こり得るのです。