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『覇権国家戦争』米国VS中国~歴史に学ぶ覇権国の条件とは~

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米中の貿易戦争が開始されています。

この経済戦争は、両国の覇権争いであることは間違いありません。

そして、筆者の目から見れば、現時点では米国が優位であると思います。

しかし、米国の優位はいつまでも続くのでしょうか。

そもそも、米国はトランプ大統領に代表されるように保護主義、排他主義が目立つようになってきたように感じます。

米国はいつまでも覇権国として君臨出来るのでしょうか。

今回は、米国および中国の今後について、歴史から考察してみたいと思います。

 

書籍の紹介

今回の記事は、以下の書籍をベースにしています。

  • 「最強国の条件」エイミー・チュア 2011年5月(日本語版)

原題は、Day of Empire: How Hyperpowers Rise to Global Dominance - and Why They Fallです。

2007年にイェール・ロー・スクール教授のエイミー・チュア氏が発表しました。

この書籍は、現在の最強国である米国と過去の超大国を比較し、最強国の条件を探ったものです。

最強国の条件

以下は、筆者が上記「最強国の条件」を購読した際にメモした内容を記載します。よって、かなりの部分が引用となっているものと思います。

  • かつて世界史に登場した最強国は、世界支配に至る上昇過程において、少なくともそれぞれの時代の標準に照らして、極めて多元主義的かつ寛容だった。
  • 最強国の衰退は、不寛容、排外主義、そして人種的、宗教的、あるいは民族的「純粋さ」への呼び掛けと、ほとんどの場合、軌を一にしている。
  • アケメネス朝ペルシャは、軍事的には一つの単位であったものの、近代の国民国家のように、その臣民たちに政治的な一体感があった訳ではなく、共通の宗教も言語も文化もなかった。
  • ローマは、人種、出身地に関係なく出世が可能だった。ローマの市民権は帝国当局の権力や下層の大衆からも一定の保護がなされ、投票権、財産権、契約を交わす権利、法の下の平等、拷問されない権利、死刑からの特別保護があった。ただし、多文化共生主義ではなく、同化を求めており、ローマ風になれば一員として迎えていた。ローマに同化することに対する見返りの高い政治経済の仕組みを作り、ローマ文化を受容するのを促した。
  • ローマの衰退の要因は、キリスト教であり不寛容。ローマの衰退は文化や習慣の異質さが際立ったゲルマン人が大量に移住し、ローマの同化吸収の能力を圧倒すると共に始まった。やがて、宗教的、人種的不寛容さによって戦争と内乱を自ら引き起こし、ローマ人の血と文化と宗教の純粋さを追求した時に崩壊がスタートした。
  • 中華文明の黄金時代の唐王朝を開いたのは、漢人と騎馬民族の混血であり、唐代の特色は中国史における空前絶後の国際性と文化的多様性、外国人に対する開放性だった。玄宗時代には長安の1/3が外国人だった。
  • モンゴル帝国は、軍事改革がポイントであり、血族ではなく能力と忠誠心を評価した。ただし、ペルシャ異なり単一のモンゴル民族を創り出した。
  • スペインの衰退理由は、王室の狂信的な宗教浄化政策、ユダヤ教徒追放による。
  • オランダはヨーロッパ中の迫害される少数者、被差別民を引き寄せた。
  • 英国は、信教に寛容であり、ユグノー(フランス新教徒)、ユダヤ人、スコットランド人に寛容だった。そして、オランダと異なり植民地にも寛容が求められた。イングランド銀行の設立構想はスコットランド人、設立資金はユグノー教徒、債権の大口引受人はユダヤ教徒だったことが象徴的。そして、1830年代には奴隷貿易を廃止して、英国の国力が国民の信仰心と自由、道徳的な優位性にあると主張できるようになった。

以上は私の手書きのメモがベースとなっていますので、原著に忠実かは分かりません。しかし、内容は大きくは異ならないのではないかと思います。

 

今後の考察

米国を覇権国に押し上げた要因はどのようなものでしょうか。

米国は少なくとも最近までは「人種のるつぼ」と言われ、人種差別には厳しい国でした。また、アメリカンドリームと言われるように、どの人種にも成功のチャンスがありました。成り立ちからキリスト教国ですが、信教の自由もあります。

米国は、多元主義的であり寛容あったからこそ、世界中の優秀な頭脳を引き付け、科学技術、軍事技術、金融技術、情報技術等で世界を圧倒してきたのです。

これからの米国はどうでしょうか。少なくとも宗教や人種で不寛容になってきているように感じます。貿易も保護主義的になってきているでしょう。アメリカファーストというのは、他国を惹きつけるでしょうか。

一方で、中国はどうでしょうか。中国は不寛容国家であるとの見方が一般的でしょう。しかし、科学技術、軍事力では急速に力をつけてきています。そして、少なくとも「米国や世界で学んだ」中国人を自国に惹きつけています。

過去の歴史は未来を約束はしませんが、参考とすることは出来ます。人間の行動は、簡単には変わらないからです。

現段階では米国と中国の覇権争いは、米国の勝利となる可能性は高いでしょう。しかし、米国が将来的にも覇権国でいられるかは分かりません。不寛容が続くのであれば魅力を失っていく可能性はあるのではないでしょうか。米国の地位は、多元主義と寛容を維持出来るかにかかっているのではないかと筆者は考えます。

また中国が米国を凌ぐ覇権国となるとは筆者は思えません。不寛容であり、中国人以外を惹きつける魅力に乏しいからです。それでも、何が起きるかは分かりません。中国人の人口は圧倒的だからです。

未来は不透明です。しかし、過去の歴史に照らせば、少なくとも直感や感情よりはロジックのある推測が出来るのです。