在京キー局の2021年3月期3Q決算が出そろいました。
コロナ禍において各社は苦戦しています。
その中で、在京キー局・民放テレビ局はどのような動きをしているのでしょうか。
今回は、在京キー局の決算動向について確認し、今後の動向について簡単に考察してみたいと思います。
在京キー局の決算ポイント
まずは各社の業績を比較してみましょう。
以下は2021年3月期3Q決算の各社概要をまとめたものです。
(出所 各社決算資料から筆者作成)
この表は地上波のテレビ番組に焦点を当てるために、各テレビ局単体の業績を掲載しています。
例えば、日本テレビホールディングスならば、ホールディングスの連結決算ではなく、日本テレビ放送網という単体企業の業績を使っているということになります。
この表を見ると分かるのは、各社とも1~2割程度の減収となっており、放送収入も同様の減収となっていることが分かります。
これは、民放テレビ局ですので、主に広告費収入が低下しているということになります。
その減収への対応として、各テレビ局は減収率以上の番組制作費削減を実践しています。フジテレビの削り方は凄まじいモノを感じます。
番組制作費が放送収入の何割を占めるかを、番組制作の効率性と考えるならば、日本テレビとフジテレビはかなり効率が良い方に分類されます。日本テレビは以前より効率が良く、フジテレビは近時一気に効率を追求してきています。
そして、3Qの決算結果としては、各社とも営業黒字は維持しています。
NHKという巨漢
民放各局は、コロナ禍において広告費という収入が減少しているため、それに対応して、番組制作費を削減してきました。
では、NHKはどのようになっているのでしょうか。
NHKは民放各局とは規模が異なります。
2019年度通期の番組制作費は3,605億円となっており、在京キー局(大手在京キー局は年間1,000億円程度の番組制作費が水準)とはレベルが異なります。
誤解を恐れずに言えば、在京キー局(テレビ東京を除く)の各社の番組制作費の3倍強をNHKは使っています。もちろんチャンネル数が在京キー局はよりは多いため、1つの番組に民放の3倍の予算が使える訳ではありません。
それでも、おカネをかけることで、番組のクオリティが上昇する傾向にあることは間違いなく、それが更に民放を圧迫していることになるのかもしれません。
尚、NHKの2020年度決算は中間決算までしか公表されていませんが、国内放送費は16.6%削減されていますので、民放同様にNHKも番組制作費を削減しているものと思われます。
ちなみに、NETFLIX は2019年通年の番組制作費が1兆6千億円です。NHKをも寄せ付けません。
今後の動向
製作費300万円の映画「カメラを止めるな」が2018年に話題となりました。
筆者は、あのようなアプローチもできることは素晴らしいと考えていますが、一方で、一般的に見れば、「製作費が高ければ高いほど、面白いコンテンツが作れる可能性は高まるはず」です。身も蓋もないですが「カネがあれば、面白いモノも作れる」のです。
しかし、コロナ禍においては、企業の広告費は削減されてしまいました。民放テレビ局は番組制作におカネをかけるどころか、更に削らなければならなくなりました。
もちろん、コストを削減された民放の番組は、恐らく面白さが低下しているでしょう。
しかし、これはコロナが終わったからといって流れが変わるものではないのだろうと筆者は想定しています。
以下は、みずほ産業調査から引用した図表です。
(出所 みずほ産業調査2020年NO.3「日本産業の中期見通し—向こう5年(2021–2025年)の需給動向と求められる事業戦略—」)
これは、東京地区における個人1日あたりのメディアへの接触時間です。
10年前と比べるとメディアに接触している時間は増加しています。
しかし、テレビ、ラジオ、新聞、雑誌といった旧来型のメディアに対しての接触時間は減少しています。特に新聞や雑誌は非常に大きく減少しています。
テレビはまだメディアの中心に位置していますが、主にスマホに時間を奪われていると考えて間違いありません。
この流れは、コロナが終わろうと変わらないでしょう。
人々がテレビに時間を割かなくなるということは、広告媒体としての価値も低下するということです。
テレビ局の広告収入はそう簡単には増加しません。
そうすると、番組制作費をカットして、帳尻を合わそうとします。
番組制作費が削減されると、番組内容は総じて「面白くなくなります」。
そうすると更にテレビを見る時間が減少することになり、負のスパイラルに陥ります。
少なくとも在京キー局が現在置かれている状況は上記のようなモノです。
民放テレビ地上波は、なぜ面白くないのか。
様々な意見はあるでしょうが、筆者は「おカネをかけられないから」だと認識しています。そして、その流れは簡単には変わりないでしょう。