銀行員のための教科書

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金融庁からの警告~地銀の有価証券運用とガバナンス~

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金融庁では、「行政の透明性の向上を図るとともに、金融庁の問題意識を適時に発信する観点を踏まえ、業界団体との意見交換会において金融庁が提起した主な論点を公表すること」としています。

今回取り上げるのは、2013年5月に開催された全国地方銀行協会・第二地方銀行協会との意見交換会において金融庁が提起した主な論点についてです。

当該論点は、金融庁の問題意識が強く表現されています。

この論点は今後の地方銀行(地銀)の業務運営に大きな影響を与えるものと思われますので確認していきましょう。

 

有価証券運用

まずは、金融庁が一つ目の論点として挙げている有価証券運用です。

重要なポイントなので文章が長いですが引用します。

 

有価証券運用について

○当庁においては、これまで有価証券のリスク·エクスポージャーが大きい金融機関を中心に、必要に応じて検査も活用しながらモニタリングを実施してきたところ。その結果として、多くの金融機関で見られた、特に留意してもらいたい点について、2点申し上げる。

(1)経営体力に見合ったリスクテイク

地域銀行においては、目先の収益確保のため、経営体力に比べて過大なリスクテイクをしている先が多数確認されている。典型的には、中期経営計画に掲げた配当額、配当性向を達成するため、本業利益で賄えない分を、有価証券運用益で補う業務計画や有価証券含み損を先送りする業務計画を策定する先が少
なからず確認されている。

この傾向は、本業利益が不振な地域銀行で顕著であるが、市場環境が想定に反する方向に動く場合には、経営体力が著しく毀損され、将来に亘って健全性が維持されなくなる可能性が一段と高まることになる。

○したがって、まずもって取締役会において、将来に亘り健全性を維持することを念頭に、有価証券運用に過度に依存しないビジネスモデルを構築する必要がある。その上で、経営理念に則したリスクテイク領域と、経営体力に則したリスクテイク上限を明確に定め、その範囲内で有価証券運用を実施する必要がある。
加えて、リスクテイクに見合ったリスク管理態勢を構築することが重要であり、組織・体制のあり方や人材育成等を含めて検討してもらいたい。

(2)含み損の適切な処理

本業利益を巡る環境が一段と厳しくなる中、前述のとおり、目先の財務上の期間収益確保のため、有価証券含み損の処理を先送りしている事例が多数確認されている。

○有価証券運用において、含み損を内包すれば、収益性の低い運用資金の固定化、将来の期間収益減少、運用の自由度低下といった運用効率の悪化を招くうえ、リスクテイク力も低下するなど、ポートフォリオの健全性が損なわれる。
また、イールドカーブの形状次第では、含み損を内包する有価証券の運用利回り自体が逆鞘となる可能性もある。

○この傾向は、本業利益が不振な地域銀行で顕著であるが、市場環境が想定に反する方向に動く場合には、経営体力が著しく毀損され、将来に亘って健全性が維持されなくなる可能性が一段と高まることになる。

もとより含み損の処理をはじめとする個別の有価証券運用は経営判断に属する事項である。また、市場環境の先行き予測は困難であるし、市場環境や相場観によっては含み損の処理を先送りすることが適切な場合があり得ると考えられる。

○しかし、その場合においても、含み損については、健全性維持のため必要と考える自己資本額が当該含み損控除後でも確保できる水準にとどめることはもとより、年間コア業務純益など期間収益で対応できる範囲内にもとどめることが望ましい。

○各行の経営陣においては、これまで述べた点を踏まえつつ、取締役会において、社外取締役も含めて十分に議論を行ったうえで、経営判断をしてもらいたい。


以上が、金融庁が地銀に対して伝えた有価証券運用の論点です。

 

ガバナンス

今回は、更に金融庁からガバナンスについての論点も挙げられています。

こちらも引用します。

 

ガバナンスの発揮について

○有価証券運用における取締役会の役割について述べたが、地域銀行の取締役会の機能発揮については、現状いくつか問題点が見受けられる。

○まず、そもそも、取締役会で議論が行われていない。その理由は様々であるが、社内役員の間で事前の根回しが過度に行われた結果、社外取締役がそれについて意見することを遠慮してしまい、取締役会が議論をする場ではなく、単に滞りなく決議を行う場になっている状況が見られる。また、社内役員自身に経営者としての俯瞰的な視点がなく、自らが担当する部門についてしか発言しない、他の部門については意見しない、といった「蛸壺的な」状況も見られた。

