金融審議会「ディスクロージャーワーキング·グループ」の第3回議事録が開示されました。
このワーキング·グループでは政策保有株式(いわゆる持合株式) と役員報酬に関する「開示」(ディスクロージャー)について議論されています。
今回は、このワーキング·グループにおける議論および先般発表されたコーポレート·ガバナンス·コードの内容を確認し、日本における株式の持合がどのようになっていくのかについて考察します。
- ワーキング·グループの位置付け
- 株式持合がはじまった背景
- 現状の政策保有株式を巡る様々な矛盾、懸念
- 現状の政策保有株式に関する開示
- ワーキング·グループ第1回会合における政策保有株式についての議論
- ディスクロージャーワーキング·グループ(第3回)の議論概要
- コーポレートガバナンス·コードの改訂案
- 今後の想定
- (ご参考)ワーキング·グループの議論(第3回)の内容
ワーキング·グループの位置付け
まずは、このワーキング·グループの位置付けについて確認しておきます。
金融審議会は、内閣総理大臣の諮問に応じて、金融制度の改善など国内金融の重要事項について調査·審議を行う組織です。1998年に金融制度調査会·証券取引審議会·保険審議会を統合して金融庁に設置されています。
内閣総理大臣、金融庁長官および財務大臣の諮問機関という位置付けです。
この金融審議会の中の「ディスクロージャーワーキング·グループ(平成29年度)」(座長 神田秀樹 学習院大学大学院法務研究科教授)は、企業の情報開示のあり方等について、検討及び審議を行っているグループとなります。
なお、今回触れるワーキング·グループの議論内容は第3回についてのものとなります。
(第2回は「財務情報」及び「記述情報(非財務情報)」の充実について議論しており、政策保有株式=持合株式は直接の議論の対象とはなっていません)
株式持合がはじまった背景
そもそも株式の持合がはじまったのはなぜでしょうか。
株式持合とは、2つ以上の企業が相互に相手の株を所有すること、をいいます。経営権の取得、安定株主の形成、企業の集団化、企業間取引の強化、敵対的買収の回避などを目的とするものです。
政策保有株式も概念としては似たものであり、主に営業上の関係を築くために取得した取引先企業の株式、といえます。政策保有株の大半が株式持合の状態になっているといわれています。
日本において株式の持合がはじまった背景については、金融庁の「政策保有株式に関する意見」(2015年9月11日投資家フォーラム)における資料に記載があります。
政策保有株式の慣行は、戦後ほどなくして始まったが、その後1960年代の資本自由化により欧米企業等による買収リスクが意識されたこともあって大きく拡大し、さらに1980年代のバブル時のファイナンス受け皿として親密先、取引等企業間で拡大したと考えられる。
こうした企業間の株式保有の背景には、1950年代に株式買い集めが横行したことや、敵対的買収における取引制度の不備という事情があった。 このことは、企業による株式の政策保有が事業提携の証のような純粋なビジネスや収益拡大の動機のみにもとづいて行われていなかったことを意味する。株主構成の安定化という株主対策上の動機が大きかった。その場合、政策保有の能動的な主体は「保有する」側というよりむしろ「保有させる」側になる。出典 金融庁ホームページ
現状の政策保有株式を巡る様々な矛盾、懸念
政策保有株式、すなわち株式持合は日本独特の慣行といわれています。
特に海外を中心とした投資家から矛盾·疑問·懸念を持たれているところは以下の意見にも表れているといえるでしょう。
- 相手との「関係」があるにもかかわらず、相手が自社の株式を何株保有していることがわからないということがあるのか
- 相手が自社に断わり無く売却することはあり得るのか
- お互いに合意しなければ売却しないのであれば、その契約はあるのか
- 資本提携契約を締結している場合と契約がない「持合」の違いは何か
- 株式持合の情報をきちんと開示すべきではないか
- 取引先の株式を保有することの経済効果は本当に存在するのか
- 海外投資家は換金可能な株式保有は現預金と同等の資産として認識し、過剰な現金保有問題と関連づけて捉えている
- 評価が難しい理論上のベネフィットはさておき、現実の政策保有は一般株主の利益と相反するという観点が重要
- 政策保有株式は、取引継続との間で、いわば「人質」ともいうべき関係にある
- 株の売却をちらかせて商売を迫るという本末転倒な動きが生じてもおかしくない
- 政策保有を前提に優先的に取引をするという慣行は、商取引が安定株主対策に利用されるということではないか
- 取引先の株式を保有することによって特別な便益を受けているのであれば、「保有されている側」は「保有している側」に過度な便益を与えていることになるのではないか
- 政策保有と判別される株主の関係者は独立社外取締役として適切でない
- 独立社外取締役の説明においては、当該取締役が所属する企業との取引は僅少であると説明しながら、当該企業の株式を政策保有し、取引維持のため重要であると説明しているという矛盾も散見される
- 一般に政策保有は事業提携の証や株主の安定化等を意図したもので、経営者にとってプラスの効果が見込まれている。しかし、この効果は計量化が難しい。一方、政策保有の資本コストは確実に発生する。もちろん長期的な取引関係の構築がもたらすベネフィットが政策保有によるコストを上回るような場合は存在するだろう。しかし、このベネフィットがコストを下回るような「高コスト取引」がいたずらに放置されているとすれば、株主を含む企業のステイクホルダーにとって価値の破壊となる
- 会社が株式を政策保有し合うことが経済において価値追求の行動を妨げる問題に投資家は懸念を抱く。例えば、業界秩序と呼ばれる企業間の関係を強める立場から政策保有がなされてきた。取引先の特定と株式保有は企業間の力関係を表しており、個別企業の観点からは最善の取引機会を追求する可能性を減らすことになる。また、「特にビジネスを進めるうえで必要と言えないが、長年の経緯があるので手を付け難い」という趣旨のコメントを耳にすることがある。この場合、本来、事業に集中すべき経営資源が有効に活用されていないことを示唆する。さらに、事業上のベネフィットと引き換えに安定株主対策が行われているとしたら、資本市場の価格メカニズムが適切に機能する環境への負荷となってしまう。
(御参考) 投資家側が必要となるガバナンス情報(金融審議会ディスクロージャー·ワーキング·グループ第3回資料 フィデリティ投信)
