銀行員のための教科書

これからの時代に必要な金融知識と考え方を。

2020年3月期の主要行および地域銀行の決算結果

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2020年3月期は一般企業にとってのみならず、銀行にとっても様々なことがあった決算期でした。

まさか最後にコロナウィルス感染症拡大の問題が起きるとは誰も想像していなかったでしょう。

2020年3月期の決算では、多くの企業がコロナの影響を受けました。もちろん銀行も影響を受けています。コロナの影響は2020年3月期の中ではわずかな期間に限定されており、本格的な影響は2021年3月期決算に反映されることになるでしょう。

今回は2020年3月期の銀行決算が全体としてどのようだったのかについて、簡単に確認しておきたいと思います。

 

主要行等決算

まずは主要行等の決算について確認しましょう。

この主要行等という定義は金融庁のもので、以下通りです。

  • グループ連結ベースは、みずほFG、三菱UFJFG、三井住友FG、三井住友トラストHD(以上、国際統一基準行)、りそなHD、 新生銀行、あおぞら銀行(以上、国内基準行)を対象とする。
  • 銀行単体ベースは、みずほ銀行、三菱UFJ銀行、三井住友銀行、りそな銀行、三菱UFJ信託銀行、みずほ信託銀行、 三井住友信託銀行、新生銀行、あおぞら銀行を対象とする。

この7銀行グループを主要行等と金融庁は呼んでいます。

主要行等の2020年3月期決算は以下の通りです。

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(出所 金融庁Webサイト)

2020年3月期は、国内の低金利環境の継続が資金利益の下押し要因となったことに加え、引当金の増加により与信関係費用が増加したこと等により、当期純利益は前年に比べ▲3.0%の減少となっています。

 しかし、この▲3.0%の当期純利益の減益は、報道されている「銀行の業績が苦境にある」というイメージとはかけ離れていないでしょうか。

はっきり言って、減益幅は誤差の範囲内と言えるレベルです。

そもそも連結業務純益(一般企業でいうところの営業利益に該当)は主要行等では約3,000億円「増加」しています。コロナの影響があった決算期であるにもかかわらず本業の利益は増益なのです。

但し、与信関係費用、すなわち不良債権処理費用(その備えを含む)が前期比で5,000億円超増加しています。この点ではコロナの影響を受けていますが、その多くは銀行の裁量による予備的な引当でしょう(2020年3月期では企業の倒産は急増していません)。

銀行が進めている株式持合解消の売却益が2,000億円超のプラスとなったこともあり、銀行の決算は▲3.0%の当期純利益の減益で着地しました。

筆者が2020年3月期の主要行等決算をまとめると以下のようなものになります。 

  • 銀行が本業(上記図でいけば資金利益)で苦戦する構図は変わらない
  • 2020年3月期の決算が良い数字となったのは債券等関係損益が8,000億円も増益となったため
  • 債券等関係損益の増益要因は、コロナ発生による世界各国の中央銀行の金融緩和施策で債券価格が上昇(金利は低下)したため
  • 主要行等は、まず、コロナの問題が起き、来期(2021年3月期)の業績急変を避ける必要が出てきた
  • そして、不良債権処理急増に前もって備えておくために、2020年3月期中の与信関係費用の大幅な増加を計画することとした
  • この損を埋めるには、価格が上昇した米国債を中心とした債券売却がちょうど良かった
  • 結果として、決算を「ほど良い水準」に着地させた

筆者の2020年3月期の主要行等決算の評価は上記の通りです。 

資金利益の低下傾向はまだ止まっていませんので、引き続き厳しい環境は続いているということになるでしょうが、それでも決算数値だけを見ると、報道されている印象よりは健闘した決算(もしくはうまく調整出来た決算)と言えるのでしょう。

 

地域銀行決算

次に地域銀行の2020年3月期決算です。

地域銀行も金融庁の呼び方ですが、2020年3月期の集計対象は103行(地方銀行64行、第二地方銀行38行及び埼玉りそな銀行) が対象となります。

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(出所 金融庁Webサイト)

実質業務純益(いわゆる一般企業の営業利益)は、資金利益の減少はあるものの、経費の減少や債券等関係損益の増加等により、前年同期に比べ、4.3%の増益となりました。

当期純利益は、株式等関係損益の減少や与信関係費用の増加等により、前年同期に比べ、10.2%の減益で着地しています。

やはり地域銀行も本業の利益である資金利益(貸出や有価証券の利息収入等)は減少しています(▲2.8%)。 

債券等関係損益は1,000億円超の増益となっていますが、これも世界各国の中央銀行による金融緩和・債券価格上昇の恩恵を受けたものです。

そして、地域銀行は主要行と異なり経費は減少しています。

本業の利益である実質業務純益の水準は地銀全て(107行)を合算しても、主要7行の半分に満たない水準であることは非常に大きな課題ではありますが、それでも実質業務純益は増益となりました。

地域銀行は業績が厳しく、存続が出来ないのではないかと言われていますが、決算だけを見ると実質業務純益ベースで「増益基調」を保っています。

 

所見

以上が主要行と地域銀行の2020年3月期決算の状況です。

筆者が最も留意すべきだと考えているのは、コロナの影響があるにもかかわらず、地域銀行の与信関係費用=不良債権処理費用がほとんど増加していない点です。主要行等とは明らかに異なる動きです。

一般的には、主要行等の貸出先の方が規模・信用力が高くなり、地域銀行の貸出先の方が規模が小さく、信用力も低い傾向にあります。

恐らく、コロナの影響を主要行は豊富な本部人員が見積り、保守的に決算に反映させたのに対して、地域銀行はそれが難しかったということでしょう。

すなわち、主要行等はある程度コロナの影響に備えて不良債権処理費用を前倒しで計上している一方で、地域銀行はそれが出来ていません。場合によっては2021年3月期に、この差が大きく影響するかもしれません。

地域銀行は、企業の資金繰りを支援すべく、足元では大幅な貸出増加となっています。しかし、損失への備えは限定的です。地域銀行の存在意義がコロナ禍の中では見直された一方で、その見直しが業績の向上に結び付くかは不透明です。

今期も地域銀行の業績には注目したいと思います。