銀行員のための教科書

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テレビ局の経営に起きている変調とは

テレビがオワコンと言われるようになってから、結構な時間が経ちました。

それでもコロナ禍においては外出が出来ない人たちがテレビを見ていたこともあるのでしょう。テレビはここ暫く持ち直してきたように感じられていました。

ところが、2022年度上半期のテレビ局決算を見るとテレビ業界に異変が発生していることが分かります。

今回は、マスメディアの王様であったはずのテレビに起きている状況について皆さんと少し見ていきたいと思います。

 

テレビの利用時間推移

まずは、我々がテレビをどのように視聴しているかを長い時間軸で確認しましょう。

(出所 総務省「情報通信白書令和元年版」)

2000年から2015年の日本におけるテレビ視聴時間(平日1日あたり)の推移をみると、全体では緩やかな減少傾向となっています。年代別では、60代では横ばい傾向にあるものの、50代以下は減少傾向にあり、特に10代及び20代の減少が著しいのが上記グラフで見て取れます。

次に、2016年以降について、より詳しく確認していきます。以下は「テレビ(リアルタイム)視聴」、「テレビ(録画)視聴」、「インターネット利用」、「新聞閲読」及び「ラジオ聴取」の平均利用時間と行為者率を示したグラフです。

<主なメディアの平均利用時間と行為者率>

(出所  総務省「情報通信白書令和3年版」)

全年代では、2020年になり、平日については「インターネット利用」の平均利用時間が、初めて「テレビ(リアルタイム)視聴」を上回る結果となりました。行為者率(平日については調査日2日間の1日ごとに、ある情報行動を行った人の比率を求め、2日間の平均をとった数値。休日については、調査日の比率)については、「テレビ(リアルタイム)視聴」の行為者率は、平日、休日ともに「インターネット利用」の行為者率を下回っています。

年代別に見ると、「インターネット利用」の平均利用時間が、平日、休日ともに各年代で増加しており、特に10代及び20代の平均利用時間が長い傾向が続いています。また、「テレビ(リアルタイム)視聴」は、年代が上がるとともに平均利用時間が長くなっており、60代の平均利用時間が最も長くなっています。行為者率については、平日、休日ともに、10代、20代、30代及び40代では「インターネット利用」の行為者率が、50代及び60代では「テレビ(リアルタイム)視聴」の行為者率が最も高くなっています。尚、「新聞閲読」についても、年代が上がるとともに行為者率が高くなっており、テレビや新聞は中高年のためのメディアと言えるかもしれません。

 

各テレビ局の状況

上記のグラフを見ると世代によってテレビの視聴時間が異なる傾向にあることは分かりましたが、一方でコロナ禍において全世代で見ると視聴時間全体は伸びたことが分かります。やはり巣篭りではテレビ視聴も選択されたのです。

但し、この2022年度上半期においては、この傾向に変調が出てきています。

各テレビ局の状況について2022年度上半期の決算説明会でどのような説明がなされたのか、以下の資料を確認下さい。

(出所 日本テレビホールディングス「2022年度第2四半期決算説明資料」)

(出所 フジ・メディア・ホールディングス「2023年3月期第2四半期決算説明会資料」)

(出所 テレビ朝日ホールディングス「2023年3月期第2四半期決算説明会」)

(出所 TBSホールディングス「2022年度 第2四半期決算資料」)

(出所 テレビ東京ホールディングス「2023年3月期(2022年度)第2四半期決算 補足資料」)
この民法5社の決算資料を見ると分かることがあります。

民法王者の日本テレビは広告収入が▲5.5%(タイム・スポット・デジタル収入)となっています。フジテレビの放送収入は▲7.3%(ネット・ローカル・スポット収入)、テレビ朝日が▲5.8%(タイム・スポット収入)、TBSが▲2.4%(タイム・スポット収入)、テレビ東京が▲6.1%(タイム・スポット収入)と各社減収に陥っています。

ニューノーマル(ウィズコロナ)、ウクライナ情勢の長期化、資源高・原材料高、急激なドル高・円安等の環境変化が起きており、企業広告は6月頃より厳しくなってきているのです。前年比という観点では、前年は東京オリンピックが第2四半期に開催されていたことも当然にあります。

しかし、根本的な問題はやはり視聴率にあります。

 

視聴率の状況とテレビ局の今後

以下は、2022年度上半期の視聴率の状況です。

(出所 TBSホールディングス「2022年度 第2四半期決算資料」)

ここでは各社の状況を確認する以上に注目すべき点があります。それは、PUT(総個人視聴率、Persons Using Televisionの略)が大幅に減少しているということです。

特にゴールデン(19時~22時)、プライム(19時~23時)の視聴率が大幅に減少しています。

これはテレビ局各社が注力するコア視聴率においても表れています。

(出所 TBSホールディングス「2022年度 第2四半期決算資料」)

この二つのデータが示しているのは、テレビは個人に対して広告を流す媒体としては、存在感が低下しているということです。ゴールデンタイムでも個人は3割程度しかテレビを見ていないのです。

コロナ禍で起きたことは、巣篭り=暇つぶしとしてのテレビ視聴時間の拡大、その後のネット利用者の増加(Netflix等)によるテレビ視聴率の特需剥落です。メディアが分散していく中でテレビは一つのパートを占めるに過ぎなくなったのです。今までは、変化しない傾向にある高齢者はテレビを見ていましたが、コロナ禍でネット動画を利用することになったことも大きいでしょう。若者のテレビ離れが言われてきましたが、今や老若男女のテレビ離れが起きてきているのです。

そして、ニューノーマル/ウィズコロナとして個人が動き出す中で、テレビの魅力は更に薄れてきました。それが広告収入の減少につながっているのです。

コロナで先延ばしされていましたが、テレビ局は改めてテレビという媒体の強みを取り戻せるか挑んでいく必要が出てきています。アフターコロナ(ウィズコロナ)では、テレビというメディアが、どうやったらインターネット(ネット動画等)に勝てるのか、本当の経営力が試されるのでしょう。但し、ライバルであるTwitterやFacebook等は大規模なリストラを行っています。ライバルが更に強くなっていくこともあり得るのです。優良なコンテンツを作り、それをどのように届けるのか、テレビ局各社の動向から目が離せません。