東京商工リサーチが「信用金庫の総資金利ざや調査」を発表しました。この調査には信用金庫(信金)の厳しい現状が表れています。
今回は信金の置かれている状況について考察することにしましょう。
「主要151信用金庫 総資金利ざや」調査
東京商工リサーチが「主要151信用金庫 総資金利ざや」調査を発表しています。この調査内容を以下で引用(抜粋)します。
信金の置かれている収益状況が端的に分かると思います。
2018年3月期決算「主要151信用金庫 総資金利ざや」調査 公開日付:2018.10.09
地域密着の信用金庫でも「総資金利ざや」の縮小が進み、「逆ざや」の信金が全体の1割強(構成比13.9%)の21信金にのぼっていることがわかった。
主要151信用金庫の2018年3月期決算では、貸出金や余裕金等の運用収益力を表す「資金運用利回り」は、約9割の信用金庫が前年同期より低下した。マイナス金利の導入で貸出金利息や資金の運用益が落ち込み、信用金庫の資金運用は一層厳しさを増している。【資金全体の収益力を示す「総資金利ざや」】
「総資金利ざや」は、貸出金や余裕金等の運用収益力を表す「資金運用利回り」から、預金などの資金調達コストを示す「資金調達原価率」を差し引いた数値。運用・調達全体の状況を利回りの差で表し、経営効率や収益力をみる指標の一つになっている。「総資金利ざや」がプラスだと資金運用で収益を上げ、マイナスは「逆ざや」で貸出や運用で利益が出ていないことを示す。【「総資金利ざや」の中央値は0.08%、2年連続で調査開始以来の最低に並ぶ】
151信金の2018年3月期決算では、「総資金利ざや」の中央値(全データを昇順または降順に並べた場合、真ん中に位置する値)は0.08%だった。前年同期と同率で、調査開始の2013年以降、2年連続で最低にとどまった。(以下略)
以上が東京商工リサーチの調査内容です。
預金を集め、貸出や運用を行う本業のビジネスが逆ざや(いわゆる本業の赤字)となっている信金が全体の1割に達していること、「資金運用利回り」が約9割の信金で前年同期より低下していることが分かります。
そして、「総資金利ざや」の中央値は0.08%でした。
まとめ
2018年8月に東京商工リサーチが発表した「銀行112行 2018年3月期決算 総資金利ざや」調査では、銀行の「総資金利ざや」の中央値は前年同期比0.02ポイント上昇の0.15%でした。銀行に比べ、信金の経営環境は厳しいことが伺えます。
しかし、より重要なことは「総資金利ざや」が0.08%しかないことでしょう。
この数字がどれだけ「凄い数字」かを事例で見てみましょう。
例えば、融資取引先が1,250社あり、全ての企業に同じ額の融資を行っている信金があるとします。
この信金の「総資金利ざや」が0.08%だとすると、1,250社中1社でも倒産し融資全額が返ってこなければ、利益がゼロになります。
1/1,250=0.08%だからです。
信金の取引先は大企業よりは中小、零細企業が多いので、倒産確率も高くなります。
実際には、信金の貸出では不動産担保を取っている事例が多いこと(取引先が倒産してもある程度の回収が可能)、貸出金利や債券投資での利息収入だけではなく振込手数料等の手数料収入もあることから、1,250社中1社が倒産しても赤字にはならないでしょう。
しかし、このように低収益ならば、リスクを取った貸出など出来る訳がありません。スタートアップ、ベンチャー、起業を目指す個人等へ貸出をしようにも、リスクが取れないのです。余裕があれば、損を覚悟で貸出を行いノウハウを積んでいくという選択肢もあるでしょうが、現時点では難しいでしょう。
これは銀行も似たようなものです。「総資金利ざや」の中央値が0.15%ですから信金よりは2倍収益を確保しているだけです。
いずれもリスクを取った貸出は難しいのです。
東京商工リサーチの指摘通り、もともと信金は企業に寄り添い密接な関係を築いているため金利競争には強いですが、「資金運用利回り」の低迷で、本業だけの収益力では限界が見えてきており、新たなビジネスモデルの構築が避けられなくなっていると言えます。
これが、信金の現状であり、リスクを取れない理由です。