銀行員のための教科書

これからの時代に必要な金融知識と考え方を。

【余話】 確定拠出年金の日経新聞報道について思うこと~株高はDC導入の追い風ではない~

f:id:naoto0211:20180612174043j:image
本日の日経新聞に確定拠出年金についての記事が掲載されておりました。

筆者としては、確定拠出年金の記事で少々問題がある論調であると思う記事を見ることがあります。

当該記事も同様でした。

今回は、この確定拠出年金に関する記事内容の問題について記載します。

 

記事内容

まず、以下の記事をご覧下さい。

確定拠出年金導入、3万社突破政府目標上回る
2018/06/12 日経新聞

 個人の運用次第で将来の給付額が変わる確定拠出年金を導入する企業が急速に広がっている。「2020年に2万社」という政府目標を大きく上回り、3月末で3万社を突破。4月には出光興産と博報堂が導入した。株高が追い風となっているほか、同制度は企業が年金の運用リスクを負わずに済む。人手不足のなか、福利厚生を充実して人材を確保したい企業のニーズを強く映している。
 確定拠出年金は公的年金に上乗せする企業年金の一つ。全国民が加入対象の国民年金、会社員らが報酬に応じて受け取る厚生年金に上乗せする「3階部分」に当たる。厚生労働省の調査によると3月末時点の加入企業は3万312社。1年間で4084社が導入した。
 博報堂と博報堂DYメディアパートナーズは4月、決まった年金額を企業が約束するこれまでの確定給付から、確定拠出年金に制度を変更した。2社合わせて4千人弱の従業員が新制度に移行した。東洋インキSCホールディングスは、今春に入社した従業員から企業年金を確定拠出年金だけとした。これまでは確定給付と併用してきた。音響機器のティアックなども導入した。
 確定拠出年金では従業員が投資信託など運用商品を自ら選び、運用成績がよければ将来の年金額が増える。税制優遇があり、企業型は掛け金が月5万5千円まで非課税になる。政府は12年につくった成長戦略で「20年に2万社」を目標としたが、大きく上回るペースで普及している。企業型と個人型を合わせた加入者は延べ733万人。20~60歳の9人に1人が加入している計算だ。
 企業が導入する理由の一つは年金運用のリスクを負わなくていいためだ。大企業に多い確定給付年金は運用利回りが予定を下回ると、企業が穴埋めしなければならない。博報堂DYホールディングスは確定拠出導入について「財務上のリスクを軽減し、経営の安定を図る」と説明している。
 企業年金制度の変更は労使の合意が必要だ。直近の日経平均株価は2万2000円台で5年前のほぼ2倍。株価の上昇基調を受けて「加入者が投資を始めやすい環境」(みずほ銀行)にあり、労使が合意に達しやすい。
 深刻な人手不足も導入を後押ししている。確定給付年金からの切り替えだけでなく、これまで企業年金がなかった中小企業などが確定拠出年金の導入に動いている。確定給付に比べて導入負担が軽く、人材確保に向けて福利厚生を充実する姿勢を訴えやすいためだ。
(以下略)

以上のような記事でした。
 

所見

この記事の論調に筆者は問題を感じています。

読者の皆様はどのような点が問題だと思われるでしょうか。

以下、問題となる対象部分を再掲します。

企業年金制度の変更は労使の合意が必要だ。直近の日経平均株価は2万2000円台で5年前のほぼ2倍。株価の上昇基調を受けて「加入者が投資を始めやすい環境」(みずほ銀行)にあり、労使が合意に達しやすい。

如何でしょうか。

2年前の記事も掲載してみましょう。

確定拠出年金、導入2万社に 株高で普及に弾み
三菱UFJ導入、東芝も検討
2015年5月6日 日経新聞

運用成績で年金額が変わる確定拠出年金を導入する企業が増えている。厚生労働省の調べでは3月末時点で1万9832社と2020年までに2万社とした政府の目標を近く達成する見通しだ。他の企業年金と比べ企業の財務負担が軽いことや、優遇税制の拡充などが背景だ。運用環境の好転も追い風となり、4月には三菱東京UFJ銀行や電通などが導入し、東芝も検討を進める。
(以下略)

どうでしょうか。

筆者が問題だと考えているのは、「株高を受けて投資を始めやすい環境にある」「運用環境の好転は確定拠出年金(DC)の追い風」と、日経新聞が主張している点にあります。

普通に考えましょう。

我々個人が運用を始めるのは、どのような環境の時が良い時期でしょうか。

当たり前ですが、割安に投資商品を買える時です。
安い買い物でなければ、高値掴みをする可能性が高く、投資商品の時価が下がるリスクの方が高くなるのです。

投資の鉄則は、安い時に買うことに尽きます。これは、株式だけでなく不動産でも全て同じです。

銀行が自己勘定で投資をする時も同様です。

銀行員はサラリーマンですから、実績のある投資商品を買いたがります。上司を説得しやすいからです。これは、他の機関投資家も同様でしょう。

そのため、新しいコンセプトの運用商品でも、アセットクラスの商品でも、トラックレコード(シミュレーションではなく実際の運用成績)を運用会社に要求したりします。

しかし、トラックレコードが出た時には投資妙味が無くなっていることが多いのも現実です。

誰もが、儲けるために割安の商品を探しているのですから、当然です。

今回の日経新聞の記事は、この点を理解していません。

筆者が、経営者側もしくは労働者側(労働組合)だったならば、株高の時期には確定拠出年金を導入しません。

運用が上手くいかない従業員が続出する可能性が高くなっているからです。

もちろん、労使交渉では経営者側が確定拠出年金の運用におけるトラックレコードを提示して、労働者側を説得することもあるでしょう。

また、今の日本の株式市場が指標面では割高とまでは言えないかもしれません。

そして、株式市場が割安かは誰も判断出来ない、だから確定拠出年金の導入時期は判断出来ないという反論もあるかもしれません。

その上で、再度主張させて頂くと、それでも株高が確定拠出年金導入の追い風になるというロジックを日経新聞はやめた方が良いのです。

導入を検討したり、労使で交渉する当事者にとっては良い考え方でしょうが、それは本当に大事にしなければならない、そして本当の当事者である加入者(従業員)のことを考えていない論調なのです。

運用の基本に立ち返って考えるべきではないでしょうか。

これが筆者の考えです。