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三井住友銀行は三菱UFJ銀行に業績面では既に勝っている

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三井住友FGが三菱UFJFG(MUFG)を逆転し、メガバンク初の純利益首位になったと報じられています。

このフィナンシャルグループ同士の業績比較も面白いのですが、その中核となる銀行本体の比較も興味深いものがあります。

今回は三井住友銀行と三菱UFJ銀行の業績比較を見ていくことにしましょう。

 

関連報道

以下の日経新聞の記事の通り、フィナンシャルグループとしての三井住友FGはMUFGを最終利益で逆転し、メガバンク中トップとなりました(2020年3月期)。

三井住友FG、初の純利益首位に 三菱UFJを逆転
2020/5/15 日経新聞
3メガバンクの2020年3月期連結決算は、05年に現在の3メガ体制となって初めて三井住友フィナンシャルグループが純利益で首位に躍り出た。トップを守ってきた三菱UFJフィナンシャル・グループは海外銀行の減損処理で多額の損失を計上した。初の首位奪還は「敵失」の側面もある。今後も激しい首位争いが続きそうだ。
「切磋琢磨(せっさたくま)は良いが、事業や戦略も違う。単純に横並びで比較しても意味がない」。三井住友の太田純社長は電話会見でこう述べた。
04~05年のUFJ銀行(当時)争奪戦で敗れて以降、三菱UFJの後じんを拝してきた三井住友。今回の首位は海外展開で一歩先を行く三菱UFJがタイやインドネシア、フィリピンなど東南アジアの傘下行で減損を計上したことも大きい。
三井住友も稼ぐ力を磨き続けてきた。業務の効率性を示す経費率は前期に62.8%と三菱UFJを7ポイント強引き離す。実質業務純益では19年3月期に初めて逆転していた。
(出所 https://www.nikkei.com/article/DGXMZO59172030V10C20A5EA4000/

上記はあくまでフィナンシャルグループ同士の業績比較です。

では、三井住友銀行と三菱UFJ銀行同士の業績はどのようになっているのでしょうか。

 

三井住友銀行の業績

まずは三井住友銀行単体の2020年3月期決算を確認してみましょう。

以下は、筆者がポイントと考える項目をピックアップしています。

<三井住友銀行単体 2020年3月期決算>

  • 業務粗利益 1兆4,120億円(前期比+164億円)
  • うち国内業務粗利益 7,627億円(同▲868億円)
  • (国内業務粗利益のうち資金利益 5,617億円、同▲764億円)
  • (国内業務粗利益のうち国債等債券損益▲24億円、同▲88億円)
  • うち国際業務粗利益 6,493億円(同+1,032億円)
  • (国際業務粗利益のうち資金利益 3,164億円、同+104億円)
  • (国際業務粗利益のうち国債等債券損益 766億円、同+801億円)
  • 経費 ▲8,081億円(同+35億円※経費減少)
  • うち人件費 ▲3,196億円(同+56億円※経費減少)
  • うち物件費 ▲4,383億円(同±0)
  • 業務純益 5,867億円(同+27億円)
  • 臨時損益 ▲1,028億円(同▲1,684億円)
  • 当期純利益 3,174億円(同▲1,600億円)
  • 国内総資金利鞘 0.28%(同▲0.09%)
  • (預貸金利利回差 0.91%、同▲0.03%)

三井住友銀行の2020年3月期単体決算は、国内の資金利益(貸出利息等)が減少したものの、主に海外の債券売買によってカバーし若干の増収で着地となっています。

経費はあまり変わらず、臨時損益があったの当期純利益は大幅に低下しています。

利鞘は、低金利によって有価証券の利回りが低下していことから大幅に減少しています。

この三井住友銀行の単体業績に対して、三菱UFJ銀行の業績はどのようになっているのでしょうか。次で見ていきましょう。

 

三菱UFJ銀行の業績

次に三菱UFJ銀行単体の2020年3月期決算を確認してみましょう。
以下は、筆者がポイントと考える項目をピックアップしています。

<三菱UFJ銀行銀行単体 2020年3月期決算>
  • 業務粗利益 1兆5,463億円(前期比+109億円)
  • うち国内業務粗利益 9,181億円(同▲560億円)
  • (国内業務粗利益のうち資金利益 5,717億円、同▲1,221億円)
  • (国内業務粗利益のうち国債等債券損益 736億円、同+490億円)
  • うち国際業務粗利益 6,282億円(同+669億円)
  • (国際業務粗利益のうち資金利益 2,461億円、同▲712億円)
  • (国際業務粗利益のうち国債等債券損益 4,049億円、同+3,930億円)
  • 経費 ▲1兆1,510億円(同▲40億円)
  • うち人件費 ▲3,854億円(同+102億円※経費減少)
  • うち物件費 ▲6,985億円(同▲152億円)
  • 業務純益 3,953億円(同+69億円)
  • 臨時損益 ▲639億円(同▲1,721億円)
  • 特別損益 ▲9,951億円(同▲1兆1,379億円)
  • 当期純利益 ▲6,531億円(同▲1兆3,163億円)
  • 国内総資金利鞘 ▲0.00%(同▲0.08%)
  • (預貸金利利回差 0.79%、同▲0.02%)

