銀行員のための教科書

これからの時代に必要な金融知識と考え方を。

ソフトバンクGとの取引は、邦銀の体力を超えつつある

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ソフトバンクグループ(ソフトバンクG)が外資の銀行(外銀)からの借入を増加させていることが話題となっています。

ソフトバンクGから邦銀が逃げているということでしょうか。

今回は、ソフトバンクGの銀行借入状況について簡単に確認してみたいと思います。

 

報道内容

まずは、ソフトバンクGの借入動向についての日経新聞の記事を確認しておきましょう。全体像がつかめると思います。

ソフトバンクG借入先、外資が急拡大 三菱UFJは減少
2021/06/16 19:26 日経新聞

 ソフトバンクグループ(SBG)が外資系金融機関からの借り入れを増やしている。2021年3月期末時点で首位のみずほ銀行に続く2~4位を外資系が占めた。株式を活用した業務に強い外資系が、SBGが保有する中国アリババ集団などの株式を担保にした融資などで存在感を示した。業績変動の大きい投資会社化が進むSBGに対し、三菱UFJ銀行が融資額を減らすなど国内勢には濃淡が出ている。

 SBGが6月23日に開く定時株主総会の招集通知で明らかになった。2位の米JPモルガン・チェースは20年3月期末の6位から順位を上げ、金額は3.6倍の8293億円になった。3位のフランスのBNPパリバ(6015億円)、4位の米ゴールドマン・サックス(5932億円)はいずれも20年3月期末では上位10社に入っていなかった。

 一方で邦銀の存在感は低下した。みずほ銀は首位を維持したものの、金額は8500億円と7%減った。三井住友銀行は4770億円と28%減り、順位も2位から5位に下がった。三菱UFJ銀行は3位から8位に後退した。SBGへの融資姿勢について、3メガバンクは「個別案件につき回答を差し控える」とした。

(中略)

 金融市場では、SBGの拡大路線を邦銀のみでは支えきれなくなっているとの見方もある。大手4行の各期末時点でのSBG融資額と、中核的自己資本(普通株式等Tier1資本)に占める比率を調べると、各行とも上昇基調でみずほ銀は1割を超える。一般に銀行には特定の企業グループに、無担保で一定額を超えて融資できない規定がある。

 三菱UFJ銀は「提携先の米モルガン・スタンレーも含め、投資会社となったSBGに対して慎重な姿勢が際立つ」との声が同業他社からは漏れる。親密な関係が続くみずほや三井住友でも、個別企業への融資で取れるリスクへの限界が見え隠れする。

(中略)

 SBGでは銀行借り入れの依存度が低下し、市場からの資金調達が増えている。単体の有利子負債では銀行借り入れが9%にとどまる一方、社債調達が4割弱に達した。5月にも個人向けにハイブリッド債4050億円の発行を決めた。外資系はSBG向け融資を増やすことで、株式や債券の引き受けビジネスでも稼ぎたい思惑がある。

(以下略)

この記事にあるようにソフトバンクGの上位借入先が外銀になってきています。

ソフトバンクGの拡大路線を邦銀が支えきれなくなってきているという指摘もされています。

では、中長期的にソフトバンクGの銀行借入はどのような状況だったのでしょうか。まずは数字を確認してみましょう。 

 