http://www.fsa.go.jp/singi/singi_kinyu/disclose_wg/siryou/20180221/05.pdf
「政策保有株式に関する意見」(2015年9月11日投資家フォーラム)
現状の政策保有株式に関する開示
現状では、上場企業等は有価証券報告書にて以下の通り開示をしています。
有価証券報告書における政策保有株式に関する開示については、2010年より、政策保有株式(保有目的が純投資以外の上場株式)について、資本金の1 %超(30銘柄未満の場合は、保有額上位30銘柄まで)の銘柄につき、以下を記載。
- 銘柄
- 銘柄ごとの保有株式数
- 貸借対照表計上額
- 保有目的
この開示については、以下のような指摘がなされています。
- 保有目的が、定型的かつ抽象的な記載にとどまっている
- 本来、政策保有と思われるものが純投資に区分されているケースがある
- 保有額が小さいものが開示されていないので十分な対話が困難
- 時価変動等により、開示される銘柄に差が生じるケースもあり、各年の異動状況を正確に把握できない
- 議決権行使結果を個別に開示すべき
また、コーポレートガバナンス報告書(取引所規則)では、政策保有に関する方針等の開示が求められていますが、取引関係の維持·強化や中長期的な企業価値向上など抽象的な保有理由を示すにとどまっている例が少なくないとの指摘もあります。
ワーキング·グループ第1回会合における政策保有株式についての議論
今回の記事ではワーキング・グループの第3回会合の議論を中心に紹介しますが、第1回の会合でどのような意見が出ていたかをここでは押さえておきたいと思います。
<第1回会合における意見>
(保有目的·効果)
- 政策保有株式の保有目的が定型的、抽象的な記載にとどまっていることは問題。保有目的だけでなく、保有の効果が記載されるべき。保有の合理性の評価について、取締役会でどのような議論が行われているかが重要。
- 本来、政策保有と思われるものが純投資に区分されているケースがある。
- 政策保有株式の保有目的を詳細に書くと、開示書類のページ数が増えるので、個別の対話で明らかにされればよいのではないか。
(前年からの異動状況)
- 政策保有株式の異動状況は、企業に直接聞いてもいい加減な説明が多い。
- 異動状況を正確に把握できるようにしてほしい。
(議決権行使の内容)
- 議決権行使結果の開示について、運用機関が受託者責任の観点から開示を求められるのは理解できるが、企業に個別開示を強制することには違和感。
(対象銘柄)
- 保有の目的について、企業との議論を深めるためには、現在、有価証券報告書で記載が求められている保有額上位30銘柄より下位の保有銘柄の情報も必要。
- 政策保有株式は、現状の開示制度でも相当程度の銘柄はカバーされており、開示範囲の拡大には疑問。
(保有されている株式)
- 持ち合いの相手方の明細も見て、双方を突き合わせながら、企業と対話をしている。
- 自社の株が保有されていることも重要なので、例えば「大株主の状況」の中で政策保有されている総株式数だけでも開示させてはどうか。
(情報提供のあり方)
- 政策保有株式については、有価証券報告者が英文化されていないため、海外投資家までその情報が届いていないのが問題。
- 議決権行使時に1年前の有価証券報告書の古い情報を利用しなければならないのは、タイミングが悪い。
<政策保有株式に関する論点>
(開示内容)
- 政策保有株式に関し、以下の内容の記載を求める意見があるが、開示のあり方をどのように考えるか
- 個別銘柄につき、より具体的な保有目的及び効果
- 保有の合理性を検証する枠組みや、取締役会等における議論の状況
- 純投資と政策投資の区分の基準や考え方
- 前年からの異動に関する情報
- 議決権行使の内容
(対象銘柄)
- 記載の対象銘柄の範囲について、拡大すべきとの意見も開かれるが、見直しを検討すべきか。
(提供方法のあり方)
- 有価証券報告書が英文化されていないため、海外投資家が政策保有株式に関する情報を利用しにくいことは問題との指摘があるが、どのように考えるか。
- 議決権行使時に1年前の有価証券報告書の古い情報を利用しなければならない(注)のは、タイミングが悪いとの指摘があるが、どのように考えるか。(注)多くの企業が、株主総会後に有価証券報告書を提出するため。
以上が第1回の議論内容のまとめです。
ディスクロージャーワーキング·グループ(第3回)の議論概要
最新の議論である、ディスクロージャーワーキング·グループの第3回における議論の概要は以下の通りとなります。
この議論の流れが、今後の政策保有株もしくは株式持合についての動向を決めていくことになるので、把握しておくのが良いと思われます。
<投資家としての立場>
- 政策保有株式は、ビジネスモデルの競争力や製品·サービスの質の優劣ではなく、株式保有(議決権行使)を梃子にした取引条件交渉が国際競争力を損なう一因となっている可能性がある
- 日経500種の企業は政策投資株式を平均值で114銘柄(事業会社80銘柄、銀行,150銘柄)と保有している
- 日本企業は株主資本コストに対する認識が希薄であり、政策保有株による安定株主比率が高いことが、株主資本コストに対する認識が広がっていない理由ではないか
- 安定株主比率の高さは、少数株主が軽視されてしまうことにもつながっている
- 株主資本コストを開示すべき、もしくは株主資本コストを考慮した上で、保有資産からの撤退ルールを開示するべき
- 企業の株主の中に企業価値向上を目的としない安定株主もしくは政策保有株が存在するのは投資の為に事前に知っておきたい(もし知っていたら投資しないという選択肢も)
- 政策保有株の議決権行使の個別開示も有用な手
- 海外投資家は日本企業のバリュエーションは安い(株価が低い) というのは一致した見方だが、日本株は買わないという状況。日本企業がガバナンスに真剣に取り組み、企業価値向上に本当に進み始めたとメッセージを出していくことが重要
- 海外投資家は政策保有株につき問題意識があるものの、個社別の状況が良く分からない状況にあり、その理由は有価証券報告書の英訳率が非常に低いというもの
- 政策保有株式の異動状況の開示が必要
- 政策保有株について、毎年、取締役会で検証が本当に行われているかを開示すべき
- 政策保有株式は、相当な株主資本の無駄遣いになり得る状況であり、政策保有の意図を明確にすべき
- 政策保有株式の開示数を増やすべき、もしくは全ての銘柄を開示すべき
