銀行員のための教科書

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金融庁から地銀への主な要請は金利上昇とマネロン対策

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2018年4月に金融庁が「業界団体との意見交換会において金融庁が提起した主な論点」を公表しました。

この中には地方銀行(地銀)への要請事項が含まれています。

今後、金融庁がどのように地銀を監督していくかの問題意識が表れており、地銀の業務にも影響がでるものと思われます。

今回はこの意見交換会の内容について確認します。

意見交換会の概要

金融庁は2018年4月3日に「業界団体との意見交換会において金融庁が提起した主な論点」を公表しました。

業界団体との意見交換会において金融庁が提起した主な論点:金融庁

この中で、全国地方銀行協会/第二地方銀行協会との意見交換会の主な内容が掲載されています。

金融庁が議題としたのは、「米金利上昇への対応」「マネー・ローンダリング及びテロ資金供与対策」「金融業界横断的なサイバーセキュリティ演習」「銀行本体及び銀行子会社等が行う人材紹介業務」「東日本大震災事業者再生支援機構の活用」「株式会社地域経済活性化支援機構法の一部改正の6点でした。

今回の記事では、この議題のうち、地銀経営・業務に大きく関係する「米金利上昇への対応」「マネー・ローンダリング及びテロ資金供与対策」について注目することにします。

米金利上昇への対応

米金利上昇についてはFRBが利上げを行っており、これからも続くものと思われます。

一方で日本はマイナス金利政策が続いてるため、特に地銀は運用に苦戦しています。

米国は金融引き締め、日本は金融緩和が続いている間は理論的には円安傾向になること、米国の債券の方が利回りが高いこと等を踏まえて、地銀は外債投資(特に米国債)を積極化してきました。

金融庁は地銀の外債投資がリスク管理面等で問題があると考えており、警鐘をならしています。

そのような中で、以下の通りの内容が公表されました。

金融庁の問題意識を正確に認識するために、以下原文を引用します。

米金利上昇への対応について

○ 金融行政方針に掲げている通り、当庁としては、地域金融機関の有価証券運用態勢について、予期せぬ経済・市場環境の変化に対しても、その健全性を維持できるよう、リスクテイクに見合った運用・リスク管理態勢の構築に向けた対話を行うこととしている。
○ 米長期金利が米大統領就任直後を上回る水準まで上昇していることを踏まえ、当庁は今般、自己資本対比の外貨金利リスク量が高い地域銀行に対し、米金利上昇への対応についてのヒアリングを実施した。
○ 先(一昨年の米大統領就任直後)の金利上昇局面においては、一部の銀行において、目先の期間収益を重視して多大なリスクを取る一方で、含み損に対する対応が検討されていない例が見られた。このため、当庁としては、立入検査の手法も組み合わせたモニタリングを行い、運用・リスク管理態勢の改善を促した。
○ 今般の米長期金利上昇を受けた、外国債券や外債投信に係る評価損の規模は、各地域銀行によって区々であるが、中には、今期(30 年3月期)のコア業務純益予想額に匹敵する水準まで評価損が拡大している銀行も見受けられた。当庁が一年前に指摘したような、経営体力やリスク管理態勢に比べて過大なリスクテイクを行っている例や、含み損に対する対応が十分に検討されていない例があるとすれば、問題であると考えている。
○ ついては、そのような認識の下、当庁としては、深度あるモニタリングが必要と思われる地域銀行に対して、今後、報告を求める等の対応により、実態把握と対話を行っていく。具体的には、外貨金利リスク商品の評価損に対する認識や、損失限度額の管理態勢の実効性、市場見通しと運用方針の見直しの状況について、対話を行っていく。

以上が金融庁の発表した内容です。

地銀の中には、通期見通しのコア業務純益(一般企業の営業利益)程度まで含み損が拡大している先があるという点が一つのポイントです。

債券は金利が上昇すると「価格が下落」します。

既存の流通している債券(国債等)の金利が年1%(固定)だとして、長期金利が5%になったとすると、流通する債券の元本価格が下落しなければ(元本が小さくなれば利息額は変わらないので利回りは上昇します)、新しく発行される債券に比べて誰も見向きもしなくなります。

例えば、購入価格100円、固定金利1%の債券は1年後に101円になります。

一方で、金利が5%に上昇すると、購入価格100円の債券は1年後に105円の価値があることになります。

どちらの債券も値段(購入価格)が変わらないならば、投資家は当然に金利5%の債券に魅力を感じます。

そのため、既存で流通している金利1%の債券も5%の金利になるように元本(購入価格)が下落するのです。元本96円の債券は1年後には100.8円になります(=96×105%)。