○加えて、社外取締役の知見や客観的な視点を活用できていない。社外取締役に対し期待する役割が明確になっていない上、会議資料以外に事前に議案の背景・経緯について説明するといったサポートも行われていない状況が見られた。
こうした状況下では、社外取締役が金融機関の現状を適切に理解し、課題解決に向けた有益な提言を行っていくことは難しいのではないか。
なお、当庁は、取締役会によるガバナンスの発揮状況を把握するため、毎年部の主要行の社外取締役の方々と意見交換を行っている。主要行の社外取締役は、各種委員会へ出席するなど、社外取締役としての業務に相当の時間を割きながら、自身の知見を活かし、金融機関を良くしようと献身的に取り組んで
いる傾向がある。

○そうした方々との意見交換で感じた点を参考までに申し上げると、1つ目は経営陣に危機感があっても現場まで浸透しておらず、結果として、構造改革が進んでいないのではないか、という意見があった。また、事業会社の経営陣と比較して銀行業は特殊という印象を持たれ、収益環境が厳しい中でも危機感が
感じられない状況に驚いているという意見もあった。
○ 2つ目は、社外取締役の中には、細かい点も含め、相当程度勉強した上で取締役会で発言を行っている方もおり、そうした方からは、事前説明では詳細で本音の議論ができても、取締役会での議論は形式的に感じられる、もっと担当役員からの率直な意見を期待しているといった意見があった。

○最後に、社外取締役による牽制機能を発揮させるための工夫が各社に見られるということである。例えば、取締役会とは別に社外取締役のみの会議を開催し、認識の共有や議論を行い、執行側に意見等を伝えるなど、社外取締役の意見を経営の執行に繋げるための取組みがみられた。
(以下略)

 

所見

金融庁は再三、地銀の有価証券運用について警鐘を鳴らしてきました。

筆者も第一地銀、第二地銀の2018年3月期決算分析を行いましたが、本業である貸出業務の不振を有価証券運用(これには国債での運用のみならず、外国債券・投資信託での運用を含みます)で補おうとする動きは随所に見られます。

そして、この有価証券運用によって「決算を作ろう」とする動きは、本業が厳しい地銀の方が傾向として強く出ている割合が高いと認識しています。

金融庁が有価証券運用に過度に依存しないビジネスモデルの構築を求めていることは正論です。そして、2018年3月期の決算を見る限り、地銀において、相場が既存投資と逆方向に動いた場合の影響を管理・コントロールできているのかについて金融庁が疑念を持つのも最もだと思います。

今回の金融庁が改めて指摘しているのは、目先の利益確保のために有価証券含み損の処理を先送りしている事例が「多数」確認されているということです。

すなわち、地銀の決算を分析するには期間損益のみならず、有価証券の含み損益を分析することが非常に重要ということになります。

特に地銀株式に投資している投資家がいるならば、この点については留意すべきでしょう。

また、今回はガバナンスについても金融庁は指摘しています。

単純に言えば、地銀の取締役会、もしは個々の取締役は果たすべき役割を果たしていないという指摘です。

各銀行によって取締役会の位置付けは異なるとは思います。経営会議、執行役員会議等で本質的な議論をしている銀行もあるでしょう。
しかし、社外取締役も含めガバナンスを図っていくという流れの中では、取締役会の位置付けは重要なのです。

この指摘・流れは変わらないものと思います。

最後に、一部の主要行(あくまで地銀ではないものと思います)の社外取締役の認識として紹介されている意見は重いものです。

1つ目は、経営陣に危機感があっても現場まで浸透しておらず、結果として、構造改革が進んでいないのではないか、という意見があった。また、事業会社の経営陣と比較して銀行業は特殊という印象を持たれ、収益環境が厳しい中でも危機感が感じられない状況に驚いているという意見もあった。

この意見は金融庁にも影響を与えていることでしょう。あえて公表資料に記載されているぐらいです。

この点については、地銀は重く受け止め、認識を新たにする必要があるものと思います。

 

(関連記事として第一地銀および第二地銀の018年3月期決算のまとめ記事を書いています。ご参照下さい。)