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ゆうちょ銀行の預入限度額撤廃は本当に悪いことなのか

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全国銀行協会(全銀協)の会長就任会見で、全銀協としてはゆうちょ銀行の預入限度額の撤廃議論について明確に反対と語ったと報道されています。

銀行業界にとってゆうちょ銀行の預入限度額撤廃は、明確に反対するほどの問題なのでしょうか。

今回の記事ではゆうちょ銀行の預入限度額撤廃について考察します。

全銀協の動き

全銀協の会長は就任会見で、現在議論されている「一人当たり1,300万円の郵便貯金の預入限度額を撤廃する案」について、完全民営化の道筋が示されておらず、公正な競争の前提条件が確保されていないとして、反対を表明しました。

また、今回の撤廃議論がゆうちょ銀行と地方銀行との連携機運に水をさすとも懸念を表明しました。

このゆうちょ銀行の預入限度額撤廃への銀行業界の反発はどのようなものなのでしょうか。

まずは、全銀協が公表した共同声明から見ていくものとしましょう。

全銀協の声明

全銀協は2018年3月30日に共同声明を発表しました。

この声明は、全銀協のみならず全国地方銀行協会、信託協会、第二地方銀行協会、全国信用金庫協会、全国信用組合中央協会、JAバンク・JFマリンバンクの共同声明として出されています。

ゆうちょ銀行の預入限度額撤廃についての銀行業界としての総意ですので、内容を以下で確認しておきましょう。

<共同声明(抜粋)>
これまでゆうちょ銀行と民間金融機関は、ATMの相互利用やゆうちょ銀行による全銀システムへの接続、特例会員としての全銀協加盟、更にはゆうちょ銀行による民間金融商品の販売や投信運用会社の共同設立、地域活性化ファンドへの共同出資等、様々な連携・協働を進めてきた。これらは、まさにゆうちょ銀行の利便性を高め、ゆうちょ銀行と民間金融機関の相互信頼のもと、共存共栄の実現を通して、地域経済の活性化や国民の安定的な資産形成の促進に貢献しようという取組みである。
完全民営化への道筋が依然として示されていないゆうちょ銀行と民間金融機関の間の公平性を確保する前提として、上記のような様々な取組みが進んでいる。
限度額規制の緩和は、既に厳しい経営環境にある地域金融機関への潜在的な影響、すなわち金融機関の収益環境が悪化し経営が不安定となった場合、地域金融機関からゆうちょ銀行に預金がシフトするという意図せざる結果を招きかねない。仮にそうした事態となれば、民間金融機関は経営を維持できず、両者の協業の枠組みが崩れるのはもちろんのこと、地域経済に与える影響は無視できないものとなる。また、通常貯金を限度額規制の対象外とすることについては、現在の金利環境の下では郵便貯金全体の限度額を撤廃することに等しいほか、通常貯金は法人も利用可能であることから資金シフトを増大させる可能性があり、断じて認められない。
ゆうちょ銀行の更なる利便性向上に向けては、ゆうちょ銀行自身の自助努力に加え、既に述べた取組みの一層の拡充や民間金融機関の代理業を行うなどの連携・協働の機会が考えられる。

以上が共同声明に抜粋です。
この声明のポイントとなる点は以下の通りです。

  • 民間金融機関は様々な形でゆうちょ銀行の利便性を高め、共存共栄のために取り組んできたこと
  • ゆうちょ銀行の完全民営化への道筋が不透明な中では、民間金融機関と公平な競争条件が確保されていないこと
  • このままゆうちょ銀行の預入限度額撤廃がなされれば民間金融機関との相互信頼関係が損なわれ、連携・協働の動きを止めることになること
  • これは地域経済の活性化や国民の安定的な資産形成の促進に大きな影響を与えること
  • 加えて、地域金融機関への経営に大きな影響を与えること
  • ゆうちょ銀行の利便性を向上させるためには、限度額の撤廃以外にも様々なやり方があること

断固反対を銀行業界が表明することは過去からもありました。

しかし、そもそもなぜ「ゆうちょ銀行の預入限度額撤廃」が議論されているのでしょうか。

さらに確認していきましょう。

郵政民営化委員会の議論内容

日本郵政は完全民営化される予定でしたが、現在は政府が過半数を持つ法人です。

その子会社であるゆうちょ銀行も同様に政府傘下にある法人ということができます。

この郵政民営化に関して郵政民営化委員会での議論がなされており、ゆうちょ銀行の預入限度額撤廃が案として出されているのです。

この委員会の議論については公開されており、ゆうちょ銀行の預入限度額撤廃については以下の点が該当部分となります。

文章が長くなりますが、正確な理解のために以下引用します。

 

