レオパレス21の施工不良問題がレオパレス21の業績に影響を及ぼし始めています。
今回は、レオパレス21が発表した同社管理・運営の入居率について確認する共に、レオパレス21の今後の業績動向について簡単に考察しましょう。
報道内容
まずは、報道内容でレオパレス21の入居率について確認しましょう。以下日経新聞の記事を引用します。
入居率「ピークの3月」に低下
2019/04/05 日経新聞レオパレス21が5日に発表した同社が管理・運営するアパートの3月の入居率は84.33%と前月から1.24ポイント低下した。新たな施工不良の問題が2月に発覚し、その影響が出た。新年度が始まる直前の3月は例年、入居率が1年を通してのピークとなる。その3月に入居率が下がった意味は重く、家賃収入が大家に約束している保証賃料にとどかない「逆ざや」の恐れが否定しきれない。
入居率は例年、3月をピークにその後は下がっていくことが多い。レオパレスはビジネスモデルの特性上、入居率が一定水準より下がるとダメージが大きくなる。主力の賃貸事業で家主からアパートを借り上げて、入居者に転貸する「サブリース契約」を手掛けており、家主には一定の賃料を保証しているためだ。入居率が80%前後まで下がると、資金が流出する「逆ざや」に陥るとされる。
入居率は過去1年で約10ポイント低下した。18年春にアパートの一部で界壁と呼ぶ屋根裏の部材が設置されていない施工不良が発覚。19年2月には新たに施工不良の物件が1324棟見つかったと発表した。足元でブランド力の低下から個人客の離散が目立つようだ。
レオパレスでは保有不動産の売却なども検討しており、資金繰りは当面問題ないとしている。ただ、アパート全棟を対象とした調査はいまも継続中。当座の損失見込みとして18年4~12月期に約430億円の特別損失を計上しているが、さらに損失が膨らんだり、財務的な影響が大きくなったりするリスクが残る。
(以下略)
以上が報道内容です。
では、以下でもう少し詳しく見ていくことにしましょう。
入居率の推移
今後のレオパレス21の業績動向を予想する上で、もっとも重要なデータは入居率です。
以下が入居率の推移です。
(出所 同社Webサイト発表/月次データ)
このグラフから明らかなように2018年4月からは入居率の低下が鮮明です。
上記新聞記事にあるように新学期・入社時期・異動(転勤)時期が重なる3月が入居者の獲得で最も重要な時期です。この時期にも入居率は回復せずに落ち込んでいますので、一連の問題により入居者のレオパレス21離れは影響が出てきていると言えるでしょう。
ここで少し考えてみる必要がある事実があります。
レオパレス21の入居者はどのような属性なのでしょうか。
近時はTV番組でのレオパレス21への報道等がありました。そして、実際にレオパレス21のアパートにおける施工の問題のみならず、遮音性についても問題が様々に報道されています。
TVCM等では有名芸能人を起用し良いイメージを作ろうとしていますが、実際のところレオパレス21のイメージは低下しているのではないでしょうか。
すなわち、「誰がレオパレス21の物件に入居している」のでしょうか。
以下の図表をご覧ください。
(出所 レオパレス21/2019年3月期 第3四半期決算概要)
レオパレス21の入居者は「学生や独身者」のイメージがあるかもしれませんが、実際には5割以上が法人契約となっています。企業の社宅・独身寮代わりに使われていることが多いのです。対象業種は建設業、飲食業、サービス業、派遣・業務請負、製造業、小売業と多岐に渡っています。2018年12月時点では44,698社が契約しています。一連の報道で法人での契約は減少していますが、まだ太宗を占めているのです。
法人は個人と比べると印象・イメージを重視する訳ではなく、様々な要素で契約をしています。特にレオパレス21の強みは、全国展開しており転勤者が発生した時の対応がやりやすいことです。手続きが楽なのです。そして、地方や工場近くにもレオパレス21のアパートならば存在します。そのため企業によってはレオパレス21以外の選択肢が取り得ないこともあるのです。
従って、レオパレス21の入居率は低下してきていますが、この要因はどのようなものか、すなわち法人契約の推移はどうなっているかを確認することがレオパレス21の今後を占う上で重要なのです(2019年3月期決算発表を待つしかないと思われますが)。
業績動向シミュレーション
では、レオパレス21の業績が赤字に転落する入居率というのはどの程度なのでしょうか。新聞記事では80%前後とされています。