- 政策保有株式の「反対側」(非保有)についても開示すべき
- 純投資と政策保有の区分について明確に説明し、その上で保有目的と効果を具体的に開示すべき
- 政策保有株の開示は現行の30銘柄で十分
- 政策保有株式の開示は現行の30銘柄では平均保有銘柄数と比べて相当少ない
- 政策保有株の状況確認については、投資家が1年前の有価証券報告書を見て判断しなければならないため、開示の早期化を望む
- 日本の企業の稼ぐ力を考えた時に政策投資株はガバナンス上、阻害要因になっており、持合に関するガバナンスを強化しようとするときには、開示の充実しかありえない
- 安定株主比率はガバナンス情報上、極めて有用な情報であり開示すべき
- 応諾を与えるか否か等、海外投資家は、政策保有株を売る際に、なぜ株主に権利がないのかを理解するのが難しい
- 海外投資家は日本企業の現場力·プロダクトは素晴らしいと思っているものの、純投資ではない「見えない投資家の存在」が投資をためらわせるところがある
<弁護士>
- 政策保有株式については基本的に縮減すべき
- 政策保有株の開示銘柄は増加させるべき
- 政策保有株式の開示数は現行の30銘柄で代替カバーされているのが実状
- 政策保有株の議決権行使の内容だけ開示するのは非常な違和感があり、開示させる必要はないのではないか
- 純投資と政策投資の区分の明確化は難しい
- 大株主の状況を上位10社から批充するのも一つの案
<学者>
- 政策保有されていることの開示も重要
- 株式の持合に経済合理性があるのか否かについて証券市場全体を対象とした科学的検証を行うべき重要な時期にあると考えるため、開示を望む
<事業会社(開示する側)・経団連>
- 開示レベルは現在のもので必要十分
- 投資家との個別対話の中で相互理解を深めるべき
- 政策投資株式を一律に悪と決めつけて議論するのは有益ではない
- 政策保有株の個別の銘柄、個別企業との具体的な取引金額、利益というのは,守秘義務に該当するので開示するのは難しい
- 政策投資株式の前年度からの異動については投資家との対話で聞かれることはない
- 政策保有株式の議決権行使については投資家との対話の中でほとんど話題にならない
- 持合株の開示については、持たれている側から開示するのは技術的に難しいため、持っている側が開示することになった経緯がある
- 政策投資株の保有目的を掘り下げると、最終的には営業秘密にかかわるような部分まで及んでくる恐れがあるため、一律に保有目的の開示を求めるのは難しい
- 対象銘柄数は現行の数でほぼ足りている
以上が直近の議論内容です。
これを受けた形で、金融庁からはコーポレートガバナンスコードの改訂案が公表されました。
こちらもみていきましょう。
コーポレートガバナンス·コードの改訂案
今まで日本における政策保有株式についての議論をみてきました。
これらの流れを受けて、金融庁から「コーポレートガバナンス·コード」の改訂案および機関投資家と企業の対話において重点的に議論することが期待される事項を取りまとめた「投資家と企業の対話ガイドライン」が公表されています。
この改訂案·ガイドラインは4月上旬までに決定し、5月に改訂される見込みです。
コーポレートガバナンス·コードおよび上記ガイドラインは様々な分野が含まれていますが、政策保有株式部分について、以下で確認していきます。
<コーポレートガバナンス·コード改訂案>
【原則1-4.政策保有株式】
上場会社が政策保有株式として上場株式を保有する場合には、政策保有株式の縮減に関する方針·考え方など、政策保有に関する方針を開示すべきである。また、毎年、取締役会で、個別の政策保有株式について、保有目的が適切か、保有に伴う便益やリスクが資本コストに見合っているか等を具体的に精査し、保有の適否を検証するとともに、そうした検証の内容について開示すべきである。
上場会社は、政策保有株式に係る議決権の行使について、適切な対応を確保するための具体的な基準を策定·開示し、その基準に沿った対応を行うべきである。
(補充原則)
1-4①上場会社は、自社の株式を政策保有株式として保有している会社(政策保有株主)からその株式の売却等の意向が示された場合には、取引の縮減を示唆することなどにより、売却等を妨げるべきではない。
1-4 ②上場会社は、政策保有株主との間で、取引の経済合理性を十分に検証しないまま取引を継続するなど、会社や株主共同の利益を害するような取引を行うべきではない。
<投資家と企業の対話ガイドライン(案)>
4.政策保有株式
【政策保有株式の適否の検証等】
4-1 政策保有株式について、それぞれの銘柄の保有目的や、保有銘柄の異動を含む保有状況が、ステークホルダーに理解できるよう、分かりやすく説明されているか。
個別銘柄の保有の適否について、保有目的が適切か、保有に伴う便益やリスクが資本コストに見合っているか等を具体的に精査し、取締役会において検証を行った上、適切な意思決定が行われているか。そうした検証の内容について分かりやすく開示·説明されているか。
政策保有株式に係る議決権の行使について、適切な基準が策定され、外かりやすく開示されているか。また、策定した基準に基づいて、適切に議決権行使が行われているか。
4-2 政策保有に関する方針の開示において、政策保有株式の縮減に関する方針、考え方を明確化し、そうした方針·考え方に沿って適切な対応がなされているか。
この案では、前述のディスクロージャーワーキング·グループの議論も反映されています。
企業は個別の政策保有株式の保有目的、保有に伴う便益·リスクを具体的に精査した上で、保有の適否を検証することになります。
また、その検証結果を分かりやすく投資家に開示·説明することが求められることになります。
さらに、政策保有株式の「縮減」に関する方針·考え方等を開示することも求められており、政策保有株式は売却していくことを原則的に求められているともいえる内容となっています。
これが、今の政策保有株に関する最新の動きです。
今後の想定
直近で発表されたコーポレートガバナンス·コード(案)では、政策保有株式について上述のように「縮減に関する方針·考え方等を開示すべき」「取締役会での検証および開示をすぺき」「議決権の行使についての基準を策定·開示すべき」とされました。
ワーキンググループで議論した投資家が求めている内容の一部が入ってきているということになります。
しかしながら、投資家が求める目線には足りないところもあるため、以下が今後のポイントとなってくると想定します。
- 上場会社自身が把握している自社の安定株主比率の開示
