銀行員のための教科書

これからの時代に必要な金融知識と考え方を。

スーツ代は経費にならないのか

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新卒一括採用を行う企業が多い日本では、4月から新社会人・新入社員が大量に誕生します。

新入社員が企業に入って最初に感じることの一つが「会社に着ていくスーツの費用負担が重い」ということではないでしょうか。

会社が着用を求めているのに、会社は費用を負担してくれませんし、スーツを支給してもくれません(制服なら支給してくれる会社はありますが)。筆者も新入社員の時には、本当に困りました。

このスーツに関する費用はどうにかならないのでしょうか。

今回はスーツの費用について確認しましょう。

 

スーツは経費にならないのか

個人事業主は経費を売上から差し引けるという話や、企業経営者が会社の経費を使えるという話をお聞きになったことがあるかもしれません。例えば、飲み代はその最たる例でしょう。

一方で、いわゆるサラリーマン(本当はサラリーパーソンとでも呼んだ方が良いかもしれませんが)は自由に使える経費を基本的に持ってません。これは不公平だと考える方は多いでしょう。

実は、企業に勤める会社員にも必要経費は認められています。これは「給与所得控除」という制度であり、年収によって控除される額が計算できます。以下は国税庁のホームページに掲載されている給与所得控除の計算式です。

  • 給与等収入1,800,000円以下→給与所得控除額=収入金額×40%、650,000円に満たない場合には650,000円
  • 給与等収入1,800,000円超3,600,000円以下→給与所得控除額=収入金額×30%+180,000円
  • 給与等収入3,600,000円超6,600,000円以下→給与所得控除額=収入金額×20%+540,000円
  • 給与等収入6,600,000円超10,000,000円以下→給与所得控除額=収入金額×10%+1,200,000円
  • 給与等収入10,000,000円超→給与所得控除額=2,200,000円(上限)

給与所得控除とは、会社員などのいわゆるサラリーマンに適用される控除です。所得税等の計算の基礎となる給与所得額を求める際に年間給与等収入額に応じて差し引かれるものです。

個人事業主は売上から経費を差し引くことで事業所得を計算しますが、会社に勤める会社員の所得を同様の方式で求めようとすれば、「スーツ」や靴などの経費を個別に計算することになります。会社員の給与は会社が税金等を源泉徴収して支払いますので、会社が従業員一人ひとりに経費精算手続きを取るのは非常に煩雑で現実的ではありません。そのため、会社員のような給与所得者にとっての経費の代わりとなるものが給与所得控除であり、年収に応じて一律に計算することになっています。

給与所得控除は、個人事業主と会社員との公平性を保つ働きと、会社員の給与所得控除を一律で計算することで税処理を簡便化する働きがあります。

例えば、年収400万円の人の場合であれば、給与所得控除額は400万円×20%+54万円=134万円となります。

【給与所得控除例】

  • 年収300万円=108万円
  • 年収400万円=134万円
  • 年収500万円=154万円
  • 年収600万円=174万円

以上のように、会社員の所得税や住民税を計算する時に、スーツ代など必要な経費が一定程度あるとみなし給与収入から差し引く仕組みが給与所得控除です。

スーツ代はこの給与所得控除により経費として認められているというのが現状なのです。

 

特定支出控除

給与所得控除という仕組みについて確認しましたが、もう一つ特定支出控除という制度があります。

この特定支出控除は会社員であっても年間の「特定の支出」の合計額が、給与所得控除額の1/2を超えた場合、その超過金額について所得控除を認め税金を安くするという仕組みです。

この「特定の支出」として、下記の8項目が挙げられています。

1.通勤費(通勤のための支出)
2.転居費(転任に伴う転居のための支出)
3.研修費(職務の遂行に直接必要な技術又は知識を習得するための研修に関する支出)
4.資格取得費(職務の遂行に直接必要な資格を取得するための支出)
5.帰宅旅費(単身赴任に伴い、赴任先と家族の居住する場所とを移動するための支出)
6.勤務必要経費(※65万円まで)
イ)図書費(職務に関連する図書を購入するための支出)
ロ)衣服費(勤務先において着用することが必要とされる衣服を購入するための支出)
ハ)交際費等(職務上関係のある方に対する接待等のための支出)

