2018年11月2日に第6回社会保障審議会年金部会(厚労省大臣の諮問機関における部会)が開催されました。
この年金部会では名称の通り我が国の「年金」ついて議論がなされており、今回は「一定額以上の収入がある高齢者の年金を減額する制度である」在職老齢年金について議論されたと報じられています。
今回は、この在職老齢年金制度について、確認していきましょう。
今は関係なくとも年金は私たち一人ひとりの将来(働き方、生活等)に影響します。無関心ではいられません。
在職老齢年金とは
まず、在職老齢年金とはどのような制度でしょうか。
以下定義を確認します。
在職老齢年金は、老齢厚生年金を受給しながら厚生年金に加入中の人が受け取る年金です。年金額と月給・賞与に応じて年金額は減額され、場合によっては全額支給停止になります。
(出典 公益財団法人日本生命保険文化センターWebサイト)
もう一つ、日本年金機構の用語集からもご紹介します。
60歳以降在職(厚生年金保険に加入)しながら受ける老齢厚生年金を在職老齢年金といい、賃金と年金額に応じて年金額の一部または全部が支給停止される場合があります。
60から65歳までの間は、賃金と年金額の合計額が28万円以下の場合は支給停止されませんが、賃金と年金額の合計額が28万円を上回る場合には、賃金の増加2の割合に応じて、年金額1の割合で停止されます。
また、賃金が46万円(平成29年度の額)を超える場合、賃金が増加した分だけ年金額が停止されます。※平成17年(2005年)3月までは、老齢厚生年金の額の2割に相当する額を基準に、支給停止額が算出されていましたが、60歳台前半の就労を阻害しないよう、平成16年(2004年)改正により、平成17年(2005年)年4月から廃止されました。
65から70歳までの間は、賃金と年金額の合計額が46万円(平成29年度の額)を超える場合、賃金の増加の割合2に応じて、年金額1の割合で停止されます。(ただし、老齢基礎年金は全額支給されます。)また、70歳以降についても、平成16年(2004年)改正により、平成19年(2007年)4月から、60歳台後半と同じ取扱いとなります。(ただし、保険料負担はありません。)
※平成27年(2015年)10月以降は、昭和12年4月1日以前に生まれた70歳以上の方や、議員である方、共済組合等に加入している方についても年金の在職支給停止の対象となります。
(出典 日本年金機構Webサイト 更新日:2017年4月19日)
これが在職老齢年金です。
報道内容
以上の在職老齢年金制度について、社会保障審議会年金部会で議論がなされました。議論の内容は以下のように報道されています。
働く高齢者の年金減額制度、廃止・縮小に賛否分かれる
2018/11/02 日経新聞給与と年金で一定額以上の収入がある高齢者の年金が減る制度について2日、見直しに向けた議論が始まった。今の制度は高齢者の働く意欲をそぐとして、廃止や縮小をして就労を後押しすべきだとの意見が出た。給付を抑えた金額は65歳以上向けで年4000億円。見直せば年金財政の悪化や世代間の不公平につながる懸念もあり、有識者の賛否は分かれた。
収入が一定額を上回る高齢者は、もらえる厚生年金が減ったりゼロになったりする。「在職老齢年金」という制度で、保険料を負担する現役世代に配慮するものだ。一方、収入が増えすぎないように、高齢者が働く時間を減らしているといった批判もある。
対象は受け取る給与と年金の合計が、60~64歳の人は月28万円、65歳以上は46万円超になる場合だ。
同日開かれた社会保障審議会(厚生労働相の諮問機関)の年金部会では、経団連の牧原晋氏が「65歳以上で減額対象の人は経済的に恵まれている。今の枠組みが必ずしも就業に影響しているわけではないので維持すべきだ」と述べた。
仮に廃止や縮小をすると、現役世代の不満につながるとの懸念は多い。日本総合研究所の山田久理事は「廃止や縮小をすべきだ」としたものの「高所得者の優遇や世代間の不公平を招く」との懸念も示した。
財政への影響については年金給付を抑制する「マクロ経済スライド」での調整や、税で穴埋めするといった方策が出された。
このように在職老齢年金については廃止すべきという議論のみならず維持すべきという議論がなされていることが分かります。