- 株主資本コスト (自社想定)の開示および保有資産の撤退ルールの開示
- 政策保有株式の異動状況の開示
- 政策保有株式の保有目的·効果の詳細な情報開示
- 政策保有株式の開示数の拡充
- 政策保有株式関連情報の英文化、早期開示
このように政策投資株式·株式持合は、ますます株主からの監視が強まっていくものと想定されます。
日本の高度経済成長に貢献したともいわれていた株式持合ですが、今後は縮減が進んでいくことは間違いないでしょう。
銀行においては、特に政策投資株式の削減が重要なミッションとなりますので、法人を担当する銀行員にとっては留意が必要です。
一方で、上場企業側からは安定株主対策の必要性が間違いなく高まってきます。
株式持合の縮減と安定株主対策の両立について上場企業の問題意識は高まるでしょうし、銀行にとってはビジネスとしてのチャンスも見出すことができるかもしれません。
以下では最後に参考として、ワーキンググループの議論内容を掲載しておきます。
(ご参考)ワーキング·グループの議論(第3回)の内容
上記では、持合株式に関する議論の前提や流れをみてきました。
議事録の詳細内容は膨大ですので、以下ではご参考として政策保有株式(いわゆる持合株式)にポイントを絞って引用しておきます。(加筆·修正·省略等あり)
この議事内容を確認すると、政策保有株式の日本における議論の全体像が見えると思いますので、長くはなりますが以下掲載します。
なお、以下の議論で出てくる資料はリンク先にあります。
金融審議会「ディスクロージャーワーキング・グループ」(第3回)議事次第:金融庁
<事務局説明>
日経500種企業が、政策保有株式としてどれぐらいの株式を銘柄で持っているかというと平均值で約114銘柄、事業会社ですと80銘柄ぐらい、銀行ですと450銘柄ぐらい、保険会社ですと1,000銘柄ぐらいということで、最大になりますと、事業会社で550銘柄ぐらい、銀行で2,800銘柄ぐらい、保険会社で2,000銘柄ぐらいとなっているということでございます。
<ゴールドマン·サックス証券>
(海外投資家の不満)
海外投資家の不満の第2のカテゴリーは、経営陣の取組み姿勢についてです。典型的な例は、株主資本コストで、日本の一部企業では株主資本コストに対する認識が希薄で、事業ポートフォリオの入替え、資本コストの最適化といった議論が深まっていないため、バランスシートの効率化ペースが遅いとの印象を海外投資家は有しています。また、政策保有株による安定株主比率が高いことが、株主資本コストに対する認識が広がっていない理由ではないかという見方をしている投資家は珍しくありません。
また、安定株主比率の高さは、少数株主が軽視されてしまうことにもつながっていると思われ海外投資家は少数株主の立場をより考慮した上で経営するべきとの見方を持っています。
(株主資本コスト)
株主資本コストの認識というところに関しましては、ダイレクトに株主資本コストを開示していただくと。もしくは株主資本コストを考慮した上で、保有資産からの撤退ルールを開示事項とする。もしくは、自社が考える最適資本構成を開示事項とすると。あと、よく海外投資家から聞かれるのは、やはり手元保有現金、この合理性に関して、全く説明が深まらないといったところもございますので、こういった開示事項を入れるということも1つなのかなと思っております。
(安定株主比率)
安定株主比率のところに関しましては、海外投資家は少数株主でございまして、企業価値向上をとにかく目的とするといった投資家なのですけれども、企業の株主の中に、そうではない議決権行使をしている安定株主、もしくは政策保有株が存在するということは、非常に事前に知っておきたいと。もし知っていたら投資しないということも、もちろん選択肢として出てきますので、やはりこういった政策保有株の議決権行使の個別開示といったところも1つ有用な手なのかなと思っております。
(海外投資家の考え方全般)
最後になりましたけども、我々、先週ニューヨーク、ボストンを回ってきて、海外投資家と話をしていると、日本企業のバリュエーションは安いということは、かなり一致した見方になるのですけども、では株を買うかというとそうではなくて、永遠にこれは割安のまま放置されるんじゃないかと。過去10年もそうだったし、今後10年も永遠にというところが、やはり日本企業に対しての投資が進まない根本的な理由だと思っておりますので、やはり日本企業はガバナンスに真剣に取り組んで、企業価値向上に本当に進み始めたぞといったようなメッセージを出していくというところが、海外投資家のハートをつかむという意味では重要なところなんじゃないかなと思っております。
<ニッセイアセットマネジメント>
政策保有株式の開示について意見を申し上げます。政策保有株式の開示については、投資家がその状況を理解し、この議題に関して対話を行えるという状況が重要と考えております。ただ、このような環境整備のためには、開示の改善も必要と考えております。
ポイントを3つ挙げております。1つが、海外投資家の状況把握の促進ということです。
私は海外投資家にたくさん友人がおりますが、話していて一番感じるのが、政策保有株はすごく問題であると彼らも思っているのですが、ただ、個社別の状況がよく分からないということがあります。これは当審議会の第1回目でも申し上げたのですが、有価証券報告書の英訳率が非常に低いということもあって、日本の投資家は個別企業ごとにどういう株を持っているかを理解できるのですが、海外投資家はそれさえ把握できないということが大きな問題だと思っています。ですから、有価証券報告書の英訳化の促進、これが一番望ましいとは思っていますが、それが難しい場合、既に英訳化率が高いコーポレート·ガバナンス報告書で政策保有株式の開示を行うというのがよいのではないかと思っています。
2つ目の開示方法の変更は、政策保有株式の異動状況の把握ということです。現状、年度ごとに開示されているので各年度の異動状況が非常に分かりにくい状況になっておりますので、これを保有株式ごとに開示するということがよいのではないかと思っています。
最後の3つ目ですが、取締役会、これは社外取締役の方を含んでの検証の開示ということです。投資家の不安の1つは、ガバナンス·コードで定められております毎年の取締役会の検証が本当に行われているかどうかについて確信が持てないというところにあると考えております。ですから、社外取締役も含んだ取締役会でどのように検証されたのかを開示していただく、これが投資家と企業が議論をするにあたって非常に有効ではないかと考え
