銀行員のための教科書

これからの時代に必要な金融知識と考え方を。

ソフトバンクGの銀行別借入残高推移はどうなっているのか?

f:id:naoto0211:20200530101716j:plain

2019年末にみずほフィナンシャルグループ(みずほFG)の「リスク委員会」に一つの企業名が挙がったと報道されています。

みずほFGのリスク委員会は、大局的な観点からグループのリスク管理体制を監督し、取締役会に助言する役割です。それだけに個別企業のリスクが俎上に載ることはほとんどないとされていますが、このリスク委員会にソフトバンクグループ(ソフトバンクG)の名前が出たということのようです。

それだけ、みずほFGにとってソフトバンクGは自身の存続を左右する存在ということなのでしょう。

今回は、ソフトバンクGの主要借入先の推移について簡単に確認してみましょう。

 

主要借入先(2020年3月末)

ソフトバンクGの主要借入先については、株主総会招集通知に記載されています。

この招集通知に記載されている残高は、単なるコーポレート借入だけの可能性はあるでしょう。マージン・ローンと言われる手法(SPCにソフトバンクGが保有する株式を貸出して、SPCが株式担保を差し入れ銀行から資金調達する手法)のようなスキームものでの資金調達は対象外となっているのではないかと想定します。

では、2020年3月末時点の主要借入先はどのようになっているのでしょうか。

  • みずほ銀行 9,123億円
  • 三井住友銀行 6,606億円
  • 三菱UFJ銀行 4,258億円
  • ドイツ銀行 2,580億円
  • クレディ・アグリコル銀行 2,468億円
  • JPモルガン・チェースバンク 2,273億円
  • 三井住友信託銀行 1,993億円
  • シティバンク 1,930億円
  • オリックス銀行(信託口等) 1,930億円
  • クレディ・スイス 1,769億円

(出所 https://group.softbank/system/files/news/ja/press/2020/20200530/pdf/20200530.pdf) 

このように2020年3月末時点ではみずほ銀行からの借入残高がトップとなっています。

メガ3行から合計1兆9,987億円、すなわち2兆円を借入していることになります。

それ以外に外銀からの調達が多くなっています。

 

借入残高の推移

ソフトバンクGはビジョン・ファンドの立ち上げ等、近時はさらに経営を加速させてきたイメージがあるのではないでしょうか。

特にソフトバンクGは借入を使って企業を成長させてきました。

過去2年の借入残高はどのようになっているのでしょうか。

<2019年3月末時点>

  • みずほ銀行 5,977億円
  • 三井住友銀行 4,489億円
  • 三菱UFJ銀行 3,363億円
  • ドイツ銀行 2,061億円
  • 一般社団法人スレンダー 2,000億円
  • オリックス銀行 1,897億円
  • 三井住友信託銀行 1,262億円
  • シティバンク 1,225億円
  • JPモルガン・チェース・バンク 1,132億円
  • バンク・オブ・アメリカ 1,020億円

(出所 https://group.softbank/system/files/pdf/ir/investors/shareholders/2019/shareholders-meeting_39_01_ja.pdf

このように2019年3月末時点の借入は2020年3月末に比べて少なくなっています。

クレディ・アグリコルからの借入が2019年3月末時点では記載されていないことが少し特徴的でしょうか。

2019年3月末と2020年3月末を比較すると、特にみずほ銀行からの借入残高の伸びが目に付くでしょう。

すなわち、みずほFGが先導してソフトバンクGの資金調達を支えていることになります。

尚、2018年3月末時点の借入残高は以下の通りです。

<2018年3月末時点>

  • みずほ銀行 7,581億円
  • 三井住友銀行 4,916億円
  • バンク・オブ・アメリカ 4,063億円
  • 一般社団法人スレンダー 4,000億円
  • 三菱東京UFJ銀行 3,167億円
  • ドイツ銀行 2,859億円
  • オリックス銀行 1,839億円
  • JPモルガン・チェース・バンク 1,697億円
  • 三井住友信託銀行 1,440億円
  • ゴールドマン・サックス 1,077億円
  • クレディ・アグリコル銀行 1,044億円
  • 三菱UFJ信託銀行 1,015億円

(出所 https://group.softbank/system/files/pdf/ir/investors/shareholders/2018/shareholders-meeting_38_01_ja.pdf

 

所見

報道では、WeWork救済のための借入を昨年実施しようとした時には、三井住友銀行と三菱UFJ銀行は消極的だったとされています。

報道が事実だとすると、ソフトバンクGはみずほFGへの依存度が高くなってきているものと想定されます。

上述の借入残高はあくまで表に出ているものだけです。

銀行の貸出は、孫正義氏個人への貸出(ソフトバンクGの株式担保での貸出)も多額に上るでしょう。

また、いわゆるノンリコースでの貸出も様々な形で実施されているものと想定されます。

したがって、表面で見えている以上に銀行はソフトバンクGのクレジットリスクを取っている可能性があるのです。

筆者の勝手な想定でしかありませんが、三井住友銀行と三菱UFJ銀行はソフトバンクGが倒産したとしても、致命傷を受けることはありません。上記の貸出残高であれば、年間赤字に陥ることなく処理することも可能でしょう(株式等で益出しをしなければならないかもしれませんが)。

一方で、みずほFGは、ソフトバンクGが破綻すれば、年間の利益は確実に吹っ飛びます。もちろん、みずほFG自身の信用問題にもなるでしょう。

ところが、ソフトバンクGの借入残高の推移や、報道を鑑みると、ソフトバンクGはメイン寄せ(銀行からの借入がメイン行に集中していくこと)が進んでいるように感じられます。

他行がリスク管理の観点から、これ以上の融資に消極的であるのに対して、みずほFGはソフトバンクの資金繰りを支えざるを得ないので、自らの貸出残高が増加していくのです。結果としてリスクが増大していくのです。

恐らく、ソフトバンクGの規模は、みずほFGのような銀行が支えることができる規模を超えつつあるのです。これからはもっと金融市場から直接調達するしかないのです。

ところが、ソフトバンクGの格付は、スタンダード&プアーズ(S&P)でBB+です。いわゆるジャンク級、投資不適格のクラスです。金融市場から調達するには、相応のコストを払わなければならず、マーケット環境次第では調達自体が上手くいかないこともあり得ます。

そんな状況にあるソフトバンクGが、今後は銀行からの借入をどのようにしていくのか、そして、みずほFGがどのように対応していくのか、両社の戦略に注目していきたいと思います。