三菱UFJ銀行の2020年3月期単体決算では、国内の資金利益でかなり苦戦しています。これは有価証券の運用で苦戦したことが想定されます。これを国内の国債売却で一部カバーしています。

そして国際業務でも大きく資金利益を減らしています。この要因は正確には分かりませんが、海外資金需要が旺盛なことを考えると資金調達コストが上昇している可能性があるでしょう。

それを補うためか、外国債券の売却(恐らく主に米国債)を売却し決算を作っています。

コスト削減についてはあまり進んでおらず横ばいであり、海外子会社等の株式で損失を出し最終赤字に転落しています。

そして、国内の総資金利鞘はついに0%となりました。もはや銀行の本業である預金と貸出・有価証券運用では利益が上がらないということになります。

 

両行の決算比較

三井住友銀行単体決算と三菱UFJ銀行単体決算を比べると両行の決算の特徴が見えてきます。

まず、一般企業の売上高にあたる業務粗利益は両行ともそんなに差がありません。

三井住友銀行単体の貸出残高は80兆円であるのに対して、三菱UFJ銀行単体の貸出残高は88兆円となっています。単体同士での規模はあまり変わらなくなっているのです。

本業の利益である資金利益では三菱UFJ銀行の方が減少額が多くなっています。有価証券の利回りが大幅に減少していますので、貸出よりは有価証券で保守的な運用等を行った可能性があります。

国際業務粗利益は単体で比較すると三井住友銀行の方が多くなっています。これは、単純な比較は出来ません。三菱UFJ銀行は米国やタイ等については現法化を進めていますので、三菱UFJ銀行単体では計上されていない国際業務粗利益があることは間違いありません。

しかし、三井住友銀行は国際業務で増収となっているのに対して、三菱UFJ銀行は特に資金利益で苦戦しています。これは、何らかの問題要因が発生しているものと思われます(調達コストが高くなっている等)。また、三菱UFJ銀行は国債の売却で大幅に粗利益を積み増しました。三菱UFJ銀行の方が、市場運用に頼っている(決算を作りにいっている)ように単年度の決算では見えます。

両行の単体決算で最も特徴的なのは、コストの差です。

三井住友銀行が約8,000億円の経費であるのに対して、三菱UFJ銀行は1兆1,500億円もの経費がかかっています。既に貸出金の規模はあまり変わらないので、明らかに三井住友銀行の方が低コストで運営できています。

この差は、人件費と思われる方もいるかもしれません。

実際には物件費(システム経費、店舗経費等)による差が大きいのです。

三井住友銀行の物件費が約4,400億円であるのに対して、三菱UFJ銀行の物件費は約7,000億円です。

この差はシステムと店舗と両方でしょう。

三井住友銀行の国内店舗は450箇所、三菱UFJ銀行は750箇所となっていますが、店舗の差だけではなく、三井住友銀行が効率よくシステムを使っているということになります。

この経費の差で、三井住友銀行は本業の利益(いわゆる営業利益)である業務純益で三菱UFJ銀行を上回っています。

さらに2020年3月期は、三菱UFJ銀行が子会社・関連会社の株式の処理等をしており最終赤字に転落しています。

そして、貸出金と有価証券の運用利回りと預金等調達コストとの差額である総資金利鞘では、三菱UFJ銀行がついに0%になったのに対して、三井住友銀行は0.28%を確保しました。三菱UFJの総資金利鞘0%は有価証券運用の影響が強いとはいえ、本業利益でしっかりと利鞘を確保できている三井住友銀行は相対的に強いと言えるでしょう。

以上の通り、単体決算の面では、三井住友銀行が三菱UFJ銀行に勝っているのが分かります。

 

所見

三井住友銀行と三菱UFJ銀行の単体を比較してもあまり意味はないかもしれません。三菱UFJ銀行が海外においては現地法人化しているところが多い(単体決算に入らない)ためです。

しかし、今後の銀行運営は、海外においては現地法人化(ローカルの登用・ローカル化)が進展していくものと思われます。

その際、いくらマザーマーケットだろうと日本の現地法人である銀行単体の業績が悪ければ、その地域内(すなわち日本)で業績の立て直しを図ることになるでしょう。

日本は人口減少社会に突入していきます。収益の向上は簡単には見込めません。

三井住友銀行と三菱UFJ銀行の決算比較で浮き彫りになるのは、三井住友銀行の収益力の強さであり、その源泉は低コストにあります。

今後、三菱UFJ銀行は「三井住友銀行に追いつく」べく、国内においてコスト削減にまい進するでしょう。それが如実に現れた2020年3月期の両行の単体決算だったと筆者は考えます。