銀行員のための教科書

これからの時代に必要な金融知識と考え方を。

新卒の賃金制度変更は、日本型雇用・終身雇用の終焉を示すシグナル

f:id:naoto0211:20190624195244j:image

ユニクロを運営するファーストリテイリングが人事制度を見直し、入社3年で年収3000万円となる可能性まである制度とすると報道されています。

日本企業は経団連会長が終身雇用の維持が難しいと発言する等、日本型の雇用のあり方について見直す気運が高まってきています。

ファーストリテイリングの人事制度見直しは若手にチャンスを与える観点で良いとも思えますが、このような事象は何を表しているのでしょうか。

今回は、ファーストリテイリングの事例から見えてくる日本企業の雇用について考察しましょう。

 

報道内容

まずは、最近の新卒、若手の雇用条件についての象徴的な報道を確認しましょう。

ファストリ、入社3年で年収3000万円も 幹部に登用
2019年6月23日 日経新聞

ユニクロを運営するファーストリテイリングは優秀な若手の確保に向けて2020年春にも人事制度を見直す。入社後最短3年で子会社の幹部などに抜てきする。年収は1千万円を超え、欧米勤務では最大3千万円程度とする。ソニーが人工知能(AI)に詳しい新入社員を優遇するなど、横並びの給与や昇進体系の見直しが進めば成果主義が浸透し、企業の生産性向上にもつながっていく可能性がある。

以下はくら寿司の事例です。

くら寿司、新卒で年収1000万円の幹部候補生を採用
グローバル人材確保へ特別枠
2019年5月31日 日経新聞

くら寿司は2020年春入社の新卒採用で、入社1年目から年収1000万円の幹部候補生を募集する。26歳以下でビジネスレベルの英語力を持つ人材を最大10人ほど採用する。米国や台湾など海外でも回転ずし店を積極出店するなか、グローバルで経営を担う人材を確保する狙いだ。

また、上記の記事にあったソニーに関する記事です。

ソニー、デジタル人材の初任給優遇 最大2割増730万円
2019年6月3日 日経新聞

ソニーは新入社員の初任給に差をつける取り組みを始める。人工知能(AI)などの先端領域で高い能力を持つ人材については、2019年度から年間給与を最大2割増しとする。対象は新入社員の5%程度となる見通し。デジタル人材の獲得競争は業界や国境を越えて激化している。横並びの給与体系の見直しが進めば、より付加価値の高い分野に人材をシフトさせ、日本全体の生産性を高める効果が期待できそうだ。

いずれも、今までの日本型雇用、賃金体型では考えられなかった条件といえます。

では、このような制度を設ける企業が出てきたことにはどのような意味があるのでしょうか。

 

新卒の雇用条件変更の意味

日本型の雇用は、一般的には、個人の職種を限定しないものです。いわゆる総合職であり、仕事の内容が決まっていない「何でも屋」です。

ITの技術職で採用されても、システム開発に携わった人が、後にそのシステムの営業職に異動することも十分にあります。

日本企業は、この仕組みで従業員を解雇することなく、社会・顧客ニーズの変化等に対応してきたといえます。

一方で、海外では一般的と言われるジョブ型の雇用は、新卒・既卒や年齢にこだわらず、企業が必要なポスト(職種)を採用します。

日本型雇用はメンバーシップ型であり、終身雇用と言われることもあります。企業が定年まで従業員の雇用を守るという暗黙の約束があるのです(幻想かもしれませんが)。

この日本型雇用、終身雇用があったからこそ、日本企業は相対的に低い賃金で若くて優秀な人材を確保できたのです。

従業員にとって、将来にわたり安定した地位が得られ、長く勤めればだんだんと賃金も上がり、生涯所得では損にならないという期待が持てたからこそ、従業員は若い年次では低賃金を甘受してきました。もちろん、転居を伴う異動も終身雇用があるからこそです。

しかし、経団連会長が発言したように企業は終身雇用を守るのは難しくなってきています。これからの日本は技術変化・顧客ニーズが目まぐるしく変わる時代に対応するのみならず、少子高齢化による人手不足への対応も必要となるのです。

従って、終身雇用が維持できないのであれば、企業は今までとは異なる雇用条件を提示しなければ優秀な若い人材を雇用できなくなります。若いうちは低い給料で我慢しろとは言っても誰も集まらなくなるのです。

ファーストリテイリングも、くら寿司も、そしてソニーも終身雇用の枠外であるジョブ型の従業員を増やしていこうと試みているのです。

 

日本における雇用の将来像

日本では社会のシステムが新卒一括採用、終身雇用に合わせた形で構築されています。転職に不利となる退職金・年金制度はその典型でしょう。退職金・年金制度は終身雇用を前提とした賃金の後払いのような位置付けなのです。

そして、終身雇用が従業員に強いてきたのは、安心と引き換えの低賃金、ライフスタイルや家族事情を無視した転居を伴う異動、社外に通用する能力よりも社内人脈と社内でしか通用しないノウハウの取得です。

これからの若い人材は、終身雇用が無くなったと考えるのであれば、上記のような犠牲を従業員に強いる企業からは逃げ出すでしょう。

若いうちから能力があるのであれば、仕事・職務に対して適正な対価(賃金)が払われる時代が来る可能性は高くなってきています。

ファーストリテイリングの今回の報道は、このような日本型雇用・終身雇用の終焉を表していると言えるのです。

ただし、政府は「70歳までの就業機会の確保」を企業の努力義務にする方針です。この動きは、終身雇用の継続を企業に迫るものです(終身雇用以外にも企業に選択肢はありますが)。大きな流れからは逆行していると言えるでしょう。

日本型雇用は、少子高齢化、共働き世帯の増加等により変質していくことは間違いありませんが、終身雇用が完全に消え去り、今回のファーストリテイリングのような雇用が一般的になっていくかは、まだまだ判然としないと言えるのではないでしょうか。