ております。
ただし、先ほど申し上げましたように、現状、取締役会の活動状況を報告する場所がないということになっております。開示方法を2つほど挙げます。
1つ目が、現状、唯一の取締役会の活動状況を伝える媒体である取締役会評価に政策保有株式の評価を入れていく。どういうことを点検したかということもあると思うので、そういうことを入れていただくというのが1つかと思っています。
もう一つが、先ほど申し上げましたように、日本でも海外と同様に、取締役会の活動状況の報告の箇所等を設置し、その中で、取締役会としていつどのように政策保有株式についてapproveしたかということを開示していただくということです。
<フィデリティ投信>
(政策保有株式は株主資本の無駄遣い)
ここに掲げているのが、コーポレートガバナンス·コードに書かれている原則1-4です。
まずこれを読んだだけで、私にとって引っかかる点が2つあります。「主要な政策保有について」、こう書いてあります。では、主要でない政策保有の場合はどうするんだと。主要でないから検証しなくていいか。いや、主要でない政策というのは何だということですね。
ですから、ここの時点で矛盾があって、では検証するまでもなく解消するということではないかと思います。
また、その後の方で、「リターンとリスクを踏まえた」、ちょっとこれは私見ですけど、ミスリーディングではないかなという気がします。というのは、リターン、リスクで株を評価するというのは、純投資の考え方です。実際は、政策であれば株価が上がるということを見込んでいるのではなくて、別の何らかの目的があるということだと思います。そういうことであると、その目的のために株を保有すること、それからバランスシートにどれだけの負担を与えるか、株は動きますから、リスク性資産です。借入れの担保にするときには5割掛けというぐらいですよね。ですから、それだけどうなるか分からないものと見られるわけです。そこに重要な株主資本を充てて支えるということで、相当な株主資本の無駄遣いになり得る状況だということで、政策の意図というのを明確にすべきであると思います。
(政策保有株式に関する情報開示)
情報開示についての問題意識として、今までのこういったことを踏まえて、やはり透明性、比較可能性、予見可能性のいずれも欠如していると言わざるを得ないのではないかということです。先ほど井口委員にもご説明いただきましたけれども、有報上で特定投資株式としてここに書いてあるとおり、資本金額の1%を超えるもの、または上位30銘柄というリストがありますが、それだけでは、それが異動したときに、昨年までは30位以内にあったけれども、今年は30位から落ちた会社について、それは売却したのか、それとも時価が低下したのか分からないというような状況です。
そういうことからして、ここでの問題点というのは、まずそういった状況が株主総会前に議決権行使を考える段階で分かるかというと、その段階では、通常有報が出てくるタイミングからすると、前期、1年前の有報に依存せざるを得ないというのが現状です。
それと、先ほどの原則1-4は、「毎年、取締役会で合理性を検証し」、「具体的な説明を行うべきである」となっていて、コンプライをしている会社は非常に多いんですが、本当にそういった具体的な説明があるかというと、そうは感じられません。
3つ目の間超点で、いわゆる政策保有株式について、保有させている側の問題、これは先ほどのページでも持ち上がりましたけども、そういう関係があります。これについて、どうほぐしていくのか。
4つ目の問題として、先ほど2で申し上げたとおり、原則1-4の具体的な説明が行われているかどうか、検証がされているかどうかがあまり定かではないということは、同じコーポレートガバナンス·コードの補充原則4-11③、取締役会の実効性評価ですが、その実効性評価で漏れているのではないかと。ちゃんとやっていないということが確認されていない、またちゃんとやっているのであれば、ちゃんとやっている、どのようにということが説明されるべきではないかということです。
こういった問題意識について、幾つかの解決案、またはこういうふうにしてほしいというのがあります。
案1として書いているのは、特定投資株式、みなし保有株式全銘柄について開示をしていただく。
または、あわせてというのでもいいんですけども、案2は、保有状況の異動を開示していただく。
案3は、これは持ち合い関係にある場合が多いわけですが、そのときに今どちらがどのように、先ほどの6ページで見た、どちらがどのように持っているかというのは、要するに全て反対側(持ち合いの相手側)の有報も見ながら確認しなければいけません。これは先ほど30銘柄よりもっと、全銘柄出してくれということを言いましたけど、全銘柄についてそれをやるというのは、とんでもなく手間暇がかかります。ですから、その銘柄を開示するときに、反対側の保有状況も開示していただく。
案4は、保有させている側の問題について明らかにするために、場合によっては、原則1-7にある関連当事者間の取引ということで説明していただくこともいいのではないか。
<弁護士/東京駿河台法律事務所>
安定株主比率のところで、お話の中に安定株主がたくさんいるということを知っていれば投資をしないという傾向がある、あるいはそういう方針をとっておられるというようなご発言があったのですが、これは知らなければ投資をしちゃうということなんでしょうか。
そうすると開示をしない方が得だみたいな話になってしまうので、むしろ安定株主の比率が少ない、あるいは安定株主の合理性が説明されているところに投資しようとしているというニュアンスなんでしょうか。もし特定できるようであれば、教えてください。
<ゴールドマン·サックス>
安定株主のところなんですけども、直近もあったような話なんですが、財団がありますと、これがどういう議決権行使をするのかふだんは分からないと。ただ、ふたをあけてみたら、これはもう実質的な安定株主だったんじゃないかというようなことも起こりますし、海外投資家としては、ふたをあけてみたら実はこうだったというのはちょっとずっこけてしまうというところがございますので、やはり最初から純投資というか、そういったマインドで自分たちと同じ目線を持っている人がどれぐらいいて、どれぐらいこの企業がガバナンスをきかせられるかというところなんですけども、ということは、やはり最初の投資の判断に入れたいと思っていますので、そういった意味での開示があればいいのかなと思っております。
<新日鐵住金>
