銀行員のための教科書

これからの時代に必要な金融知識と考え方を。

地銀の収益底上げの有効策は店舗等の外部賃貸を可能とする規制緩和

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全国地方銀行協会(地銀協)が2018年の規制改革要望を発表しました。

この中には、銀行業界が近時要望している不動産賃貸の緩和が含まれています。

直近では、店舗跡地の再開発等を検討するMUFGと三菱地所の合弁会社設立も報道されました。

収益力が低下してきている銀行業界が、保有する不動産の有効活用を真剣に望むようになってきています。

今回は、銀行の不動産賃貸における規制状況や今後の動向について考察します。

 

地方銀行の要望

まずは、地銀協の要望がどのようなものかについて確認しましょう。以下、地銀協が内閣府に提出した規制改革要望のうち、該当部分を抜粋します。

2018年度の規制改革要望

2018年9月12日
一般社団法人全国地方銀行協会

 

【要望項目】

4.銀行の保有不動産の賃貸の柔軟化

【要望内容 ・要望理由】

銀行の保有不動産を、地域の事業者等に自由に賃貸できるよう、監督指針を見直す。

○銀行がIT技術等を活用しながら業務効率化を進めているため、保有不動産の余剰スペースが増加しており、今後さらに増加する方向にある。こうした中、銀行は、賃貸による余剰スペースの有効活用を検討している。
○例えば、次のようなケースである。

  • 店舗の統廃合等により、事業に使用しなくなった土地・建物を賃貸する。 
  • 店舗の移設・新設、改築等に際し、事業に必要とされるものより広い建物を作り、事業に使用しないスペースを賃貸する。 
  • 店舗の駐車場等を賃貸する。 
  • ホール、社宅等の福利厚生施設を賃貸する。 

○銀行の保有不動産は、駅前や繁華街等の好立地に所在し、建物も頑健で駐車場を併設していることが多いなど、立地・ハードの両面で優れた特性を有している。このため、地域の事業者等から、銀行の保有不動産を賃借したいとのニーズが寄せられている。また、建設業者や設計会社等から、銀行店舗等の建替えに際して、高層化のうえ外部に賃貸することにより、地域活性化の観点から土地の有効活用を図るべきであるとの提案を受けることも多い。
○しかし、銀行が保有不動産を賃貸する場合、金融庁の監督指針上の要件(やむを得ず賃貸等を行うこと、経費支出が必要最低限にとどまること、賃貸規模が過大でないこと等)を満たしていることを自ら挙証しなければならない。このため、殆どの銀行が賃貸を躊躇しており、上記のようなニーズや提案に応えられないのが実情である。

○監督指針の見直しにより、医療、福祉、教育、商業など、地域の生活インフラに係る事業者等に対し、銀行が保有不動産を自由に賃貸することが可能となれば、地域活性化の促進、にぎわいの創出に大いに貢献できると考えられる。
○また、人口減少や超低金利環境の長期化等によって地方銀行の収益環境が厳しい中、保有不動産の減損の可能性を検討しなければならない状況が生じている。自由に賃貸することが可能となれば、保有不動産の経済価値が上がり、減損を回避できる可能性が高まるほか、銀行の収益性改善の一助となると考えられる。

【現行規制の根拠】

銀行法第 10 条第2項、第 12 条

中小・地域金融機関向けの総合的な監督指針Ⅲ-4-2(4)(注1)~(注3)

これが地銀協の要望事項でした。

 

銀行の不動産外部賃貸の現状

銀行の店舗が午後3時までしか営業していないことは、都市・商店街・地域にとって損失以外の何者でもありません。

例えば、商店街で夕方に銀行の店舗が閉まっていれば、銀行の店舗部分について賑わいが途切れてしまい、お客様からすれば商店街が活発に見えません。

また、銀行の店舗の前は夜になると暗くなっていることもあるため、治安の観点からも悪影響となっている可能性があります。

銀行は立地のよい場所に店舗を構えていることが多いため、本来であれば他の物販等をやっていれば多くの収益が上がり、顧客の利便性も高いのに、銀行の店舗だったせいでその土地のポテンシャルが発揮されていないこともあるでしょう。

このような事例をみると銀行の店舗は経済的に機会損失等をもたらしている可能性があるのです。

そもそもインターネットの普及から始まった金融のIT化によりインターネットバンキングも普及してきました。キャッシュレス化が進展すれば、銀行の店舗はさらに「意味がない」ものになる可能性があるのです。

このような問題を抱えた銀行の店舗ですが「あんなに良い場所にあるのに、なぜ他のテナントに貸さないのか?」と疑問に思った方もいらっしゃるのではないでしょうか。

それが、前述の地銀協の規制緩和要望につながっています。結論からいえば、現時点では、銀行は実質的に外部テナントに不動産賃貸を行えないのです。

これは銀行が規制業種であるからです。

銀行は銀行法12条により他業が禁止されています。

この法律の趣旨は、資金力がある銀行が強力な金融力を背景として一般事業に進出した場合、公正な競争が阻害されるおそれがあること、すなわち銀行に産業界を支配させないようにすること等です(今は、銀行を異なる業種のリスクから切り離し健全性を維持することに主眼がおかれているようですが)。

この条項が今の時代に則しているかはともかく、銀行法の他業禁止により銀行は行うことができる業務の範囲が限定されているのです。

そして銀行の業務範囲については金融庁の監督指針で決められているところもあります。

銀行の不動産賃貸についてはこの監督指針において制限がなされています。

(規制の詳細等は以下の記事をご参照下さい。)

 

所見

銀行の店舗は、来店客の減少、RPAや紙ベースの書類のデジタル化等により、スペースに余剰が出てくることは間違いありません。

また、銀行の収益が低下していることから、銀行は店舗不動産の減損リスクにさらされてもいます。

特に地方経済という観点では、好立地にある銀行の店舗が、異なる用途(例えば一階に商業店舗)に使われることになれば、駅前、商店街等の活性化に繋がることも期待出来ます。

MUFGは三菱地所と組んで、他行に先駆けて店舗の再開発に向けて動き出しました。これは、銀行の保有不動産を有効に活用することを目指すものであり、外部賃貸が認められることを見越した布石でもあるのでしょう。

金融庁が銀行の店舗不動産の外部賃貸を容易化すれば、地域活性化に加えて銀行の収益も改善が見込めます。

不動産の賃貸は銀行の本業ではありませんが、銀行の今後を支える重要な業務となるのではないでしょうか。

是非とも規制を緩和して欲しいところです。