MUFG傘下の三菱UFJ国際投信がAIを活用した投資信託を8月に発売すると発表しました。
日経新聞の報道では「全てをAIに任せる投信は日本初」としています。
今回は、MUFGのAI投信はどのようなものか、AI運用とはそもそもどのような仕組みなのか、AIファンドの今後等について考察していきましょう。
報道内容
MUFGのAI投信については日経新聞が解説記事を掲載しています。
以下引用します、
投信運用 全てAI 三菱UFJ系、日本で初
2018/07/19 日経新聞三菱UFJ国際投信は人工知能(AI)が運用内容を決める投資信託を8月に発売する。言語処理などの技術を持つ米企業と提携、どの銘柄を採用し、どういう割合にするかなどすべてAIが担う。これまでも運用の一部にAIを活用する投信はあったが、すべてをAIに任せる投信は日本で初めてとなる。
「宇宙開発」「遺伝子工学」「ロボティクス」と3つのテーマの投信をインターネット証券会社経由で売り出す。
投信は米国に上場する企業に投資する。有価証券報告書など公表されている資料からAIがテーマに関連するキーワードを抽出。キーワードの頻出度合いや前後の文脈などから企業がその分野でどれほどの重要性・有望性があるかを判断し、投資対象として抽出する。それぞれ30~40社を組み入れ、年に2度見直す。
AIは米格付け機関S&Pグローバルの子会社が開発した。データ分析や自然言語処理に強みを持ち、宇宙開発などのほかにも、ドローンやウエアラブルといった技術革新による成長が見込める産業ごとに23のテーマで銘柄を選んでいる。
三菱UFJ国際は2019年6月までに、さらに6つのテーマの投信を発売する計画。投資経験の少ない個人投資家にもわかりやすいテーマを選ぶことで、投資家の裾野拡大につなげたい考えだ。
世界でも運用のすべてをAIが担うファンドは珍しく、三菱UFJ国際によると個人向けではまだ韓国と南アフリカでしか提供されていないという。
日本では運用の一部にAIを使った投信が増えている。アセットマネジメントOneはAIやビッグデータを扱う専門部隊を設け、運用担当者の投資判断をサポートしている。大和証券投資信託委託はAIを使って株価の変動を予測する仕組みを研究する人材を外部から招いた。低コストで効率的な運用につながるとして、AIを使った商品や手法の開発競争は一段と激しくなりそうだ。
これが報道内容です。
すべてをAIが担うという点で非常に画期的な商品と感じるでしょう。
では、この商品について以下で詳細を確認していきましょう。
AI運用とは
そもそも「AI運用」とはどのようなものでしょうか。
ここでAI運用について確認しておきましょう。
AI運用とは、コンピューターが深層学習(ディープラーニング)等で自ら学び答えを導き出すAIを活用した運用手法です。
従来から行われていたクオンツ(計量)運用が運用モデルを人間が作っていたことにたいして、AI自らがモデル構築まで行うようになってきています。ただし、筆者からみると、ポイントなる指標を設定して投資判断を決めていく以上、クオンツ運用とAI運用の明確な差は無いようにも思います。
三菱UFJ国際投信の発表内容
三菱UFJ国際投信は同時に3つの商品を発表しました。
「eMAXIS Neo 遺伝子工学」「eMAXIS Neo ロボット」「eMAXIS Neo 宇宙開発」です。
このAI投信の商品概要について以下ポイントを抜粋しておきましょう。
(※以下はeMAXIS Neo 遺伝子工学から抜粋したものですが、遺伝子工学部分をロボット、宇宙開発に置き換えれば上記他ファンドの説明文となります)
- 当ファンドは、米国の金融商品取引所に上場している、日本を含む世界各国の遺伝子工学関連企業の株式等に投資を行い、Kensho Genetic Engineering Index(配当込み、円換算ベース)に連動することをめざすファンドです。
- Kensho Genetic Engineering Indexについて:AIを活用し、企業の開示情報などの膨大な文献を自動的に処理すること等を通じて、第4次産業革命の原動力となる技術群(テーマ)に沿う銘柄を選定する「Kenshoニューエコノミー指数」の一つです。このインデックスでは、遺伝子工学関連企業の銘柄を先手いします。
- Kensho社は、データ分析・機械学習・自然言語処理などを強みとする米国のテクノロジー企業であり、米国大手指数提供会社のS&P Global Inc.の100%子会社です。
このプレスリリースと新聞報道から判明することは単純です。
このAI投信はKensho社が作った指数(Index)に連動することを目指すだけの投信です。
連動するIndexが、Kensho社がAIを通じて作ったものだということなのです。
その指数等の利用について三菱UFJ国際投信が許諾を得て、国内でAI投信として商品化しています。
銘柄の選定、銘柄の割合についてはAIが年に2度見直すのでしょう(Indexがその内容を次々と見直していたら問題となります。日経平均がその代表例でしょう。)
そのようにしてAIによって構成されたIndexに連動するように、三菱UFJ国際投信が(おそらくAIの手を借りずに)、ファンド(投信)で銘柄を取得するのです。
このような投信について「運用を全てAIに任せる」と報道するのは誤解を生むのではないでしょうか。話を膨らませすぎでしょう。
当該記事につき筆者も画期的だと思いプレスリリースをチェックし、Kensho社について調べもしましたが、愕然としました。
ただし、上述のAI運用という定義から考えれば、当該投信もAI運用とはいえるのでしょう。
AI運用の今後
インターネット回線の高速化、システム処理能力の向上によって大量のデータを解析できる環境が「コンピューターにとって」整いました。これにより、単独の企業を取り巻く、ありとあらゆるデータも解析の対象になってきています。
ニュース、有価証券報告書、ネットの書き込みなど、大量のデータから特定の銘柄を点数化し、点数が高い銘柄の購入を行うという形でAI運用では投資先企業が選定されるのです。
海外のヘッジファンドでは四半期決算発表の電話会議の音声も分析対象としています。経営者がアナリストからの質問に対して自信の無いような受け答えをすると、微妙な声の揺らぎでもAIが収集し定量化(分析)してしまうこともありえます。その瞬間にヘッジファンドがその企業の株を売り始めているかもしれないのです。
そして、AIは人間のように感情を持ちません。自身の投資判断により損失が発生したとしてもためらいもなく損切りもするでしょう。
そのような観点ではAIというのは人間よりも運用に向いている可能性はあります。
ただし、AI運用の商品は地方銀行や企業年金基金等のプロ投資家が購入するにはハードルがあります。「誰が」「なぜ」「この株式を」買ったのかをAI商品を作った運用会社も説明できない可能性が高いからです。
そうなるとプロ投資家側も商品の優劣について判断ができません。
結果として、日本ではしばらくの間はプロ投資家のAI運用商品購入は行われないでしょう。AI運用商品は、個人向けとして販売されていくことになります。
もちろん、人間よりもAIの方が運用パフォーマンスが優れていることが示されれば中期的にはAI運用の投資商品をプロ投資家も購入する可能性はあります。