海外投資家の不満を解消するための開示情報と開示方法案ということで、一覧化されていますけれども、特にこの一番上の株主資本コストの認識であるとか、安定株主比率と書かれていますが、これらは海外ではやはり常識的に開示されているものなのでしょうか。
<ゴールドマン·サックス>
そういった開示は特にないと認識しております。ここであえて入れているのは、特にアメリカの場合というのは、そういった開示がなくてもROEというのを本当に一番大事に考えて、逆に言うと、突っ走り過ぎてしまうというぐらいなのがアメリカのカルチャーでございますので、日本の場合,やはりそこの意識が希薄過ぎるということで、あえて開示をするというところをここに載せております。
安定株主のところも、政策保有株というカルチャーというのはある意味、日本特有、昔のドイツもそうだったんですけども、今は日本と幾つかの国ぐらいなのかなと思っておりますので、これも日本固有の話かと思います。
<弁護士/東京駿河台法律事務所>
政策保有株式については、基本的には縮減というのが基本的な態度としてとるべきだと思います。とりわけいわゆる持ち合いになっている部分についてはそうだと思っていますが、いきなり縮減というのは難しくても、少なくとも開示をするということが必要で、今日も事務局の資料の5ページに、中央値で事業会社についてですけれども、62社というような数字がありますけれども、これを考えればやっぱり数十社については開示されるべきであると思います。
<新日鐵住金>
今回の検討の目的をまず確認させていただくとするならば、それは株主、投資家との建設的な対話を促進するという観点であります。仮に政策保有株式は保有すべきではないと、そういう認識に立った議論をするのであれば、それはそもそも建設的な対話を否定しているようなものではないかと考えています。すなわち、企業の投資対象資産に制限を設ける会社法になるのでしょうか、そういった議論になるので、情報開示の議論ではないと考えています。
出資政策の観点からいいますと、海外で政策保有株式の議論をあまり聞かないのは、海外ではマジョリティーの取得による支配ということが非常に重要視されているからと認識しております。
一方で、日本の場合は少なくともこれまで比恔的、緩やかな関係の中で、バリューチェーンの関係者間でリスクとリターンを分け合うような、そういうモデルで経済成長してきたという側面はあると認識しております。これは社会的に貧富の格差が少ないとか、サラリーマン社長が多いとか、企業は株主だけのものではないとか、単に企業社会にとどまらず、少なくともこれまでにおいては日本の社会に幅広く根付いてきた価値観ではないかということであります。
しかしながら、今、日本自身が人口減少や需要停滞、国力の相対的な低下に直面する中で、企業社会のあり方そのものもこれまでどおりでいいというわけでは当然ないということであります。見直すべきものは見直す。しかし、大切な強みは捨ててはいけない。この取捨選択こそが問われているということだと思います。
そういう認識に立って、論点の2点ですが、まず政策保有株式であります。私、結論から申し上げますと、ミニマムスタンダードとしての制度開示としては、現在の開示レベルで必要十分だと考えています。あとは投資判断基準として、これに重きを置かれる投資家の皆さんが制度開示情報を切り口に、企業との個別対話の中で、保有目的や変動の理由、これらに関する相互理解を深めた上で投資判断をされればいいのだろうと考えます。納得感ある対話が行われる中で、保有意義のない株式保有は当然に解消していくと思います。事実として、おそらく政策保有株式は減少傾向にあるだろうと思っています。そういうまさに建設的な道筋こそが重要であって、事実として多様な、一口に政策保有株式といっても多様な形態があるものを一律に悪と決めつけて制度開示の議論を行うことは、決して有益とは思っておりません。
<東京海上アセットマネジメント>
政策保有株式の開示に関してですが、純投資と政策保有の区分について、明確に説明した上で、各銘柄の保有目的と効果をより具体的に記載すべきと考えます。
保有の合理性を評価するためには、検証の枠組みが開示されることが必要であり、検証に用いた指標や取締役会での議論の状況などが、有用な情報となります。また、政策保有株式の異動状況は、対応の進捗を見る上で必須の情報になりますので、前期と当期の株式数変化が把握しやすい記載の仕方に見直すことも考えられると思います。
なお、開示基準に満たない銘柄であっても、前期から異動がある場合には別途、異動明細表として取りまとめ、その理由も含めて開示することが望ましいと考えております。特に政策保有縮減の方針を掲げながらも、新規保有や買い増しを行った銘柄に対しては、判断理由を具体的に説明する必要があると考えます。なお、保有株式の縮減に向けて売却をしている場合には、解消のめどや時期を示すことで、進捗状況に対する理解が深まるものと思います。
対象銘柄の範囲についてですが、事務局資料5ページでお示しいただいたとおり、政策保有株式の銘柄数データを踏まえますと、現状で記載が求められている30銘柄ではカバー範囲として十分ではないというのが実状です。範囲の程度については議論が必要ですが、検討の方向性としては、開示すべき銘柄数の範囲を拡充し、政策保有の実態をより的確に把握できるようにしておくことが望ましいと考えております。
<三菱商事>
政策保有株式について、実務の観点から申し上げたいと思います。
地域戦略とか、あるいはバリューチェーンの構築等々で、商社の立場で見てもパートナーシップをつくっていくというようなビジネスの手法がとられますので、政策保有というのは実際、企業の手法としてはよくあると考えています。
ただ、その目的について、具体的に有価証券報告書で書き込むというと、これは個別銘柄によってさまざまで、大体こんな形であるというような概略を書くことはできますけれども、その個別の銘柄について詳細に書くということは、煩雑な記述になると考えますので、むしろこれは投資家との対話の中で説明していくということが、実務的には妥当ではないかと思っております。
あと、効果ですけれども、個別の銘柄、あるいは個別の企業との具体的な取引金額であるとか利益というのは、これは守秘義務に該当しますので、実際それを有価証券報告書に書面上に記載するというのはなかなか難しいということになってくると思います。これも対話の中で、相手が求めているものが実際、何なのかということを分かった上で、きちんと対話していくと。具体的に金額を出すということではなくても対話は成立すると考えています。
