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Tesla(テスラ)2018年2Q決算は本当に改善しているのか

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Elon Musk(イーロン・マスク)氏率いるTesla,inc.(テスラ)が第2Qの決算を発表しました。

第1Qの決算では、会見対応のまずさや業績不振が伝えられていましたが、第2Qでは業績改善の見通しを受けて株価も上昇しました。

今回は、このTeslaの決算について、冷静に確認していくことにしましょう。

 

報道内容

まずはTeslaの業績の概要についてロイターの記事を引用します。

全体像をつかめると思います。

テスラ、モデル3粗利益率プラスに 黒字化期待で引け後株価急伸

[サンフランシスコ 1日 ロイター] - 米電気自動車(EV)メーカー、テスラ(TSLA.O)が1日発表した第2・四半期決算は過去最大の赤字を記録し、フリーキャッシュフローは引き続きマイナスだった。

一方、同社は第2・四半期に量産型セダン「モデル3」の粗利益率が若干プラスに転じたとし、第3・四半期には約15%、第4・四半期にはに20%に拡大すると予想。また、第3・四半期のモデル3生産目標を5万─5万5000台とし、安定した生産計画を示したことで、2018年に黒字化とプラスのキャッシュフローを達成するという目標の実現に期待が高まった。

発表を受け、引け後の時間外取引でテスラ株は8%超上昇し、325.30ドル。

投資家はテスラがモデル3の生産計画を維持できるかどうかに注目している。

テスラによると、7月は1週間で約5000台という従来の生産目標を「複数回」達成。同社は8月終盤までに週6000台の生産ペースを目指す方針をあらためて示した。

第3・四半期の生産目標5万5000台は週4230台の生産ペース。

テスラは、モデル3への需要は引き続き力強いと説明。第2・四半期の生産台数は5万3339台で、うちモデル3の納車は1万8449台だった。

テスラは「できるだけ早期にモデル3の生産ペースを週1万台に拡大することを目指す」としたが、目標の達成は来年以降になると説明。また、設備投資計画を縮小したため、テスラがすぐに増資の必要に迫られるとの懸念は和らぐ可能性がある。

CFRAのアナリストは「テスラが不必要に強気の新しい目標を設定せず、一段と控えめな見通しを示したことを好感している」とし、「イーロン・マスク最高経営責任者(CEO)の慎重姿勢の表れかもしれない」と指摘した。

テスラの第2・四半期末時点のキャッシュは27億8000万ドルで、第1・四半期末の32億ドルから減少。第2・四半期の設備投資額は6億1000万ドルだった。

ソーラー事業関連費用を除いた第2・四半期のフリーキャッシュフローはマイナス7億4000万ドル。第1・四半期のマイナス10億ドルからマイナス幅が縮小した。

テスラ株を保有するガーバー・カワサキ・ウェルス・アンド・インベストメント・マネジメントのロス・ガーバーCEOは「営業ベースで、テスラのキャッシュフローがプラスになるのに十分だ」と指摘した。

テスラは設備投資計画の縮小に加え、従業員の9%削減に着手している。2018年の設備投資額は前年の34億ドルを下回る、25億ドル弱と見込んでいる。

第2・四半期の損失は7億1750万ドル(1株当たり4.22ドル)。赤字額は前年同期の3億3640万ドル(同2.04ドル)の倍以上に膨らんだ。

特殊要因を除く損失は1株当たり3.06ドル。

総売上高は40億ドルに増加した。

テスラは現在、モデル3の高価格帯モデル(価格4万9000ドル以上)を生産している。

7月には、第2・四半期末時点のモデル3の予約数が差し引き残り約42万台と発表したが、決算発表では予約台数をアップデートしなかった。

中国の上海に大規模な自動車・バッテリー生産工場を新設する計画については、2019年までは同社として「大規模な」初期投資は行わないとし、大部分はアジアの債券市場で調達する方針を明らかにした。

これがロイターが報道した内容です。

 