今後の郵政民営化の推進の在り方に関する郵政民営化委員会の所見(平成27年12月)

(以下ゆうちょ銀行の預入限度額撤廃に関する議論部分の抜粋)

郵政民営化法上、限度額規制の詳細は政令で定めるとし、具体的な金額は、他の金融機関等又は生命保険会社との間の競争関係に及ぼす事情、金融二社の経営状況その他の事情を勘案して定めることとしている。
この規制についても、郵政民営化法の基本的考え方、及び状況の変化に応じ政令で柔軟に定めることとしていることに鑑みれば、業務制限についてと同様、基本的には、郵政民営化の進捗に応じ段階的に緩和していくべきものと考える。その際には、株式上場により、金融二社に市場規律の下での経営の自律性及びより厳しい説明責任が求められることを十分考慮する必要がある。
なお、郵便貯金及び簡易生命保険の機能を引き継ぐ株式会社を政策目的を有する特殊会社としなかった以上、限度額制度についても、国営郵貯・簡保時代とは異なる考え方を採るべきで、国営時代のような行政サービスの範囲を確定する意義を持つ類いのものと位置付けるべきではないことは当然である。

ゆうちょ銀行に対する限度額規制の在り方

ゆうちょ銀行の限度額については、

① 年金、給与等の振込の都度、限度額を超過するケースが発生していること、

② 退職金、相続資金、保険金等の振込先としての預金サービスを提供し難いこと、

③ 投資信託運用等の投資のための資金やその満期・解約金等の一時的受け皿としての預金サービスを提供し難いこと

等、特に、金融機関の店舗が少ない過疎地の高齢者に多大の不便をもたらしており、早急に規制を緩和する必要があるとの意見がある。

他方、限度額規制の緩和は、ゆうちょ銀行の貯金残高を増加させ、経営上のリスクを高める懸念があるため、むしろ規模の縮小を図ることが先決であるとの観点から、規制緩和に慎重な意見がある。

また、過去の事例や暗黙の政府保証の存在を指摘して、他の金融機関等からの資金シフトを懸念する意見もある。

限度額の在り方を議論する場合も、最も重視すべきは利用者利便の視点である。限度額のある預金は、送金決済に制限を設けて、預金者に不便を強いる大きな弱点のあるサービスであり、民間金融機関が提供するサービスとして適切なものとはいえない。 このような状況を放置しておくことは、将来的な顧客基盤の脆弱化につながりかねない。また、限度額が超過するたびに預金者に払い戻しを依頼することにかかる郵便局及びゆうちょ銀行直営店の事務負担の問題も無視できない。

限度額規制を緩和すれば、サービス面の弱点が改善され、こうした問題も起こりにくくなる。

限度額超過が問題となるケースの多くは、一時的な資金の受け皿としての機能に関するものであり、それにより残高が一方的に増加するとは考え難い。無利子の振替貯金から有利子の通常貯金への資金移動につながる可能性はあるが、それは貯金残高の増加をもたらさない。金額階層別預金者数を見ると、例えば900万円を超える預入者は全顧客数の4%程度で、限度額規制の緩和の影響は限定的と考えられる。

他の金融機関等からの資金シフトについても懸念の域を出ず、取り分け今日のような超低金利下においては、その可能性の議論は説得力を感じ難い。

株式上場により市場規律の下で経営を行うこととなり、より厳しい説明責任が求められることを考えると、ゆうちょ銀行がリスクコントロールが不能となるまで貯金残高を増加させると想定することも現実的ではない。

したがって、規制緩和に比例するように貯金残高が増加することを前提に議論することは適当でないと考えられる。

これらを考慮すると、国営時代から通算すれば24年間変更していないゆうちょ銀行の限度額について、少なくとも、預金者に不便を強いている現状を改善し、預金者一人一人の多様なニーズに柔軟に応えられるようにする観点から議論する余地は十分あるのではないかと考える。

また、限度額規制を緩和することにより、投資のための一時的受け皿(資金待機場所)としての機能の強化を見込むことができる。これは、資金利益偏重からの脱却、手数料ビジネスの強化という中期経営計画に掲げる経営課題に取り組む上で大きな意義がある。