前年度からの異動ということに関しては、投資家との対話でそれをことさら個別銘柄について聞かれるということはないんです。ただ、それを本当に投資家が必要であれば、それを開示することはやぶさかではないと考えます。実務上もさほどの労力がかかるような問題でもないと考えております。
あと、議決権行使の内容なんですけれども、実はこれは投資家との対話の中でほとんど話題になりません。政策保有という性質もあって、言わずもがなという事もあって聞いてこないんだとも思います。果たして事業会社にとって、この議決権行使の内容を記載することが本当に意味があるのかという気はしております。
<大和証券>
政策保有株式についてですけれども、今までのいろいろなお話とか資料を見て私が思うのは、すなわち投資家は効率性を伴ったものであるかということと、ガバナンスの空洞化になっていないかということを検証するために知りたい、と考えます。とすると、30銘柄では事務局のおつくりいただいた資料の5ページの平均で82.2銘柄ですか、これと比較して相当少ないなと思います。
一方、企業側のご負担はあろうかと思いますから、拡充の方向なんでしょうけども、例えばせめて82の半分以上で切りのいいところの数字が落としどころとしてあるのかなと考えました。
<東京大学大学院教授>
政策保有株式の話です。政策保有株式の開示を求める趣旨を再確認しておく必要があると思います。その目的として、会社資産の活用方法に関する開示という点が強調されることもあるようですが、それだけではないと思います。先ほどガバナンスの空洞化という話ありましたけれども、やはり政策保有されていることの開示も重要だと思います。そういった発想というものは、既にコーポレートガバナンス·コードにもあらわれていると思います。なぜかというと、政策保有株式に関する開示に関する原則1-4は、原則1-3の資本政策の基本的な方針と、1-5の買収防衛策の間にあるわけであって、その趣旨は株主構成に関する開示であることは明らかです。別の言い方をすれば、政策保有されていることが株主構成の歪みなど何らかの問題を生じさせる場合があるという認識に基づいて、ガバナンス·コードは作られていると思います。そうすると、あまり会社資産の有効活用という観点にこだわるのではなくて、政策保有されていること、要はどの程度相互に保有し合っているかを直接的に明らかにする開示が望ましいのではないか、という気がいたしております。
<経団連>
政策保有株式については、そもそも現行の開示は、持っている側、すなわち保有している側からの開示という制度になっているわけですけど、もともとこの制度ができた背景には、持ち合い株をどう開示するかという議論があり、持たれている側から開示するのはなかなか難しいという技術的な困難性から、持っている側が開示することになった経緯があったと思っております。そういう意味では、持たれている側で政策保有株主の比率が分かればいいのですが、それができないということを前提に現行の開示制度が成り立っているという経緯からすると、開示によって達成できるものには限界があるのではないかと思っております。
その中で、どういう記載を求めていくか ということですが、10ページにいろいろな項目が書かれておりますけれども、実際に企業に伺ったところ、この中の幾つかの項目については、いまだかつて投資家から聞かれたこともない、株主との対話でも聞かれたこともないということで、本当に必要性があるのか疑問です。その辺りについて、よくよく慎重に吟味いただければと考えております。
それから、目的の開示でございますけれども、保有目的を掘り下げていきますと、最終的には営業秘密にかかわるような部分まで及んでくるおそれもあるため、一律に目的の開示を求めることはなかなか難しいのではないかと思います。やはり開示をきっかけにして個別の投資家との対話の中で目的を明らかにしていくということが現実的なのではないかと考えております。
それから、対象銘柄については、現行の数でほぼ足りているのではないかと思っておりますが、事業会社が保有する銘柄数の中央値を見ますと、大体60ということであり、現行の開示の対象銘柄数はその半分ということで、それほど変な数ではないと思っております。
それから、提供方法については英文化の要望が強いということはよく分かりましたけれども、海外投資家の保有比率もさまざまであり、全ての会社に一律に英文化を求めることは行き過ぎではないかと考えております。
<法政大学教授>
政策保有株式と役員報酬について意見を申し上げます。
まず、政策保有株式、言い換えれば株式の持ち合いについては、これまでデメリットとともに、石原委員等からご指摘がありましたように、そのメリットについても学術上指摘されてきました。この点について企業と投資家が建設的な対話をすることに加えて、私は、現在、株式の持ち合いに経済合理性があるのか否かについて証券市場全体を対象とした科学的検証を行うべき重要な時期にあると考えています。
その意味では、先ほど三瓶委員からご提案がありましたように、持ち合いについて、「保有している株式と保有されている株式」の対照表を開示することによって、企業の外部から持ち合い構造をより精緻に把握できるようになるので、対話の進展はもとより市場全体を対象とした科学的な検証の進展も期待できると思います。当該対照表の開示を望みます。
<弁護士/西村あさひ法律事務所>
政策保有株式に関しましては、まず銘柄数の対象銘柄の範囲でございますけれども、実務感覚的には30銘柄で主要な政策保有株は大体カバーされているというのが実状ではないかと思っております。
それで、事前の説明の際にもご指摘申し上げたわけでございますけれども、銘柄数でこう出していると、80銘柄だったら半分とかそういう話になるわけですけれども、本来は、私はそのカバー率といいますか、政策保有株全体の例えば時価又は簿価があるとして、30銘柄で相当程度の部分がカバーされているのであれば、例えば3分の2とか4分の3とかカバーされているのであれば、この現状の30銘柄の開示で特段問題はないと。その細かな部分までいちいち開示させることは、負担との関係でいかがなものかというところがございますので、私はそのカバー率の検証はしていただければと思うんですけれども、基本的には30銘柄の開示で十分ではないかと思っております。
