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株主総会の集中日という慣行は株主軽視では?

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3月決算の上場企業の株主総会がピークを迎えています。

なぜ上場企業の株主総会開催日は集中しているのでしょうか。近時の傾向はどうなっているのでしょうか。

今回は株主総会の集中日について確認しましょう。

 

報道内容

本日が3月決算の上場企業の株主総会です。まずは新聞記事を引用します。

株主総会、今日ピーク レオパレスなど不祥事を謝罪
2019年6月27日 日経新聞

上場企業の定時株主総会が27日、ピークを迎えた。東京証券取引所によると、719社が総会を開催した。今年は株主提案が過去最多の約60件となり、株主総会は企業と投資家の対話の場として重要度を増している。レオパレス21など不祥事を起こした企業では株主から厳しい声が相次いだ。

集中日に総会を開く企業の数は2018年の725社から6社減ったが、集中率は3月期決算企業全体の31%と横ばいだった。

(以下略)

記事にある通り全体の3割が同じ日に株主総会を開催しています。

 

株主総会の開催集中日の動向

3月期決算会社の定時株主総会の最集中日における集中率は1995年をピークに低下しており、コーポレートガバナンス・コードの制定(2015年6月)後は、株主との建設的な対話の場として、株主総会の活用を図る取組みが進展してきました。

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(出所 日本取引所グループwebサイト)

上表にあるように1995年をピークに開催日は分散されてきています。

 

集中日はどのように決まるのか

株主総会はなぜ同じ日に集中しているのでしょうか。上限企業が連絡を取り合って決めているのでしょうか。

実際には、総会の集中日は慣行上、以下とされています。

3月決算会社の場合であれば、

  • 6月最終営業日の前営業日
  • 当該日が月曜日である場合には、その前週の金曜日

というものである。

3月決算会社が6月中に定時株主総会を開催しなければならないというわけではないが、通常は定款で「第○条 当会社の定時株主総会の議決権の基準日は毎年3月31日とする」というように、株主総会の権利行使基準日を事業年度末日、つまり決算日と同一日に定めている。この基準日の有効期限が3ヶ月以内とされているため、3月末日決算であれば6月中の総会開催が必須となる。定時株主総会に関する基準日を決算日以外に定めることも可能ではあろうが、実務では採用されておらず、6月下旬に集中的に開催される状況は、変わっていない。

最終の営業日の一日前というのは、総会が紛糾し翌日に繰り越した場合には、3ヶ月以内に終了できなくなると考えられるからだ。もめたとしても6月中に終えるために一日の余裕を置いておくわけだ。また、月曜日を避けるのは、郵便で送られてくる議決権行使書面の集計が開会に間に合わなくなるかもしれないからだ。休日にたまった分を処理するのに、時間を要する恐れがある。ただ、いずれも法律上の要請ではないので、稀にではあるが最終営業日に開催する事例もあるし、月曜日に開催することも時折見られる。

(出所 大和総研グループwebサイト)

このような慣行があり、企業同士が擦り合わせなくとも株主総会は同じ日に集中するのです。

 

株主総会の集中が始まった理由

では、なぜ株主総会の開催日は集中するようになったのでしょうか。

これは、株主総会に総会屋が物理的に来られないようにするため、6月末の集中日に株主総会を開催するようになったとされています。

株主総会が集中日に開催されるようになった主要な背景の一つには,総会屋の存在と株主総会に対する経営者の消極的姿勢があげられる。

昭和 25 年以来の大改正となった昭和 56 年商法改正において,総会屋を根絶し,株主総会が本来の機能を果たすことができるようにするため,利益供与禁止規定が新設された。この改正商法の施行により,活動を阻止され危機意識を強めた総会屋は,生き残りをかけ,活動を活発化させ,その結果,総会屋は株主総会で執拗に経営者に食い下がるようになったのである。一部の経営者は,株主総会で長い時間をかけて我慢強く丁寧な説明を行い,総会屋に立ち向かったのであるが,多くの経営者は,長時間総会を好まなかった。これは,会社経営に問題があるかどうかは,総会時間の長短で証明されるという規範が当時の企業社会に存在したり,また,会社側の発言回数が増えるにつれ,答弁にスキが生じ余計な発言をしてしまう可能性があったりしたためである。

(出所 日本経営学会誌 第 37 号,pp.51-63,2016)

今はすっかり存在が無くなりましたが、総会屋という「株主総会において,株主の権利を濫用し企業から不当な利益を得ようとする者」対策だったことが分かります。

 

今後の動向

しかし、総会屋がほぼ存在しなくなった現在、株主総会を集中日に開催する必要はあるのでしょうか。

株主総会を集中日に開催する上場企業は株主を軽視しているとの批判を免れないのではないでしょうか。

株主総会が求められる役割は、「審議の場」から「株主への情報提供の場」「経営への規律づけの場」へと変容してきました。

総会集中日に開催することは、株主が総会に出席する選択肢を奪う可能性があります。

そもそも平日の10時に株主総会が横並びで開催されるのも企業側の都合といえます。

休日や平日夜開催というのも選択肢としてはあるはずです。

ほとんどの個人株主は、議決権の個数が少なく、会社の議案を成立させるためには影響力はありません。そして、株主総会では、予想出来ない質問や意見を述べることも多々あります。

しかし、株主総会を集中日に開催するか否かは、個人株主も含めた幅広いステークホルダーに向き合おうと経営者が考えているかを測るバロメーターになるのではないでしょうか。

今後の企業の姿勢に注目していきたいと思います。