このように、金利が5%となった場合は、既存の債券は相応に下落しなければ誰も買ってくれなくなるのです。

地銀にも同様の事象が起きており、金利が上昇する前に購入していた債券の価値が金利上昇により下落している事例があるのです。

この債券の下落損失は、誤解を恐れずにいえば、すぐに決算(損益)に反映しなくても良い場合もあるため、含み損という形になります。

この含み損が本業における年度の利益レベルまで拡大しているということなのです。

損失が表面化した場合には、もちろん利益は確保できません。赤字に転落する可能性もあるでしょう。

よって、地銀の経営を監督する金融庁としては看過できないということなのです。

今までも金融庁は地銀の外債投資を問題視していましたが、今後は更に管理体制の検査を強化していくものと思われます。

こうなると、一部の地銀は運用部門に人員を確保出来ないため、実質的に外債運用が出来なくなる可能性もあるでしょう。

マネー・ローンダリング及びテロ資金供与対策について

マネー・ローンダリングおよびテロ資金供与も金融庁の公表資料を引用します。

こちらは問題事例が具体的に挙げられています。 

○ マネロン・テロ資金供与対策については、30 年1月の意見交換会において「『ガイドライン』(案)に照らし問題のある個別事例が見られる」旨発言したが、当該問題事例に関して、現時点での問題認識は下記のとおりである。
○ 詳細は、まだ調査・確認中だが、当該事例では、
・複数回にわたり、
・顧客が、窓口に持参した現金を既存の顧客口座に入金し、
・海外口座に送金を実施
しているが、「ガイドライン」の趣旨に照らし、大きく次に述べる4点の問題が認められ、マネロン等のリスク管理態勢の機能発揮状況に重大な懸念を持たざるを得ないものと考えている。
【問題点①】
窓口に多額の現金を持参し、これまで個人の生活口座として使われてきた口座にそれを入金した上で、貸付金の名目で、海外の法人に対してその全額を送金するといった、これまでに例のない不自然な取引形態であった。
にもかかわらず、犯収法・外為法で規定された最低限の確認に止まり、疑わしい取引にあたるかどうかの判断のために必要と思われる、送金目的の合理性の確認や送金先企業の企業実態・代表者等の属性についての調査、その結果を踏まえた検討など、取引の危険性に応じた検証を行わないまま、複数回続いた高額送金を漫然と看過した。
法令上確認が必要な事項に係るエビデンスさえ揃っていれば、問題なしとし、実際の取引のリスクに見合った低減措置が講じられておらず、またそのような適切な措置を講じるためのリスクベースでの管理態勢(画一的・形式的なチェック態勢ではなく、顧客の取引のリスクを評価した上でリスクの程度に応じた措置を講じる態勢)が構築されていない。
【問題点②】
海外送金責任者に速やかに情報が上がらず、第2線の管理部門にも情報伝達が行われていない。
【問題点③】
外部からの指摘を受けるまで、問題意識を持たず、再発防止策や態勢見直し等の対応を行っていない。
【問題点④】
海外の送金先口座からの資金の移動状況を、送金先銀行に確認する等の情報収集を行っていない。
マネロン・テロ資金供与対策は、低いレベルの金融機関が1つでも存在すると、金融システム全体に影響し、日本全体のマネロン・テロ資金供与対策が脆弱であるとの批判を招くおそれがある。
○ 「ガイドライン」については、2月6日、確定版とパブリックコメントの概要を公表するとともに、それに伴う監督指針の改正も行ったところ。各行においては、これらの内容を確認し、対応が求められる事項と自らの現状とを比較し、前向きにマネロン・テロ資金供与対策の高度化のために、自らが何を行うことができるか検討してほしい。
○ 当局としても、必要に応じ、検査も含めた深度あるモニタリングを行い、金融機関の的確な対応を促していきたい。また、金融機関に具体的な対応の目線を示すべく、例えば、具体事例の提供を更に進めるなど、協会とともに検討・対応を深めていきたい。

このマネロンおよびテロ資金供与対策は国の威信もかかっていますので、金融庁としては何としても体制整備をしたいところでしょう。

また、マネロンおよびテロ資金供与対策は一歩間違えば、銀行に巨額の制裁が課されます。

世界の銀行がマネー・ローンダリングや市場操作といった行為で法令に抵触し、2008年の金融危機以降に支払った罰金や制裁金などは総額3210億ドル(35兆円弱)に上るとされています(ボストンコンサルティンググループが集計)。
世界の銀行:罰金など法令違反の支払い、約37兆円に-08年の危機後 - Bloomberg

過去の事例では、BNPパリバへの罰金は89億ドル、HSBCが19億ドルの制裁金、三菱UFJの和解金は6億ドル等、特に米国では巨額の制裁を課されます。

マネロンおよびテロ資金供与対策は、銀行の存続のためにも不可欠なのです。

この点についても、金融庁は地銀への関与を強めることは間違いありません。

まとめ

以上の米金利上昇およびマネロンおよびテロ資金供与対策が地銀にとっては厳しい指導を「お上」から受けることになります。

地銀の経営は厳しさが続いていますが、この対応はせざるを得ません。

地銀にとってみれば、儲けようとしても金融庁にブレーキをかけられ、さらに一円にもならない守りに力を入れろと言われているわけですから、踏んだり蹴ったりなのです。

銀行業界にとっては踏ん張りどころが続くのです。