それから、議決権行使の内容なんですけれども、これはおよそスチュワードシップ·コードが適用されるような機関投資家の場合には、これは背後の投資家から資金を預かって運用しているという受託者責任の立場で、その議決権の行使結果について個別開示をせよという議論は理解できるわけですけれども、事業会社、一般の会社は株主から得ているエクイティーをさまざまな分野に投資して事業を行っているわけでございまして、その政策保有株の議決権行使の内容についてだけ機関投資家と同列に個別開示というのは、非常な違和感があります。また、先程来の議論からしますと、ここまで個別開示をするという必要性は、特にそういう強いニーズもないということのようでございますので、あえてこれを開示させる必要はないのではないかなと思っております。
それから、純投資と政策投資の区分の基準や考え方について開示をさせるというのは、これは一般論として理解できなくはないのですが、一口に政策保有株式といってもさまざまなものが含まれていると思っておりまして、資本業務提携に基づいて保有している株もありましょうし、歴史的な経緯から保有しているというものもあって、ある意味で行政控除説で言うところの残ったものがこの政策保有株だという側面があろうかと思いますので結論的には、これは個別銘柄についての保有目的等の開示でカバーできる話ではないかと思います。純投資と政策投資の区分の基準や考え方というのを明確化しろといっても、なかなか難しいのではないかなというのが実感でございます。
それから、有価証券報告書、1年前の有価証券報告書の古い情報を利用しなければならないというこの問題というのは、理解はできるんですけれども、もしこれを貫徹するのであれば、機関投資家が議決権行使をするときまでに有価証券報告書を出さなければいけないということになります。要するに招集通知を発送する直後には、有価証券報告書を出しておいていただかないといけないと、そういう議論になってしまうと思っていて、さすがにそれはタイムスケジュール的に企業側が対応が不可能なのではないかなと思います。
なので、これを本当に対応しようとするのであれば、株を持たれている側の会社の事業報告における大株主の状況の開示で、例えば今、会社法では上位10社ということになっていますけれども、これの数を15社とか20社とか拡充すると。そういうのは1つのソリューションだと思うんですけれども、有価証券報告書に、1年前のものであって古いからという問題への対処としては、有価証券報告書の早期提出という方法で招集通知発送時ぐらい
にまで開示時期を前倒しするというのはなかなか難しいのかなと思いますので、このあたりは違った形で対応する以外にはないのではないかというのが率直な感想でございます。
<みずほ証券>
政策保有株と、あと開示の見直しのあり方について、簡単にお話ししたいと思います。政策保有株についてでありますけれども、先ほど石原委員から、マジョリティーをとらないという形での政策保有が多いというようなご指摘がございました。そもそも歴史的に見ますと、やはり 1960年代に資本の自由化をしました。そのころにたまたま、前回の東京オリンピックの後の証券不況というのがあって、証券保有組合等ができまして、それをとけ合う中で、日本的な持ち合いができてきたと認識しております。
そういった意味では、日本で独自に発展した側面はありますけれども、やはりそういうある種、資本の自由化という大きな変化に対して、まさに安定株主、もっと平たく言うと買収防衛という形でこういう持ち合いが形成されてきたというのが歴史的な流れであったと思いますし、それが特に70年代、80年代においては、いわゆる当時の日本的長期的経営という名のもとに、うまく機能していた時代もあると思います。
ただ昨今、この特に建設的対話という流れの中で問題視されておりますのは、先ほど来、効率的保有ということと、あとガバナンスの問題が挙げられておりますけれども、どちらかというと、日本の企業の稼ぐ力ということを考えたときに、ガバナンス上、やはり阻害要因になっているという認識が広く共有されてきたからではないかと思います。
また会社法の見直しが必要じゃないかというお話もありましたけれども、持ち合いを禁止するというのはなかなか難しいお話だろうと思いますし、そういう中で、この持ち合いに関するガバナンスを強化しようとするときに、やはり開示の充実しかあり得ないのかなと考えております。それによって株主、特に機関投資家を通じたガバナンスを効かせていくというのが、より効率的な、かつ現時点においては会社法の見直しというところまで含めないのであれば、より実現可能な方向性ではないかなと思料いたします。また、このワーキング·グループ自体がディスクロージャーということでございますので、その目的にも適うのではないかと思います。
特に個別対話で対応できるんじゃないかというお話も出ておりますけれども、個別対話で対応できるのであれば開示もできるだろうというのが率直な感触であります。また既にご指摘がありましたが、ある企業が保有している株式と同時にその会社における安定株主の比率というのが非常に大切なのだろうと思います。先ほど小畑委員の方から、安定株主の把握が難しいというお話もありましたけれども、企業が安定株主として期待されている株主があるとして、その方々、まさに議決権行使の票読みなんかをよくなさっておられるようでありますけれども、そういうときに安定株主として保有されている会社の個別の会社名までは必要ないと思いますが、安定株主比率は、ガバナンス情報上、極めて有用な情報ではないかと思います。もし可能であるならば、有報上、及びガバナンス報告書上で開示していただけると大変貴重な情報になろうかと思いますし、建設的な対話に大変資すると考えます。
<ゴールドマン·サックス>
我々、海外投資家と話をしていて一番、実は苦労するのが、応諾という言葉を説明する際なんですね。政策保有株を売る際に、応諾を与えるとか、与えないとか、何でそんなホルダーに権利がないんだと。ここはやっぱり一番、我々苦労するところですし、海外投資家が見えていないところでございますので、そこに対してのディスカッションがないのは、そもそも見えていないからだと我々は思っています。
海外投資家も、日本企業さんの現場力、プロダクトというのは非常にすばらしいとは思っているものの、こういった純投資でない、ちょっと見えない投資家の存在というのがやはり投資をためらわせるといったところがあると思っています。
とはいえ、日本の商習慣そのものと言ってもおかしくないような状況だと我々は思ってますので、とはいえこれをやっていかないと、なかなか日本のインベストメントチェーンも改善せずに、日本という国もなかなかよくならないということで、我々の子孫のためにも、いい国を残すためにも、ぜひご検討いただきたいところでございます。