過去10年の銀行借入状況

以下は過去10年間におけるソフトバンクGの銀行借入状況です。ソフトバンクGの10年分の株主総会招集通知から筆者が数字を拾い、まとめたものです

銀行名/単位億円 2012/3 2013/3 2014/3 2015/3 2016/3 2017/3 2018/3 2019/3 2020/3 2021/3 前年比
みずほ 2,341 3,097 4,691 4,402 4,367 5,221 7,581 5,977 13,852 8,501 61%
みずほ信託 330 278 806 728 不明 不明 不明 不明 不明 不明
JPモルガン 不明 不明 不明 不明 不明 不明 1,697 1,132 1,771 8,293 468%
BNPパリバ 不明 不明 不明 不明 不明 不明 不明 不明 不明 6,015
ゴールドマン・サックス 不明 不明 不明 不明 不明 不明 1,077 不明 不明 5,932
三井住友銀 1,545 2,168 3,939 3,731 3,527 4,527 4,916 4,489 6,606 4,771 72%
クレディ・アグリコル 不明 不明 不明 不明 不明 不明 1,044 不明 2,468 4,721 191%
ドイツ 不明 不明 不明 不明 不明 不明 2,859 2,061 2,580 3,761 146%
三菱UFJ 1,000 1,527 2,853 2,710 2,676 3,370 3,167 3,363 4,010 2,777 69%
三菱UFJ信託 472 678 978 980 不明 1,385 1,015 不明 不明 不明
シティバンク 不明 不明 不明 不明 不明 不明 不明 1,225 1,638 2,629 161%
ジャパン・セキュリタイゼーション 不明 不明 不明 不明 不明 不明 不明 不明 不明 2,400
三井住友信託 400 278 1,310 1,164 1,002 1,612 1,440 不明 1,964 不明
オリックス銀行 不明 不明 不明 不明 不明 不明 1,839 1,897 1,930 不明
バンク・オブ・アメリカ 不明 不明 不明 不明 不明 不明 4,063 1,020 不明 不明
スレンダー 930 930 1,500 2,000 1,500 4,000 4,000 2,000 不明 不明
クレディ・スイス 不明 不明 不明 不明 不明 不明 不明 不明 1,578 不明
国際協力銀行 不明 不明 2,200 2,117 1,950 1,644 不明 不明 不明 不明
日本政策投資銀行 250 245 825 794 不明 不明 不明 不明 不明 不明
あおぞら 不明 265 不明 不明 不明 不明 不明 不明 不明 不明
新生 250 195 不明 不明 不明 不明 不明 不明 不明 不明
りそな 不明 164 不明 不明 不明 不明 不明 不明 不明 不明

(出所 ソフトバンクG株主総会招集通知) 

上記表について見づらい場合もあるかと思いますので、画像でも貼り付けておきます。

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(出所 ソフトバンクG株主総会招集通知) 
この銀行からの借入推移を見ると、日経新聞が指摘している通り、外銀からの借入が急増しています。

これは、ソフトバンクGの2021年3月期決算資料で見ると、「SB Northstar の有利子負債(流動)」の項目に「・上場株式の取引への使用を目的とした短期借入金:+1 兆 2,039 億円 ・アリババ株式を活用した借入れ(マージン・ローン):+60 億米ドル」との記載があります。

SB Northstarとは、ソフトバンクGの資産運用子会社で、上場株式等に投資しています。Amazon、Facebookのような企業に投資していると発表されています。この資産運用会社で、上記のような単純化すれば「株式担保の借入」を行った相手が外銀なのだと想定されます。

確かに、邦銀はバブル期に株式担保貸出等の「いわゆる財テク融資」で痛い目に遭っており、このような貸出は苦手です。

借入を用いて(よくレバレッジを効かせると言います)、リスクを取りながらリターンの増大を目指すソフトバンクGには、邦銀はなかなか企業風土として付いていくのが難しいかもしれません。

借入の残高推移を過去から見ると、MUFGは確かに「相応の付き合い」と割り切っているように見えます。三菱UFJ銀行と三菱UFJ信託を合計したMUFGの残高は、あまり大きく増加していません。

また、三井住友銀行も、邦銀2番手であることを超えて更に踏み込む動きはしていないように見えます。

一方で、みずほは、2021年3月末で約8,500億円の貸出残高があります。みずほFG全体の貸出金は2021年3月末時点で83兆円あります。すなわち、みずほFGの貸出残高の1%超はソフトバンクGが占めているのです。

これはかなりの金額です。

ちなみに、2021年3月末時点だと、みずほ銀行の国内貸出残高では、建設業6,924億円、情報通信業11,374億円となっています。これは業界全体への貸出であり、ソフトバンクG1社に対して8,500億円を貸し出しているのは確かに多いと言えるかもしれません。(尚、その他業界では、製造業104,548億円、電気・ガス・熱供給・水道業 25,694億円、運輸業・郵便業24,451億円、卸売・小売業49,474億円、不動産業82,441億円等)

 

所見

銀行は預金を預かっている以上、安全・信用を第一としています。

そのため、貸出先は分散させ、1社が倒産しても銀行に大きな影響を被らないようにしています。

ソフトバンクGは確かに「借金の大きさ」で邦銀の対応できる枠を超えつつあるのかもしれません。

そもそも、銀行は、株式投資を行うための貸出を通常は行いません。投資会社となったソフトバンクGへの銀行の取引方針は非常に難しい局面に差し掛かってきたものと思います。

但し、ソフトバンクGは特にメガバンクを儲けさせてきました。他の企業だと大きな手数料を払ってくれませんが、ソフトバンクGはある意味では気前よく手数料を払ってくれる企業です。このソフトバンクGの「飴」に慣れてきた邦銀がどのような対応を取っていくのか今後も注目です。