ただし、いずれにしろ政府が目指している方向性は明確であり、「高齢者が長く働きたいと考える制度」を模索しているということになります。
高齢化の現状
平成30年版高齢社会白書によれば、我が国の総人口は、2017年10月1日現在、1億2,671万人となっています。65歳以上人口は、3,515万人となり、総人口に占める割合(高齢化率)も27.7%となりました。
65歳以上人口のうち、「65~74歳人口」は1,767万人(男性843万人、女性924万人、性比91.2)で総人口に占める割合は13.9%、「75歳以上人口」は1,748万人(男性684万人、女性1,065万人、性比64.2)で、総人口に占める割合は13.8%となっています。
我が国の65歳以上人口は、1950年には総人口の5%未満でしたが、1970年に7%を超え、さらに、1994年には14%を超えました。高齢化率はその後も上昇を続け、2017年10月1日現在、27.7%に達しています。
また、15~64歳人口は、1995年に8,716万人でピークを迎え、その後減少に転じ、2013年には7,901万人と1981年以来32年ぶりに8,000万人を下回っています。
我が国の総人口は、長期の人口減少過程に入っており、2029年に人口1億2,000万人を下回った後も減少を続け、2053年には1億人を割って9,924万人となり、2065年には8,808万人になると推計されています。
65歳以上人口は増加傾向が続き、2042年に3,935万人でピークを迎え、その後は減少に転じると推計されています。
総人口が減少する中で65歳以上の者が増加することにより高齢化率は上昇を続け、2036年に33.3%で3人に1人となります。2042年以降は65歳以上人口が減少に転じても高齢化率は上昇を続け、2065年には38.4%に達して、国民の約2.6人に1人が65歳以上の者となる社会が到来すると推計されているのです。総人口に占める75歳以上人口の割合は、2065年には25.5%となり、約3.9人に1人が75歳以上の者となると推計されています。
(出典:平成30年版高齢社会白書)
上記のように、65歳以上人口と15~64歳人口の比率をみてみると、1950年には1人の65歳以上の者に対して12.1人の現役世代(15~64歳の者)がいたのに対して、2015年には65歳以上の者1人に対して現役世代2.3人になっています。
今後、高齢化率は上昇し、現役世代の割合は低下し、2065年には、65歳以上の者1人に対して1.3人の現役世代という比率になります。
すなわち、政府が考えること、そして我々自身が考えなければならないことは、高齢者でも働くことが普通であり、引退がない社会を構築するということでしょう。
所見
この在職老齢年金制度が存在する理由は、日本の公的年金制度は、いま働いている世代(現役世代)が支払った保険料を仕送りのように高齢者などの年金給付に充てるという「世代と世代の支え合い」という考え方(賦課方式)を基本とした財政方式で運営されていることにあります。
仕送り方式のため、収入がある高齢者には自分の収入で暮らしていってください、という制度が在職老齢年金なのです。仕送り方式では、現役世代が減ってきたら、現行給付水準の維持が難しくなってくるのです。
そのため、制度・給付水準を維持していくためには、働く人を増やしていくことが政府としては取りやすい一番の選択肢です。
そのインセンティブを阻害する在職老齢年金を廃止するのは理に適っています。
筆者は、様々な会社で在職老齢年金に抵触しない程度の給料をもらって働いている方を見てきました。これは企業経営者側にとっては都合の良い従業員ともいえますし、従業員側にとっても雇用が延長されるなら良しとしていたのでしょう、
しかし、これからは労働力が更に必要とされ、同一労働同一賃金の方向性に進んでいく以上、このような従業員の雇い方は受け入れられなくなってくる可能性が高いでしょう。
筆者は、在職老齢年金のような制度は一刻も早い廃止を望みます。仕送り方式であるために、収入の多い高齢者は年金を減額されても良いという考え方もあるのでしょうが、むしろ就業を促進して、社会全体で生産活動に従事する人を少しでも増やすべきでしょう。少ないパイをどう分け合うかではなく、少しでもパイを拡大しなければなりません。
とにかく、現在の現役世代は、一生働き続けることを前提に生きていった方が良いのではないでしょうか。