レオパレス21のビジネスモデルは、アパートオーナーから一括してアパートを借り上げ、それを起業や最終の入居者に賃貸しています。これをいわゆるサブリースと言います。アパートオーナーには実際の入居率にかかわらず、一定の賃料を払うことを約束してアパートを借り上げているのです。
そのため、入居率が急低下し、賃貸収入が急減した場合には、建物オーナーへの賃借料支払が出来なくなります。
2019年3月期のレオパレス21の業績計画は以下の通りです。
(出所 レオパレス21/2019年3月期 第3四半期決算概要)
これで見ると分かる通り入居率(期中平均)は89%台にて着地することを想定しています。
4月5日に公表された入居率は84.33%(2019年3月)でした。しかし、前述の入居率グラフにもあるように期中は右肩下がりでしたので、期中平均(月毎入居率の単純平均)では88.34%となります。
会社予想には届かなかったものの、2019年3月期だけであれば、営業利益・経常利益段階での赤字転落の可能性は低いでしょう。
会社予想では賃貸売上高4,325億円のときに入居率は89.89%、全体の営業利益105億円です。売上高4,295億円の際の入居率は89.40%、全体の営業利益75億円です。
ここから算出すると入居率1%あたりの売上高は48億円と想定されます(4,325億円÷89.89%=48.11億円)。
そして、売上高の差がそのまま営業利益に影響を与えることになります。これは基本的にはレオパレス21の費用が固定化されていることを示唆しています(オーナーへの家賃支払=固定、他は従業員の給料等)。
以上よりかなりラフに試算すると以下となります。
- レオパレスの会社業績予想(下限)である入居率89.4%の際の営業利益75億円
- 入居率1%あたりの売上高・営業利益はともに48億円
- 2019年3月期の期中平均は88.3%であり、会社業績予想(下限)から約1%の入居率低下にて着地
- よって、会社業績予想(下限)営業利益75億円-入居率1%あたりの営業利益48億円=営業利益27億円が2019年3月期の業績着地となる可能性あり
以上が2019年3月期の業績予想でした。
では、中長期的に見た場合にレオパレス21の業績はどのようになっていくのでしょうか。以下数字を確認してみましょう。
- 報道では毎月のオーナー宛賃借料支払が毎月250億円(年間3,000億円)年度とされています(日経新聞)。
- 2018年3月期有価証券報告書では2,354億円がサブリースにともなう1年以内の賃料支払となっています。
- 2018年3月期有価証券報告書では単体決算において賃料支払が2,781億円とされています。
- 2018年3月期有価証券報告書(連結決算)では賃貸事業の売上原価が3,593億円、販管費が731億円となっています。
ただし、現実には全国展開しており、比較的安い賃料で寮・社宅代わりの住居を提供してくれる企業は限られているでしょうから、簡単には法人契約の打ち切りは無いとは想定しています。また、レオパレス21自身がこのまま手をこまねいていることは考えにくく、何らかの形でコスト削減をしてくることになるでしょう。
所見
レオパレス21の財務内容では、2018年12月時点の現預金892億円に対して、借入金・社債=有利子負債は361億円となっており、いわゆる借金に対して現預金が上回っており、実質的には無借金企業と言えます。そして、レオパレス21のビジネスモデルはストック型ですので、アパート入居者が更に短期間で劇的に退去しない限りは、短期的に資金繰りで破綻する可能性は小さいでしょう。
短期的にみれば、現時点では自己資本も十分にあり、実質無借金ですので問題は少ないとは思われますが、修繕等工事にかかる費用が見通しを大幅に上回ると、債務超過に陥る可能性も捨てきれません。そうなると上場している株式も更に暴落するでしょうし、支援企業が見つからなければ、レオパレス21と取引をしてきた企業等(テナントとしての法人のみならず、レオパレス21に資材・機器等を納入する企業等)が取引を停止しかねません。その場合には経営破綻という可能性も出てくるかもしれません。
中長期的には、入居率の改善を行わなければレオパレス21の事業が継続することはあり得ません。もちろん、サブリース契約はオーナーへの賃料を約束していると言いながら、削減できる契約が入っています。レオパレス21は以前もオーナーに対して約束していた賃料減額を行っていますので実績もあります。このオーナー宛の賃料支払を削減できればレオパレス21の存続は問題なくなる可能性はあります。しかし、既にブランドが棄損している中で、更にレオパレス21の悪名を広めることになる施策となりますので、会社側もすぐには手を打ちにくいのではないでしょうか。
まずはレオパレス21自身のコスト削減が先行するでしょう。