日本は、戦後の住宅不足の時代から高度成長期に至るまで、大量の集合住宅を建築してきました。
最初に建てられた都心の分譲集合住宅(いわゆるアパート・マンション)は1953年築とされています。
この蓄積されてきた分譲マンションは老朽化が進展してきています。そのため、建て替えが今後は課題となってきます。
今回は、この分譲マンションの建て替えに関する動きについて確認していきましょう。
報道内容
まずは、老朽化したマンションに関する直近の動きについて報道内容を確認しておきましょう。
老朽マンション「玉突き」建て替え、都が容積率上乗せ
2018/08/19 日経新聞
東京都は老朽マンションの連続した建て替えを促す制度を、2019年度にも創設する。不動産会社が老朽マンションを買い取れば、別の場所に建てるマンションの容積率を上乗せする。買い取った物件の跡地にマンションを建設する場合にも、別の老朽物件を買えば容積率を積み増す。企業主導で旧耐震基準のマンションを建て替え、災害に強い都市を目指す。
老朽マンションを買い取った不動産会社などが周辺で居住者の転居先にもなるマンションを開発する際、容積率を上乗せする。通常より分譲戸数を増やせるため収益が増え、企業が建て替えに参入しやすくする。
買い取った老朽物件は解体し、跡地で新たなマンションを開発してもらうことを想定する。跡地の新マンションも周辺の別の老朽マンションを買い取れば、容積率を緩和する。複数の老朽マンションの建て替えが玉突きで進むようにする。
小池百合子都知事は今年2月、人口減少社会となる2040年代の東京の土地利用について、都市計画審議会(都計審)に諮問。都は今回の老朽マンション対策を含む基本方針を18年度中に都計審に示す。都計審での意見を踏まえ、19年度にも具体的な制度を創設する予定だ。
都は老朽マンションの現地建て替えを促す制度は既に用意している。17年度には周囲の住宅との共同建て替えを条件に、割増容積率の上限を300%から400%に高めた。
新制度は老朽物件を周辺の一定エリア内で建て替えることを想定するが、不動産会社が新規物件を開発しにくい不便なエリアで建て替えをどう進めるかは今後の課題だ。
マンション建て替えに関する法律
上記の報道でなされているように、マンションの建て替えを行うための法律はすでに手当てされています。
まずは、改正マンション建替え円滑化法の概要について確認しておきましょう。以下は国交省のホームページからの抜粋・引用です。
【マンションの建替えの円滑化等に関する法律の一部を改正する法律】
地震に対する安全性が確保されていないマンションの建替え等の円滑化を図るため、マンション及びその敷地の売却を多数決により行うことを可能とする制度を創設する等の所要の措置を講ずる。
<目的・背景>
・南海トラフ巨大地震や首都直下地震等の巨大地震発生のおそれがある中、生命・身体の保護の観点から、耐震性不足の老朽化マンションの建替え等が喫緊の課題。
⇒現在のマンションストック総数約590万戸のうち、旧耐震基準に基づき建設されたものは約106万戸。一方、マンション建替えの実績は累計で183件、約14,000戸 (H25年4月時点)。<対応>
・マンション敷地売却制度の創設⇒4/5以上の賛成
・容積率の緩和特例<容積率の緩和特例>
耐震性不足の認定を受けたマンションの建替えにより新たに建築されるマンションで、一定の敷地面積を有し、市街地環境の整備・改善に資するものについて、特定行政庁の許可により容積率制限を緩和。
(国交省ホームページ マンション建替え等・改修について
http://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/jutakukentiku_house_tk5_000050.html)
改正マンション建替え円滑化法は2014年12月に施行されました。
ポイントは、マンション敷地売却制度の創設、もう一つは容積率の緩和特例です。
同法では、マンション敷地売却制度により、耐震性不足など老朽化が進んだマンションで、区分所有者の5分の4が同意すれば、建物の解体と跡地売却が認められるようになりました。
区分所有者が自力で建て替えるのではなく、跡地を買い受けたデベロッパーなど資金力のある企業による土地活用を進めるルートが設けられたのです。
対象となるのは耐震性が不足するマンションです。耐震改修促進法に基づく耐震診断を受け、特定行政庁から除却が必要な旨の認定を受ける必要があります。
改正前も区分所有法は、区分所有者の5分の4の同意があれば建て替えを認めていましたが、建物の解体や跡地売却は、民法の原則に則り区分所有者「全員の同意」が必要で現実的ではありませんでした。
また、改正マンション建替え円滑化法では、跡地を買い受けたデベロッパーなどが新たにマンションを建設する際、周辺環境に貢献するなどの条件を満たせば、特定行政庁が認める範囲で容積率を緩和するインセンティブを設けています。マンション以外の用途の建物も建設できます。
これが、改正マンション建替え円滑化法の概要です。
所見
今回の報道では、現状の制度をさらに拡大し、東京都が老朽マンションの連続した建て替えを促す制度を、2019年度にも創設すると報道されています。
現状では、現行の法律で認められている容積率の緩和があったとしても、都心の駅に近い立地のマンションをのぞけば、余剰の容積を売却し、少ない資金で建替えができるような分譲マンション物件は少ないと考えられます。すなわち、分譲マンションの建替えは、昔よりやり易くなりましたが、まだまだハードルは高いのが現実です。
今回の報道では「不動産会社が老朽マンションを買い取れば、別の場所に建てるマンションの容積率を上乗せする」とされています。
これが、容積率の緩和による更なるインセンティブとなるのかは、詳細の制度設計を待ちたいところです。既存の老朽化マンションの余剰容積率を異なる物件に使えるだけなのか、それとも何らかの上乗せ緩和があるのか等、気になるところです。
不動産の価値を簡単にあげる方法は、(ニーズある立地ならば)容積率の緩和です。これに優るものはおそらくありません。
今後、人口減少に伴い、日本では空き家が深刻な問題となってきます。分譲マンションについても所有者の高齢化、死去等に伴い空き家等が問題となります。
都市部の活性化のためにも、分譲マンションの建て替えは非常に有効です。
是非、東京都には新しい制度を創設してもらいたいところです。