銀行員のための教科書

これからの時代に必要な金融知識と考え方を。

「非正規労働97万人減、過去最大」はさすがに報道があおり過ぎ

f:id:naoto0211:20200529171454j:plain

総務省の発表した4月の労働力調査によると、非正規労働が97万人減少しており、過去最大であると報道されています。

この報道を見ると、新型コロナ緊急事態宣言が影響し、非正規労働者が急減しているというイメージを持つでしょう。

今回は、2020年4月の雇用状況について、総務省の労働力調査を確認していきたいと思います。

 

報道内容

まずは報道内容を確認しましょう。全体感はつかめるでしょう。

非正規労働97万人減、過去最大
新型コロナ緊急事態宣言が影響
2020/5/29 共同通信社

 総務省が29日発表した4月の労働力調査によると、パートやアルバイトなど非正規労働者は2019万人となり、前年同月比で97万人減った。比較可能な2014年1月以降で下落幅は過去最大。4月の就業者数は前年同月比80万人減の6628万人で、7年4カ月ぶりに減少に転じた。新型コロナウイルス感染拡大に伴う政府の緊急事態宣言発令の影響で雇用情勢が大きく悪化している実態が浮き彫りとなった。
 4月の完全失業率(季節調整値)は前月比0.1ポイント上昇の2.6%となり、2カ月連続で悪化した。休業者数は前年同月比420万人増の597万人となった。増加幅は過去最大だった。

(出所 https://this.kiji.is/638914607737390177

過去最大の下落幅で非正規労働者が減少したとされています。まさにコロナによる悪影響だとお感じになる方もいるでしょう。

この総務省の労働力調査の内容について、もう少し詳しく見ていくことにしましょう。

 

労働力調査

では、実際の総務省の「労働力調査(基本集計) 2020年(令和2年)4月分」から報告内容を抜粋します。

 【就業者】  

  • 就業者数は6628万人。前年同月に比べ80万人の減少。88か月ぶりの減少
  • 雇用者数は5923万人。前年同月に比べ36万人の減少。88か月ぶりの減少
  • 正規の職員・従業員数は3563万人。前年同月に比べ63万人の増加。7か月連続の増加。
  • 非正規の職員・従業員数は2019万人。前年同月に比べ97万人の減少。2か月連続の減少 

 (出所 総務省/労働力調査)

https://www.stat.go.jp/data/roudou/sokuhou/tsuki/pdf/gaiyou.pdf

この報告をご覧下さい。

確かに非正規職員・従業員数は97万人の減少となっています。

しかし、これは「前年同期」の比較です。まず前月(2020年3月)との比較ではありません。2019年4月と比べて非正規職員・従業員数が97万人減少しているのです。

次に、就業者数全体は6628万人であり、前年同月に比べ80万人の減少となっています。

そのうち、雇用者数(いわゆる従業員です)は前年同月に比べ36万人の減少に留まっています。

更に、正規の職員・従業員数は前年同月に比べ63万人増加しています。

少なくとも、非正規の職員・従業員が前年に比べて97万人減少していても、正規職員・従業員は63万人増加しているのです。差は34万人ということになります。

そして同じ労働力調査は以下のように報告します。

【完全失業者】  

・完全失業者数は189万人。前年同月に比べ13万人の増加。

(出所 総務省/労働力調査)

この通り、完全失業者は、前年同月に比べて13万人の増加です。97万人の増加ではありません。

ちなみに、自営業主・家族従業者数は2020年4月時点で662万人となり、前年同月に比べ32万人(4.6%)の減少となっています。雇用者数の減少は上述の通り36万人でしたので、同じぐらいの数の自営業者が恐らく廃業しています。  

以上をまとめると、今回の労働力調査は、非正規雇用者が97万人減少したものの、正規雇用者はコロナ禍の中でも63万人増加しており、正規雇用者へのシフトが進んでいるとも言えるのではないでしょうか。

また、自営業者が32万人、4.6%も前年同月比で減少しているのですから、コロナ禍では自営業者が大きな影響を受けているとも表現できるでしょう。

 

所見

情報というのは本当に難しいものです。

今回のように単純に見えるデータだとしても、切り取り方一つで印象は大きく変わるのです。これが情報の注意すべき点です。情報は使用者の思惑によって、どのようにでも加工することができるのです。

また、今回の労働力調査はともかく、今後は「派遣切り」「雇止め」等が増加し、社会問題化する可能性も捨てきれません。今回の報道があおり過ぎであることは否めないような気がしますが、だからと言って問題が無い訳ではありません。

我々の大部分は、労働による収入が生活に不可欠です。雇用は生活の、そして安心の基礎なのです。今後も労働力調査には注目したいと思います。