銀行の店舗の空きスペースの活用について報道されるケースが多くなってきているように感じます。
特に地方銀行(地銀)は業績が厳しく、店舗という資産を活用し外部から賃貸収入を得られるようになることは業界全体としての悲願でしょう。
今回は、銀行の店舗空きスペースの活用について確認していきましょう。
報道内容
銀行店舗の空きスペースの活用について毎日新聞が報道しています。足元の動きが垣間見えるため以下引用します。
銀行、店舗の空きスペース活用へ 飲食店や保育所で、来店者の増加狙う
2018年2月22日 毎日新聞
銀行店舗の空きスペースを外部に開放する取り組みが地方金融機関を中心に広がっている。インターネットバンキングの普及などで来店客数が減少する中、一等地に位置する銀行店舗の空きスペースを有効活用することで街のにぎわいや来店者の増加につなげるのが狙いだ。
山口フィナンシャルグループ(山口FG、山口県下関市)は21日、傘下の山口銀行が同県長門市の油谷(ゆや)支店に地元食材を使ったスペイン料理店を開設すると発表した。支店の事務効率化で生じた余剰スペースに集客施設をつくり、地域の活性化や来店客増加につなげたい考え。グループ傘下の全約280店舗でも今後空きスペースを有効活用できないか検討する。
油谷支店は2階建てで、業務スペースを従来の約3割に縮小。1階の半分程度のスペースに入るスペイン料理店は、同市で塩づくりや地元産食材を使った料理店を手がける「百姓庵」が運営し、今年7月ごろのオープンを目指す。2階部分は多目的スペースとして活用する。
支店付近は人口減少や過疎化が進む一方で、棚田が景勝地として話題となり観光客も増加している。オシャレな飲食店を作ることで、地域の魅力を発信し、住民同士の交流も促す。レストランと支店窓口は同じフロアで垣根を設けず、若い世代など普段銀行に来ない人に資産運用などを提案する機会を増やす。
山口FGはテナント収入も得る方針だが、吉村猛社長は「交流を通してビジネスが生まれ、地域が活性化するような取り組みにしたい」と意気込んでいる。
金融機関はかつて、駅前や目抜き通りなどの好立地への出店を競ったが、来店客数の減少で余剰スペースや店舗の扱いが大きな課題だ。金融庁は2017年9月、中小や地域の金融機関が所有する不動産について、公共利用される場合は柔軟に貸し出すことができるよう監督指針を改正。これにより、金融機関のビルなどで遊休スペースを使った多様なサービスが提供されるようになった。
みなと銀行(神戸市)は就活支援会社と提携し、飲料や公衆無線LANを無料で利用できる大学生専用のカフェを神戸市内の学園都市支店に併設。運営は地元の企業や団体などが担い、企業と学生が交流できる拠点になっている。
待機児童問題に悩む都市部では、三井住友銀行が昨年4月から、東京都大田区の雪ケ谷支店の一部をニチイ学館に貸し出し、保育所として運営。世田谷信用金庫は東京都世田谷区の船橋支店の3階を認可保育所の分園に使ってもらっている。ある地銀幹部は「賃料収入だけでなく、新たな顧客の呼び込みにもつながっている。今後も柔軟に運用したい」と話した。
この記事だけを見ると銀行は店舗の空きスペースを外部に簡単に貸し出すことができるように感じるかもしれません。
しかし、ご承知の方もいらっしゃるように銀行の空きスペースは簡単に外部賃貸はできません。
以下で規制の現状について見ていくことにしましょう。
規制の状況
銀行の店舗等にかかる空きスペースの外部賃貸については、全国地方銀行協会(地銀協)が内閣府に提出した規制改革要望が問題点を要約しています。以下が地銀協の要望の該当部分です(抜粋)。
2018年度の規制改革要望
2018年9月12日
一般社団法人全国地方銀行協会【要望項目】4.銀行の保有不動産の賃貸の柔軟化【要望内容 ・要望理由】銀行の保有不動産を、地域の事業者等に自由に賃貸できるよう、監督指針を見直す。
