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私立大学に自宅外から通うにはカネがかかり過ぎるという現実

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東京私大教連の調査によると、首都圏の私立大学に入学した自宅外通学者への仕送り額が過去最低であったこと、仕送り額から家賃を除いた一日あたりの生活費が607円と過去最低であったことが一部で話題になっているようです。

子供を私立大学に行かせるにはお金がかかると言いますが、どの程度かかるのでしょうか。

今回は、改めて私立大学通学にかかる費用について確認していきたいと思います。

 

 

受験から入学まで

今回の記事におけるデータは東京私大教連(1都9県の私立大学の教職員組合で構成する連合体)が発表した「私立大学新入生の家計負担調査 2020年度」に基づきます。

私立大学の教職員組合が調査したものであり、国が私立大学にもっと資金支援をすべきという主張の背景があっての調査ではありますが、私立大学通学にかかる費用という観点では参考になるデータと思われます。

まずは受験から入学までの費用を住居別で示したものです。

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(出所 東京私大教連「私立大学新入生の家計負担調査 2020年度」)

2020年度の調査では、「受験から入学までの費用」は、自宅外通学者は220 万1023 円で前年度比4300 円(-0.2%)減少したものの、自宅通学者は159 万8523 円で前年度比1 万700 円(0.7%)増加し、過去最高額となっています。

「受験から入学までの費用」に占める初年度納付金の割合は、自宅外通学者で 60.9%、自宅通学者で 83.9%と高くなっています。

自宅外からの通学だと受験から入学までで220万円程度の費用がかかるというのは、親にとっては重い負担となります。

 

自宅外通学者の入学初年度費用

次に自宅外通学者の入学初年度の費用を確認しましょう。

これは前述の受験から入学までの費用に加えて、仕送り額(4~12月)が入っています。

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(出所 東京私大教連「私立大学新入生の家計負担調査 2020年度」)

調査対象の私立大学生の世帯(両親)の「税込年収」は、全体平均が 937 万 7000 円となっています。なお、世帯の有所得者数の平均は 1.8 人であり、共働きなど有所得者数が2人以上の世帯は全体の 70.7%を占めています。

すなわち、私立大学生の親は共働きの割合が7割程度であり、世帯年収は900万円を超えています。

ただ、この「税込」年収(=手取ではありません)に対して、自宅外通学者の入学初年度にかかる費用は、3割程度ということになります。

すなわち、自宅外通学者として子供を私立大学に通わせようとすると、家計へのインパクトはすさまじいものがあるということになります。世帯の手取り年収対比では、恐らく4割程度が子供一人の教育費に費やされることになるのです。

 

仕送り額

私立大学の自宅外通学者に対する世帯からの仕送り額はどのようになっているのでしょうか。

こちらは長期的な推移を見てみましょう。

<「6月以降の仕送り額(月平均)」の推移>

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(出所 東京私大教連「私立大学新入生の家計負担調査 2020年度」)

入学直後の新生活や教材の準備等の出費が落ちつく「6月以降(月平均)」が 8 万
2400 円で過去最低を更新しました。

「6月以降(月平均)」の仕送り額は、過去最高だった 1994 年の 12 万 4900 円と比較すると 4 万 2500 円、34.0%減少しています。

 

毎月の生活費

前述の仕送り額に対して、家賃の負担は極めて重いものがあります。

以下は「6月以降の仕送り額(月平均)」に占める「家賃の割合」の推移です。

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(出所 東京私大教連「私立大学新入生の家計負担調査 2020年度」)

2020年度調査での「家賃」の平均は、6 万 4200 円となり、「6月以降(月平均)」の仕送り額 8 万 2400円に占める「家賃」の割合は77.9%と8 割近くとなっています。

そうなると、当然に生活費として使えるお金は限られてきます。

<「6月以降の仕送り額(月平均)」から「家賃」を除いた生活費の推移>

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(出所 東京私大教連「私立大学新入生の家計負担調査 2020年度」)

すなわち、2020年度の1日あたりの生活費は、607円(1万8200円÷30日)であることになります。
バブル真っ盛りである1990年度では1日あたりの生活費は2460円でしたので、大幅に低下していることが分かります。

1日あたり600円だと、さすがに吉野家やコンビニだけでは生活が難しいでしょう。

学生の半数が奨学金を借りているというのはこのような背景があるものと思われます。

 

所見

少子化要因の一つに「子供の教育にお金がかかること」が挙げられることがあります。

これはまぎれもなく大事な観点です。

今回の記事では私立大学の特に自宅外通学者に焦点を当てましたが、私立大学に自宅外から通う子供がいる場合には「家計が傾く」といっても過言ではありません。

「じゃあ、国公立の大学に通わせれば良い」と考える方もいるでしょうが、大学生の75%、約226万人が私立大学・短期大学で学んでおり、学校数では82%を占めるとされています。現実問題として、国公立大学に通うことができない学生は多数発生するのです。

日本は、医療や介護に国家予算の大半を費やしています。これは非常に大事なことではありますが、子供の教育を何とかしないと、そして少子化を止めないと、移民を忌避しているこの国に未来はないかもしれません。

そろそろ少子化について本気で行動しなければならないのではないでしょうか。