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じもとホールディングスはSBIとの提携タイミングが悪かったのか

東北の地銀であるじもとホールディングスが公的資金の申請を検討しています。

じもとホールディングスと言えば、SBIから出資を受けている地銀です。

このじもとホールディングスが公的資金の申請を検討している理由は何でしょうか。SBIの戦略が上手くいっていないのでしょうか。

今回は、じもとホールディングスの2022年3月期決算のポイントについて確認していきたいと思います。

 

新聞記事

まずは、じもとホールディングスに何が起こっているのか、簡単に概要を確認しましょう。日経新聞の記事がまとまっているため以下引用します。

米金利上昇、地銀を直撃 きらやか銀行が公的資金申請
2022/05/13 日経新聞

 じもとホールディングス(仙台市)傘下のきらやか銀行(山形市)は13日、公的資金申請の検討に入ったと正式発表した。米利上げなどによる金利上昇で、外債中心の有価証券の含み損が膨らんだためだ。地域経済が疲弊するなか、外債依存を強めた地銀への逆風は強まるばかり。新型コロナウイルス禍による不良債権処理も今後増える見込みで、資本増強や地銀再編に拍車がかかる可能性がある。

 「今後も(取引先を)支えていくため、公的資金を入れていただく」。きらやか銀の川越浩司頭取は同日の記者会見で公的資金申請の理由をこう説明した。地元の観光業の不振に加え、有価証券運用の含み損が拡大したことが原因だ。2022年3月期は満期保有を目的としない外債などの「その他有価証券」の含み損が1年前の4.6倍の121億円にまで広がっていた。

(以下略)

じもとホールディングスは、きらやか銀行と仙台銀行の統合会社です。このじもとホールディングスを構成するきらやか銀行が公的資金を申請することを検討しているというのが記事の内容です。

公的資金申請理由は、外債中心の有価証券の含み損が膨らんだためと説明されています。

では、この点について、もう少し確認しましょう。

 

有価証券の状況

今回の公的資金はきらやか銀行が申請することになっているようですが、じもとホールディングス全体の決算状況を見れば、理由が分かります。

以下は2022年3月期のじもとホールディングスにおける有価証券の残高と、有価証券の評価損益です。

(出所 じもとホールディングス「業績ハイライト」)

じもとホールディングスは、有価証券の残高が5,300億円超あります。そのうち、「その他証券」が4,000億円弱と大半を占めています。

この「その他証券」は、同行の決算説明によれば、外国債券を中心としたものとなっています。この外国債券が2021年3月末時点では含み益が10億円弱あったはずなのに、1年間で181億円も悪化し、2022年3月末時点では170億円超の含み損となったのです。

じもとホールディングスは以下の通り貸出金が1兆9千億円弱ある銀行です。

(出所 じもとホールディングス「業績ハイライト」)

貸出金とその他有価証券を合算すると約2兆4千億円であり、そのうちその他有価証券は2割強を占めることになります。それだけ地銀は貸出先が無く、運用に苦労しているということかもしれません。

このその他有価証券の内の外国債券が、金利上昇により価格が下がり、含み損が出ているというのが、現在のじもとホールディングスの状況です。

尚、金利上昇により債券価格が下落する仕組みは以下の通りです。例として「発行時債券価格100円、利率2%」の債券を題材としています。

(出所 日本証券業協会「投資の時間/今さら聞けない!投資Q&A/債券と金利って、どういう関係なの?」)

債券の価格は、原則的に市場金利の動向により日々変動し、変動に伴い投資収益(利回り)も変わります。そして、債券には、金利が上昇すると価格は下がり、金利が低下すると価格は上がるという特徴があるのです。

現在のように米国等の金利上昇局面においては、外国債券(主に米国債が多いものと思われます)の価格は下落するのです。そのため、じもとホールディングスは大きな含み損を抱えてしまうことになったということなのです。

 

所見

ここまで、じもとホールディングスの有価証券投資状況について主に見てきました。

この有価証券投資については、もう一つの表をご覧頂きたいと思います。以下は2021年3月期の有価証券の残高、有価証券の含み損益の動向です。

(出所 じもとホールディングス「業績ハイライト」)
ここでポイントになるのは、2020年3月から2021年3月までの1年間で「その他証券」が1,100億円以上も増加していることです。急増と表現して間違いはありません。

この急増要因は、SBIとの資本業務提携にあるものと思われます。

2020年11月に発表されたじもとホールディングスとSBIの資本業務提携の主目的の一つは「SBIグループのアセットマネジメント事業による運用資産の受託(資産運用の高度化)を通じた、じもとホールディングスの収益力強化」です。

すなわち、SBIと資本業務提携したことによって、じもとホールディングスは、資産運用の高度化と言って、SBIに外国債券投資を中心とした「その他証券」投資を任せ、残高を増加させたのです。これが、米国の金利上昇等のタイミングで大幅な含み損を生むことになりました。

身も蓋もない言い方をすれば、じもとホールディングスがSBIと提携して、外国債券に投資した「タイミングが悪かった」ということになります。

資産運用の高度化を目的としていたものの、このタイミングでは、上手くいっていないということが分かるでしょう。

少なくとも、短期的な目線で言えば、じもとホールディングスにとってSBIとの提携タイミングが良かったとは言えないかもしれません。