- 銀行がIT技術等を活用しながら業務効率化を進めているため、保有不動産の余剰スペースが増加しており、今後さらに増加する方向にある。こうした中、銀行は、賃貸による余剰スペースの有効活用を検討している。
- 例えば、次のようなケースである。
- 店舗の統廃合等により、事業に使用しなくなった土地・建物を賃貸する。
- 店舗の移設・新設、改築等に際し、事業に必要とされるものより広い建物を作り、事業に使用しないスペースを賃貸する。
- 店舗の駐車場等を賃貸する。
- ホール、社宅等の福利厚生施設を賃貸する。
- 銀行の保有不動産は、駅前や繁華街等の好立地に所在し、建物も頑健で駐車場を併設していることが多いなど、立地・ハードの両面で優れた特性を有している。このため、地域の事業者等から、銀行の保有不動産を賃借したいとのニーズが寄せられている。また、建設業者や設計会社等から、銀行店舗等の建替えに際して、高層化のうえ外部に賃貸することにより、地域活性化の観点から土地の有効活用を図るべきであるとの提案を受けることも多い。
- しかし、銀行が保有不動産を賃貸する場合、金融庁の監督指針上の要件(やむを得ず賃貸等を行うこと、経費支出が必要最低限にとどまること、賃貸規模が過大でないこと等)を満たしていることを自ら挙証しなければならない。このため、殆どの銀行が賃貸を躊躇しており、上記のようなニーズや提案に応えられないのが実情である。
- 監督指針の見直しにより、医療、福祉、教育、商業など、地域の生活インフラに係る事業者等に対し、銀行が保有不動産を自由に賃貸することが可能となれば、地域活性化の促進、にぎわいの創出に大いに貢献できると考えられる。
- また、人口減少や超低金利環境の長期化等によって地方銀行の収益環境が厳しい中、保有不動産の減損の可能性を検討しなければならない状況が生じている。自由に賃貸することが可能となれば、保有不動産の経済価値が上がり、減損を回避できる可能性が高まるほか、銀行の収益性改善の一助となると考えられる。
【現行規制の根拠】銀行法第 10 条第2項、第 12 条中小・地域金融機関向けの総合的な監督指針Ⅲ-4-2(4)(注1)~(注3)
これが地銀協の要望事項であり、地銀全体の悲願でもあります。
すなわち、地域のにぎわい活性化等としていますが、要は銀行の保有資産を外部に自由に賃貸して収入を得たいということです。
一方で、銀行は銀行法12条により他業が禁止されています。
この法律の趣旨は、資金力がある銀行が強力な金融力を背景として一般事業に進出した場合、公正な競争が阻害されるおそれがあること、すなわち銀行に産業界を支配させないようにすること等です(今は、銀行を異なる業種のリスクから切り離し健全性を維持することに主眼がおかれているようですが)。
そのため、銀行法の他業禁止により銀行は行うことができる業務の範囲が限定されているのです。銀行の不動産賃貸については金融庁の監督指針において制限がなされています。
中小・地域金融機関向けの総合的な監督指針 平成30年8月
III -4-2 「その他の付随業務」等の取扱い
(4)上記(1)から(3)に定められている業務以外の業務(余剰能力の有効活用を目的として行う業務を含む。)が、「その他の付随業務」の範疇にあるかどうかの判断に当たっては、法第12条において他業が禁止されていることに十分留意し、以下のような観点を総合的に考慮した取扱いとなっているか。
- 当該業務が法第10条第1項各号及び第2項各号に掲げる業務に準ずるか。
- 当該業務の規模が、その業務が付随する固有業務の規模に比して過大なものとなっていないか。
- 当該業務について、銀行業務との機能的な親近性やリスクの同質性が認められるか。
- 銀行が固有業務を遂行する中で正当に生じた余剰能力の活用に資するか。