決算概要の確認

では、以下でもう少し詳しくTeslaの2018年2Q累積(1~6月)の決算について概要を確認していきましょう。

 

<Tesla2018年2Q決算のポイント(単位百万USドル)>

  • 自動車関連売上高 6,093(前年同期比+33%)
  • エネルギー・電池関連売上 784(同+56%)
  • サービス等 534(同+31%)
  • 合計売上高 7,411m(同+35%)

 

  • 自動同社関連費用 4,863(同+47%)
  • エネルギー・電池関連費用 706(同+98%)
  • サービス等費用 767(同+58%)
  • 合計費用 6,336(同+53%)

 

  • 売上総利益 1,075(同▲19%)
  • 研究開発費 753(同+9%)
  • 販売管理費 1,437(同+26%)
  • リストラ費用等 103(前期計上無)
  • 営業損益 ▲1,218(同ー%=前期赤字、実額▲720)
  • 最終損益 ▲1,527(同ー%=前期赤字、実額▲728)

 

以上が決算の概要です。

少なくとも決算数値だけをみれば、売上高は大幅に伸長していますが、費用はそれ以上に増加しており、先行きが明るいとは言えないでしょう。

Teslaは、モデル3の生産が改善の兆しを見せ始めており、今後業績改善が図られると説明しています。

その通りになるかもしれません。

しかし、その通りにはならないかもしれません。

現段階で言える事実は、Teslaは売上高は大幅に増加しているものの、それ以上にコストが増加しているということだけです。

 

キャッシュフロー

決算がどうあろうとも、キャッシュさえしっかりと確保できていれば、企業が倒産することはありません(極論かもしれませんが)。

そこでTeslaのキャッシュフローについても確認しましょう。

 

<Tesla2018年2Qキャッシュフロー(単位百万USドル)>

  • 営業キャッシュフロー ▲528(前年同期比▲258)
  • 投資キャッシュフロー ▲1,411(同+629)
  • 財務キャッシュフロー +770(同▲1,258)
  • 期中現金等増減額 ▲1,182(同▲928)
  • 期初現金等残高 3,965(同+198)
  • 期末現金等残高 2,783(同▲730)

※当該現金等残高には使途を制限された(restricted)現預金を含む

 

このキャッシュフロー表でみる限りにおいても、Teslaの業績は苦戦しています。

本業は現金の流出が続き、投資を大幅に抑制しても、借入等外部からの資金調達を行わなければさらに現預金が流出していました。

そのため半年で1,182百万ドルの現預金が減少しています。

この要因は在庫の積み上がりに主因があります。

在庫は3,325百万ドルとなり、期初から+1,061百万ドルも増加しました。

モデル3の販売が好調ならば、なぜ在庫が膨らんでいるのでしょうか。生産の問題でしょうか。

ここでさらに留意すべきなのは、買掛金が3,030百万ドルと期初より+640百万ドルも増加していることです。これは単純に言えば、部品納入メーカー等サプライヤーへのつけ払いであり、支払いを待ってもらっている可能性があります。一部報道によれば、Teslaはサプライヤーに支払済の資金の一部返還を求めたとも伝わっており留意が必要でしょう。

 

所見

Teslaは2019年2月に1,100百万ドルの社債の償還期限を迎えます。この社債がリファイナンス(借換)出来なかった場合には、さらに現預金の流出が発生することになります。

モデル3の受注が好調であることが「正しいのであれば」、Teslaが生産さえ軌道に乗せれば、業績のみならずキャッシュフローは改善していくでしょう。

一方で、生産が軌道に乗らないのであれば、Teslaは資金繰りの危機を1年内には迎える可能性があります。

もちろん、Musk氏のカリスマ性に惹かれた投資家等が増資に応じるかもしれませんし、銀行が資金を貸し付けるかもしれません。

しかし、いずれにしろTeslaは自動車製造コストを下げると共に製品を売らなければなりません。この見通しが立たなければ、投資家も銀行も付いては来ないはずです。

これがTeslaを冷静にみた現状です。