銀行員のための教科書

これからの時代に必要な金融知識と考え方を。

地銀は本当に数が多すぎるのか?

f:id:naoto0211:20200904221650j:plain

自民党総裁選への出馬を表明している菅官房長官が、地方銀行(地銀)について「再編も一つの選択肢になる」と発言し注目されています。

菅官房長官は、地銀は「将来的には数が多すぎる」とも発言しています。

そこで、素朴な疑問が沸きます。

確かに地銀は本業が厳しいと言われていますが、本当に数が多すぎるのでしょうか。

単なる印象論なのではないでしょうか。

今回はこの地銀の数が多すぎるのかについて簡単に確認してみましょう。

 

菅官房長官発言内容

菅官房長官の発言内容についてはNHKが以下のように報じています。以下引用します。

「地銀 再編も選択肢 制度活用し経営基盤強化を」菅官房長官
2020年9月3日 13時09分

経営環境が厳しくなっている地方銀行の在り方について、菅官房長官は、3日午前の記者会見で、「再編も1つの選択肢になる」と指摘したうえで、地方銀行の経営統合を後押しするための制度も活用し、経営基盤を強化していく必要があると強調しました。

菅官房長官は、自民党総裁選挙への立候補を表明した2日の記者会見で、経営環境が厳しくなっている地方銀行について「将来的には、数が多すぎるのではないかと思う」と述べました。

この発言について、菅官房長官は、3日午前の記者会見で「地方銀行は、人口減少の中で経営環境も厳しく、みずから経営改革を進めて経営基盤を強化し、地域に貢献していく必要がある。個々の銀行の経営判断の話になるが、再編も1つの選択肢になるという趣旨を申し上げた」と述べました。

そのうえで、「これまで独占禁止法の特例制定の環境整備に取り組んでおり、地方銀行には、こうしたことも活用しながら、経営基盤の強化を進めていただきたい」と述べ、地方銀行の経営統合を後押しするための制度も活用し、経営基盤を強化していく必要があると強調しました。

(出所 NHK News Web)

これが菅官房長官の考え方のようです。

 

地銀は本当に数が多すぎるのか

では、本当に地銀は数が多すぎるのでしょうか。

まずは、以下の図をご覧ください。

f:id:naoto0211:20200904222343p:plain

(出所 日本銀行「金融システムレポート」2017年10月)

産業の競争環境の強弱を計測する代表的な指数であるハーフィンダール指数(ハーフィンダール指数は、各⾦融機関の市場シェアの⼆乗和。同指数は、独占市場の場合には最⼤の 10000となり、完全競争市場に近づくにつれ 0 に接近)を、先進国の銀⾏業に適⽤して計算してみると(上図表Ⅵ-3-1)、⽇本は、オーバーバンキングの事例国としてしばしば指摘されるドイツのほか、⽶国に⽐べても寡占度が⾼くなっています。これだけをみれば、⽇本の銀⾏業の競争環境は、国際的にみて厳しいようには窺われないと言えます。

ハーフィンダール指数は、⾦融機関の供給側の情報(⾦融機関数と各⾦融機関の規模)
のみに基づいています。実際に⾦融サービスを提供するのは営業店であるため、競争環境を評価するうえでは、⾦融機関数だけではなく、店舗数も勘案する必要があります。 

市場規模を規定する⼈⼝と⾦融機関の店舗数の関係について国際⽐較を⾏うと(上図
表Ⅵ-3-2)、⽇本は、⼈⼝当たりの銀⾏の店舗数は⽐較的少ないものの、銀⾏代理業を営む郵便局数まで含めると、オーバーバンキングとされるドイツとほぼ同⽔準となります。

すなわち、郵便局まで含めると、日本はオーバーバンキングであると考えることができるのです。

更に、可住地⾯積当たりの⾦融機関店舗数をみてみましょう。f:id:naoto0211:20200904222506p:plain

(出所 日本銀行「金融システムレポート」2017年10月)

可住地面積当たりの⽇本は、突出して店舗数が多くなっています(上図表Ⅵ-3-3)。

もちろん、これは⽇本の⼈⼝密度の⾼さも影響していると思われますが、狭い国⼟に銀⾏店舗が密集すれば、預⾦者や企業にとって店舗の選択肢が増えるため、それだけ店舗間の競争も激しくなるということになります。

 

所見

日本の地銀がオーバーバンキング・オーバーキャパシティになっている要因は、郵便局との競争がありました。

高度成長時代には、資金需要はいくらでもあったため、預金を集めることが何よりも重要でした。預金を集めれば集めるほど儲かったのです。

そのため、地銀を含めた銀行は出店を強化しました。

そして、預金が儲かったが故に、郵便局への顧客流出を怖れ、顧客に適正な(この適正はあくまで銀行にとってですが)手数料を課すことも避けてきました。

今となっては、民間の資金需要は少なくなり、預金集めは儲かりません。結果として、コストだけが重くのしかかってきています。

そして、高齢化等は更に銀行に対して厳しい環境に導きます。日銀は金融システムレポート(2017年10月)の中で以下のように述べています。

本邦⾦融機関の従業員数や店舗数は、需要対⽐で過剰(オーバーキャパシティ)になっている可能性がある。わが国では、バブル崩壊後 2000 年代半ばにかけて⾦融機関の統廃合が進むなか、店舗数や従業員数が削減されてきたにもかかわらず、オーバーキャパシティが解消されていない背景には、⾦融取引需要を規定する⼈⼝や企業数が減少を続けていることが⼤きく影響していると考えられる。例えば、2000 年代⼊り後、企業の廃業率は開業率を⼀貫して上回っており、企業総数はこの 10 年間で 1〜2 割程度減少していたとみられる。⼈⼝減少による潜在成⻑率や期待成⻑率の低下、⾼齢化による後継者不⾜などがその背景にあるとみられる。  

これが地銀を取り巻く環境なのです。

地銀は、本当に統合を果たす必要が出てくるかもしれません。

地域密着は信金・信組の方が強く、地方の中堅・大企業は、海外展開はするものの、国内資金需要が乏しくなる先も多いでしょう。すなわち、地銀の強みが減少してきている可能性があるのです。

地銀は確かにオーバーバンキングなのかもしれません。

しかし、地元密着という観点では、信金・信組が生き延びている以上、そこにマーケットがあるのもまた事実です。

地銀が今後、経営統合を果たし、コストを削減していくのは間違いないと思いますが、それにとどまらず、どのような経営戦略を描くのか注目しています。