銀行員にとって退職給付会計の理解はやっかいなものです。
ただし、取引先企業が財務体質を着実に改善し企業の資金需要がなくなってきている現在の環境下では、簿外債務といえる退職給付会計を理解することは法人営業・業務に携わる銀行員にとって必須といえます。
今回は退職給付会計について解説します。
退職給付会計とは
退職給付会計とは従業員の退職金・年金にかかる企業の費用・資産・負債を計上するための会計制度です。
もともと、日本においては年金の積立不足は企業の決算には反映されていませんでした。
ところが、いわゆるバブル崩壊以降の株式相場下落等により年金制度の積立不足が深刻化します。この時に「隠れ債務」である年金の積立不足を企業の財政状態に反映すべきとの声が高まりました。それまでは退職(一時)金については債務が企業の貸借対照表に計上されていましたが、年金債務については企業のバランスシートに計上されていなかったためです。
このため、日本においても米国会計基準・国際会計基準と同様の考え方に基づく退職給付会計が導入されました。
退職(一時)金や年金は、実際の支払額が確定するまでに時間がかかるため、毎期の負担額を正確に把握することは困難です。そこで、毎期の企業の費用額を合理的に見積るために定められた方法が、退職給付会計です。
そもそも退職給付とは
退職給付とは、退職(一時)金・年金といった従業員の退職にともない企業が支払う義務のある金銭的給付のことです。
これは、企業側にたってみれば従業員に対する負債、すなわち借金のようなものなのです。
裏を返せば、退職金や年金というのは賃金の後払いといってもよいでしょう。
退職給付会計のおける会計処理の概要
退職給付会計の考え方はシンプルです。
退職給付債務に対する積立不足を退職給付引当金もしくは退職給付に係る負債として貸借対照表に負債計上します。
あわせて退職給付費用の増加分をベースに当該決算期に発生した費用を退職給付費用として損益計算書に費用計上します。
すなわち、考え方としては、退職給付債務(=退職金や年金)を支払う義務について把握できるように債務を貸借対照表に計上し、毎期いくら費用が発生しているかを損益計算書上に反映させるだけなのです。
退職給付会計が理解しづらく感じられるのは遅延認識と呼ばれる処理があるからでしょうが、遅延認識は細かい話なのでここでは省きます。
個別財務諸表と連結財務諸表における処理の違い
なお、個別財務諸表(単体の貸借対照表)も連結財務諸表(連結の貸借対照表)も考え方は同一ですが、用語や処理が若干異なります。
個別財務諸表では、退職給付債務に対する積立不足を「退職給付引当金」として貸借対照表に負債計上しています。一方で、連結財務諸表では、退職給付債務に対する積立不足を「退職給付に係る負債」として貸借対照表に負債計上しています。
ただし、考え方は同一です。
加えて、個別財務諸表では、未認識債務について、貸借対照表と損益計算書の両方で遅延認識を行うことができますが、連結財務諸表では、貸借対照表上は即時認識、損益計算書のみ遅延認識を行うことができることになっています。
まとめ
退職給付会計は銀行員にとってはなじみのない分野かもしれません。銀行がそろえているサービスでは対応が難しいためです。
しかしながら、グローバル競争が激しくなってきている現況下では、企業の競争力の源泉は人材(人財)を生かせるかにかかっています。単純にB/S、P/Lを分析しても企業の競争力は把握できない可能性が高くなってきているのです。
また、日銀のマイナス金利政策導入以降、低金利下で年金の運用は苦戦を余儀なくされています。これは企業の年金債務・費用に対して中長期的に悪影響を与える可能性が高い状況です。
各社の競争力を支えるはずの人事制度に紐づいた退職給付制度(退職一時金、年金)について、そして企業の実質的な借金(従業員からの借入)である退職給付債務について銀行員はさらに知見を積む必要があるでしょう。
そしてグループの総力を挙げて企業の退職給付制度に関与していくことが今後の営業にとって有用だと考えます。