この特定支出控除は会社員でもスーツが経費になるという触れ込みでスタート(実際は税制改正)したものです。

しかし、この特定支出控除は端的に言えば使えません。

特定支出控除は、前述の給与所得控除の金額の半分以上を使った時にはじめて使える制度です。

例えば年収500万円の人なら、給与所得控除は154万円です。年間で154万円÷2=77万円以上の経費を自腹で使わなければなりません。そして100万円を使ったとしても、100万円-77万円=23万円が控除されるため、23万円×20%(税率を20%と仮定)=4万6千円の減税としかなりません。

自腹でスーツを100万円(実際は65万円が上限)買うとすると毎月8万円程度のスーツを買わなければなりません。年収500万円で、これは現実的でしょうか。

また、控除を使うためには確定申告が必要で、その確定申告に「この経費は業務のために使いました」と「会社が証明する」必要があります。これも非常に手間となります。

以上から特定支出控除は効果の少ない、使い勝手の悪すぎる仕組みとなっており、利用者がほとんど存在しないのです。

 

会社がスーツを支給してくれないのか

今まで、スーツは会社員個人にとって経費として認められるのは難しい(そもそも給与所得控除で経費対応されている)ことを確認してきました。

しかし、そもそもスーツを着用するのは会社が業務上で求めているからです。

よって、スーツを会社が支給すれば良いという考え方もあるでしょう。会社が費用を負担したときには会社の経費には参入出来るのではないでしょうか。

この点については、国税庁がホームページの質疑応答事例で回答しています。

【照会要旨】
 背広など、私服としても着用できるものを制服として支給する場合、経済的利益の課税はどうなりますか。

【回答要旨】
 所得税法上非課税とされる制服等には当たらないことから、給与等として源泉徴収をする必要があります。

1 制服、事務服等の支給又は貸与を非課税としている基本的な考え方
  制服等の支給は、給与所得者の職務の遂行上欠くことのできないものであると同時に、その給付は使用者自身の業務上の必要性に基づくものであって、給与所得者の勤務条件上も使用者が負担すべきものとされている場合が多く、その費用を支出すべき主体は、使用者とみることができます。
 このように、制服等の支給による経済的利益は一種の反射的利益であって、給与所得者に特別な利益を与えるものではなく、また、給与所得者の役務提供に対する対価という性格が極めて希薄なものであることから、一定の制服の支給を非課税として取り扱うこととしています(所得税法施行令第21条第2号、第3号)。

2 非課税とされる制服等の範囲
  「制服」とは、「ある集団に属する人(学生、警察官など)が着るように定められた服装」であるとされるところ、所得税法上非課税とすることを予定しているものは、このような意味での制服、すなわち、警察職員、消防職員、刑務職員、税関職員、自衛官、鉄道職員などのように組織上当然に制服の着用を義務付けられている一定の範囲の者に対し使用者が支給する制服に限定しているものと考えられます。
 一方、所得税基本通達では非課税となる制服の範囲を若干緩めて、必ずしも職務上の着用義務がそれほど厳格とはいえない事務服、作業服等についても非課税として取り扱うこととしていますが、この取扱いは、事務服等の支給又は貸与によって受ける経済的利益は、制服等の支給又は貸与の場合のそれと実質的に差異がないことから、課税上同様に取り扱うという趣旨です。
 したがって、その事務服、作業服等の支給が非課税とされるためには、それが、 専ら勤務する場所において通常の職務を行う上で着用するもので、私用には着用しない又は着用できないものであること、 事務服等の支給又は貸与が、その職場に属する者の全員又は一定の仕事に従事する者の全員を対象として行われるものであること、(更に厳格にいえば、それを着用する者がそれにより一見して特定の職員又は特定雇用主の従業員であることが判別できるものであること)が必要であると考えられます。
 これらのことから、制服等として支給され、職務の遂行に当たり現に着用されているものであっても、これらの要件を満たさないものは、非課税とされる制服等には当たらないと考えられます。

このように背広=スーツについては、会社が支給した場合に経費として非課税とはなりません。

そのため、会社にスーツを従業員に支給するインセンティブはほとんど無いということになります。

 

所見

以上見てきたように会社員がスーツを購入する負担を軽減する方法は実際問題として無いことが分かります。

これは残念ながら事実であり、会社員としては負担を減らすためには、スーツ代そのものを減らす(=安いスーツを買う)か、他の費用を減らすしかないということになります。

全くつまらない結論ではありますが、これが現実なのです。