(注1)銀行グループの効率的かつ合理的な業務運営を目的として、事業用不動産の賃貸等をグループ会社に対して行う場合(当該グループ会社自身が使用する場合に限る。)は、「その他の付随業務」の範疇にあると考えられる。なお、上記目的に照らし、銀行グループの範囲は、主要行等向けの総合的な監督指針Ⅴ‐1(2)に規定する範囲に限定され、銀行持株会社又は銀行の企業会計上の連結基準と整合的な取扱いとなっている必要があることに留意すること。(注2)上記規定を総合的に考慮するに当たり、例えば、グループ会社以外の者に対し事業用不動産の賃貸等を行わざるを得なくなった場合においては、以下のような要件が満たされていることについて、銀行自らが十分挙証できるよう態勢整備を図る必要があることに留意すること。なお、国や地方自治体のほか、地域のニーズや実情等を踏まえ公共的な役割を有していると考えられる主体からの要請に伴い賃貸等を行う場合は、地方創生や中心市街地活性化の観点から、二.については要請内容等を踏まえて判断しても差し支えない。イ.行内的に業務としての積極的な推進態勢がとられていないことロ.全行的な規模での実施や特定の管理業者との間における組織的な実施が行われていないことハ. 当該不動産に対する経費支出が必要最低限の改装や修繕程度にとどまること。ただし、公的な再開発事業や地方自治体等からの要請に伴う建替え及び新設等の場合においては、必要最低限の経費支出にとどまっていることニ. 賃貸等の規模が、当該不動産を利用して行われる固有業務の規模に比較して過大なものとなっていないこと※ 賃貸等の規模については、賃料収入、経費支出及び賃貸面積等を総合的に勘案して判断する(一の項目の状況のみをもって機械的に判断する必要はないものとする。)(注3)リストラにより、事業用不動産であったものが業務の用に供されなくなったことに伴い、短期の売却等処分が困難なことから、将来の売却等を想定して一時的に賃貸等を行わざるを得なくなった場合においては、上記(注2)を準用すること(ただし、ハ.のただし書及びニ.を除く。)。なお、国や地方自治体のほか、地域のニーズや実情等を踏まえ公共的な役割を有していると考えられる主体からの要請に伴い賃貸等を行う場合は、地方創生や中心市街地活性化の観点から、賃貸等の期間については、要請内容等を踏まえて判断しても差し支えない。
この指針を見れば分かるように、銀行は積極的に外部へ店舗の空きスペースを賃貸できません。修繕も必要最低限としなければならず、その店舗で行われている銀行業務に比して過大ではない賃貸の規模とされています。これでは、店舗の空きスペースを大々的に改装し、きちんと賃貸収入を得らえるようにするのは難しいと思われます。
これが銀行の置かれている状況なのです。
所見
冒頭で紹介した記事の事例のような銀行店舗の空きスペース活用はあくまで一部に留まります。
主要行は海外業務や手数料収益(資産運用や信託子会社等)の獲得も進み、収益が多様化しています。一方で、地銀の収益は、伝統的な預貸業務(いわゆる預金と貸出)の割合が依然として高くなっています。そのため地銀は収益面で非常に苦戦しているのです。地銀については店舗という資産の有効活用を行うことが、収益向上策としては非常に有効なのです。
地銀協が規制緩和要望をしている通り、自由に外部賃貸ができるようにすることは地域の活性化(銀行は15時で閉店)にとっても有用ですし、何よりも銀行の収益を安定化することになります。
銀行業界はフィンテック企業の進出等により伝統的な業務が他業種から侵食されるようになってきました。一方で、生命保険会社は多額の不動産を保有し賃貸収入を得てもいます。
他業態との競争を平等にするためには、少なくとも地銀店舗の外部賃貸は認めても良いのではないかと筆者は考えています。(賃貸物件のみの開発については詳細な検討が必要かもしれませんが)
金融庁の速やかな検討を待ちたいと思います。