貯蓄から投資への流れを促進するという国の政策に貢献する面でも有意義である。地域金融機関等と様々な協力・提携を進めることを考えても、送金決済に制約のある状況は改善されることが望ましい。

なお、ALMの観点から、ゆうちょ銀行が貯金残高を制御することはあり得る。その手段としては、貯金残高に係る目標額の変更、日本郵便に対する委託手数料の変更、貯金金利の変更といったものが考えられる。同行が、その時々の経営状況に対応してこれらの手段を適切に活用することは、当然かつ有益である。

限度額規制の緩和による貯金残高への影響は基本的に限定的と考えるが、緩和後の状況について当委員会に定期的に報告させることにより、健全経営を促すことも考えられる。

その上で、行政においてなお何らかの懸念が残るのであれば、当面の対応として、金融二社の業務等について段階的に規制を緩和していく郵政民営化法の趣旨を踏まえ、より慎重な段階を踏むこととすることが考えられる。具体的には、改定内容をより限定的なものとし、リスク管理上の問題が生じないか等の懸念事項について慎重に見極められるようにして、その後の行政当局の指導監督や限度額規制の緩和スピードの制御に生かすことが考えられる。

以上のような考え方を踏まえ、ゆうちょ銀行の限度額規制について、当面の具体案を考える。

寄せられた意見を考慮すると、ゆうちょ銀行の限度額規制を緩和する方向としては、次の3つに大別できると考えられる。

① 通常貯金を限度額管理対象から除外する方法(郵政民営化法第107条第1号に規定する政令で定める預金等とする。)

② 現行1,000万円の限度額(郵政民営化法第107条第1号イに規定する政令で定める額)を一定額まで引き上げる方法

③ 通常貯金を限度額管理対象から除外するとともに、定期性貯金の限度額(郵政民営化法第107条第1号イに規定する政令で定める額)を現行の1,000万円から一定額まで引き上げる方法

前述のとおり、限度額規制に関して起きている問題の多くは、ゆうちょ銀行が一時的な資金の受け皿となり得る預金サービスを提供し切れていないことに起因している。

したがって、限度額超過の是正に伴う利用者の不便さや郵便局等の事務負担の軽減、資金の自由な流通の基礎となる送金決済機能の整備、投資信託販売等による貯蓄から投資への流れの促進等、様々な課題や社会的要請に対応していく必要性を考慮すると、①の通常貯金を限度額管理対象から除外する方法が、最も多くの人々のニーズに適う案であると考えられる。

他方、旧郵便貯金時代から継続してゆうちょ銀行を利用している人々の中には、定期性貯金を中心に利用している人々も存在すると考えられ、通常貯金を限度額管理対象から除外しても、こうした人々のニーズを満たすことには貢献しない可能性がある。

そもそもゆうちょ銀行の提供する預金サービスをどのように利用するかは本来預金者の自由であるはずで、上に述べたような多様なニーズがあることを踏まえれば、今回の規制緩和においては、②の限度額を引き上げる方向を採用することが現実的であると考えられる。

この場合の方法論としては、今回が限度額規制における民営化後初の緩和であること、年金振込み等のたびに限度額を超過するといった問題の解消や高齢化が進む利用者の貯蓄機会の確保等の観点から、まずは引上げ額を300万円程度とすることが妥当であると考える。

その上で、他の金融機関等との間の競争関係やゆうちょ銀行の経営状況に与える影響等を見極め、特段の問題が生じないことが確認できれば、必ずしも株式処分のタイミングに捉われることなく、段階的に規制を緩和していくことが考えられる。

その際には、単純な限度額の引上げという方法に限らず、あるいはそれとともに、前述のように最も多くの人々のニーズに応えることを主眼に、通常貯金を限度額の管理対象から除外する案や通常貯金と定期性貯金の限度額を別個に設定する案も検討に値すると考える。

如何でしょうか。

ポイントは以下です。

  • 預入上限額規制については、業務制限と同様に郵政民営化の進捗に応じ段階的に緩和していくべき
  • ゆうちょ銀行の預入限度額規制の判断には利用者利便性を最も重視すべき
  • 限度額規制を緩和しても民間からゆうちょ銀行への資金シフトは限定的と考える
  • 通常貯金を限度額管理対象から除外する方法が最も多くの利用者のニーズに沿う
  • 現実的には限度額を一定額まで引き上げる案を採用することが現実的
  • その際の引き上げ額は300万円

