「Go Toトラベル」について政府は、新型コロナウィルスの感染拡大地域を目的地とする旅行の新規予約を一時停止するなどの措置を導入することになりました。
しかし、ここに素朴な疑問があります。
Go To トラベルは、新型コロナウィルスの新規感染者を本当に増加させているのでしょうか。Go To トラベルを一時停止する規模によっては、せっかく持ち直してきた宿泊業、飲食業等の事業者に大きなダメージを与えることになるのではないでしょうか。
今回は、Go To トラベルを一時停止する理由について、少し確認してみたいと思います。
感染拡大の原因
Go To トラベルは本当に感染者数拡大の要因なのでしょうか。
これが筆者にとっての最大の疑問です。
今まで報道されている限りではGo To トラベルが感染の要因となっていたようには思えません。
そこで、2020年11月21日に開催された「新型コロナウイルス感染症対策本部(第 47 回)」の資料を確認してみましょう。
新規感染者数は、11月以降増加傾向が強まり、2週間で2倍を超える伸びとなり、過去最多の水準となっている。大きな拡大が見られない地域もあるが、特に、北海道や首都圏、関西圏、中部圏を中心に顕著な増加が見られ、全国的な感染増加につながっている。感染拡大のスピードが増しており、このまま放置すれば、更に急速な感染拡大に至る可能性があり、厳しい状況が続いている。
感染拡大の原因となるクラスターについては、地方都市の歓楽街に加え、会食や職場及び外国人コミュニティー、大学生などの若者、医療機関や高齢者施設などにおける事例など多様化や地域への広がりがみられる。また、潜在的なクラスターの存在が想定され、感染者の検知が難しい、見えにくいクラスターが感染拡大の一因となっていることが考えられる。
(中略)
【感染拡大地域の動向】
①北海道
札幌市を中心に接待を伴う飲食店などでクラスターが発生し、感染が拡大していたが、札幌市近郊を含め、道内全体にも感染が拡大。クラスターも、接待を伴う飲食店以外の職場、学校、医療機関や高齢者施設等が増加。濃厚接触者対応も厳しい状況となってきている。また、医療機関においては患者数の増加により、札幌市を中心に病床がひっ迫しており調
整が困難になるなど、厳しい状況となっている。②東京都
都内全域に感染が拡大。感染経路が分かっている中では、家庭内感染が最も多く、職場、高齢者施設等、会食と続いているが、感染経路不明割合も半数以上となっている。社会経済活動が活発化し、若年層を中心に感染拡大のリスクを高める機会が増加、大学等も含め感染の場面が多岐にわたっている可能性。
③大阪府
府内全域に感染が拡大。感染経路不明割合は約6割。歓楽街の関係者・滞在者や、家庭内、事業所等様々な場面で感染が確認される事例が発生。高齢者施設、医療機関、学校等でクラスターが発生。
④愛知県
県内全域に感染が拡大。感染経路不明割合は約4割。名古屋市で、歓楽街を中心に感染者が増加し、保健センターの負荷が大きくなっている。感染者の年齢や感染が生じた場は多様化しており、高齢者施設等、大学の課外活動に関連した発生も認めている。また、医療機関での対応も厳しさが増している。名古屋市以外についてもクラスターが多様化し、外国人コミュニテイ、大学、高齢者施設で散発。
(出典 新型コロナウイルス感染症対策本部(第47回)資料)
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/novel_coronavirus/th_siryou/sidai_r021121.pdf
以上の内容を見る限りにおいては、飲食・歓楽街といった点ではGo To トラベルとの共通点はあり得ると思いますが、そもそも旅行が感染の原因になっているとは説明されていません。
そして、今後の対応については、以下のように記載されています。
<今後の対応について(抜粋)>
多様化するクラスターに対する対応が急務である。会食や接待を伴う飲食店、職場、大学生などの若者、外国人コミュニティ、医療機関や高齢者施設等に対して、状況に応じた適切な対応を実施する。見えにくいクラスターへの対策も必要である。
(中略)
また、感染の「減少要因」を強めるためには、こうしたクラスター対策に加え、個人や事業者による基本的な感染予防対策の徹底が何より重要である。特に行動範囲の広い若年層を中心に、感染リスクの高まる「5つの場面」などについて情報発信する必要がある。さらに、飲食の場面も含むマスクの徹底など実際の行動変容につながる情報発信の強化や飲食店等における業種別ガイドラインの徹底が改めて必要。人の移動を感染拡大のリスクとしないためにも、こうした基本的な感染予防対策の徹底が必要。
(出典 新型コロナウイルス感染症対策本部(第47回)資料)
いかがでしょうか。
旅行、Go To トラベルといった単語が出てきません。
