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コロナ禍の中で、雇用状況について確認しておく

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コロナ禍の中で、サービス業の雇用に影響が広がっていると報道されています。

非常事態宣言が続き、外出自粛、営業自粛が続けば幅広い業種で影響が出てくるでしょう。

足元の雇用状況について、簡単に見ていくことにしましょう。

 

報道記事

まずは、日経新聞の記事を確認しておきましょう。

宿泊・飲食、就業14万人減 外出自粛でサービス直撃
2020/04/28 日経新聞
 新型コロナウイルスの感染拡大による外出自粛で、サービス業の雇用に影響が広がっている。総務省が28日に発表した3月の労働力調査によると、宿泊・飲食サービス業の就業者は14万人減と約5年ぶりの大幅な減少となった。2008年秋からのリーマン・ショックでは製造業からあふれた雇用をサービス業が吸収したが、今回はその受け皿を直撃している。
宿泊・飲食サービス業の減少率は3.4%。教育・学習支援業は11万人(3.4%)減った。製造業も24万人(2.2%)減ったが「サービス業に大きな影響が出ているのはリーマン危機後にはみられなかった点」(総務省の担当者)という。
 サービス業は労働集約型で雇用吸収力が高いが、今回は飲食業などを中心に外出自粛や営業停止で雇用をつなぎ留められなくなっている。
 就業者の減少の多くは非正規従業員が占めた。製造業で15万人、宿泊・飲食サービス業で7万人、教育・学習支援業で9万人減った。非正規全体では26万人減と、比較可能な14年以降で最大の減少だった。事業規模の小さい自営業主や家族従業者も40万人減っており、雇用形態や経営体力の弱い部分に新型コロナの影響が顕著に表れ始めた。
 完全失業率は2.5%と失業者が急増する米国などに比べるとまだ落ち着いてみえる。解雇規制が厳しい日本では簡単に解雇には至らない。リーマン危機後も非正規の雇い止めや正社員の賃金カットが先行した。
 ただ、民間エコノミストの間では年内に4%を超えるとの見方も多い。総務省の担当者は「リーマン危機時は1年かけて失業率が徐々に上がった。今回はもっと速く波及する可能性がある」と懸念する。

記事を見ると、非正規社員が大幅に雇用を打ち切られていることが分かります。そして、事業規模の小さい自営業者(家族従業員含む)が大幅に減少していることも特徴的でしょう。

では、もう少し詳しく見ていくことにしましょう。

 

総務省労働力調査

上記の日経新聞の記事を見るとかなり悲観的な状況にあると思われるでしょう。

あえて言いますが「この記事は本当でしょうか」。

こういう時は一次資料、すなわち原典にあたってみると良いでしょう。

一次資料は、総務省が2020年4月28日に「労働力調査(基本集計)2020年(令和2年)3月分」として公表しました。筆者が重要と考えるポイントを抜粋していきます。

【就業者】

  • 就業者数は6700万人。前年同月に比べ13万人の増加。87か月連続の増加
  • 雇用者数は6009万人。前年同月に比べ61万人の増加。87か月連続の増加
  • 正規の職員・従業員数は3506万人。前年同月に比べ67万人の増加。6か月連続の増加。
  • 非正規の職員・従業員数は2150万人。前年同月に比べ26万人の減少。2か月ぶりの減少
  • 主な産業別就業者を前年同月と比べると,「医療,福祉」,「卸売業,小売業」などが増加,「製造業」などが減少

(出所 総務省/労働力調査)

この全体像で見ると、日経新聞の記事とは違った光景が見えてくるのではないでしょうか。

簡単に言えば、正社員は増えていて、非正規社員の減少を上回り、全体では就業者数、雇用者数は増えています。そして、コロナの影響を大きく受けているであろう、卸売・小売は増加し、製造業が減少しています。

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(出所 総務省/労働力調査)
以上の図表を見ると良く分かりますが、自営業主・家族従業者が減少しています。

自営業主・家族従業者数は650万人で、前年同月に比べ40万人(5.8%)の減少です。

雇用者数は6,009万人で、前年同月に比べ61万人(1.0%)の増加(87か月連続の増加)です。そのうち、男性は3,285万人(29万人の増加)、女性は2,724万人(32万人の増加)となっています。

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(出所 総務省/労働力調査)
この図表を見ると正規雇用と非正規雇用の状況が分かります。

これで見ると確かに2020年3月は対前年で非正規雇用が減少しています。

しかし、よく見るべきなのは、正規雇用が非正規雇用の減少を上回っているということです。これは日本全体で見ると非正規雇用から正規雇用に移っているとも言えるでしょう。

また、非正規雇用の中で大きな割合を占める契約社員については、男性が▲21万人、女性が▲9万人となっています。コロナ禍の中では、すぐに女性の契約社員(事務職)が減るというイメージがある方もいるかもしれませんが、現段階ではむしろ製造業の不振に伴う期間工等の男性契約社員の減少の方が強く出ていると思った方が良いでしょう。

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 (出所 総務省/労働力調査)

上表の主な産業別就業者数を見ると、イメージとは裏腹に、卸売業・小売業は「前年同月」では増加しています。減少しているのは、農業・漁業が▲7万人、製造業▲24万人、金融・保険業▲5万人、宿泊業・飲食サービス業▲14万人、教育・学習支援業▲11万人、サービス▲6万人です。これを運輸業、卸売・小売業、医療・福祉業等の雇用増でカバーしているのです。

この数を見る限り、農業・林業、製造業、金融・保険業は、コロナの影響が雇用の減少とは言い切れないのではないでしょうか。元々の構造的な問題が要因のように筆者には感じられます。

現時点で、コロナの影響を最も受けているのは宿泊業・飲食サービス業でしょう。これについては留意が必要です。しかし、日本全体では、前年対比で雇用は増加しているということも忘れてはならないのではないでしょうか。

 

所見

同じ労働力調査(季節調整値)によると、就業者数は6,732万人であり、前月(2020年2月)に比べ11万人(0.2%) の減少となっています。一方で雇用者数は6,054万人であり、前月に比べ3万人(0.0%) の増加です。

2020年3月に起きたことは、個人や家族で事業を営んでいる事業者が減少していることであり、非正規雇用も含めた雇用者は全体としては減少していないということなのではないでしょうか。

雇用について楽観視してはいけませんし、これから大きな動きが出てくる可能性は高いでしょう。

しかし、印象や報道だけで物事を判断するのではなく、まずは一次資料にあたり事実を確認することが重要であると今回の労働力調査は示しているように筆者は思います。