銀行員のための教科書

これからの時代に必要な金融知識と考え方を。

日本全国の銀行員数の推移はこうなっている

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銀行が「構造不況業種」と言われて久しい状況が続いています。

特に地方銀行の苦境は報道が相次ぎ、銀行員の退職が増えているとの報道も見られるようになりました。メガバンクもRPAやAIを導入し業務量の削減、新卒採用の抑制による人員減等の動きをしています。

銀行は生き残りのため、リストラを強化しているのでしょうか。

今回は、全国の「銀行員数の推移」について焦点を当て、確認してみることにします。

 

報道内容

まずは、以下の報道をご覧下さい。

消える銀行員 デジタル技術で省力化 全国で大幅減少
2019年7月28日 NHK News Web

デジタル技術の導入で金融業界の省力化が急速に進んでいます。全国の銀行員の数は去年からことしにかけて3600人減り、3大金融グループができた2006年以降、最も大きく減ったことが民間の調査でわかりました。

民間の調査会社東京商工リサーチが全国81の大手銀行と地方銀行を調べたところ、ことし3月末時点の銀行員の数は合わせて22万3778人で、前の年の同じ時期より3629人減っていました。

また、銀行員を減らした銀行は全体のおよそ8割にあたる62行に上りました。

去年からことしにかけての減少数は、三菱UFJ、三井住友、みずほの3大金融グループができた2006年以降で、最も大きくなりました。

3大金融グループを含む大手銀行では2006年以降、銀行員の数が一貫して増えていましたが、今回、初めて減少に転じました。

金融業界では、デジタル技術の導入によって手作業で行っていた大量の伝票処理が自動化されるなど効率化が急速に進んでいます。

また、ネットバンキングの普及で来店客が減少していることから、店舗の統廃合に乗り出し、拡大路線を見直す銀行も増えています。

銀行業界に詳しい、マネックス証券の大槻奈那チーフ・アナリストは「人手をかけて収益を上げる従来のビジネスモデルは過渡期を迎えている。この流れは始まったばかりで、今後、加速していくだろう」と話しています。

これが銀行員の数における直近の報道です。

 

銀行員数の推移

では、報道にある通り銀行員の人数は減少しているのでしょうか。

全国銀行協会の統計データを基に確認しましょう。

NHKのデータソースは81行の銀行についてのものでしたが、全国銀行協会のデータは115行(2018/9時点)となります。 最終のデータが2018年9月時点のものですので、上記の報道のタイミングとは半年ずれていることには留意が必要です。

  全体 都市銀行 第一地銀 第二地銀
2018/9 304,312 98,612 135,126 43,624
2018/3 299,121 97,837 130,509 44,344
2017/3 299,462 97,601 130,944 44,790
2016/3 296,595 95,107 130,788 44,825
2015/3 294,442 93,416 130,818 44,889
2014/3 292,910 91,101 131,623 45,253
2013/3 295,045 91,808 132,428 45,984
2012/3 298,128 92,859 132,888 47,395
2011/3 300,243 94,000 133,413 47,916
2010/3 300,709 94,613 132,692 48,555
2009/3 294,801 91,142 129,498 49,054
2008/3 286,273 86,826 126,634 48,194
2007/3 282,101 84,695 124,911 47,840
2006/3 282,638 85,531 124,274 48,542
2005/3 288,032 86,764 126,944 49,791
2004/3 302,028 93,412 130,213 53,421
2003/3 321,181 101,958 135,623 57,446
2002/3 332,730 104,847 141,237 59,830
2001/3 352,805 113,140 147,966 62,855

(※職員数は事務系職員、庶務系職員、出向職員および在外勤務者の在籍総数。ただし、長欠・休職者を含め、嘱託・臨時雇員を除く。)

これだけ見ると分かりづらいかもしれません。

以下は上記データを図表化したものです。

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(出典 全国銀行協会統計資料)
全国銀行協会がインターネットで開示している銀行員数の推移は2001年3月からです。

銀行員数全体では、減少してきたことが良く分かるでしょう。

では、上記グラフを更に分解・拡大して見てみましょう。

 

<銀行員数全体の推移>

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上記でのポイントは2001年3月~2006年3月のわずか5年で銀行員全体では約2割減少している点です。

そして約7万人減少した銀行員は、その後約2万人増加していますが、減少分の1/3も回復していません。

 

<都市銀行における銀行員数の推移>

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都市銀行(メガバンクおよびりそな)は2001年3月から2007年3月までの6年間で25%の人員を削減しました。

その後は傾向としては行員の数を増加させてきています。

 

<第一地銀における銀行員数の推移>

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第一地銀は比較的経営が安定していたと言えるかもしれません。

2001年3月から2006年3月までの5年間で行員数は16%減少しています。これは都市銀行比べると緩やかなものになっています。

第一地銀は地元の有力行であり、合併・再編が進まなかったことが要因と考えられます。

 

<第二地銀における銀行員数の推移>

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第二地銀は2001年3月から2007年3月までの6年間で24%の行員を削減しました。この割合自体は都市銀行と同程度でしたが、この先が都市銀行とは異なります。

その後も基本的には行員数の減少が続いており、2001年3月から比べると31%減少(2018年9月時点)しています。右肩下がりが続いているのが第二地銀の動向です。

 

まとめ

NHKでの報道では2019年3月期に銀行の大幅な人員削減がなされたとのニュアンスとなっています。

一方で、2006年(もしくは2007年)以降は、銀行全体では銀行員数が増加してきました。全国銀行協会の統計が現時点では出ていないので2019年3月期の動きについては判然としませんが、減少人数・割合としては、小幅に留まっている可能性があるものと思います。

銀行の人員削減は2001年から2006年頃までの動きが非常に印象的です。金融危機、メガバンクの誕生、大手行の破綻・経営統合、不良債権処理による巨額赤字等を経て、大幅なリストラを断行したのがこの時期でした。

2000年代前半は、特に大手銀行にとっては生き残りに必死な時期だったと言えます。目の前に破綻するかもしれないという現実が迫っていたのです。

現在は、収益は厳しく、特に地銀にとっては新しい成長分野が見えない環境にあり、技術の進歩もあり、銀行の経営者は銀行業態の存続に危機感を抱いているものとは思います。

しかし、少なくとも2000年代前半と異なり、破綻するリスクが目の前に迫ってる訳ではないでしょう。この違いは大きいのではないでしょうか。従って、銀行業界では、一気に人員のリストラを行うのは難しい状況でしょう。

但し、メガバンク等大手銀行は、RPA、AIを駆使し更なる効率化を進めていくでしょう。また、「いわゆるバブルの大量採用世代」が出向年次に入り始めていますので、大手銀行の人員は自然減でも大幅に減少するものと想定されます。

加えて、第二地銀は規模と収益力の問題から経営統合を選択し、更なる効率化、人員削減を目指す可能性は高いものと想定されます。

銀行員数を切り口とした銀行業界の動向については、これからも注目していきたいと思います。