銀行員のための教科書

これからの時代に必要な金融知識と考え方を。

銀行員が振り返る2021年の出来事

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2021年が過ぎ去ろうとしています。

コロナ一色だったように思われる一年ではありましたが、思い返してみると様々な動きがあった年でありました。

この暮れが迫った時期に2021年はどのような年だったのかを振り返ってみたいと思います。

 

1月

年始は、米国に大きな動きがありました。

年始早々(1月6日)に米首都ワシントンの連邦議会議事堂に突入するドナルド・トランプ大統領の支持者らの姿が世界に報道されました。民主主義の総本山とも言える米国で、このようなことが起きたのは、米国が分断されている現実を浮き彫りにしました。また、米国でクーデターが起きてもおかしくないのではないかとまで思わされました。筆者は強い恐怖を感じたことを鮮明に覚えています。

そして、混乱がありながらも、1月20日には、米国第46代大統領にジョー・バイデン氏が就任しました。米国の大統領は、世界の王と表現されることがありますが、その就任当時で77歳と高齢の大統領です。米国の分断をどのように収めていくのか、重い課題を背負った船出でした。

 

2月

2月1日にはミャンマーで軍事クーデターが起きました。2015年の総選挙で自身が率いる政党を圧勝に導き、半世紀以上にわたって続いてきた軍主導の政治を終わらせたアウン・サン・スー・チー氏が主導し、真に民主的な国家の実現を目指していたミャンマーは、突如として軍事政権の国に戻りました。アジアの残されたフロンティアとして成長が期待されていましたが、現在は海外からの投資は止まった状態にあります。

日本において、医療従事者へのワクチン先行接種がスタートしてのは2月でした。筆者はこのタイミングでワクチン接種が始まったのであるから、年末には経済活動は相当に戻り、場合によっては海外へのビジネス出張は可能になっているのではないかと思っていたものです(現実は違いましたが)。

銀行業界では、みずほ銀行のシステム障害がスタートしたのが2月でした。みずほ銀行の全国のATM現金のうち約8割にあたる4300台が稼働せず、キャッシュカードや預金通帳を取り出せなくなった顧客取引が発生しました。その後、みずほ銀行は2~9月までに計8回のシステム障害を起こしました。

 

3月

3月には香港の民主化の道は事実上断たれました。中国は、香港政府トップの行政長官と議会に当たる立法会の議員の選挙に立候補する人を治安機関が事前に調査し、政府に忠誠を尽くしていないと判断された場合、立候補を認めないとする新たな選挙制度の導入を決めました。これによって、体制に批判的な勢力は政治の舞台から排斥されることになりました。このニュースは、中国が国際的な約束を守らないことを鮮明にしたものでした。

 

4月

米中西部ミネソタ州ミネアポリスで2020年5月に起きた黒人男性の暴行死事件を巡る裁判で、白人元警官に対して有罪評決が言い渡されました。全米で、警察の暴力や黒人の人種差別に抗議する「ブラック・ライブズ・マター(黒人の命は大切だ)」運動が広がった人種差別への抗議運動が広がるきっかけとなった歴史的事件に審判が下ったのが本年4月です。バイデン大統領が「全てがただちに解決するわけではないが、少なくとも今ここには正義がある」と語った言葉は印象的だったのではないでしょうか。

菅首相(当時)が、米国が主催するオンライン形式での気候変動サミットで演説し、2030年度の温室効果ガス削減目標を現行の「13年度比26%減」から「同46%減」に大幅に引き上げる方針を表明したのも4月でした。これによって、日本も脱炭素に向けた動きを加速していくことが確定しました。

尚、日本では、新型コロナウイルスワクチンの高齢者向け優先接種が、一部地域で始まったのが4月でした。

 

5月

5月のG7外相の共同声明は、中国の新疆ウイグル自治区の人権状況や香港情勢を挙げて「重大な懸念を抱いている」としました。東・南シナ海の状況をめぐっても「一方的な行動に強く反対する」と批判し、また「グローバルな経済的役割に見合った義務と責任を担い、果たすよう求める」と促しています。さらに台湾海峡をめぐり「両岸の問題を平和的に解決することを促す」とし、中国の軍事的な圧力強化をけん制しました。G7が結束して中国に厳しい姿勢を示したことで、いわゆる西側諸国と中国の対立関係が鮮明となったと言えます。

 

6月

香港の新聞紙「リンゴ日報」は、香港国家安全維持法に違反した疑いで幹部の逮捕が相次ぎ、警察に資金が凍結されたことで6月に新聞の発行を停止しました。1997年に香港が中国へ返還された後も保障されてきたはずの香港における「言論の自由」が幕を閉じた象徴的な事件だったのだろうと思います。

