今回の新型コロナウィルス感染症拡大の影響が企業業績や個人の事業にも及んでいます。
個人にとってみても、万が一にも勤務する企業が倒産したり、自らの職を失ったりすることも想定されるでしょう。
我々一人ひとりにとっては、この経済危機に対する備えはどうでしょうか。
今回は、我々個人としての「備え」である余裕資産、貯蓄の状況について、世帯毎の金融資産という切り口で確認してみましょう。
単身世帯の状況
日本銀行が事務局を担う金融広報中央委員会では、家計の調査を行っています。今回は「家計の全融行動に関する世論調査[単身世帯調査] (2019年)」を利用します。
この調査においてアンケートを取っている「金融資産」は、事業のために保有している金融資産や、土地、住宅、貴金属等の実物資産、現金、預貯金で日常的な出し入れ、引落しに備えている部分は除かれており、純粋な運用資産となっています。
この調査においては、単身世帯の金融資産保有額は、平均値で645万円となっています。
一方で、中央値は45万円となります。
平均値は少数の高額資産保有世帯によって大きく引き上げられることがあるため、平均値だけでみると、多くの世帯が実感とかけ離れた印象をもつかもしれません。この2019年の調査では、全融資産保有額の平均値は645万円でしたが、保有世帯(金額無回答を除く)が1,479 世带、非保有世带(保有額=0万円とみなす)が950世帯であり、全世帯(金額無回答を除く)のうち8割弱が平均値よりも保有額が少なくなりました。
この平均値の持つ欠点を補うために、本調査では平均値のみならず中央値を用いています。
中央値とは、調査対象世帯を金融資産保有額の少ない順(あるいは多い順)に並べたとき、中位(真ん中)に位置する世帯の金融資産保有額のことです。こちらの方が、イメージの中の平均値に近いでしょう。
日本の単身世帯の一般像としては、運用資産であり余裕資金である金融資産は45万円とみることができます。
これを年代別でみると以下のようになっています。
- 20歳代 平均値106万円、中央値5万円
- 30歳代 平均値359万円、中央値77万円
- 40歳代 平均値564万円、中央値50万円
- 50歳代 平均値926万円、中央値54万円
- 60歳代 平均値1,335万円、中央値300万円
中央値が少し低い気はしますが、これが日本の単身世帯の実情と言えるでしょう。
二人以上世带
同様に「家計の金融行動に関する世論調査[二人以上世帯調査](2019年)」では、二人以上の世帯における金融資産の保有額は平均値が1,139万円となっており、中央値は419万円です。
世帯主の世代別に分けると以下の通りとなります。
- 20歳代 平均値165万円、中央値71万円
- 30歳代 平均値529万円、中央值240万円
- 40歳代 平均値694万円、中央値365万円
- 50歳代 平均値1,194万円、中央値600万円
- 60歳代 平均値1,635万円、中央値650万円
- 70歳以上 平均値1,314万円、中央値460万円
単身世帯と比べて、二人以上の世帯は全融資産の保有額が多くなっていることが特徴でしょう。
消費支出
上記で日本の世帯における金融資産(余裕資金)について確認しました。
もし万が一にでも、各世帯において収入が無くなった場合には、この金融資産で家計を維持できるのはどの程度の期間でしょうか。
以下は 総務省の「家計調査 2019年(令和元年)平均」における世帯当たりの1カ月の消費支出の平均です(こちらについては中央値はありません)。
- 消費支出(総世帯)は、1世帯当たり249,704円
- 消費支出(単身世帯)は、1世帯当たり163,781円
- 消費支出(二人以上の世帯)は、1世帯当たり293,379円
これで見ると、二人以上の世帯は仮に収入が途絶えたとしても14カ月 (=中央値419万円÷29万円)は持ちこたえられるものと思われます。
一方で、単身世帯の金融資産は中央値が45万円となっていますので、もし収入が途絶えると2カ月ちょっと(=45万円÷16万円)しか持ちません。
所見
以上の試算はあくまで全体像であり、平均的な話です。
個別の世帯には、 それぞれの事情があり、全体像としてとらえるのは意味がないかもしれません。
しかし、上記のデータを見る限りでは、雇用の問題が発生したり、個人の事業で収入が途絶えたりすると、特に単身世帯において問題が発生するであろうことは分かります。
新型コロナウィルス感染症拡大に対応して様々な施策が政府・地方自治体から出されていますが、最終的に問題となるのは個人の生活が維持できるかです。
全員に10万円給付することも含めて「迅速な対応」が、特に収入が途絶えた単身世帯に求められるのではないでしょうか。