銀行員のための教科書

これからの時代に必要な金融知識と考え方を。

コストの高い投資信託はパフォーマンスが悪いという不都合な事実

f:id:naoto0211:20200829105058j:plain

金融庁が「国内運用会社の運用パフォーマンスを示す代表的な指標 (KPI)に関する調査」を公表しました。

これは国内の運用会社が発売している投資信託が本当に投資家のためになっているのか、運用コストと運用パフォーマンスの間にきちんと相関関係があるか(「高い」商品は「高い質」になっているのか)等を調査しているものです。

資産運用はこれからの低金利、低成長、高齢化社会において必要な機能であることは間違いありません。

今回は上記調査結果について簡単に見ていくことにしましょう。

 

調査結果概要(運用効率)

当該調査はQUICK資産運用研究所に委託されています。

その調査報告のデータ概要については以下の通り報告されています。まずは引用します。

・2019年度は新型コロナウイルスの感染拡大により、2月から3月にかけそれまで堅調に推移していた世界の金融市場が急変。全ファンドの5年平均リターンがマイナスになった結果、シャープレシオ平均(運用効率)も前年度(2018年度)末のプラスからマイナスに転じた。
・分類別をみると「国内株式型」「国内債券型」「国内REIT型」と「バランス型」のシャープレシオ平均がプラスを維持したものの、その水準は前年度から軒並み縮小。その他の分類のシャープレシオ平均はマイナスとなっている。
・こうした中で、アクティブ運用を主体にする独立系運用会社の一部や、DC専用とつみたてNISA対象ファンドでは、シャープレシオ平均がプラスとなっている分類もあり、健闘が目立つ。
・分類ごとにDC専用とつみたてNISAに着目すると、「国内株式型」と「先進国株式型」のつみたてNISAや「新興国株式型」のDC専用などでアクティブ運用が上位に立っているが、他は総じてインデックス運用が優位の状況。

(出所 「国内運用会社の運用パフォーマンスを示す代表的な指標(KPI)に関する調査」について)

この報告にある通り、コロナの影響もあり投資信託の運用効率(シャープレシオ)は全体としては低下しています。

シャープレシオの説明は以下です。

リスク(標準偏差)1単位当たりの超過リターン(リスクゼロでも得られるリターンを上回った超過収益)を測るもので、この数値が高いほどリスクを取ったことによって得られた超過リターンが高いこと(効率よく収益が得られたこと)を意味します。異なる投資対象を比較する際に、同じリスクならどちらのリターンが高いかを考えるときに役立ちます。
このシャープ・レシオは、リスク調整後のリターンを測るものとして、投資信託の運用実績の評価などにも利用されます。 

f:id:naoto0211:20200829111213g:plain

例えば、利回りが12%の投資信託Aと14%のBがあったときに、ポートフォリオリスクがそれぞれ5%と10%、無リスク資産の利回りが2%だったとします。
投資信託Aのシャープ・レシオ=(12-2)÷5=2.0
同Bのシャープ・レシオ=(14-2)÷10=1.2
となることから、Aの方が効率的な運用ができていると考えられます。

(出所 SMBC日興証券「初めてでもわかりやすい用語集」) 

また、アクティブ運用を主体とする一部の独立系運用会社等は善戦しているものの、総じてアクティブ運用よりもインデックス運用の方が運用効率では優位に立っていることが分かります。


運用コストと運用パフォーマンスとの関係

より分かりやすいのは運用コストと運用パフォーマンスとの関係でしょう。

多額の運用コストが発生していても、運用パフォーマンスがそのコストに見合う以上の実績を出していれば、誰も文句はないと思います。

この運用コストと運用パフォーマンスとの関係については以下のように説明されています。

・2018年末時点での分析結果とほぼ同様の状況となり、アクティブ運用ファンドでは、ファンドによる相関度合いのバラツキはあるものの、多くの分類において、運用コストと運用パフォーマンスとの間に、統計的に有意なマイナス相関が認められる。
・「新興国株式型」などでは統計的に有意なマイナス相関関係が認められない。この点に関しては、株式の保管コストなど信託報酬以外の費用を含む総経費率の運用パフォーマンスに与える影響度合いの大きさが関係している可能性もある。

(出所 「国内運用会社の運用パフォーマンスを示す代表的な指標(KPI)に関する調査」について)

この調査結果では、運用コストと運用パフォーマンスとの間に、統計的に優位な「マイナス相関が認められる」とされています。 

以下の図表をご覧ください。

f:id:naoto0211:20200829105744j:plain

(出所 「国内運用会社の運用パフォーマンスを示す代表的な指標(KPI)に関する調査」について)

かなりの分類の投資信託において「▲」が付いているのが分かります。これが有意水準でのマイナス相関が計測されているものになります。

有意水準とは「統計上、ある事象が起こる確率が偶然とは考えにくい(有意である)と判断する基準となる確率(デジタル大辞泉)」です。

そしてマイナス相関とは「2つの変数の一方が増加するとき他方が減少する関係があること」です。

すなわち、アクティブ運用ファンドにおいて、運用コストと運用パフォーマンスに有意水準でマイナス相関が計測されているということは「運用コストが高ければ運用パフォーマンスは低下傾向にあり」「運用コストが低ければ運用パフォーマンスが上昇傾向にある」ことになります。

我々を取り巻くほとんどの商品・サービスは、価格と品質・パフォーマンスにはプラスの相関関係があります。伊勢丹で購入した高いTシャツとユニクロで購入したTシャツを家族や友人に見せると、伊勢丹のTシャツの方が良いと言うはずです(最近は良く分かりませんが)。

しかし、金融商品、投資信託という商品においては、この関係が崩れており、運用コストが低い方が運用パフォーマンスが高い傾向にあるということになります。

 

参考図表

上記の運用コストと運用パフォーマンスの関係については以下の図表が視覚的には分かりやすいでしょう。

実質信託報酬と5年シャープレシオの相関関係を示しています。

簡単に言えば、下の図表にある青色の直線が右肩上がりであれば、運用コストと運用パフォーマンスはプラスの相関となり、右肩下がりであればマイナスの相関があることになります。

f:id:naoto0211:20200829113436p:plain

f:id:naoto0211:20200829113802p:plain

f:id:naoto0211:20200829113906p:plain

(出所 「国内運用会社の運用パフォーマンスを示す代表的な指標(KPI)に関する調査」について)
この図表は非常に示唆に富んでいるのではないでしょうか。

所見

この調査は個人が投資信託を購入して資産運用を行う上で参考になるものです。

少なくとも過去においては、運用コストの高いアクティブ投信よりも運用コストの低いインデックス投信のような投信を選んだ方が、投資家としてはより良いリターンを享受できたことは間違いなさそうです。

この傾向は今後も続く可能性は否定できません。インデックス投資の隆盛は続くのでしょう。

一方で、コロナショック後のWith コロナ、もしくはAfter コロナの時代においては、世界は変わる可能性があります。その際にもインデックス投資が有効かは筆者には分かりません。

逆に言えば、このタイミングこそ、「人間」の知恵や創造力を発揮する時です。

アクティブ投信がインデックス投信のパフォーマンスを凌駕してくることを期待したいと筆者は思います。そうでなければ、人間のファンドマネージャーはAIに取って代わられるのではないかと思えてなりません。今後のアクティブ運用の逆襲に注目しています。