これが民営化委員会の意見です。

所見

銀行業界の意見と民営化委員会の意見はどちらが正しいのでしょうか。

筆者には正解は分かりません。

しかし、以下の点を指摘することができます。

  • 実際問題としてゆうちょ銀行には「振替口座」という仕組みがあり、上限額を超えても預入は現時点でも可能
  • 預入者の不利益は限度額をオーバーした部分については利息がつかないことのみ
  • 政府の傘下にあるとはいえ1,000万円を超えた部分については民間銀行と同様に預金が保全されない(暗黙の政府保証はない)

よって、筆者からすると実際問題としては預入限度額の上限を撤廃しても本質的にはあまり変わらないのではないかと考えています。

銀行業界(特に地方銀行)が心配しているのは法人の預金・送金・決済がゆうちょ銀行にシフトすることでしょう。

これは現実問題としては起こり得ます。

しかし、規制で地方銀行をガードすることは本当に良いことなのでしょうか。

ゆうちょ銀行に勝てるだけのサービスを提供することが民間金融機関がやるべきことなのではないでしょうか。

また、地方銀行も実際には預金の受け入れは渋っているのが現状です。預金が集まっても運用ができず収益にならないからです。

また、キャッシュレス化が今後進んでいけば、ゆうちょ銀行の膨大な店舗・ATM網は負の資産となりかねません。

今のフィンテックの流れからすると、銀行業界が共同声明まで出してゆうちょ銀行の預入限度額撤廃に反対している「本音」は違うところにあるのではないでしょうか。

地方銀行が恐れるのはゆうちょ銀行が中小企業等へ融資(貸出)を始めることです。

このゆうちょ銀行の預入限度額撤廃が、ゆうちょ銀行の融資解禁へ繋がっていくことを恐れているのです。

銀行業界にとってみれば、ゆうちょ銀行とのATM相互利用、ゆうちょ銀行の民間金融商品の販売等の流れはメリットがあります。

地方銀行を中心とした銀行業界は、ゆうちょ銀行に自分達にとって「都合の良い存在」でいてほしいのです。

筆者としては、キャッシュレス化の流れが止まらないのであれば、ゆうちょ銀行の預入限度額撤廃を銀行業界が反対することは本筋から外れていると考えますし、民営化委員会の指摘している通り、サービスで勝負すべきと考えています。

規制で銀行業界を守ろうとしても、フィンテックの普及等で別の業界から攻めこまれ、結局は何も守ることはできないのではないでしょうか。

それよりも顧客利便性を銀行業界全体で向上させていく方が、顧客離れを引き起こさず、フィンテック企業からの攻勢をしのぐことに繋がるのではないでしょうか。

よって、筆者はゆうちょ銀行の預入限度額を撤廃すべきと考えています。

是非、銀行業界全体でも再度考えて欲しいところです。

(参考)全銀協等の共同声明全文

以下、参考として銀行業界の共同声明の全文を掲載しておきます。

 

平成30年3月30日

郵政民営化を考える民間金融機関の会

一般社団法人全国銀行協会
一般社団法人全国地方銀行協会
一般社団法人信託協会
一般社団法人第二地方銀行協会
一般社団法人全国信用金庫協会
一般社団法人全国信用組合中央協会
JAバンク・JFマリンバンク

 

郵政民営化を考える民間金融機関の会 共同声明
 

現在、郵政民営化委員会において、郵政民営化法で3年毎に実施することが定められた「郵政民営化の進捗状況についての総合的な検証」に関する意見の取りまとめに向けた審議が行われている。そのなかで、平成27年12月の「今後の郵政民営化の推進の在り方に関する郵政民営化委員会の所見」で示されていたゆうちょ銀行の預入限度額規制についても議論されているが、間もなく予定される郵政民営化委員会の意見の取りまとめを控え、限度額規制に関する民間金融機関の考え方について、改めて以下のとおり、申し述べる。