 

7月

7月には、ヴァージン・ギャラクティックによる有人宇宙船の試験飛行が成功しました。

そのわずか後には、Amazon.comの創業者ジェフ・ベゾス氏は、自身の宇宙開発企業「ブルーオリジン」が開発した宇宙船とロケットで宇宙旅行を成功させました。

ヴァージン創業者のリチャード・ブランソンとジェフ・ベゾスの二人の大気圏外にどちらか先に行くかという戦いは、ブランソン氏が勝ちましたが、まさにこの2021年7月が宇宙観光事業(宇宙旅行)の端緒となった時期となったものと思います。

日本においては、東京オリンピックの開催がスタートしました。閉会式の一部での酷評等、日本の衰退を実感した方もいたのではないでしょうか。

そして、銀行業界との関連では、酒類提供をめぐる西村経済再生担当相(当時)の酒類提供制限に「応じない飲食店には金融機関から働きかけをしてもらう」という圧力発言は、恐ろしさを感じた方も多かったでしょう。

 

8月

8月には、米軍がアフガン撤収を完了しました。20年という米国史上最長の戦争であったアフガン戦争は正式に終結しました。反政府武装勢力タリバンが首都カブールに進攻し、政府に対する勝利を宣言したのは記憶に新しいところでしょう。米軍のアフガン撤退は米国が世界の警察に留まることはないと認識させられたのではないでしょうか。

 

9月

9月には自民党総裁選が行われ岸田新総裁が誕生しました(総理大臣となるのは10月でした)。自民党総裁選を通じ「成長だけでなく分配を重視」した発言を岸田新総裁が繰り返していたのが印象的でした。

中国の不動産大手「中国恒大集団」の経営危機も今年のトピックスの一つです。同社の債務不履行懸念を受け株価が急落したのが9月でした。恒大ショックは欧州、米国、そして連休明けの日本にも波及し、世界同時株安の様相を呈しました。

 

10月

衆院選が行われたのは10月です。自民党は選挙前の276議席から減らしたものの、単独で国会を安定的に運営するためのいわゆる「絶対安定多数」の261議席を確保しました。衆院選における報道各社の情勢調査や予測が、一部の例外を除きことごとく外す結果となったことも印象深いものでした。

米国IT大手Facebook(フェイスブック)が、メタバースと呼ばれる仮想空間の開発を強化するため社名を「メタ」に変更することを発表したのが10月でした。今まで以上にメタバースへの注目が高まったタイミングだったものと思われます。

 

11月

国連気候変動枠組条約第26回締約国会議(COP26)が開催されたのは主に11月です(10月31日開幕)。COP26の成果文書では「世界の平均気温の上昇を1.5度に抑える努力を追求することを決意する」「排出削減対策が取られていない石炭火力発電の段階的な削減の努力を加速する」と明記されました。脱炭素の流れが加速していくことは間違いありません。

 

12月

各国政府が北京五輪の外交ボイコット表明しました。中国の人権状況を容認しないという各国の考え方が背景にあります。

また、ドイツ新首相にオラフ・ショルツ氏が選出されました。2005年から16年間、首相を務めたメルケル氏は政界引退しました。一つの時代が終わったということでしょう。

公益財団法人日本漢字能力検定協会が毎年12月に、その1年の世相を表現する「今年の漢字」を発表していますが、本年の漢字は「金」と発表されました。「金」が選ばれた理由は、東京オリンピック・パラリンピックでの日本人選手の活躍に加え、大谷翔平選手の大リーグMVP受賞、松山英樹選手の日本人初のマスターズ制覇、藤井聡太棋士の最年少四冠達成等の「金字塔」を打ち立てられたことによるものと解説されています。

 

まとめ

筆者の勝手な試験で2021年の出来事を振り返ってみました。

京都・清水寺で発表された今年の漢字は「金」(カネじゃなくキンでしょうね)でした。前向きで素晴らしい選定だと思います。

しかしながら、筆者にとっての2021年は世界における様々な「分断」の再確認と、「新たな結束」への動きだったように感じています。

中国と西側諸国、脱炭素における先進国とそれ以外、企業と社会、富裕層以上と中間層以下、正社員と契約社員等々、様々な分断があり、その分断を修復していこうという動きが明確になってきたのが2021年だったのではないでしょうか。

皆様にとっての2021年はどのような年だったでしょうか。良い年になったことを筆者としては願っております。