企業に接待を自粛するように要請する、テレワークを強化する、大学の授業をWebに移行する等の対策は考えられますが、Go To トラベルを一時停止するという発想には至らないのが通常ではないでしょうか。
5つの場面
では、上述の感染リスクの高まる「5つの場面」がGo To トラベルにも該当するのではないでしょうか。
(出典 新型コロナウイルス感染症対策本部(第47回)資料)
この5つの場面こそが、感染拡大のリスクを高める場面です。
Go To トラベル=旅行は、確かに飲食の機会を増やすでしょう。しかし、旅行は、飲食ばかりではなく、観光地での散策やショッピングもあります。Go To トラベルが感染症拡大のリスクとなっているかは非常に微妙なところではないでしょうか。
分科会からの提言
今までは、新型コロナウィルス感染症拡大とGo To トラベルとの関係について見てきました。
一方で、新型コロナウイルス感染症対策本部(第47回)資料には、分科会からの政府への提言が掲載されています。
分科会から政府への提言:これまでより強い対策(続き)
私たちの考えー分科会から政府への提言ー(3)Go Toキャンペーン事業の運用見直しの検討
① Go To Travel事業
(出所 新型コロナウイルス感染症対策本部(第47回)資料)
- Go Toキャンペーン事業を行う経済的意義・目的については多くの人々は理解をしていると考えられる。
- しかし、昨日の新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボードの評価にあるように、一般的には人々の移動が感染拡大に影響すると考えられる。
- そうした中、この時期に、人々に更なる行動変容を要請する一方で、Go To Travel事業の運用をこれまで通りに継続することに対し、人々からは期待と懸念との双方の声が示されている。
- Go To Travel事業が感染拡大の主要な要因であるとのエビデンスは現在のところ存在しないが、同時期に他の提言との整合性のとれた施策を行うことで、人々の納得と協力を得られ、感染の早期の沈静化につながり、結果的には経済的なダメージも少なくなると考えられる。
- そもそも、政府も分科会も、都道府県がステージⅢ相当と判断した場合には、当該都道府県をGo To Travel事業から除外することも検討するとしてきた。
- 現在の感染状況を考えれば、幾つかの都道府県でステージⅢ相当と判断せざるをえない状況に、早晩、至る可能性が高い。
- こうした感染拡大地域においては、都道府県知事の意見も踏まえ、一部区域の除外を含め、国としてGo To Travel事業の運用のあり方について、早急に検討して頂きたい。
- 感染拡大の早期の沈静化、そして人々の健康のための政府の英断を心からお願い申し上げる。
- なお、感染がステージⅡ相当に戻れば再び事業を再開して頂きたい。
図らずも分科会が認めているように、「Go To Travel事業が感染拡大の主要な要因であるとのエビデンス(筆者註:証拠)は現在のところ存在しない」のです。
それにもかかわらず、個々人の行動変容を促す、他の提言・政策との整合性を取る、といった観点からGo To トラベルの一時停止を分科会は求めているということになります。
所見
報道によると、2020年7月22日から10月15日までの延べ3,138万人の利用者のうち感染者数は131名(11月9日時点)です。
上述の分科会の考え同様に、「Go To トラベルは新型コロナウィルス感染症拡大の原因にはなっていない」のではないでしょうか。
そもそも、Go To トラベルは、事業者がしっかりとした感染対策を行ってきたはずです。結果も出ています。
それなのにGo To トラベルが「悪者」扱いされているように筆者は感じます。
これには2つの要因があるのではないでしょうか。
一つは、一般的な感覚として、他所から自分の住む地域に訪れる人への潜在的な恐怖(よそ者の排除の感覚といっても良いでしょう)です。
そして、もう一つは「Go To トラベルができるほどの『余裕がある個人への嫉妬・やっかみ』」です。
筆者は、Go To トラベルの一時停止については、科学的な判断ではなく、国民の感覚を勘案した政治判断であると考えていますが、その背景には以上2つの国民感情があるのではないかと考えています。
「上級国民」という言葉が目につくように、「公務員はボーナスがわずかしか減らない」と報道されるように、国民の間に何らかの「分断」が起きてはいないでしょうか。
Go To トラベルは、人命を大事にしながらも、経済を回していくコロナ対策の手段でした。Go To トラベルが感染拡大の要因ではないのであれば、経済を壊さないためにも、冷静な判断を政府には求めたいと思うところです。
そして、国民間の分断への対策をコロナ対応にかかわらずお願いしたいと思います。