銀行員のための教科書

これからの時代に必要な金融知識と考え方を。

銀行の振込時間を24時間365日に拡大することは最低限の対応

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2018年10月9日より、銀行の振込が24時間365日可能となるシステムが稼働開始します。

今回はこの振込時間の拡大について確認しましょう。

 

報道内容

24時間365日の他行振込が可能となるシステムの稼働については、報道記事を確認するのが全体像をつかむには楽でしょう。以下で毎日新聞の記事を引用します。

全銀協:24時間、他行口座に即時振り込みOK 9日から

2018/10/07 毎日新聞

500行参加、休日や深夜決済可能でネット通販に利便性

 全国銀行協会(全銀協)は9日から、24時間365日いつでも他行口座にお金を即時に振り込める新システムを稼働させる。全銀協に加盟する全国の金融機関の約500行が参加。休日や深夜の決済が可能になり、インターネット通販などで利便性が高まりそうだ。
 銀行間の振り込みは、全銀協が運営する「全銀システム」で行われている。これまでの稼働時間は平日午前8時半~午後3時半で、他行への当日振り込みの受け付けは午後3時までだった。それ以降や土日祝日の振り込みは翌営業日まで処理されなかった。
 9日からは大手や地方、ネット系銀行、信用金庫、信用組合などが新システムに参加。このうち準備が整った三菱UFJ銀行や三井住友銀行など一部で24時間365日即時振り込みが実現する。他の地方銀行などは準備が整うまで受付時間を夜間に延長するなどして対応する。みずほ銀行は自行システムの更新作業中で当面参加を見送る。
 ネット通販の普及で即時入金のニーズは高まっている。流通業者は代金振り込みをすぐに確認できて商品発送がスムーズになり、利用者は早く受け取れるようになる。金融とIT(情報技術)を融合したフィンテック企業の台頭で、個人間送金もスマホアプリで簡単にできるようになっており、新システムは既存の金融機関にとってフィンテック企業への対抗手段になる。
 振り込みの24時間365日化は英国など各国で導入され、携帯電話の番号を入力するだけで決済できるサービスなどキャッシュレス化を促している。

 今まで受付が平日の15時までだった他行への振込が24時間365日可能となるシステム変更がなされたということが記事の骨子です。

 

なぜ今まで振込時間に制限が設けられていたのか

そもそも今までの振込はどのようなシステムだったのでしょうか。

一つの銀行から他行宛に振込を行う場合、現在(2018年10月8日まで)は一般的に、「平日朝から夕方まで」の時間のみ、リアルタイムで振込先の口座に着金が行われていました。このため、「平日夕方~朝」や「土日祝日」に、ATM 等で振込を行っても、実際に振込先の口座に着金が行われるのは、翌営業日の朝となることが一般的です。

リアルタイムの着金が行われる時間が限定されている主な理由は、銀行間の振込情報の通信を行う「全銀システム」(一般社団法人全国銀行資金決済ネットワークが運営しているシステム。金融機関相互間の内国為替取引をオンライン処理している)の稼動時間が、「平日8:30~15:30」(月末営業日は、7:30~16:30)に限定されてたからです。

 

今後の振込時間

「現行の稼動時間帯」(主に平日8:30~15:30)は、全国銀行内国為替制度(主に、全銀システムを利用し、銀行等の間の資金決済を行う仕組み)に加盟する銀行が接続を義務付けられています。

一方で、新システム(モアタイムシステム)は、加盟銀行ごとに、参加/不参加を選択可能とされています。

加盟銀行のシステム開発事情や事務体制整備等の準備期間は、それぞれ異なるため、 モアタイムシステム稼動当初に不参加を選択した加盟銀行も、準備が整い次第参加可能となります。みずほは自行システムの更新作業中であり当面参加を見送ることになります。

モアタイムシステムへの参加を選択した銀行はさらに、拡大された時間帯のうち、自行のシステム対応状況、お客さまのニーズ等を踏まえて個別に接続する時間帯を決める仕組みとなります。このため、モアタイムシステムへの参加銀行であっても時間帯によっては、 振込が受けつけられない場合があります。

ただし、新システム参加銀行は、個人・法人ともにニーズが高い、平日15:30から 18:00までの時間について、共通して接続することとします(義務)。

すなわち、「新たに拡大する稼動時間帯」におけるリアルタイム着金の成立条件は、振込を依頼する側の銀行(「仕向銀行」)と当該振込を受ける側の銀行(「被仕向銀行」)の双方がモアタイムシステムに同時に接続していることです。

以上の通り稼働時間をまとめると、以下のようになります。

  • 今回の銀行共通のシステム更改・構築に伴い24時間365日振込ができる環境整備完了
  • 銀行は8:30~18:00までの間は義務として共通にシステムへ接続
  • 振込の受付時間については各銀行の任意(24時間365日が前提ではない)
  • 振込を受け付ける銀行(仕向銀行)が24時間365日受付可能でも、送金先(被仕向銀行)の受付時間に制限があれば、24時間365日送金はできず
  • なお、店頭が24時間365日開いていることはなく、当該受付時間拡大はATMやインターネットバンキングにより対応するもの
 

所見

24時間365日で銀行振込ができないことを疑問に感じていた利用者は多いでしょう。人手ではなく、システムで対応しているのになぜできないのかと考えていたはずです。
やっとその問題は解消されることになりました。遅すぎて驚きますが、これが銀行業界です。
決済インフラの高度化が決定されたのは2014年です。
平成26年6月に公表された「『日本再興戦略』改訂 2014-未来への挑戦-」(「成長戦略」)や諸外国の動向、IT 技術を活用した新たな決済サービスの普及など昨今の動向等を踏まえて、わが国銀行界としても、決済インフラの高度化、ひいては経済の活性化と国民生活の向上を図るため、銀行振込の中核システムである「全銀システム」の 24時間365日稼動を実現させることにより、世界最先端の決済サービスを提供する。
(出典:全銀協「平成26年12月18日全銀システムのあり方に関する検討結果について」)

今回はこの決済インフラの高度化がやっと実現しました。

今後は、特に法人領域においてビジネス習慣・契約をどうしていくのかという課題が発生します。

<事例>

  • 平日夜間・土日祝日に預金口座の残高が増加するため、経理処理等における預金口座残高の確定時間の変更
  • 入金日を基準とするサービスや契約の見直し(現在は、平日にのみ入金されることを前提している契約がほとんど)
  • 取引相手との支払期日(入金期日)の認識確認(土日祝日を含めるかどうか)  
即時に振込・入金がなされることは法人における商取引・債権管理において一歩前進となります。
入金がすぐに確認できれば商品の発送も早めることができます。また、売掛債権の入金タイミングが早まれば、販売先への与信リスクを減らすことができます。
そもそも店舗・店頭での販売を超えてECでの取引が拡大した現況では、決済システム高度化は必須です。遅すぎたと言われてもおかしくはないでしょう。
このシステム改定により国内の為替取引における「時間」はある程度改善されました。今後はコスト含めた更なる改善が図られなければ銀行の為替取引はフィンテック企業等資金移動業への参入企業に奪われる可能性もあります。銀行業界の今後の動向にはさらに注目が必要です。