 これまでゆうちょ銀行と民間金融機関は、ATMの相互利用やゆうちょ銀行による全銀システムへの接続、特例会員としての全銀協加盟、更にはゆうちょ銀行による民間金融商品の販売や投信運用会社の共同設立、地域活性化ファンドへの共同出資等、様々な連携・協働を進めてきた。これらは、まさにゆうちょ銀行の利便性を高め、ゆうちょ銀行と民間金融機関の相互信頼のもと、共存共栄の実現を通して、地域経済の活性化や国民の安定的な資産形成の促進に貢献しようという取組みである。換言すると、全国約24,000の郵便局ネットワークも活用しつつ、民営化を通じてゆうちょ銀行を民間金融システムに融和させていくという大きな構想の下に進められてきたものである。

 また、ゆうちょ銀行の預入限度額は平成28年4月に1,300万円へ引上げられたものの、これを上限として、従来からの限度額規制の枠組み自体は維持され、これを完全民営化への道筋が依然として示されていないゆうちょ銀行と民間金融機関の間の公平性を確保する前提として、上記のような様々な取組みが進んでいる。更には、法人向け貸付け等の認可申請が取り下げられたこともあり、両者の連携が継続的に進展しているところである。このようななか、完全民営化への道筋の提示やその確実な実行の担保がないまま、両者の公平性が軽視され、限度額規制の更なる緩和によってこうした現在のフレームワークが維持できないようなことになれば、これまで着実に醸成されてきた民間金融機関との相互信頼関係が損なわれ、連携・協働の動きを止めることになる。これは地域経済の活性化や国民の安定的な資産形成の促進に大きな影響を与える。

 また、限度額規制の緩和は、既に厳しい経営環境にある地域金融機関への潜在的な影響、すなわち金融機関の収益環境が悪化し経営が不安定となった場合、地域金融機関からゆうちょ銀行に預金がシフトするという意図せざる結果を招きかねない。仮にそうした事態となれば、民間金融機関は経営を維持できず、両者の協業の枠組みが崩れるのはもちろんのこと、地域経済に与える影響は無視できないものとなる。また、通常貯金を限度額規制の対象外とすることについては、現在の金利環境の下では郵便貯金全体の限度額を撤廃することに等しいほか、通常貯金は法人も利用可能であることから資金シフトを増大させる可能性があり、断じて認められない。

 郵政民営化委員会のモニタリングでは、ゆうちょ銀行の預入限度額が1,300万円に引上げられて以降、ゆうちょ銀行への資金シフトは生じていないとされているが、超低金利環境かつ金融システムに著変がない点を踏まえれば、この間の推移のみをもって今後も他の金融機関との競争環境に影響がないと判断すべきではない。ゆうちょ銀行は完全民営化に向けた道筋が依然示されておらず、民間金融機関との間で公正な競争条件が確保されるに至っていないなか、上記の地域金融機関への潜在的影響を十分に考慮すべきである。

 更に、既に家計の保有する預貯金のうち2割のシェアを有するゆうちょ銀行は、外貨資産での運用を進め、また、貯蓄から資産形成への流れに沿った国民の安定的な資産形成に資する投信販売等を推進してきた。しかし、仮に限度額規制を緩和し貯金残高の更なる増加に繋がった場合、現在のマイナス金利環境では収益圧迫要因となる。これを回避するために、外貨資産での運用を拡大させるとなるとリスク管理上の懸念も生じる。更には、今後の金利上昇局面において、国債・外貨資産を問わず金利リスクが増加し、ひいては将来的な国民負担の発生に繋がりかねない。

 ゆうちょ銀行の更なる利便性向上に向けては、ゆうちょ銀行自身の自助努力に加え、既に述べた取組みの一層の拡充や民間金融機関の代理業を行うなどの連携・協働の機会が考えられる。しかしながら、ゆうちょ銀行の完全民営化に向けた具体的な道筋が依然示されておらず、民間金融機関との公正な競争条件が確保されていないなかで限度額規制の緩和となれば、このような連携・協業の動きを止めかねないことを改めて強調しておきたい。以上のように弊害の大きい限度額規制の緩和の議論が進められることは極めて遺憾であり、強く反対する。今後とも郵政民営化が、私どもがかねてより主張してきたその本来の目的や理念、すなわち、国際的に類を見ない規模に肥大化した郵貯事業を段階的に縮小し、将来的な国民負担の発生懸念を減ずるとともに、民間市場への資金還流を通じて、国民経済の健全な発展を促すことにつながるよう、総合的検証が進められることを切に希望する。

以上

出典 全銀協ホームページ

https://www.zenginkyo.or.jp/news/detail/nid/9417/