以前の記事で退職給付会計についての基本的な事項について解説しました。
今回は、退職給付債務について解説します。
退職給付債務とは
退職給付債務とは、将来見込まれる退職給付(退職一時金、年金)の支払総額のうち、当会計期間までに発生していると認められる額を現在価値に割り引いたものです。
難しく考える必要はありません。
なお、退職給付債務について、米国会計基準では予測給付債務(PBO)、国際会計基準では確定給付制度債務(DBO)と呼ばれています。
PBOはProjected Benefit Obligationの略、DBOはDefined Benefit Obligationの略ですが、意味、計算の考え方は同様です。
退職給付債務の計算方法
退職給付債務は、原則として個々の従業員ごとに計算されます。ただし、勤続年数、残存勤務期間、退職給付見込額等について標準的な数値を用いて加重平均等により合理的な計算ができると認められる場合には、当該合理的な計算方法を用いることができます
退職給付債務の計算方法は以下の通りです。
退職給付見込額の計算
まず退職給付見込額を算出します。
退職給付見込額は、退職が予想される時期に従業員に給付される退職一時金見込額、および退職時点における年金の見込額に退職率・死亡率を勘案して算出します。
ほとんどの企業においては、退職事由(自己都合退職、会社都合退職)や支給方法(退職一時金、年金)により給付率が異なります。そのため、退職事由および支給方法の発生確率(今までのトレンド)を勘案して算出することになります。
退職給付見込額のうち期末までに発生していると認められる額の計算
予想退職時期ごとの退職給付見込額のうち、期末までに発生していると認められる額を計算します。計算方法には以下の方法があります。
期間定額基準
退職給付見込額について全勤務期間で除した額を各期の発生額とする方法です。
これは、退職給付が勤務期間にわたって均等に発生するという考えに基づいています。従来の日本の会計基準では、この費用配分方法を原則としていました。
給付算定式基準
退職給付制度の給付算定式に従って各勤務期間に帰属させた給付に基づき見積った額を退職給付見込額の各期の発生額とする方法です。
これは単純に言えば、年功序列の給与体系の場合、給与カーブが右肩上がりになるように、退職給付のカーブに合わせるように各期の退職給付見込額を算出するものです。国際会計基準では、給付算定式基準が原則的な方法とされています。
退職給付債務の計算
予想退職時期ごとの退職給付見込額のうち期末までに発生していると認められる額を、現時点からそれぞれの退職時期までの期間にわたって現在価値に割引き、その金額を合計して、退職給付債務とします。
まとめ
退職給付債務を算出する(いわゆるPBO計算を行う)生命保険会社等の年金数理人は、非常に難しいことをしているようにお感じになってきたかもしれません。
しかし、計算内容はどんなに複雑だったとしても、考え方はシンプルなのです。
将来見込まれる退職給付(退職一時金、年金)の現在価値を示したものが退職給付債務となります。