メガバンクの2021年3月期(2020年度)決算が出そろいました。
三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)が三井住友フィナンシャルグループ(SMFG)を上回り、3メガバンクで純利益首位の座に1年で返り咲いたことも話題になっています。
今回は、2021年3月期におけるメガバンクの利益首位は、本当はSMFGではないかということについて簡単に確認しておきたいと思います。
メガバンクの最終利益
メガバンクの2021年3月期決算では、各社とも貸し倒れに備え多額の与信費用を計上した一方で、資産運用ビジネス等の分野や企業への貸出は堅調に推移しました。
MUFGは最終利益が7,770億円と、前期比47%増加しています。前期に約4,000億円あった特別損失がなくなり、また出資先の米モルガンスタンレーの好調な業績があり、大幅な増益となりました。
SMFGは最終利益が5,128億円と、前期比27%減少しています。貸出の不良債権処理費用(予防的なもの含む)が利益を圧迫しました。
みずほフィナンシャルグループは最終利益が4,710億円と、前期比5%増加しています。コロナ対応による企業向けの貸出増加等が要因です。
今回の決算では、MUFGとみずほは増益、SMFGは減益となり、更に万年メガバンク3位と言われてきたみずほの最終利益が、SMFGとの差を縮めてきたことが特徴的でしょう。
首位という定位置を取り返したMUFGですが、SMFGとMUFGには、実際のところどこまで差があるのでしょうか。2021年3月期は、各社とも将来の貸し倒れに備えた予防的な引当費用を計上していることもあり、実際の利益額が見えにくくなっています。
そこで、今回はMUFGとSMFGの業績比較にスポットライトを当ててみたいと思います。
MUFGの決算
では、まずはMUFGの2021年3月期決算の概要を見ていきましょう。
- 連結粗利益(≒一般企業の売上高) 3兆9,979億円
- うち、資金利益 1兆9,051億円
- うち、役務取引等利益 1兆3,347億円
- うち、国債等債券関係損益 1,191億円
- 営業費 2兆7,495億円
- 連結業務純益(≒一般企業の営業利益) 1兆446億円
- 持分法による投資損益 3,218億円
- 経常利益 1兆536億円
- 当期純利益 7,770億円
MUFGの決算コメントでは「新型コロナウイルス感染症拡大による減収影響があったものの、コロナ禍での営業活動定着や、海外子会社の連結化による増収もあり、業務粗利益は小幅に増加。経費は国内外で削減し、業務純益は639億円増加。親会社株主純利益は、与信関係費用総額は増加するも、前年度に計上した出資先ののれん一括償却に伴う特別損失の剥落により、2,488億円増益の7,770億円」としています。
今回はMUFGだけの業績分析をする訳ではありませんので、次にSMFGの業績を確認しましょう。
SMFGの決算およびMUFGとの決算比較
次にSMFGの2021年3月期決算の概要です。
こちらは、MUFG対比でどうなっているのかを記載してあります。
- 連結粗利益 2兆8,062億円(MUFG比▲1兆1,917億円)
- うち、資金利益 1兆3,352億円(MUFG比▲5,699億円)
- うち、役務取引等利益 1兆940億円(MUFG比▲2,407億円)
- うち、国債等債券関係損益 800億円(※三井住友銀行単体)(MUFG比▲391億円)
- 営業費 1兆7,471億円(MUFG比▲1兆24億円)
- 連結業務純益 1兆840億円(MUFG比+394億円)
- 持分法による投資損益 250億円(MUFG比▲2,968億円)
- 経常利益 7,110億円(MUFG比▲3,426億円)
- 当期純利益 5,128億円(MUFG比▲2,642億円)
MUFGとSMFGの決算を比較すると面白いことが分かるのではないでしょうか。
まず、一般企業の売上高に相当する連結粗利益は、約1兆2千億円もMUFGが上回っています。MUFGは、さすがにメガバンクトップと言われるだけのことはあります。MUFGとSMFGは全く規模が違うと言って良いでしょう。
その売上高の差の約半分は資金利益であり、貸付利息や有価証券利息という本業での収入による差です。
役務取引等利益、すなわち手数料収入も大きな差があります。
結果として、MUFGとSMFGは売上高に約1兆2千億円も差がある訳です。
ところが、営業経費をご覧ください。SMFGの方がMUFGよりも営業経費は約1兆円少ないのです。
MUFGとSMFGを比べると、売上高はMUFGが1兆円以上多いのに、SMFGはコストが1兆円少ないので、一般企業の本業(営業)利益にあたる連結業務純益はMUFGとSMFGはほぼ変わらなくなるのです(SMFGの方が若干逆転する)。
MUFGは売上(規模)、SMFGは低コスト、という差(強み)があることになります。
但し、持分法による投資損益では、MUFGがリーマンショック時に出資したモルガンスタンレーの利益を取り込んでいます。それによって、持分法投資損益は、MUFGが約3千億円上回っており、これが主要因で、MUFGとSMFGは最終損益で差が開いています。
所見
今回はすさまじく簡単にMUFGとSMFGの決算を比較してきました。
まとめると「MUFGは圧倒的に売上高が大きいが、SMFGが圧倒的な低コスト戦略を採用しており、結果として本業の利益はほぼ差が無い」「但し、投資損益の要因で最終利益(経常利益も同様)には差がある」ということです。
ここで重要なのは、MUFGが持分法投資損益で計上しているモルガンスタンレーからの利益は、あくまで会計上の利益であることです。MUFGはモルガンスタンレーと合弁事業を営んでいますが、モルガンスタンレー本体をコントロールすることはできません(連結子会社ではないからです)。また、利益分がキャッシュとして入ってくることもありません(一部は配当として入ってきますが)。そういう意味では、あくまで投資であるとも言えるでしょう。
MUFGとSMFGの間には投資損益で約3千億円の差がありました。最終利益の差は2,600億円強ですので、持分法投資損益を考慮しなければ、最終損益はSMFGがMUFGを上回るのです。筆者からすると、本業で得られている利益から考えると、2021年3月期については、SMFGがメガバンクの実質首位に立っているのではないかと考えています。
もちろん、MUFGはまだまだ余力があるでしょう。SMFGと1兆円もコストに差があるというのは驚かざるを得ません。これは、グローバルに展開しているからこその問題なのでしょう。リーマンショック以降、金融規制は各国で厳しくなりました。その規制について邦銀として最も影響を受けているのは、旧東京銀行の流れを引き継ぐMUFGです。MUFGのコストが高い主要因は、金融規制対応だと筆者は認識しています。
MUFGは店舗削減含めてコスト低減に本腰を入れてきていますので、今後、コストは低下していくと思われます。それでもSMFGの圧倒的な低コスト運営に追いつくのはかなり厳しいのではないでしょうか。
MUFGとSMFGの今後の戦略に注目です。